2020年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 07

すべての人が安心して暮らせる社会のために
~日本政府と協力してベネズエラ避難民を支援~

コロンビアのノルテ・デ・サンタンデール県を歩いて移動する難民と羽鳥保護補官が話す様子(写真:UNHCR)

コロンビアのノルテ・デ・サンタンデール県を歩いて移動する難民と羽鳥保護補官が話す様子(写真:UNHCR)

かつてコロンビアの紛争によってノルテ・デ・サンタンデール県に逃れてきたコロンビア人国内避難民の家族と、UNHCRの同僚と羽鳥保護補官。この家族は、コミュニティに逃れてきたベネズエラ人たちを支援している。(写真::UNHCR)

かつてコロンビアの紛争によってノルテ・デ・サンタンデール県に逃れてきたコロンビア人国内避難民の家族と、UNHCRの同僚と羽鳥保護補官。この家族は、コミュニティに逃れてきたベネズエラ人たちを支援している。(写真::UNHCR)

南米ベネズエラでは、経済・社会情勢の悪化により、550万人以上のベネズエラ人が避難民として周辺国などへ避難しており、これは世界で最も深刻な難民問題の一つとなっています。私が住んでいるコロンビアにも約180万人のベネズエラ人が避難してきています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、国際移住機関(IOM)と連携しR4V(Response for Venezuelans)と呼ばれるベネズエラ人支援のための援助を実施しています。私は2018年6月からベネズエラとの国境に位置するコロンビア東部のUNHCRククタ事務所で、ククタ市を含むノルテ・デ・サンタンデール県とその隣接県へ避難するベネズエラ人避難民の保護、R4Vを通じた50以上のローカル支援団体の援助内容の調整、情報管理、広報活動に取り組んできました。

コロンビアでは、2020年3月以降に新型コロナウイルスの感染が拡大し、執筆現在(2020年11月)に至るまで、ククタ市内のベネズエラとの国境管理所は閉鎖されています。しかし、閉鎖前は1日3,000から5,000人もの避難民が流入する状況であり、国境管理所閉鎖後も多くのベネズエラ人が身の安全や食料の確保、保健・医療や教育へのアクセスなどの基本的権利の保障を求めて山岳地や河川などの非正規国境からコロンビアへ入国してきていました。こうした国境付近には人身売買組織や武装集団が存在しており、ベネズエラからの避難民と地域住民の双方の安全上のリスクとなっています。また、感染拡大と厳しい経済活動制限によって、コロンビア国内に避難している避難民の多くが生活の糧(かて)を失い、深刻な食料不足や避難先住居からの立ち退きを求められるなど窮地(きゅうち)に立たされています。

このような状況を受け、UNHCRコロンビア事務所では、コロンビア政府のほか日本政府をはじめとするパートナーと連携しながら支援を行っています。日本政府からは、2019年7月に3億200万円の国際機関連携無償資金協力「コロンビアにおけるベネズエラ難民、コロンビア帰還民及び受入コミュニティへの人道支援計画」が、さらに、2020年3月には、ベネズエラ周辺国(コロンビア・ペルー・エクアドル・ブラジル)における避難民に対する計14億3000万円(コロンビアへは3億9600万円)の緊急無償資金協力がそれぞれ供与されました。これらの支援により、2019年7月から2020年5月までの10か月間で、計4万人以上のベネズエラ人避難民やコロンビア人帰還民への法的支援や生活・定住支援及びカウンセリングなどの実施や、政府機関・職員などに対する難民受入れに関する法的・技術的助言等を通じた受入れ体制の強化、7万人以上のコロンビア国籍取得支援、避難民の移動やニーズ、保護状況に関する調査の強化、約1万人の避難民への一時避難シェルターの提供を行いました。

このほか、UNHCRコロンビア事務所では、ベネズエラ避難民のコロンビア社会への統合を目的として、受入れコミュニティも含めた難民の人権や基本的サービスへのアクセスに関する研修、生計手段確保のための支援などを行うとともに、母国を離れざるを得なかったベネズエラの人々に対するコロンビア国内での理解や支援促進のため、「Somos Panas Colombia」キャンペーンに取り組んでいます。同キャンペーンでは、コロンビア国内においてベネズエラ避難民への連帯、共感、寛容という価値観を共有することで、コロンビア人を含むすべての住民が暮しやすい社会を目指しています。

ベネズエラ人避難民問題は、既に周辺国政府、日本を含むドナー各国、国際機関、民間企業、市民団体、地域住民が連携して対応しているものの、その規模が非常に大きいことから、支援が行き届いておらず、今後も継続的な支援強化が求められています。私もUNHCRの一員として、なるべく多くの方々へ必要な支援が届けられるよう、引き続き取り組んでいきたいと考えています。


UNHCRコロンビア ククタ事務所保護補官(JPO派遣)

羽鳥篤子(はとりあつこ)


*“Somos panas”はスペイン語で私たちは友達の意味(https://somospanascolombia.com/(スペイン語のみ))

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