開発協力トピックス4
「インフラシステム海外展開戦略2025」の策定

東ティモールの唯一の国際湾口となっているディリ港で、日本の協力により新しく建設されたフェリーターミナルに停泊する国内フェリーに乗客が乗り込む様子(写真:JICA)

インド工科大学にて行われたリチウムイオン電池搭載の電動三輪車の試運転。富山市の民間企業「ITSEV」が高気温に適したリチウムイオン電池による都市大気改善事業にかかる案件化調査を行った。(写真:JICA)
日本政府は、インフラ輸出による経済成長の実現のため、2013年に「インフラシステム輸出戦略」を策定し、2020年までに約30兆円のインフラシステム受注を成果目標として推進してきました。
2020年12月に開催された第49回経協インフラ戦略会議*1において、近年のインフラ輸出を巡る国際競争の激化やデジタル化の急速な進展などの国際的な環境変化に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も踏まえた「インフラシステム海外展開戦略2025」が策定されました。新戦略では、2021年から5年間の目標として、2025年のインフラシステムの受注額を新たに34兆円とした成果目標(KPI:Key Performance Indicator)を設定しています。
新戦略では、従来の産業競争力向上による「経済成長の実現」の目的に加え、これまでになかった方針として、「質の高いインフラの海外展開の推進を通じた『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』の実現等の外交課題への対応」と「展開国の社会課題解決・SDGs達成への貢献」が打ち出されました。FOIPについては、主要な取組の1つである連結性の強化に貢献する質の高いインフラ構築に係る案件形成や、新型コロナ収束後の国際環境の中で、展開先となる国・地域とともに考え、発展し、繁栄するモデルを推進することが示されています。また、SDGsについては、環境・気候変動、感染症、防災などの重要な地球規模課題への対処が急務であり、これらに資するインフラ事業の形成・参画に向けて取り組んでいくことが明記されました。気候変動については、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする、カーボンニュートラルの実現に向けた取組を促進するとともに、世界の脱炭素化にも貢献することが明記されています。
加えて、官民連携についても、新戦略の具体的施策の柱の一つに位置付けられています。インフラの整備やO&M(運転・保守)、法制度の整備、人材育成などにおいて、円借款、海外投融資、無償資金協力、技術協力などの様々なメニューを組み合わせながら取組を充実させていく考えです。これにより、日本のODAを含む公的資金の優位性と日本企業の技術力や資金力を組み合わせた魅力的なパッケージとして、日本企業の海外展開と相手国の経済社会開発の双方に資する開発協力を、最大限効果的かつ戦略的に活用していきます。
新戦略で打ち出した方針の実現に向け、ODAを含む公的資金も戦略的に活用しつつ、相手国のニーズに合わせた形で、我が国の優れた技術・ノウハウを含む質の高いインフラを途上国に提供し、インフラの海外展開を促進していく考えです(FOIP実現のための取組については「開発協力トピックス」、SDGsについては第II部3.地球規模課題への取組と人間の安全保障の推進を参照)。
*1 日本の経済協力に関する重要事項を議論し、戦略的かつ効率的な実施を図るため、内閣官房長官を議長として開催されているもの。