2-2 平和と安定、安全の確保のための支援
(1)平和構築と難民・避難民支援
国際社会では、依然として、民族・宗教・歴史の違いなどを含む様々な要因による地域・国内紛争が問題となっています。紛争は、多数の難民や避難民を発生させ、人道問題を引き起こし、長年にわたる開発努力の成果を損ない、大きな経済的損失をもたらします。そのため、紛争の予防、再発の防止や、持続的な平和の定着のため、開発の基礎を築くことを念頭に置いた「平和構築」のための取組が国際社会全体の課題となっています。

●日本の取組

ナイジェリア・ベヌエ州カメルーン難民キャンプにて難民と話し合いを行うUNHCR職員(写真:UNHCR)
国際社会では、2005年に設立された国連平和構築委員会(PBC)*などの場において、紛争の解決から復旧、復興または国づくりに至るまでの一貫した支援に関する議論が行われており、日本は設立時からPBC組織委員会のメンバーを務め、積極的に貢献してきています。2006年に設立された国連平和構築基金(PBF)*にも、2020年12月時点で総額5,550万ドルを拠出し、第7位の主要ドナー国として、アフリカやアジアをはじめとする各国における紛争の再発防止、紛争予防、平和の持続などを支援しています。また、2020年の国連総会一般討論演説において、菅総理大臣は、PBCの場を含め、制度や能力構築の分野への国際支援に取り組むなど、平和の持続に貢献していく旨を表明しました。
また、日本は、紛争下における難民・避難民の支援や食料支援、和平(政治)プロセスに向けた選挙の支援などを行っています。このほか、紛争の終結後に平和が定着するように、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR:Disarmament、Demobilization、Reintegration)への取組を支援し、治安部門を再建させ、国の安定・治安の確保のための支援を行っています。加えて、難民・避難民の帰還、再定住への取組、基礎インフラ(経済社会基盤)の復旧など、復興のための支援も行っています。さらに、平和が定着し、紛争が再発しないようにするため、日本は、対象国の行政・司法・警察の機能を強化するとともに、経済インフラや制度整備を支援し、保健や教育といった社会分野での取組を進めています。これらの取組において日本は、平和構築における女性の役割が重要であるとする国連安保理決議(女性・平和・安全保障(WPS)関連決議)に基づいて、女性の参画の促進に取り組んでいます。このような支援を継ぎ目なく行うため、日本は、国際機関を通じた支援と、無償資金協力、技術協力や円借款といった支援を組み合わせて対応しています。
さらに、国際連合平和維持活動(PKO)などの国際平和協力活動と開発協力との連携を強化していくことが開発協力大綱に掲げられています。国連PKOなどの現場では、紛争の影響を受けた避難民や女性・子どもの保護、基礎的インフラの整備などの取組が多く行われており、その効果を最大化するために、このような連携を推進することが引き続き重要です。
また、日本は、国連、支援国および要員派遣国の3者が互いに協力し、国連PKOに派遣される要員の訓練や必要な装備品の提供を行う協力枠組みである「国連三角パートナーシップ・プロジェクト」のもと、自衛官等のべ172名を教官として派遣し、アフリカ8か国注16の工兵(施設)要員277名に対し重機の操作訓練を実施しました。本プロジェクトの対象地域はアジアおよび同周辺地域にも拡大し、ベトナムにおいて実施された2018年の試行訓練、2019年および2020年の本格訓練に、あわせて自衛官等68名を派遣し、9か国注1756名の工兵(施設)要員に対して訓練を行いました。さらに、国連PKOの現場では、負傷後、医療従事者に負傷者を引き継ぐまでの1時間以内に、多くの要員の人命が失われています。これに対処するため、2019年10月より、医療分野において救命訓練を開始しました。
…難民・避難民支援
シリアやミャンマーなどの情勢を受け、2019年末には世界の難民・避難民等の数が第二次世界大戦後最大規模となり、人道状況が厳しさを増しています。人間の安全保障の観点から、日本は、最も脆弱な立場にある人々の生命、尊厳および安全を確保し、一人ひとりが再び自らの足で立ち上がれるような自立支援のため、難民・避難民等に対する支援を含む人道支援を行っています。
