開発協力トピックス1
ASEAN感染症対策センター
~感染症対応体制の強化を通じFOIP実現に向けた日・ASEAN協力を牽引~
全世界で猛威(もうい)を振るっている新型コロナウイルス感染症は、インド太平洋地域においても社会、経済に大きな悪影響を与えました。2020年12月末時点でも、感染者数及び死亡者数は世界中でなお増加しており、大規模なロックダウンなどによる生活への影響は甚大(じんだい)です。
日本にとって長年に亘(わた)るパートナーであるASEAN*1もその例外ではありません。年初は感染者数が少なかったASEAN地域でも、2020年4月頃に一部の国で感染者が爆発的に増加し、感染症対策の重要性が叫ばれました。同地域は、日本と地理的、社会的、経済的に密接な関係を持ち、日本企業も多く進出しています。ASEANの感染症対策能力の強化は、同地域全体に資するのみならず、現地邦人の安全確保や日本における流行の防止を図る上でも非常に重要です。さらに、「自由で開かれたインド太平洋」の推進を外交の柱とする日本にとって、その実現の要であるASEAN諸国の感染症対応体制の強化を支援することは最優先事項です。
そのような状況のもと、ASEAN事務局の要請を受け、4月14日に開催された新型コロナウイルス感染症に関するASEAN+3(日中韓)特別首脳テレビ会議において、安倍総理大臣(当時)は感染症対策能力の強化、ASEAN感染症対策センター*2、経済の強靭化支援の3つの柱で、ASEANを力強く支援していくと表明しました。
ASEAN感染症対策センターは、地域の中核拠点として、ASEANの公衆衛生の危機や新興感染症への準備・探知・対応能力を強化することが目的です。具体的には、感染症の発生動向・状況に関する調査の強化、ラボネットワーク*3の形成や感染症対策担当者への研修などを行う予定であり、日本は、同センター設立のため、日・ASEAN統合基金(JAIF*4)に約55億円(5000万ドル)を拠出しました。
モメンタムを逃さずできるだけ早期に同センターを立ち上げるべく、2020年6月以降、日本は、ASEANをはじめ、米国、オーストラリア、WHOなど様々な地域・機関の専門家と協力し、準備調査(FS*5)を実施してきました。
ASEANの意向・要望を最大限尊重し、ASEANと一体となって設立の準備を進めてきた同センターに対してはASEAN諸国から多くの関心が寄せられています。9月の日・メコン外相会議では、メコン諸国から日本の協力への歓迎の意が表明され、日・ASEAN外相会議では、ASEAN側から、日本の協力への高い評価とともに、日・ASEAN首脳会議において本センターの設立が正式に発表されることへの期待が示されました。そして、ついに11月の第23回日・ASEAN首脳会議において、ASEAN各国の首脳とともに、菅総理大臣から本センターの設立を正式に発表するに至り、ASEAN側からは日本からの支援に謝意が表明されました。
今後はさらにスピードを加速させ、同センターが地域の感染症対策の中核としてASEANの人々を感染症の脅威から守る組織へと発展するよう、日本の知見を最大限提供しながら、継続的な支援を惜しまない考えです。そして、日本はこれからもASEANの真の友人として、自由で開かれたインド太平洋のさらなる繁栄のために、共に力を合わせてこの難局を乗り越え、力強く前進していきます。
*1 ASEAN構成国は、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10か国(ただし、シンガポールおよびブルネイはODA対象国ではない)。
*2 ASEAN Centre for Public Health Emergencies and Emerging Diseases
*3 早期の病原体検査のための研究機関のネットワーク
*4 用語解説を参照。
*5 用語解説を参照。