2015年版開発協力白書 日本の国際協力

2-2 平和と安定、安全の確保のための支援
(1)平和構築支援

国際社会では、依然として民族・宗教・歴史などの違いによる対立を原因とした地域・国内紛争が問題となっています。紛争は、多数の難民や国内避難民を発生させ、人道問題や人権を侵害する問題を引き起こします。そして、長年にわたる開発の努力の成果を損ない、大きな経済的損失をもたらします。そのため、紛争の予防、再発の防止や、持続的な平和の定着のため、開発の基礎を築くことを念頭に置いた「平和構築」のための取組が国際社会全体の課題となっています。たとえば、2005年に設立された国連平和構築委員会などの場において、紛争の解決から復旧、復興または国づくりに至るまでの一貫した支援に関する議論が行われているほか、国連総会の場を活用し、ハイレベルでも平和構築の重要性が確認されています。

 

< 日本の取組 >

日本は、紛争下における難民の支援や食料支援、和平(政治)プロセスに向けた選挙の支援などを行っています。紛争の終結後は、平和が定着するように、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR)(注42)への取組を支援します。そして治安部門を再建させ、国内の安定・治安の確保のための支援を行っています。また、難民や国内避難民の帰還、再定住への取組、基礎インフラ(経済社会基盤)の復旧など、その国の復興のための支援を行っています。さらに、平和が定着し、次の紛争が起こらないようにするため、その国の行政・司法・警察の機能を強化し、経済インフラや制度整備を支援し、保健や教育といった社会分野での取組を進めています。また、これらの取組において平和構築における女性の役割の重要性に最大限配慮しています。このような支援を継ぎ目なく行うために、国際機関を通じた二国間支援と、無償資金協力、技術協力や円借款といった支援を組み合わせて対応しています。

2015年2月に閣議決定された開発協力大綱において、国際連合平和維持活動(PKO)等の国際平和協力活動と開発協力との連携を強化していくことが掲げられました。国連PKO等の現場では、紛争の影響を受けた避難民や女性・子どもの保護や基礎的インフラの整備など、開発に役立つ取組が多く行われており、その効果を最大化するために、このような連携を推進することが、引き続き重要です。

ODAによる平和構築支援

 

紛争関連の緊急人道支援
2015年11月、アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官による表敬を受ける木原誠二外務副大臣

2015年11月、アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官による表敬を受ける木原誠二外務副大臣

日本は、最も脆弱(ぜいじゃく)な立場にある紛争犠牲者の生命、尊厳および安全を確保し、一人ひとりが再び自らの足で立ち上がれるよう自立を支援するため、人道支援の基本原則(①人道原則、②公平原則、③中立原則、④独立原則)にのっとり、二国間の協力に加えて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)(注43)や赤十字国際委員会(ICRC)(注44)などの国際機関等を通じて緊急人道支援を行っています。20年以上の内戦の末、2011年に独立を果たした南スーダン共和国において、2013年末に武力衝突が発生し、これにより生じた国内避難民および周辺国に流出した難民に対して、2014年5月に1,200万ドル(約11億6,400万円)の緊急無償資金協力による支援を実施しました。

また、日本は、国際機関を通じた緊急人道支援を行う際、日本の開発援助実施機関であるJICAや民間企業との連携を図ることにより、目に見える支援の実施に努めています。たとえばUNHCRが行う難民支援においては、JICAと連携し、緊急支援から復興支援への移行期における継ぎ目のない支援を実施しています。

ほかにも、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である特定非営利活動法人「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」(「ウ.NGOが行う事業への資金協力」を参照)には、2015年7月時点で47のNGOが加盟しています。JPFは、外務省から拠出されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して、大規模な災害が起きたときや紛争により大量の難民が発生したときなどに生活物資の配布や生活再建等の緊急人道支援を行っています。

2014年度には、イラク・シリア難民・国内避難民支援、南スーダン緊急支援、アフガニスタン・パキスタン人道支援、ミャンマー少数民族帰還支援、ガザ人道支援2014など、11プログラムで81件の事業を実施しました。

 

難民・国内避難民支援
イラクにおいてシリア難民のために日本が提供したテント

イラクにおいてシリア難民のために日本が提供したテント

シリア等の情勢を受け、2014年末には世界の難民・国内避難民等の数が第二次世界大戦後最大規模となり、人道状況が厳しさを増す中、日本は、人間の安全保障の確保の観点から、最も脆弱な立場にある難民・国内避難民に対する支援を行っています。

具体的には、UNHCRをはじめとした国際機関と連携して、シェルター、食料、基礎的生活物資等の支援を世界各地の難民・国内避難民に対し、継続的に実施しています。国連世界食糧計画(WFP)(注45)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)(注46)、赤十字国際委員会(ICRC)などの国際機関等と連携することにより、治安上危険な地域においても、それぞれの機関が持つ専門性や調整能力等を活用しつつ、難民等への人道対策を実施しています。

また、難民・国内避難民をめぐる日本の取組として、安倍総理大臣は、2015年9月のニューヨークでの国連総会における一般討論演説の中で、日本は同年、約8.1億ドルのシリア・イラクの難民・国内避難民、および難民を受け入れている周辺国向けの支援を実施する旨を表明しました。同じく、国連総会の機会に、「難民への人道支援に関するG7関連会合」と「新たな開発アジェンダの下での移民及び難民に関する協力の強化」会合に出席した岸田外務大臣は、難民・国内避難民支援策の強化、人道支援と開発支援の連携の一層強化を呼びかけるとともに、2016年5月にトルコで開催予定の世界人道サミットに向けて協力していくことを表明しました。

