国際協力の現場から 06
パプアニューギニア初の国定教科書と教師用指導書が完成!
~日本の教科書作りのノウハウを活かし、現地の実情に寄り添った学びに貢献~

現地の実情に合った教科書と教師用指導書の作成作業を行う日本人専門家とパプアニューギニアのカウンターバートたち(写真:JICA)

新しく作成された教科書を使って学ぶパプアニューギニアの子どもたち(写真:JICA)
パプアニューギニアは、都市から離れた小中学校が多数点在しており、アクセス困難な遠隔地では、教科知識を十分に持たずに授業を行う教師がいるなど、教員の質に大きな課題を抱えていました。カリキュラム改革の一環として、2001年に先進的な成果重視型の教育が導入されましたが、全国統一の教科書や教員のための教師用指導書は作成されず、大きな裁量が与えられた教員は、海外で作成された市販の参考書などを用いて自身の指導力に頼った授業を行っていました。結果、教育の質が確保できず、子どもたちを十分に指導できない状況となり、子どもの学力が落ちたとの批判が高まりました。
そのため、パプアニューギニア教育省は、2014年に成果重視型の教育を廃止し、その代わりに新たなスタンダード型カリキュラムを導入し、国定教科書を作成することになりました。しかし、国定教科書を作成したことのない同国においては、十分な知識や経験が不足していました。
こうした状況の中、教育省は、2005年から同国の理数科教育分野で支援を行っていた日本に協力を要請しました。2016年、全国の小学校3~6年生を対象とした理数科の国定教科書と教師用指導書を開発するため、「理数科教育の質の改善プロジェクト」が開始されました。
パプアニューギニア側から選任された教員とカリキュラム作成の職員、日本側の専門家が一堂に集まり、約4年にわたって初の国定教科書作りに向けた共同作業が行われました。日本の授業研究手法(模擬授業)を取り入れ、日本の教科書出版会社の学校図書株式会社がノウハウを提供しつつ、同国の子どもたちと教員にとって最も分かりやすい内容にするため、国の文化・自然を紹介しつつ、写真やイラストをふんだんに盛り込むなど、様々な工夫を行いました。算数の設問づくりにおいても、日本とはお金の単位や身近にあるものが異なるため、その一つ一つをパプアニューギニアの先生たちと相談し、同国の実情を反映した内容に変えていく作業が行われました。
「国づくり・人づくりの根幹に関わる国定教科書の作成を任されるという経験は、非常に貴重な機会でした。2年目からは教科書内容を検証するため教員同士の模擬授業が合宿体制で行われ、授業、検証、次の授業の準備など、ほとんど休みのない作業が行われました。」と、開発に携わった伊藤明徳(いとうあきのり)専門家は、当時の様子を振り返ります。
「何よりも素晴らしかったのは、自国の教育レベルを何としても向上させたいというパプアニューギニアの先生方の熱意でした。私たちも、パプアニューギニアのこれからの教育の出発点に立ち会えたことを本当に光栄に感じています。」と、本プロジェクトに参加した学校図書株式会社の芹澤克明(せりざわかつあき)氏と駒沢進(こまざわすすむ)氏も語り、次のように続けます。「日本の教科書は、学習内容が系統立っていて優れています。例えば、かけ算を学んだ後に面積の計算を行うなど、各単元で履修した内容を踏まえて次の単元で新しい事項を学んで行く工夫がされているのです。こうして、単元を一歩一歩終えていくことで、6年間ですべての必要な知識がきちんと身につくよう作られています。パプアニューギニアの先生方も、日本の教科書に対し、『すごく勉強になった』『必要な学習内容が初めて分かった』と歓喜の声を寄せてくださいました。」
約4年の年月をかけて完成した理数科の教科書と教師用指導書は、2020年2月の新学期から使用されています。同国では、日本のように児童一人ひとりに教科書が配布されることはなく、授業が終わるときに先生が回収しています。日本のノウハウが結集した新しい教科書は、何度も何度も繰り返し学びの場で活用され、パプアニューギニアの教育の質の向上に大きく貢献しています。