具体的には、日本は主に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)をはじめとする国際機関と連携して、シェルター、食料、基礎的な生活に必要な物資等の支援を、世界各地の難民・避難民等に対して継続的に実施しています。また日本は、国連世界食糧計画(WFP)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、赤十字国際委員会(ICRC)などの国際機関等と連携することにより、治安上危険な地域においても、それぞれの機関が持つ専門性や調整能力等を活用し、難民・避難民等への支援を実施しています。2020年の新型コロナの感染拡大を受け、日本は、これらの国際機関等に総額1.4億ドルの緊急支援を行いました(新型コロナの拡大を受けた対応については、第Ⅰ部特集を参照)。
日本は、こうした国際機関を通じた難民・避難民等への支援を行う際、日本の開発協力実施機関であるJICAやNGO、民間企業との連携を図ることにより、目に見える支援の実施に努めています。たとえば、UNHCRが行う難民支援においては、JICAと連携し、緊急支援と復興支援を連携させた支援を実施しています。ほかにも、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)が難民・避難民への支援を行っています(「イ.日本のNGOとの連携」も参照)。
また、日本は、人道危機が発生した初期の段階から、緊急に必要とされる「人道支援」と並行して、中長期的な視点のもとに自立を後押しする「開発協力」を行うこと(人道と開発の連携)を推進しています。これは、難民や避難民等が再び人道支援を必要とする状況に陥ることを防ぐ観点から極めて重要です。さらに、人道危機の要因である紛争の発生・再発を予防するためには、平時から中長期的な観点に立って国造りや社会安定化のための支援を行い、自立的発展を後押しすることが重要です。これを実現するため、日本は、「人道と開発と平和の連携」の考え方を重視し、紛争による人道危機が発生している国・地域では、「平和構築や紛争再発を予防する支援」や「貧困削減・経済開発支援」を継ぎ目なく展開しています。
今後も日本は、人道状況の改善、および安全で自発的かつ尊厳のある避難民帰還の実現に向けた環境整備のため、両国における支援を継続していきます(ベネズエラ避難民の支援については「国際協力の現場から」、ミャンマー・ラカイン州避難民への人道支援については「東南アジアへの支援」を参照)。
…社会的弱者の保護と参画
紛争や地雷などによる障害者、孤児、寡婦(かふ)、児童兵を含む元戦闘員、避難民等の社会的弱者は、紛争の影響を受けやすいにもかかわらず、紛争終了後の復興支援においては対応が遅れ、平和や復興の恩恵を受けにくい現実があります。
こうした観点から日本政府は、避難民への支援として、日本のNGOである特定非営利活動法人テラ・ルネッサンスが、ウガンダ・アジュマニ県において行った南スーダン難民とホストコミュニティ住民を対象にした職業訓練や資機材の供与等を通じ、避難民等の自立、地域安定化と社会開発の促進を支援しました。また、児童兵の社会復帰や紛争下で最も弱い立場にある児童の保護・エンパワーメントのため、日本は国連児童基金(UNICEF)を通じた支援を行っており、たとえば中央アフリカにおいては、UNICEFを通じた元児童兵の社会統合支援や、性的暴力を受けた子どもおよび国内避難民に対する総合的な人道支援を実施しています。ほかにも日本は、国連女性機関(UN Women)と協力して、カメルーンおよびナイジェリアに対して、紛争および災害下の女性および女児を対象に、持続可能な生計手段確保のためのインフラ整備および職業訓練等を実施しています。
…社会・人的資本の復興
日本は、紛争当事国が復興または国づくりに至るまでの間に、紛争を助長せず、また、新たな紛争の要因を取り除く観点から、社会資本の復興、経済活動に参加する人的資本の復興を支援しています。
社会資本の復興に関しては、とりわけ、①生活インフラの整備、②運輸交通・電力・通信網の整備、③保健医療システムの機能強化、④教育システムの機能強化、⑤食料の安定供給を図っています。人的資本の復興については、中長期的な経済開発に向けた支援を可能な限り組み合わせつつ、経済環境整備を図るとともに、失業の増大などによる社会不安を未然に防ぐことなどを念頭に、生計向上、雇用機会拡大を図っています。
…対人地雷・不発弾対策および小型武器対策

ジョージアにおいて、草の根・人間の安全保障無償資金協力により支援した爆発性戦争残存物・地雷除去活動における演習の様子
かつて紛争があった国や地域には対人地雷や不発弾が未だに残るとともに、非合法な小型武器が現在も広く流通しています。これらは、一般市民などに対して無差別に被害を与え、復興と開発のための活動を妨げるだけでなく、対立関係を深刻にする要因にもなります。対人地雷や不発弾の処理、小型武器の適切な管理、地雷被害者の支援や能力強化などを通じて、こうした国々や地域を安定させ、治安を確保するための持続的な協力を行っていくことが重要です。