こうした支援の一環として日本は、シリア・イラクの難民・国内避難民に対する保健、衛生、教育、食料分野などにおける支援や、シリア難民を受け入れている周辺国に対する支援を行っています。たとえば、シリア難民の受け入れに伴い、財政負担が増加したヨルダンに対して、医療機材等を調達するための資金を供与しました。また、シリア難民を受け入れているトルコの地方自治体に対し、インフラサービスの改善を通じた自治体住民の生活環境の改善を目的として、長期資金を供給することを決定しました。

●レバノン

パレスチナ難民キャンプでのシリア難民の教育・保健支援
日本NGO連携無償資金協力(ジャパン・プラットフォーム(JPF)事業)(2014年2月~2015年2月)

過酷な体験をしたシリア難民の子どもたちがパレスチナ難民キャンプ内の幼稚園でワークショップを楽しむ様子(写真:パレスチナ子どものキャンペーン)

過酷な体験をしたシリア難民の子どもたちがパレスチナ難民キャンプ内の幼稚園でワークショップを楽しむ様子(写真:パレスチナ子どものキャンペーン)

レバノンではシリアからの難民が2015年3月末時点で約120万人に達し、それまでのパレスチナ難民を含めると総人口の約29%が難民となり、国内人口に対する難民の割合が周辺国の中で最も高くなっています。日本のNPO法人「パレスチナ子どものキャンペーン」は、30年にわたり、レバノン国内で難民支援活動を行っており、2013年からはレバノンでのシリア難民支援も行っています。2014年には、6か所のパレスチナ難民キャンプに流入しているシリア難民、特に弱い立場にある子どもと女性を対象とした教育・保健支援を行いました。

2014年を通して、シリアから避難してきた1,101人の子どもたちを幼稚園と補習クラスに受入れ、また心理サポートを目的にした遠足やスポーツ大会などのイベントには、2,461人の子どもたちが参加しました。その中には初めて集団教育を受けた子どもがたくさんいます。

パレスチナ子どものキャンペーンによる保健支援では、7,238人の子どもたちが歯科医師による集団検診と治療を受けることができました。また、紛争の影響によりトラウマなどに苦しむ子どもたち433人が、精神科医師と臨床心理士によるカウンセリングを継続的に受診し、多くの子どもたちの症状が緩和されました。さらに、母子家庭の母親などを対象に心のサポートを目的としたワークショップ(参加型の講習会)を開催し、240人の女性たちが受講しました。シリア危機がますます深刻化している中、2015年以降も、日本のNGOは日本政府との連携の下、教育・保健・食料・生活物資配布など、弱い立場にある難民への支援活動を拡大、継続しています。

●ヨルダン

シリア難民ホストコミュニティ緊急給水計画策定プロジェクト 技術協力(2013年12月~実施中)
北部地域シリア難民受入コミュニティ水セクター緊急改善計画 無償資金協力(2014年3月~実施中)

ヨルダンは国土が乾燥地・半乾燥地に位置し水資源が世界で最も少ない国の一つです。2011年のシリア危機発生以降、シリアからヨルダンへの約63万人に上る難民の流入などにより水需要量は増加を続け水問題がさらに深刻化し、特にシリア難民が多数居住する北部のイルビッド、アジュラン、ジェラシュ、マフラクの4県では、給水事情の悪化に加え、下水や廃棄物の発生量が増加し、不法投棄も増えていることから、衛生環境の悪化や下水管の閉塞などの問題も発生しています。

そこで日本は、シリア難民の流入による上下水道サービスの影響を評価し、ホストコミュニティ(難民を受け入れている地域)における上下水道サービスの現状について包括的に調査し、持続的な解決策について提言する事業を行っています。具体的には上下水道施設改善計画、難民支援等に関する調査団を派遣してヨルダンの政府機関、水道公社の協力を得つつ調査を行いました。現状では、難民の流入によりただでさえ少ない水供給が減少し、給水車による2週間に1回の給水を待たざるを得ず、その対価も払えない人々が増えていることや、水不足のためトイレの水も流せず不衛生な状態を甘受せざるを得ない現状が分かってきました。

ヤムルーク水道公社(YWC)職員による配水管の漏水調査

ヤムルーク水道公社(YWC)職員による配水管の漏水調査

これら調査を踏まえ、2014年3月には、ヨルダン北部地域におけるシリア難民のホストコミュニティにおける水セクター緊急改善計画に関する日・ヨルダン政府間の無償資金協力贈与契約が締結されました。現在、難民の増加により需給がひっ迫するホストコミュニティに対し、新規に開発された水源の水を届けるための送水管の新設、既設配水管網の改修などを行い、水セクターの改善が優先的に行われるとともに、上下水道サービス維持のための中期計画が策定されています。さらに漏水探知・修繕や下水管清掃などの対策を行い、コミュニティのニーズに応える取組も始まっています。

水問題と難民問題、人類の持続的成長にもかかわる二つの困難な問題への取組が、ヨルダンにおいて日本の支援により開始されています。(2015年8月時点)

 

社会的弱者の保護と参画

紛争・地雷等による障害者、孤児、寡婦、児童兵を含む元戦闘員、国内避難民等の社会的弱者は、紛争の影響を受けやすいにもかかわらず、紛争終了後の復興支援においては対応が遅れ、平和や復興の恩恵を受けにくい現実があります。

2013年4月のG8外相会合では、紛争下において女性の人権が侵害されている状況を打開し、性的暴力を防止するための国際的な取組を強化するため「紛争下の性的暴力防止に関する宣言」が採択されました。2014年6月にロンドンで開催された「紛争下における性的暴力の終焉(しゅうえん)にむけたグローバル・サミット」に岸信夫外務副大臣(当時)が出席し、女性のエンパワーメントや政治的、社会的、経済的参画が重要であることを訴えました。

日本は、2014年には、政治的、社会的、経済的に極めて制限された中での生活を余儀なくされているアフガニスタンの女性に対する暴力撤廃を促進するため国際連合人口基金(UNFPA)(注47)と連携して警察および司法関係者の能力向上を支援したほか、日本のNGOと連携したシリア難民妊産婦支援などを実施しています。

