2020年版開発協力白書 日本の国際協力

(7)防災の主流化と防災対策・災害復旧対応、および持続可能な都市の実現

災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、貧困層が大きな被害を受け、難民化することが多く、さらに衛生状態の悪化や食料不足といった二次的被害の長期化が大きな問題となるなど、災害が途上国の経済や社会全体に深刻な影響を与えています。このため、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組が求められており、中でも、あらゆる開発政策・計画に防災の観点を導入する「防災の主流化」を推進することが重要となっています。

また、近年、人間の主要な居住地域であり、経済・社会・政治活動の中心である都市の運営に関わる様々な問題が注目されています。たとえば、市街地や郊外で排出される大量の廃棄物処理への対応や、大気・水などの汚染防止への対応、下水・廃棄物処理システムなどのインフラ施設の整備、急激な人口増加とそれに伴う急速な都市化への対応などの問題です。こうした問題に対応し、持続可能な都市の実現に向けて取り組むことが重要な開発協力課題となっています。

そこでSDGsでは、目標11として、「包摂(ほうせつ)的で安全かつ強靱(きょうじん)(レジリエント)で持続可能な都市及び居住地の実現」という課題が設定されました。このように、持続可能な都市の実現を含む人間居住の課題解決に向け、国際的な関心が高まっています。

ネパール一般公募

チトワン郡における災害リスク軽減能力強化プロジェクト(第1、2年次)
日本NGO連携無償資金協力(2017年11月~2019年11月)

ハザードマップ作成のため、住民たちがコミュニティ内で洪水被害を受ける場所、安全な場所を地面に地図を描きながら確認している様子(写真:シャプラニール=市民による海外協力の会)

ハザードマップ作成のため、住民たちがコミュニティ内で洪水被害を受ける場所、安全な場所を地面に地図を描きながら確認している様子(写真:シャプラニール=市民による海外協力の会)

ネパール南部の平野部に位置するチトワン郡マディ市では、南から北に向かって流れる大小複数の川があり、毎年雨期になると頻繁(ひんぱん)に氾濫して田畑や家屋に洪水の被害を与えてきました。そこで、特定非営利活動法人「シャプラニール=市民による海外協力の会」は、“One River One Community”という、1つの川を1つのコミュニティとして捉え、上流から下流まで一貫して洪水対策に取り組む広域流域管理の概念のもと、川全体の災害リスクを減らす事業を実施しました。マディ市のバンダルムレ川周辺の8つの集落において、2016年から独自に事業をはじめ、2017年からは日本NGO連携無償資金協力を通じて3年にわたって防災事業に取り組みました。

洪水リスクを減らす直接的な対策としては、日本の地滑り・洪水防災技術の専門家による調査と技術指導のもと、川幅を拡幅して土堤を設け、洪水リスクがある危険な場所には籠に石を詰めた蛇籠(じゃかご)で護岸(ごがん)工事をするなど、インフラ整備を行いました。また、バンダルムレ川流域において、コミュニティ災害管理委員会の結成を促(うなが)し定期的な会合を実施して、集落ごとに防災地図(ハザードマップ)を作りました。さらに、大雨時に警戒を知らせる手動回転式サイレンを提供するなど、住民の防災意識の向上にも取り組みました。

その結果、事業開始から3度の雨期を経ても、対象地域での洪水は報告されていません。また、住民たちは、これまで川が氾濫する直前や氾濫してから避難していたのが、上流の集落から下流の集落へサイレンを使って危険を知らせるなど、事前に防災のための行動がとれるようになりました。さらには、この取組を高く評価したマディ市が、市の予算に洪水対策の防災予算を計上するなど、ODAの基本理念である自立的成長を促す、持続的な取組となっています。

●日本の取組

…防災協力
ホンジュラスでのJICA専門家による防災訓練の様子(写真:JICA)

ホンジュラスでのJICA専門家による防災訓練の様子(写真:JICA)

