(9)資源・エネルギーへのアクセス確保
世界で電力にアクセスできない人々は、2018年時点で約7.9億人、特に、サブサハラ・アフリカでは、同地域人口の約2人に1人以上に上るといわれています。2030年においても、世界で約23億人がクリーンな調理燃料・技術(電気、LPG、天然ガスなど)へのアクセスがないと予想されており、それに伴う屋内空気汚染は、若年死亡の要因の1つにもなっています。また、電気やガスなどのエネルギー供給の欠如は、産業発達の遅れや、雇用機会の喪失を引き起こし、貧困をより一層深めるといった問題につながります。今後、世界のエネルギー需要は、アジアをはじめとする新興国や開発途上国を中心にますます増えることが予想されており、エネルギーの安定的な供給や環境への適切な配慮が欠かせません。
●日本の取組

チュニジアのラデス発電所において、日本企業関係者が地元の小学生にコンバインド・サイクル(ガス火力)発電施設の建設について説明する様子
日本は、途上国の持続可能な開発を確保するため、近代的なエネルギー供給を可能にするサービスを提供し、産業育成のための電力の安定供給に取り組んでいます。また、省エネルギー設備や再生可能エネルギー(水力、太陽光、太陽熱、風力、地熱など)を活用した発電施設など、環境に配慮したインフラ(経済社会基盤)整備も支援しています。たとえば、日本はケニアにおいて、クリーンかつ天候に左右されない安定的な電力供給のため、円借款により、オルカリア地熱地帯における地熱発電所の建設・改修などを支援しており、合計で約400メガワットの発電に貢献しています。また、国土が狭くかつ散在し、気候変動の影響に脆弱(ぜいじゃく)な太平洋島嶼(とうしょ)国地域では、日本は、「ハイブリッド・アイランド構想」のもと、エネルギー安全保障および低・脱炭素達成社会実現の観点から、グリッド接続型の再生可能エネルギーの主流化に向けた支援を行っています。サモアにおいては、我が国の支援により設置した太平洋気候変動センターにおいて、太平洋島嶼国地域における気候変動対策分野の人材育成にも注力しています。
また日本は、石油・ガス・鉱物資源などの開発において、資金の流れの透明性を高めるための多国間協力の枠組みである「採取産業透明性イニシアティブ(EITI)」を支援しています。採取企業は資源産出国政府へ支払った金額を、資源産出国政府は採取産業から受け取った金額を、それぞれEITIに報告しています。47の資源産出国と、日本を含む多数の支援国に加え、採取企業やNGOが参加して資金の流れを透明化することで、腐敗や紛争を予防し、成長と貧困削減につながる、責任ある資源開発の促進を目指しています。
アゼルバイジャン
①セヴェルナヤ*・ガス火力複合発電所計画、
②シマル・ガス火力複合発電所2号機建設計画
有償資金協力(円借款)(①1998年2月~2003年10月、②2005年5月~2019年9月)

シマル・ガス火力複合発電所2号機の外観(写真:JICA)

アゼルバイジャンの大統領から進歩勲章を授与された佐藤氏(写真:JICA)
カスピ海に面するアゼルバイジャンは、石油や天然ガスなどの豊富な天然資源に恵まれていますが、1991年にソ連から独立した後、急速な経済成長に伴い、工業用のみならず一般家庭における電力需要が急増したため、ソ連時代からの老朽化した発電設備では電力需要を満たせていませんでした。特に、1980年代から使用し続けてきた発電設備および送電線の老朽化は深刻な問題となっていました。
この状況を打開するため、日本は本事業を通じ、電力需要が集中する同国東部地域において、シマル火力複合発電所1号機および2号機のガス火力複合発電設備の建設を支援しました。これら2基の合計出力はアゼルバイジャンの発電容量の約10%を占めています。本事業は、同国初の熱効率の高い、優れた発電設備を導入することで、同国の電力不足の緩和や経済の持続的成長に大きく貢献しています。また、同国の電力ネットワーク全体の中で、電力を持続的かつ安定的に供給することに貢献しています。
なお、この2つの発電設備の完成の裏には、設計から完工まで25年以上に亘(わた)り、その実現のために尽力した東電設計株式会社の佐藤光行(さとうみつゆき)氏による献身的な取組がありました。アゼルバイジャン側の財政難等の問題から、事業の完工が見通せない時期もありましたが、佐藤氏は先方実施機関のスタッフと交渉し、建設を進めるための方策を一緒に話し合いながら、本事業の完工に邁進(まいしん)しました。その結果、2号機についても2019年9月に開所式を迎えることができました。その功績はアゼルバイジャン政府からも大きく評価され、同年12月、佐藤氏は大統領からエネルギー分野での功労者に贈与される「進歩勲章(くんしょう)」を授与されました。
このような、佐藤氏をはじめとする日本側関係者の努力と熱意が、同国の発展とともに、日本とアゼルバイジャンの友好関係の促進にも大きく貢献しています。
*現在はアゼルバイジャン語を用いて「セヴェルナヤ」ではなく「シマル」と呼ばれています。