日本は、「対人地雷禁止条約」および「クラスター弾に関する条約」の締約国として、人道と開発と平和の連携の観点から、地雷除去や被害者への支援に加え、リスク低減教育などの予防的な取組を通じた国際協力も着実に行っています。たとえば、カンボジア地雷対策センター(CMAC)では、設備支援にとどまらず、地雷廃棄処理の教育課程の支援、地雷廃棄処理教育の基盤づくりを支援し、ここで教育を受けた職員は、カンボジア国内外において地雷処理技術の普及に取り組んでいます。さらに、2020年は新型コロナの感染拡大により実施できていませんが、CMACはコロンビアなど他国の地雷対策職員の研修場所としても機能するなど、南南協力も実現しています。
また、アフガニスタンにおいては、特定非営利活動法人難民を助ける会(AAR Japan)が、地雷、不発弾等の危険性と適切な回避方法に関する知識の普及を目的とした教育事業を実施しています。AAR Japanは2009年度から、日本NGO連携無償資金協力やジャパン・プラットフォーム(JPF)事業を通じて、同国において教材の開発や講習会などを通じた地雷等回避教育を行っているほか、地域住民が自ら回避教育を行えるよう指導員の育成などを行っており、これらの活動を通じて住民への啓発活動が着実に進められています。
このほか、日本は、不発弾の被害が特に大きいラオスにおいて、不発弾専門家の派遣、機材供与、南南協力などを行っています。具体的には、同国の不発弾処理機関の能力向上への支援のほか、特に不発弾の被害が大きい貧困地域であるセコン県、サラワン県およびチャンパサック県において、不発弾処理に必要な灌木除去の機械化や関連資機材の整備、人材育成などを行っています。
日本は、こうした二国間支援に加え、国際機関を通じた地雷・不発弾対策も積極的に行っています。2019年には、アフガニスタン、イラク、シリア、パレスチナ、ナイジェリア、南スーダン、スーダンおよびソマリアに対して、国連地雷対策サービス部(UNMAS)を通じた地雷・不発弾対策支援(除去・危険回避教育等)を行っています。また、国連開発計画(UNDP)経由で、ベナンの紛争後地域の地雷・不発弾処理訓練センター(CPADD)において、中西部アフリカ向けの地雷処理訓練の強化も支援しています。ほかにも、地雷回避教育支援として、日本はUNICEF経由で、2015年以降、パレスチナ、イエメン、中央アフリカ、チャド、南スーダン、イラク、ウクライナにおいて支援を実施しました。また、赤十字国際委員会(ICRC)を通じて、シリア、パレスチナ、イエメン等で、地雷・不発弾対策支援(危険回避教育等)を行っています。
また、日本は小型武器の回収、廃棄、適切な貯蔵管理などへの支援、さらには輸出入管理や取締り能力の強化、治安の向上などを目指して、関連する法制度の整備や、税関や警察などの法執行機関の能力を向上する支援なども実施しています。
…平和構築分野での人材育成
平和構築の現場で求められる活動やそれに従事する人材に求められる資質は多様化・複雑化しています。日本は、2007年度に「平和構築人材育成事業」を開始し、現場で活躍できる日本やその他の地域の文民専門家を育成してきました。2015年度以降は同事業の内容を拡大し、「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業注18」として、現場で必要な知識や技術習得のための国内研修と国際機関の現地事務所での海外実務研修を行う「プライマリー・コース」に加え、平和構築・開発分野に関する一定の実務経験を有する方のキャリアアップを支援する「ミッドキャリア・コース」を実施してきています。また、これらのコースの修了生の多くが、アジアやアフリカ地域の平和構築・開発の現場で現在も活躍しています。
- *国連平和構築委員会(PBC:Peacebuilding Commission)
- 2005年3月に設立された国連機関。地域紛争や内戦は終結後に再燃することが多いため、事後に適切な支援を行うことが極めて重要であるとの認識のもと、紛争解決から復旧・社会復帰・復興まで一貫した支援に関する助言を行うことを目的とする。
- *国連平和構築基金(PBF:Peacebuilding Fund)
- 2006年10月に設立された基金。和平プロセスへの差し迫った脅威への対応、和平合意や政治対話の支援、国家機構および国家能力強化、経済活性化および行政サービス確立等に使用される。
- 注16 : ウガンダ、ケニア、タンザニア、ルワンダ、ブルンジ、ガーナ、シエラレオネ、ナイジェリアの8か国。
- 注17 : ベトナム、インドネシア、カンボジア、シンガポール、ネパール、東ティモール、フィジー、ブータン、ミャンマーの9か国。
- 注18 : 平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/j_ikusei_shokai.html