2020年版開発協力白書 日本の国際協力

(10)SDGs達成のための科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation for SDGs:STI for SDGs)

現在、世界では、人工知能(AI)やロボット技術に代表される科学技術の進展により、製造業、サービス業にとどまらず、農業や建設を含む多様な産業分野で情報技術、情報通信技術(ICT注45)が活用されるなど、社会変革が生じ、経済成長を支えています。

国連は、持続可能な開発のための2030アジェンダ(パラグラフ70)に基づき、国連機関間タスクチーム(UN-IATT:UN Inter-agency Task Team on STI for SDGs)を設立し、各国との連携のもと、地球規模でのSTI for SDGsを推進しています。また、2016年以降、SDGsに関する国連STI フォーラムが毎年開催され、2019年9月のSDGサミット政治宣言では、持続可能な開発のためのデジタル変革に重点を置いたSTIの活用に貢献する旨が盛り込まれるなど、限られた資源を最大限活用し、SDGsの実現に貢献するための「切り札」として、STIへの国際的な期待が高まっています。

ジョージア

ツァルカ地区2村バイオブリケット製造施設建設計画
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2019年2月~2020年2月)

本案件で建設されたバイオブリケット製造施設

本案件で建設されたバイオブリケット製造施設

バイオブリケットを製造する様子

バイオブリケットを製造する様子

ジョージアのツァルカ地区は、首都トビリシから約100キロ西に位置しています。同地区は、自然災害のためジョージア西部の山岳部から移住を余儀なくされた人々や、紛争による国内避難民などを含む、アルメニア系、アゼルバイジャン系、ギリシャ系からなる多様な人種が暮らす地域の1つです。また、「ジョージアのシベリア」とも呼ばれるほど冬の寒さが厳しいことでも知られています。生産できる農作物も限られていることから、住民の多くが貧しい生活を送っています。

ツァルカ地区では、ガスの配給が行き届いておらず、依然として薪(まき)ストーブが使用されており、長く厳しい冬を越すために、1世帯が1年間に使用する薪の量は約1トンから1.5トンにものぼると言われています。しかし、同地区では、薪を購入できない貧困世帯も多く、木材を不法に伐採する事例も報告されています。また、同地区に生育している木々は、本来防風林として植えられた人工林であるため、伐採による防災への悪影響も懸念されています。

このような状況を受け、日本は現地のNGO「ブリッジ-イノベーションと開発」を通じて、同地区の2つの村にバイオブリケットと呼ばれる加工薪の製造施設を建設しました。バイオブリケットは、間伐材やおがくずなど、住民の生活空間に既に存在している廃材を利用して作られるため、薪と比較して安価です。これによって、約200世帯(約1,000人)がバイオブリケットを使うことができるようになり、住民による森林伐採に歯止めがかかり、周辺地域の環境保全にもつながることが期待されています。

●日本の取組

インド工科大学ハイデラバード校で実施された日印共同研究事業(エネルギー低炭素社会実現を目指した新興国におけるスマートシティの構築)(写真:JICA)

インド工科大学ハイデラバード校で実施された日印共同研究事業(エネルギー低炭素社会実現を目指した新興国におけるスマートシティの構築)(写真:JICA)

日本は、これまでの経済発展の過程で、STIを最大限活用しながら、保健・医療や環境、防災などの分野で、自国の課題を克服してきた経験を有しています。そうした経験を基礎として、近年、「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」などにより、途上国が抱える課題解決のための科学技術面での協力に取り組んできました(SATREPSについて、詳細は「用語解説」を参照)。たとえば、インドネシアでの地熱探査技術開発による低炭素社会に寄与する地熱エネルギー利用促進や、ザンビアでの鉛汚染のメカニズム解明と予防・環境修復技術の開発は、SATREPSによる課題解決の好例といえます(SATREPSによる具体的な取組について、「匠の技術、世界へ」も参照)。

2015年12月、日本の外交や国際会議を含む各種外交政策の企画・立案過程に活用する「科学技術外交アドバイザリー・ネットワーク」の一環として、科学技術外交の関連分野における学識経験者で構成される「科学技術外交推進会議」が設置されました。同会議は、2017年5月に、SDGs実施に向けた科学技術外交の具体的取組に関する提言「未来への提言:科学技術イノベーションの『橋を架ける力』でグローバル課題の解決を」および、2018年5月に、SDGs達成のための科学技術イノベーションとその手段としてのSTIロードマップに関する提言をそれぞれ公表しました。

この2つの提言も踏まえて、2019年のG20大阪サミットでは、STIの重要性、ならびに、STIの潜在力を活用する上で、政府、学術界、研究機関、市民社会、民間セクターおよび国際機関を含む様々な利害関係者の効果的な関与が不可欠である旨が認識され、大阪首脳宣言の付属文書として、G20開発作業部会で作成された「持続可能な開発目標達成のための科学技術イノベーション(STI for SDGs)ロードマップ策定の基本的考え方」が承認されました。

これに並行し、UN-IATTは、世界各国でのロードマップ策定検討を促進させるため、「グローバルパイロットプログラム」と呼ばれる取組を開始し、エチオピア、ガーナ、ケニア、インド、セルビアの5か国が最初のパイロット国に選ばれました。日本は、EUおよび国際機関と協力してこれら5か国を支援するため、特にケニアとインドについて、2020年度よりロードマップの策定やその実施における支援を始めています。

また、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)において、日本は、同会議に向けて科学技術外交推進会議から提出された提言である「イノベーション・エコシステムの実現をアフリカと共に」の内容を踏まえ、STI for SDGsのための国際共同研究および国際機関と連携した研究開発成果の実用化の促進に向けた議論に貢献しました。また、TICAD7の成果文書として採択された「横浜宣言2019」の中でも、STIの重要な役割を認識する旨が盛り込まれました。

加えて、途上国などのSDGs達成に貢献しうる日本の優れた科学技術の活用を促すための、「STI for SDGs プラットフォーム」の構築に向けた取組を進めています。

また、日本は引き続き、STIの高いポテンシャルを生かして、気候変動、海洋環境の変化、生物多様性の減少、食料・水資源問題、感染症、災害など、SDGsが掲げる幅広い地球規模課題の解決に向けた国際社会の取組に積極的に参画していきます。


  1. 注45 : 注8参照
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