 

社会・人的資本の復興

日本は、紛争当事国が復興または国づくりに至るまでの間に、新たな紛争を助長せず、また、新たな紛争の要因を取り除く観点から、社会資本の復興、経済活動に参加する人的資本の復興を支援しています。

社会資本の復興については、とりわけ、①生活インフラの整備、②運輸交通・電力・通信網の整備、③保健医療システムの機能強化、④教育システムの機能強化、⑤食料の安定供給を図っています。人的資本の復興については、中長期的な経済開発に向けた支援を可能な限り組み合わせつつ、経済環境整備を図るとともに、失業の増大等による社会不安を未然に防ぐことなどを念頭に、生計向上、雇用機会拡大を図っています。

 

治安・統治機能の回復
コートジボワールのアビジャン警察大学校で、治安維持能力の強化を通じて平和で安定した社会の構築を目指し、2014年2月から開始された現職警察官の再教育の様子(写真:大塚雅貴/JICA)

コートジボワールのアビジャン警察大学校で、治安維持能力の強化を通じて平和で安定した社会の構築を目指し、2014年2月から開始された現職警察官の再教育の様子(写真:大塚雅貴/JICA)

治安と統治機能は、紛争の解決から復旧、復興または国づくりに至る切れ目のない支援を行う上でたいへん重要です。こうした観点から、日本は紛争当事国に平和が定着し、再び紛争状態に戻ることがないよう、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR)(注48)への取組を支援する必要があります。また、国内の安定・治安の確保を図るとともに、行政体制の復旧、選挙制度改革等を通じた統治機能の回復に対する取組への支援や行政・司法・警察の機能を強化する取組を進めています。

選挙制度改革の一環として、日本はカンボジアに対し、①技術的助言、②専門家派遣、③機材供与を通じた支援を表明しており、2015年9月からは専門家を派遣するなど、具体的な活動を開始しています。

 

地雷・不発弾除去および小型武器回収

かつて紛争中であった地域には、複数の小型の爆弾を内蔵し、それらをまき散らす爆弾であるクラスター弾などの不発弾や対人地雷が未だに残っており、非合法な小型武器が広く使われています。これらは子どもを含む一般市民にも無差別に被害を与え、復興と開発活動を妨げるだけでなく、新たな紛争の原因にもなります。不発弾・地雷の除去や非合法小型武器の回収・廃棄への支援、地雷被害者の能力強化など、国内を安定させ、治安を確保することに配慮した支援が重要です。

日本は、「対人地雷禁止条約」および「クラスター弾に関する条約」の締約国として、両条約の普遍化(なるべく多くの国が条約を締結するように働きかけること)を積極的に推進しています。また、両条約で規定されている、除去、被害者支援、リスク低減教育等にまたがる国際的な協力も着実に実行しています。

国内の地雷・不発弾の処理を行う、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の中央整備工場。綱渕政樹シニア海外ボランティア(重機整備保守)は、重機整備・保守の指導を行っている(写真:久野真一/JICA)

国内の地雷・不発弾の処理を行う、カンボジア地雷対策センター(CMAC)の中央整備工場。綱渕政樹シニア海外ボランティア(重機整備保守)は、重機整備・保守の指導を行っている(写真:久野真一/JICA)

たとえば、(特活)(注49)日本地雷処理を支援する会(JMAS)は、2014年から日本NGO連携無償資金協力を通じて、カンボジアにおける国立の地雷処理センター(CMAC)(注50)に地雷処理の教育課程を新設し、地雷処理教育の基盤づくりを行っています。さらに、この課程で教育を受けた職員は、カンボジアの国内および周辺国において地雷処理技術の普及に取り組んでいます。

また、アフガニスタンにおいては、(特活)難民を助ける会が、地雷、不発弾等の危険性と適切な回避方法の普及を目的とした教育事業を実施しています。2009年度から、日本NGO連携無償資金協力およびジャパン・プラットフォーム(JPF)(注51)事業を通じて、アフガニスタン各地において、移動映画教室等を通じた地雷回避教育を行っているほか、地域住民が自ら回避教育を行えるよう指導員の育成などを行っており、住民への啓蒙(けいもう)が進んできています。

ほかにも、地雷回避教育支援としては、国連児童基金(UNICEF(ユニセフ))経由で2014年3月から2015年2月までシリア、イエメン、チャド、マリ、南スーダンにおいて支援を実施しました。

また、不発弾の被害が特に大きいラオスに対しては、2011年に不発弾対策に特化したプロジェクトが形成され、①不発弾専門家の派遣、②機材供与、③南南協力の3つの柱から成る協力が行われています。このうち、南南協力については、日本が1990年以来カンボジアに対して行ってきた地雷処理支援の経験を広める観点から、カンボジアとラオスとの間で、不発弾処理支援に関するワークショップ(参加型の講習会)が数回行われ、3年間にわたり技術・訓練・国家基準策定・犠牲者支援等に関する両国の知識・経験を互いに共有するための協力が行われました。

2015年3月には、アフガニスタン、南スーダン、ソマリア、コンゴ民主共和国、パレスチナ自治区(ガザ地区)に対して、国連PKO局地雷対策サービス部(UNMAS(アンマス))(注52)を通じた地雷・不発弾対策支援(除去・危険回避教育等)を行っています。特に、南スーダンにおいては、PKO活動実施中の自衛隊と連携した支援を実施しています。加えて、日・UNDPパートナーシップ基金を通じ、これまでにガーナ・コフィ・アナン国際平和維持訓練センターによる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)(注53)地域における小型武器削減プロジェクトや、ベナン地雷・不発弾処理訓練センター(CPADD)(注54)によるアフリカ地域の地雷除去員の訓練の支援も実施しています。

