匠の技術、世界へ 3
日本の技術とノウハウでコロナに打ち勝つ!
~質が高く安全な医療用酸素供給システムを通じ、ミャンマーの医療体制を底上げ~

現地の医療用酸素配送スタッフに、北島酸素の社員が安全な配送方法を指導している様子(写真:北島酸素)

ヤンゴンの国立病院にて、医療用酸素の安全な使用方法を指導している様子(写真:北島酸素)
急速な民主化や経済改革が進むミャンマーでは、医療水準の向上や医療関係者への教育の充実、保健医療体制の強化が急務となっています。中でも治療に不可欠な医療用酸素の安全かつ安定した供給は、大きな課題の一つです。
そこで、徳島県の北島酸素株式会社は、2017~2020年、JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」(普及・実証・ビジネス化事業*1)の枠組みを利用して、ヤンゴンおよび郊外の5つの病院を対象に「安全・高品質・衛生的な医療酸素の供給体制構築に係る普及・実証事業」を実施しました。
「ミャンマーの医療用酸素の提供においてもっとも大きな問題は、医療用酸素に関する国内の法律やルールが存在していなかったことです。そのため、日本においては医療用酸素に関する事故はほぼ発生しないのに対し、同国では多発していました。」と同社のブラッドリー・シェリー専務取締役は当時の様子を語ります。
ミャンマーでは、医療用酸素の品質や安全に関する取決めが存在しないため、製造された酸素の濃度が一定でなかったり、酸素ボンベが一般の荷物と同じように運搬(うんぱん)されたりしていました。また、病院の管理体制も整備されていないため、時には病院担当者の発注の遅れにより医療用酸素の在庫が無くなるという事態も起きていました。
このような状況を改善するため、北島酸素は、まず医療用酸素の概念をミャンマー国内で普及させることを最優先に考え、同社が実践する「KITAJIMA ROCシステム」を通じて、医療用酸素の製造から病院内での管理方法までを伝授することに尽力しました。
「KITAJIMA ROCシステム」は、高品質な医療用酸素の製造、品質管理、安全配送、安定供給に総合的に対応する医療用酸素安定供給システムで、日本国内でも高く評価されています。事業実施中、北島酸素の社員は何度も現地に渡航し、酸素ボンベの運搬業者に対してトラック積載量の管理、安全性を考慮した運搬方法、5S*2や安全衛生について、病院スタッフに対してはボンベの管理・使用方法について、全面的に指導しました。
「単に正しいノウハウを教えるだけではミャンマーの方たちにとって面倒な作業が増えるだけです。そこで私たちは、すべての作業について、『なぜ』その作業を行うのかという部分も丁寧に説明することを心がけました。ミャンマーの方たちは非常に優秀で誠実な方が多いので、理由が分かれば、きちんと作業してくれます。それを実感したとき、大きなやりがいを感じました。」と北島酸素国際事業部の小西優輔(ゆうすけ)氏は話します。
このような意識改革を重視した協力により、事業の終了から半年後、北島酸素の社員が現地の支援対象病院を訪問した際には、現地の機材でROCシステムが構築されていたり、病院側が製造会社を指導していたりなど、事業前と比べて状況が大きく変化していたとのことです。
ミャンマーにおいて、北島酸素の医療用酸素は、今や広く認知されており、同国での新型コロナウイルス感染症への対応にも活用されています。新型コロナ対策として、急遽、ヤンゴンで新しく専門病院が設立された際には、ミャンマー政府から同社に直接の協力依頼があり、日本の機器メーカー、外務省および現地の日本大使館とも連携し、同社の医療用酸素が導入されました。
このように、日本企業による、日本の優れた医療技術の移転や知見の共有が、ミャンマーの国全体の保健医療体制の強化に大きく貢献しています。
*1 旧:普及・実証事業
*2 「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」(5S)の定着化のこと。