匠の技術、世界へ 2
外国人人材の受入れ促進でラオスと日本の農家を活性化!
~ラオス政府・香川県ファーマーズ協同組合・JICAの連携による農業振興~

ラオスからの技能実習生がニンニクの出荷作業を行う様子(写真:香川県ファーマーズ協同組合)

ラオス・シュンクワン県の農村の風景(写真:香川県ファーマーズ協同組合)
ラオス北部のシェンクワン県は、農業開発が遅れインフラも整備されていない山岳地域に位置し、モン族などの山岳民族が主に焼畑農業や自然採取した果樹などで生計を立てている貧困地域です。ラオス政府は、山岳民族の定住農業への転換を促進する施策を進めていますが、貧困問題を解決するには至っていません。
2008年から、アジアからの技能実習生を受け入れている香川県ファーマーズ協同組合は、ラオスからの技能実習生の出身地であるシュンクワン県の現状を知り、同県の貧困農家が定住して農作物を栽培・収穫し、安定した収入を得られるよう、2017年より産地形成に向けた事業を開始しました。
香川県ファーマーズ協同組合の近藤隆(こんどうたかし)理事長は次のように話します。「高冷地であるシェンクワン県の気候は、温帯の野菜や果樹の栽培に適していることから、香川県で栽培しているニンニクの種子の試作に着手しました。農業生産法人をラオスに設立し、苗木栽培も開始しています。将来的には、キウイフルーツの花粉を授粉用に栽培することなどを目標にしています。現地の気候や状況に合わせ、現地スタッフと連携して農民に技術指導したり、資材を供給しています。」また、本事業に参加している組合員の株式会社アンフィニの森川剛史(もりかわたけし)氏も「現地に適合する可能性のある果樹苗木を選別して日本からラオスに輸出しました。将来的には農作物を加工して商品化し、優良な品種をラオス産として販売促進活動を行い、近隣諸国へ輸出していきたいと考えています。」と抱負を語っています。
これまでも香川県ファーマーズ協同組合は、「外国人技能実習制度」を活用し、技能実習生を送り出す「途上国の農村」と、受け入れる「日本の地域」の双方にメリットを生み出してきました。現在、ラオスを含め4か国から約200名の外国人人材を受け入れており、技能実習生たちは、2020年12月時点で最長で6年間、同協同組合傘下の農家で労働に従事しながら農法を学んでいます。ラオスについては、技能実習生の帰国後、現地農業生産法人が彼らに働く場を提供するといった流れもできつつあり、香川県で学んだ技能実習生が山岳民族の居住する地域で農業支援の一翼を担って活躍しているケースもあります。ラオスの農家にとっては所得の向上と就農・雇用の機会創出、香川県の農家にとっては安定的な人手の確保ができ、将来的にはラオスからの良質な種子や花粉も確保できるようになるというwin-winの関係につながっているのです。
こうした香川県ファーマーズ協同組合の活動を一層拡充すべく、2019年10月、「持続的農業開発にかかるシェンクワン─香川県─JICA連携プログラム」が開始されました。同プログラムは、ラオス農業森林省、香川県ファーマーズ共同組合、そしてJICAが連携し、シュンクワン県において、野菜・果樹の生産・販売を支援し、貧困農民の生計向上を目指すものです。JICAは、ラオス政府との調整や行政手続の円滑化、農業普及員への指導、農産物の流通に関わる市場調査を実施しており、今後、JICA海外協力隊や専門家を派遣して、農家や農業法人の活動を支援します。香川県では、技能実習生の受入れ環境の改善等、民間企業や関連団体の賛同を得てオール香川で新たな取組を推進しています。「シェンクワン─香川県─JICA連携プログラムは、ODAと外国人技能実習制度の協働によるラオスと香川県の双方のニーズに応える好事例です。」と、JICA経済開発部の篠崎祐介(しのざきゆうすけ)氏は語ります。
本事業に参加している、NPO法人アクティブチェーン農学の末澤克彦(すえざわかつひこ)氏は、「日本の技術をそのまま輸出するのではなく、現地に適合させるための指導や助言が重要」と指摘します。また、近藤理事長も、本事業の成果と今後の目標について次のように語ります。「帰国した技能実習生が、日本で学んだ技術を自国で活かせるよう支援を続けた結果、意欲ある優秀な人材が技能実習に応募してくれるようになっています。この良い循環をしっかりと続け、将来につなげていきたいです。」
外国人人材の受入れを基盤とした産地形成事業の成功が、今後も途上国と日本双方の地方の農業振興につながっていくことが期待されます。