小型武器対策としては、開発支援を組み合わせた小型武器の回収、廃棄、適切な貯蔵管理などへの支援を行っています。また、武器の輸出入管理や取締り能力の強化、治安の向上などを目指して関連する法制度の整備や、税関や警察など法執行機関の能力を向上させる支援、元兵士や元少年兵の武装・動員解除・社会復帰事業支援等も実施しています。

 

平和構築分野での人材育成
平和構築人材育成事業の研修で討論する参加者たち

平和構築人材育成事業の研修で討論する参加者たち

平和構築の現場で求められる活動やそれに従事する人材に求められる資質は、多様化し複雑になってきています。これらに対応するため、日本は2007年度から2014年度にかけて、現場で活躍できる日本やその他の地域の文民専門家を育成する「平和構築人材育成事業」を実施してきました。この事業は、平和構築の現場で必要とされる実践的な知識および技術を習得する国内研修、平和構築の現場にある国際機関の現地事務所で実際の業務に当たる海外実務研修、ならびに修了生がキャリアを築くための支援を柱とし、これまでに302名の日本人および外国人が研修コースに参加しました。その修了生の多くが、南スーダン、コンゴ民主共和国やアフガニスタンなどの平和構築の現場で活躍しています。2015年度以降は、「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」として、事業内容を拡大して実施しています。

2015年には、「アジアの平和構築と国民和解、民主化に関するハイレベル・セミナー」を開催しました。アジア諸国の平和構築、国民和解および民主化にこれまで携わってきた国内外の政府関係者等を招待し、アジアの経験から得られる教訓につき意見を交わし、国際社会に対し発信しました。


  1. 注42 : 元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰 DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration
  2. 注43 : 国連難民高等弁務官事務所 UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees
  3. 注44 : 赤十字国際委員会 ICRC:International Committee of the Red Cross
  4. 注45 : 国連世界食糧計画 WFP:World Food Programme
  5. 注46 : 国連パレスチナ難民救済事業機関 UNRWA:United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East
  6. 注47 : 国連人口基金 UNFPA:United Nations Population Fund
  7. 注48 : 元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰 DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration
  8. 注49 : 特定非営利活動法人
  9. 注50 : カンボジア地雷処理センター CMAC:Cambodian Mine Action Centre
  10. 注51 : ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、日本のNGOが紛争や自然災害に対し迅速かつ効果的に緊急人道支援を行うことを目的に、NGO、経済界、政府の三者で立ち上げた組織(NPO法人)。2000年8月設立。
  11. 注52 : 国連PKO局地雷対策サービス部 UNMAS:United Nations Mine Action Service(PKO:Peacekeeping Operations)
  12. 注53 : 西アフリカ諸国経済共同体 ECOWAS:Economic Community of West African States
  13. 注54 : ベナン地雷・不発弾処理訓練センター CPADD:Centre de Perfectionnement aux Actions post-conflictuelles de Déminage et de Dépollution(フランス語)

 

ア.ミンダナオ和平

フィリピン南部のミンダナオ地域では、フィリピン政府とイスラム反政府勢力との間で40年間に及ぶ紛争が続いていましたが、この歴史に終止符を打つべく、2001年から政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)(注55)との間で和平交渉が行われてきました。そして、2014年3月27日、両者の間で包括和平合意文書が署名され、ミンダナオ紛争の根本的な解決に向けて、大きな一歩を踏み出しました。

この合意では、2016年に新自治政府(バンサモロ(注56))が発足するまでの移行プロセスとして、バンサモロ基本法の制定、住民投票、暫定統治機関の設置などが予定されています。これと同時に、MILF正規軍の武装解除と兵士たちの社会復帰、現地に数多く存在する私兵グループ等の解体、新たな警察組織の創設による治安の回復、紛争のため立ち遅れている経済社会開発の促進など、様々な「正常化」プロセスを円滑に実施することも課題となっています。

和平合意が着実に実施され、2016年に向けてこれらのハードルをクリアしていけるかどうかが、ミンダナオ地域における真の和平達成の重要な鍵となります。そのためには、フィリピン政府とMILFのたゆまぬ努力に加え、日本を含む国際社会の支援が求められています。

 

< 日本の取組 >

フィリピン・ミンダナオ、平和教育を実践する「平和の学校(School of Peace)」校舎前で。学校できれいな水が使えるようになった(写真:アイキャン)

フィリピン・ミンダナオ、平和教育を実践する「平和の学校(School of Peace)」校舎前で。学校できれいな水が使えるようになった(写真:アイキャン)

日本は、ミンダナオ和平が地域の平和と安定に寄与するとの考えから、長年にわたり和平プロセス支援を継続しています。たとえば、国際監視団(IMT)(注57)の経済社会開発部門へJICAから開発専門家を派遣し、必要とされている支援が何かを調査し、小学校や井戸、診療所、職業訓練所などをつくるための支援に結びつけました。また、元紛争地域に対して人間の安全保障・草の根無償資金協力など開発協力プロジェクトを集中的に実施しています。これらは「日本バンサモロ復興開発イニシアティブ」(J-BIRD)(注58)と呼ばれる支援で、現地住民やフィリピン政府から高く評価されています。また、和平交渉にオブザーバーとして参加して助言を行う国際コンタクト・グループにも参加し、ミンダナオ和平プロセスの進展に貢献しています。2011年8月には、日本の仲介により、アキノ大統領とムラドMILF議長との初のトップ会談が成田で実現し、ミンダナオ和平問題の解決に向けて信頼関係が築かれるきっかけになりました。