日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培(つちか)われた優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで、防災対策および災害復旧対応において積極的な支援を行っています。2015年には、仙台において開催された第3回国連防災世界会議の結果、「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。この枠組みには、「防災の主流化」、防災投資の重要性、多様なステークホルダー(関係者)の関与、「より良い復興(Build Back Better)」、女性のリーダーシップの重要性など、日本の主張が取り入れられました。

さらに、新たな協力イニシアティブとして、2019年、安倍総理大臣(当時)が今後の日本の防災協力の基本方針となる「仙台防災協力イニシアティブ・フェーズ2」を発表しました。日本は、誰もが安心して暮らせる災害に強い世界の強靱化に貢献すべく、防災に関する日本の進んだ知見と技術を活かし、国際社会により一層貢献していく姿勢を示しました。具体的には、洪水対策などのため、2019~2022年の4年間で、少なくとも500万人に対する支援を行うことに加え、行政官や地方リーダー計4万8千人の人材育成、および次世代を担う子どもたち計3万7千人に対する防災教育の実施を表明しました。これにより、各国の建造物の性能補強や災害の観測施設の整備が進むだけでなく、防災関連法令・計画の制定や防災政策立案・災害観測などの分野での人材育成が進み、各国の「防災の主流化」が進展しています。

このほか、2015年12月の国連総会において、安倍総理大臣(当時)の呼びかけにより、11月5日を津波に対する意識啓発のため、「世界津波の日」とする決議が採択されました。これを受け、2019年9月に札幌にて、「『世界津波の日』2019高校生サミットin北海道」が開催され、2020年11月にはオンラインにて、「第3回世界津波博物館会議」が開催されました。

また、日本は国際機関を通じた防災協力も実施しています。たとえば、UNDPと緊密に連携し、アジア太平洋地域の津波の発生リスクが高い国を対象とした津波避難計画の策定や津波避難訓練などの事業を実施しています。同事業のフェーズIは、「世界津波の日」に基づき、津波防災啓蒙および各国の防災能力強化や体制強化を現場における実践的な観点から支援を行い、津波に脆弱(ぜいじゃく)な地域の子どもを含むコミュニティの住民が、津波に備え、自然災害が発生したときにどう行動すべきかを学ぶことを目的としたもので、2017年6月から2018年11月までに実施されました。同事業では、対象18か国、計115校において津波防災計画の策定・更新、津波教育プログラムが実施され、61,175名が避難訓練に参加するとともに、アジア太平洋地域の学校津波対策ガイドブックも策定、活用されました。この経験をもとに2018年12月から開始されたフェーズII注43では、2020年7月までを対象期間とし、パラオで9月を防災月間とする大統領令が発出されるなど防災の制度化が推進されたほか、136の学校の教師等の研修、11か国202の学校で津波防災計画の策定・改定、津波教育プログラムを実施し、88,841名の生徒、教師、および学校関係者が津波避難訓練に参加しました。

加えて、国連訓練調査研究所(UNITAR)とも協力しており、2016年から毎年、UNITAR広島事務所により、「世界津波の日」の普及・啓発を目的とし、自然災害に脆弱な途上国の女性行政官などを対象に、自然災害、特に津波発生時の女性の役割やリーダーシップに関する人材育成事業(講義、国内被災地のスタディツアー等)が実施されています。同事業には、2019年までに太平洋・インド洋島嶼(とうしょ)国18か国から123名が参加しました。

…持続可能な都市の実現

日本は「開発協力大綱」を踏まえ、防災対策・災害復旧対応や健全な水循環の推進など、人間居住に直結した地球規模課題の解決に向けた取組を進めています。具体的には、日本はその知識と経験を活かし、上下水・廃棄物・エネルギーなどのインフラ整備や、災害後において、被災前よりも強靱(きょうじん)なまちづくりを行う「Build Back Better(より良い復興)」の考え方を踏まえた防災事業や人材育成などを実施しています。このほか日本は、持続可能な都市開発を推進する国連人間居住計画(UN-Habitat)への支援を通じた取組も進めています。その一例として、福岡に所在するアジア太平洋地域本部と連携し、日本の民間企業や自治体の環境技術を海外に紹介しています。


  1. 注43 : 対象国はアジア太平洋地域の18か国(うち5か国は新規)。
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