2020年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 4

アフリカの未知の感染症に備える!
~北海道大学とザンビア大学によるウイルス性人獣共通感染症に関する共同研究~

ウイルスの有無を確かめている様子(写真:北海道大学)

ウイルスの有無を確かめている様子(写真:北海道大学)

高田教授がザンビア大学獣医学部の研究者とともに、野外でコウモリから採血している様子(写真:北海道大学)

高田教授がザンビア大学獣医学部の研究者とともに、野外でコウモリから採血している様子(写真:北海道大学)

新型コロナウイルス感染症やエボラ出血熱など、ヒトと動物の双方に感染するウイルス性人獣(じんじゅう)共通感染症は、近年世界的な脅威(きょうい)となっています。ザンビアにおいてもこのような感染症の発生が確認されており、その対策が同国の優先課題とされています。また、アフリカには未知のウイルスが存在している可能性が高く、新規ウイルスの研究は、アフリカのみならず、今や地球規模で注目されています。

そのような状況を受け、ザンビアでは、北海道大学およびザンビア大学獣医学部の共同研究により、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)を通じ、2013年から「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の調査研究プロジェクト」が実施されました。また、2019年からは後継プロジェクトである「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の疫学に関する研究プロジェクト」が実施されています。

これら2件のプロジェクトでは、まず手始めとしてウイルス性人獣共通感染症に対する教育・研究基盤がほとんど整備されていなかったザンビア大学獣医学部に動物実験設備を含むウイルス学実験室を整備し、研究環境を整えました。また、ウイルス性出血熱等のウイルス性人獣共通感染症に対する診断法を同学部に導入しました。

「プロジェクトが始まった背景には、北海道大学とザンビア大学の長年にわたる深い関係があります。約30年前、日本の協力によりザンビア大学に獣医学部が作られました。その際、北海道大学の教員がザンビアに行き、現地で一から人を育て獣医学部を作ることに協力したのです。これが両大学間の交流の始まりです。その後、北海道大学でも人獣共通感染症リサーチセンターが開設され、ザンビア大学との共同プロジェクトが始まったことから協力関係は一層強固なものとなりました。」と本プロジェクトの中心として活動する北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターの高田礼人(たかだあやと)教授は話します。

2019年からの後継プロジェクトでは、ザンビアの隣国、コンゴ民主共和国も新たに参加し、節足動物を含む動物に加えてヒトの検体も取り扱い、上記2か国の研究機関の疫学研究能力の強化やそれを通じた診断能力の向上を図っています。ザンビアでは、2013年の先行プロジェクトと合わせて、既に様々な新しいウイルスが発見されているほか、コンゴ民主共和国については、2017年以降に同国で複数回にわたり発生しているエボラ出血熱の早期発見と対策強化にも貢献することが期待されます。

また、北海道大学側でも、ザンビアとコンゴ民主共和国の両国から留学生を受け入れ、人獣共通感染症対策の専門家を養成するためのプログラムなどを実施しています。ザンビア大学獣医学部は、新型コロナの感染拡大を受け、6万件以上の検体検査を請け負っており、北海道大学で学んだ留学生が帰国後に新型コロナ対策の中核人材としても活躍しています。

「以前のザンビアでは、自国で獣医師を育てることも難しい状況でしたが、今は国内で獣医師を育成できるようになっています。アフリカ各国から大学院生を受け入れるまでになっており、今やアフリカにおける獣医学研究の中心と言える存在になりつつあります。」と、高田教授とともに活動する北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教員の梶原将大(かじはらまさひろ)氏はザンビアへの期待を話してくれました。

長年におよぶ日本とアフリカの共同研究により、将来の感染症に備えるべく、国境を越えた課題である感染症対策が大きく前進しようとしています。


*「用語解説」を参照。

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