2014年3月の包括和平合意文書への署名後、同年6月にはJICAが「ミンダナオ和平構築セミナー」を広島市で開催し、アキノ大統領出席の下、MILFのムラド議長、デレス和平プロセス大統領顧問室(OPAPP)(注59)長官をはじめとする関係者が一堂に会し、和平プロセス推進に向けた決意を表明しました。このアキノ大統領訪日の際には、バンサモロ地域の経済的自立の確保により一層焦点を当てる「J-BIRD2」への移行を表明しました。日本は、引き続き、学校・診療所・井戸などの建設、移行プロセスにおける人材育成、持続的発展のための経済開発(農業、鉱工業、インフラ整備などを見据えた協力)などの分野を柱として、真の和平達成のため、支援を継続・強化していく考えです。

ほかにも、日本NGO連携無償資金協力によって、日本のNGOによる平和構築活動事業を支援しています。たとえば、(特活)アイキャンは、フィリピンのミンダナオ島において2011年度から3年間、初等・中等教育における平和研修や学校建設を行い、また2014年度からは紛争当事者間の調停能力研修などを実施し、現地草の根レベルによる和平定着を図る事業に取り組んでいます。

2014年6月広島市で開催されたバンサモロ新自治政府設立に向けた方針や課題について話し合う「ミンダナオ平和構築セミナー」。左からカマルザマン・アスカンダル・マレーシア科学大学教授、アル・ハジ・ムラド・イブラヒムMILF議長、湯崎英彦広島県知事、デル・ロサリオ・フィリピン外務大臣、ベニグノ・アキノ3世フィリピン大統領、田中明彦JICA理事長(前)、テレシタ・クィントス‐デレスOPAPP長官、ミリアム・コロネル-フェラー・フィリピン政府和平交渉団長、モハゲール・イクバルMILF和平交渉団長(写真:JICA)

2014年6月広島市で開催されたバンサモロ新自治政府設立に向けた方針や課題について話し合う「ミンダナオ平和構築セミナー」。左からカマルザマン・アスカンダル・マレーシア科学大学教授、アル・ハジ・ムラド・イブラヒムMILF議長、湯崎英彦広島県知事、デル・ロサリオ・フィリピン外務大臣、ベニグノ・アキノ3世フィリピン大統領、田中明彦JICA理事長(前)、テレシタ・クィントス‐デレスOPAPP長官、ミリアム・コロネル-フェラー・フィリピン政府和平交渉団長、モハゲール・イクバルMILF和平交渉団長(写真:JICA)


  1. 注55 : モロ・イスラム解放戦線 MILF:Moro Islamic Liberation Front
  2. 注56 : 「バンサモロ」とは、イスラム反政府派が自分たちを指す呼び方。
  3. 注57 : 国際監視団 IMT:International Monitoring Team
  4. 注58 : J-BIRD:Japan-Bangsamoro Initiatives for Reconstruction and Development
  5. 注59 : OPAPP:Office of the Presidential Adviser on the Peace Process

 

イ.アフガニスタンおよびパキスタン支援

アフガニスタンとパキスタンにおいて不安定な情勢が続いていることは、両国やその周辺地域だけでなく世界全体の平和と安全にとっても問題です。アフガニスタンを再びテロの温床としないため、日本をはじめとする国際社会は積極的に同国への支援を行っています。2014年には同国史上初となる民主的な政権交代が実現し、ガーニ政権が発足しました。また、同年末には国際治安支援部隊(ISAF)(注60)からアフガニスタン治安部隊に治安権限が移譲され、アフガニスタンの安定の確保がますます重要となっています。2015年7月にはパキスタン政府の仲介によりアフガニスタン政府とタリバーンの対話が行われるなど、アフガニスタンの安定にとって、パキスタンの協力も一層重要となっています。

 

< 日本の取組 >

アフガニスタン

日本は、これまで一貫してアフガニスタンへの支援を実施しており、2001年10月以降の支援総額は約59億ドルに上ります(2015年10月末時点)

2012年7月8日、日本は、「アフガニスタンに関する東京会合」をアフガニスタンと共催し、約80の国および国際機関の代表が参加する中、成果文書として「東京宣言」を発表しました。この東京会合において、アフガニスタンの持続可能な開発に向け、アフガニスタンおよび国際社会の相互責任を明確にするとともに、それを定期的に確認・検証する枠組みである「相互責任に関する東京フレームワーク(TMAF)(注61)」を構築しました。日本は、アフガニスタンに対し、「2012年よりおおむね5年間で開発分野および治安維持能力の向上に対し、最大約30億ドル規模の支援」を行うことを表明し、2012年以降、2015年10月末までに約25億ドルの支援を実施してきました。

2014年4月には、アフガニスタン大統領選挙および県議会選挙が実施され、2009年の大統領選挙を大きく上回る数の国民が投票に参加し、2014年9月には、アフガニスタン史上初となる民主的な政権交代が実現しました。日本は、このときの選挙に対する支援として、国際社会と連携し、大統領選挙および県議会選挙を実施するために必要な選挙関連用品の調達・供与と、これら選挙関連用品のアフガニスタン全土の各投票所への輸送を支援するため、16億3,900万円の無償資金協力を実施しました。

2014年12月に開催された「アフガニスタンに関するロンドン会合」では、TMAFに基づく国際社会とアフガニスタン政府双方のコミットメントが再確認されるとともに、同枠組みのさらなるフォローアップの必要性が確認されました。

また、2015年9月にカブールで開催された「東京会合フォローアップのための高級実務者会合(SOM)(注62)」において、アフガニスタンの現政権が掲げる優先事項に即した「相互責任を通じた自立のための枠組み(SMAF)(注63)」がTMAFの後継として新たに策定され、「相互責任」の理念に基づきアフガニスタンが直面する問題に同国と国際社会が取り組んでいくことを確認しました。

パキスタン

2001年の米国同時多発テロ後に国際社会と協調してテロ対策を行うことをパキスタンが表明して以来、日本は同国に対して積極的な支援を行っています。2009年4月、日本はパキスタン支援国会合を主催し、同国に対し2年間で最大10億ドルの支援を表明し、これを着実に実施してきています。(注64)2014年には、同国が進める電力セクター改革を支援するため、50億円の円借款を供与しました。

また、日本はパキスタンにおける治安改善に貢献するため、アフガニスタンとの国境地域で教育、保健、職業訓練等について協力を行い、民生安定化を支援してきています。2013年には、パキスタンの主要国際空港の保安能力強化のため、手荷物検査装置の整備等、約20億円の支援を行うなど、同国のテロ対策への支援を実施しました。また、2015年にはテロ掃討軍事作戦に伴い発生した国内避難民に対し、国連機関を通じた約13億円の支援を実施しました。


  1. 注60 : 国際治安支援部隊 ISAF:International Security Assistance Force
  2. 注61 : 相互責任に関する東京フレームワーク TMAF:Tokyo Mutual Accountability Framework
  3. 注62 : 東京会合フォローアップのための高級実務者会合 SOM:Senior Officials Meeting
  4. 注63 : 相互責任を通じた自立のための枠組み SMAF:Self-Reliance through Mutual Accountability Framework
  5. 注64 : 2010年度大洪水に対する支援も含む。

 

ウ.中東和平(パレスチナ)

パレスチナ問題は半世紀以上も続くアラブとイスラエルの紛争の核心であり、中東和平の問題は日本を含む世界の安定と繁栄にも大きな影響を及ぼすものです。日本は、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存する二国家解決を支持しています。これを推し進めていくためには、一方の当事者であるパレスチナの社会経済の開発を通じて、国づくりに向けた準備を行っていくことが不可欠と考えます。1993年のオスロ合意によるパレスチナ暫定自治の開始以降、日本をはじめとする国際社会は積極的にパレスチナに対する支援を展開してきています。

パレスチナ自治区の人々は、イスラエルによる占領に大きな不満と反発を抱きつつも、経済面では、長年にわたる占領のために、イスラエル経済と国際社会からの支援に大きく依存せざるを得なくなっています。こうした状況が、中東和平の問題解決を一層難しくしています。また、イスラエルの占領政策や停滞する経済により広がる地域格差や高い失業率も、地域の情勢を不安定にする要素となっています。今後、パレスチナが真の和平に向けてイスラエルと交渉できるような環境を整備するためには、こうした人々の生活状況を改善しつつ、同時にパレスチナ経済を自立させることが最も重要な課題になっています。

 

< 日本の取組 >

ヨルダン北部に位置するアジュルン県にあるパレスチナ難民キャンプにて、起業家支援研修で古着を利用したバッグ作りを習う女性たち(写真:新岡真紀/JICA)

ヨルダン北部に位置するアジュルン県にあるパレスチナ難民キャンプにて、起業家支援研修で古着を利用したバッグ作りを習う女性たち(写真:新岡真紀/JICA)

日本は、開発協力の重点課題である「平和の構築」の観点も踏まえつつ、パレスチナに対する支援を中東和平における貢献策の重要な柱の一つと位置付け、特に1993年のオスロ合意以降、米国、EU(欧州連合)などに次ぐ主要ドナーとして、パレスチナに対して総額約14.7億ドルの支援を実施しています。具体的には、日本は、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区の社会的弱者やガザ地区の紛争被災民等に対して、その悲惨な生活状況を改善するために国際機関やNGO等を通じた様々な人道支援を行うとともに、民生の安定・向上、行財政能力の強化、持続的経済成長への促進のためにパレスチナ自治政府を積極的に支援し、将来のパレスチナ国家建設に向けた準備とパレスチナ経済の自立化を目指した取組も行っています。

ジェリコ市郊外の農産加工団地

ジェリコ市郊外の農産加工団地

また、2006年7月以降は、将来のイスラエルとパレスチナが平和的に共存し、共に栄えていくための日本独自の中長期的な取組として、日本、イスラエル、パレスチナおよびヨルダンの4者による域内協力により、ヨルダン渓谷の経済社会開発を進める「平和と繁栄の回廊」構想を提唱し、その旗艦(きかん)事業であるジェリコ市郊外の農産加工団地建設に取り組んでいるところです。この農産加工団地は、将来的には約7,000人の雇用を創出することが見込まれています。

さらに、2013年、日本は新たな取組として、人材育成や民間経済の発展等に関するアジアの知見を活用し、パレスチナの経済自立を支援する「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)(注65)」を開始し、2014年3月には、インドネシアで第2回閣僚会合が開催されました。このほかにも、これまでに人材育成のための三角協力(こちらの用語解説を参照)や貿易・投資拡大に向けた会合等が実施されています。

パレスチナ自治区の地図

2014年6月にガザ地区において発生したイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突に際し、日本は、緊急のニーズへの対応として、国際機関や日本のNGO経由で食料、水、衛生分野で約780万ドルの支援を実施しました。

2015年1月には、安倍総理大臣がパレスチナ自治区を訪問し、アッバース大統領と会談し、ガザ復興、経済社会開発、財政、医療・保健分野等での支援を目的に、総額約1億ドルの新規支援を行い、これにより2014年3月のCEAPAD第2回閣僚会合の際に表明された2億ドルの支援プレッジ(公約)が実現することを伝え、アッバース大統領から、これらの支援についての謝意表明がありました。

2015年9月の国連総会の機会に「拡大カルテット会合」が開催され、国連安保理常任理事5か国、主要アラブ諸国、欧州諸国と共に日本も参加しました。この場で、岸田外務大臣が約1,200万ドルの支援を新たに行うことを表明しましたが、これはパレスチナの経済社会的な開発を支えるものとなることが期待されます。


  1. 注65 : パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合 CEAPAD:Conference on the Cooperation among East Asian Countries for Palestinian Development

 

●パレスチナ自治区

イスラム開発銀行・パレスチナ計画庁と信託基金を設立
技術協力(2014年3月~実施中)

署名式の様子(写真:JICA)

署名式の様子(写真:JICA)

2014年3月、日本はインドネシアのジャカルタで開催された「パレスチナ開発のための東アジア促進会合(CEAPAD※1)」にて、イスラム開発銀行(IDB※2)とパレスチナ自治政府計画庁(MoPAD※3)との間で、信託基金「CEAFAM(CEAPAD Facilitation Mechanism)」の設立のための合意文書を締結しました。開発協力において、日本とアラブの開発金融機関が信託基金を設立するのは初めてです。

このCEAFAM設立により、イスラム開発銀行が資金提供およびイスラム諸国とのネットワークを活かした協力を、パレスチナ計画庁は開発ニーズの検討や調整を行っています。また、東アジア諸国はパレスチナが持つ開発ニーズに資する研修やセミナーを企画すると同時に、資金面や開発プロジェクト運営に関する技術支援をCEAFAMから受けています。そして、JICAは開発支援のノウハウ提供といった技術協力を行い、また、東アジア諸国が優位性を持つ分野とパレスチナの開発課題とのマッチングを行っています。また、特にパレスチナにおける農業開発、観光業開発、情報通信技術開発、および電灯の製造・開発が現在具体的な支援分野になっています。

パレスチナ支援は中東和平の実現や当該地域の安定のためにも重要です。CEAFAMの設立を通じて、日本がこれまで培ってきた技術協力の経験と人的ネットワークに、イスラム開発銀行を通じてペルシャ湾岸諸国の資金力やネットワークが融合し、パレスチナからの信頼を深めつつ、より質の高い広範囲でのパレスチナへの開発支援が開始されています。(2015年8月時点)

 

※1 CEAPAD:Conference on the Cooperation among East Asian Countries for Palestinian Development

※2 IDB:Islamic Development Bank

※3 MoPAD:Ministry of Planning and Administration Development

 

エ.サヘル地域

「サヘル(注66)諸国」に厳密な定義はありませんが、主に、モーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリア、カメルーン、チャドの8か国を指します。

サヘル地域は、干ばつ等の自然災害に加え、貧困、国家機能の脆弱(ぜいじゃく)さなどにより、政情不安の問題、テロや武器・不法薬物等の不法取引、誘拐等組織犯罪の脅威が深刻になっています。さらに、砂漠を含む広大な領土を持つリビアや周辺諸国は、テロリスト等の出入りを防ぐために十分な国境管理を行うことが難しく、テロリストの出入りを助長し、武器密輸の温床となっています。こうした中、この地域全体が無法地帯とならないようにするための治安能力・ガバナンスの強化や、難民等の人道危機への対処および開発が地域および国際社会の課題となっています。

 

< 日本の取組 >

日本は、2013年1月の在アルジェリア邦人に対するテロ事件(注67)を受けて、1月29日に岸田外務大臣が外交の3本柱(注68)を発表しました。また、2013年6月に開催されたTICAD(ティカッド) Vにおいて、1,000億円の開発・人道支援をはじめとする平和の定着支援の継続を表明しました。さらに、昨今頻発するテロ事案に際し、2015年2月には、邦人殺害テロ事件を受けた今後の日本外交として、新たな3本柱(注69)を打ち出し、サヘル地域の平和と安定に向けた取組を加速させています。

2014年にはマリ難民支援として約1,000万ドルの拠出を表明し、マリから周辺国に流出した難民向けに食料や居住用テントの提供や、西アフリカ諸国の軍・警察能力向上のため、国連平和維持活動(PKO)訓練センターへの支援などを実施しました。また、マリ・サヘル地域の和解・政治プロセス促進に取り組む「マリ及びサヘル地域のためのAUミッション」の活動を支援しています。

また、サヘル地域の平和と安定に貢献する支援として、①サヘルにおける人道調整およびサービスの強化計画、②ニジェール共和国・移民および国境管理によるサヘル地域の安全保障強化計画、③モーリタニア・イスラム共和国・テロおよび国境を越える犯罪対策能力強化計画等を実施しています。

これらの支援を通じて、小型武器の流入増大・拡散に対応する能力が強化され、司法サービスが改善されます。その結果、サヘル各国における治安状況が改善されて、テロなど潜在的脅威が低減し、ひいては地域全体としての対処能力が向上することが期待されます。

さらに、北アフリカ・サヘル地域のテロ・治安対策関係者との対話や協力を促進する観点から、2014年11月、東京において「サヘル地域に関する日・アフリカ貿易・投資フォーラム」を開催しました。このフォーラムでは、サヘル地域の治安情勢および対アフリカ・ビジネスにおいて講じるべき安全対策等についての講演や意見交換を実施し、日本企業関係者のサヘル地域情勢への理解を促進しました。

法務省では、UNAFEI(注70)を通じて、「第2回仏語圏アフリカ刑事司法研修」として、仏語圏アフリカ諸国の刑事司法実務家を対象に、捜査・訴追・公判能力の向上および組織犯罪対策をテーマとした研修を実施しました。この研修は、仏語圏アフリカ諸国における刑事司法を充実・発展させることで、これら地域において世界的な課題ともなっている治安の悪化や深刻な汚職問題の解決に寄与するものです。

日本は、サヘル諸国の平和と安定が達成されるよう、サヘル諸国および国際機関、そしてほかの支援機関と一層密接な連携を図り、支援を着実に実施していきます。


  1. 注66 : 「サヘル(Sahel)」とはサハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域。主に西アフリカについて用いられるが、場合によりスーダンやアフリカの角の諸地域を含めることもある。語源はアラビア語の「岸辺」という意味。サヘル諸国のことをサハラ南縁諸国ともいう。
  2. 注67 : 武装集団が、アルジェリア東部のティガントゥリン地区にある天然ガス関連施設を襲撃し、作業員などを人質にして立て籠もった。アルジェリア軍部隊が1月19日までに制圧したが、邦人10人を含む40人が死亡した事件。
  3. 注68 : ①国際テロ対策の強化、②サハラ砂漠の南のサヘル・北アフリカ・中東地域の安定化支援、③イスラム・アラブ諸国との対話の推進の3本柱。
  4. 注69 : ①テロ対策の強化、②中東の安定と繁栄に向けた外交の強化、③過激主義を生み出さない社会の構築支援の3本柱。
  5. 注70 : 国連アジア極東犯罪防止研修所 UNAFEI:United Nations Asia and Far East Institute for the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders

 

オ.南スーダン

南スーダンにおいては、2013年12月15日以降、政府側と反政府勢力の衝突が発生し、国内避難民や難民の発生等、人道状況が悪化しました。周辺諸国から成る政府間開発機構(IGAD)(注71)等が仲介役となり、和平に向けた取組が進められ、2015年8月、キール大統領、マシャール前副大統領等の当事者が南スーダンにおける衝突の解決に関する合意文書に署名し、即時発効しました。この合意文書は、衝突の即時停止、国民統一暫定政府の創設、国政選挙の実施等について規定しています。なお、長引く衝突により、南スーダン経済は、財政赤字、インフレ、外貨準備不足等の困難を抱えています。

 

< 日本の取組 >

南スーダンの首都ジュバ市内のジュバ河川港において安全確保のための防護柵を設置している様子(写真:防衛省)

南スーダンの首都ジュバ市内のジュバ河川港において安全確保のための防護柵を設置している様子(写真:防衛省)

日本の対アフリカ外交にとって、平和構築は重要課題の一つです。中でも、スーダンおよび南スーダンの安定はアフリカ全体の安定に直結することから、両国はアフリカにおいて重点的に平和の定着支援に取り組まねばならない地域の一つです。このような認識の下、日本は、2005年以降スーダンおよび南スーダン両国に対し14億ドル以上の支援を実施しています。

今後、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR)の支援といった平和の定着に関する支援を継続するとともに、平和の定着を両国の国民が実感し、再び内戦に逆戻りすることがないよう基礎生活分野等に対する支援を行います。具体的には、スーダンに対しては、紛争被災地域を中心に、人間の基本的ニーズ(BHN)(注72)の充足の確保および食料生産基盤の整備を重視した支援を行っています。南スーダンに対しては、上述に加え、インフラ整備やガバナンス(統治)分野を重視した支援を行ってきています。

現在、南スーダンにおいて、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)(注73)に派遣されている自衛隊施設部隊が活動中です。南スーダンの安定と国づくりに日本として一体的に取り組むため、同部隊の行う活動と連携した開発・人道支援案件を実施しています。2013年には草の根・人間の安全保障無償資金協力と連携し、「ナバリ地区コミュニティ道路整備計画」を実施したほか、日本の無償資金協力でJICAが行う南スーダンの首都ジュバにおける「ジュバ河川港拡充事業」で支援を行っている港における安全確保のための防護フェンスの整備を行いました。2013年12月以降の治安状況悪化を受け、現在、同部隊は文民保護区域施設整備等の活動を実施しています。また、UNMISSの活動地域において地雷の除去等に当たる国連PKO局地雷対策サービス部(UNMAS(アンマス))を支援することで、日本の自衛隊を含むUNMISSの活動が円滑に推進するように貢献しています。


  1. 注70 : 国連アジア極東犯罪防止研修所 UNAFEI:United Nations Asia and Far East Institute for the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders
  2. 注71 : 政府間開発機構 IGAD:Inter-Governmental Authority on Development
  3. 注72 : 人間の基本的ニーズ BHN:Basic Human Needs
    人間の基礎生活分野(衣食住や教育など人間としての基本的な生活を営む上で最低限必要なもの)
  4. 注73 : 国連南スーダン共和国ミッション UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan

 

●南スーダン

国内避難民等及び周辺国に流出した難民に対する緊急無償資金援助
緊急無償資金協力(2014年5月~実施中)

安全で衛生的な水を得た南スーダンの国内避難民(写真:UNICEF)

安全で衛生的な水を得た南スーダンの国内避難民(写真:UNICEF)

20年以上続いた内戦の後、2011年7月にスーダンから南スーダンが分離・独立しました。しかし、2013年12月15日に発生した南スーダン政府と反政府側の衝突は、政府内の派閥抗争とも相まって拡大していきました。この衝突により、国内各地で大規模な暴力行為・人権侵害が深刻化し、100万人近い国内避難民や20万人を超える難民が発生しました。連日多数の女性や子どもを含む罪のない市民が犠牲となりました。

日本は、南スーダン独立直後から、南スーダンの国づくりのために多大な貢献を行ってきています。また、情勢が混乱した後も外交活動および支援活動の両面から、国際社会が注視する南スーダンの情勢改善への努力を継続してきました。2014年5月には、国連世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(UNICEF)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際移住機関(IOM)、赤十字国際委員会(ICRC)および国連人道問題調整事務所(OCHA)を通じて、南スーダン国内の避難民等に対する食料、水・衛生、保健、医療等の分野および、周辺国に流出した南スーダン難民に対するシェルターの提供などの緊急に人道支援が必要な分野に対し1,200万ドル(約11億6,400万円)の緊急無償資金協力を実施することを決定し、オスロで開催された南スーダン人道支援会合で表明しました。

これらの人道支援の実施により、弱い立場にある女性、子どもをはじめとする南スーダンの人々に緊急支援物資やサービスが提供され、人間の基本的ニーズの充足が図られています。また、南部の国境を越えてエチオピア側に逃れた避難民のキャンプ生活改善のためにも役立てられています。

日本はこのような支援が、南スーダンの人々の生活改善に活用され、また、南スーダンの人々が一日も早く平和な社会を享受できるようたゆまぬ努力を続けていきます。(2015年8月時点)

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