2015年版開発協力白書 日本の国際協力

3. 連携強化のための取組

日本の開発協力は、多様な主体とのパートナーシップの下で推進されており、その効果を最大限に引き出すための様々な制度改善等を実施しています。政府・政府関係機関による開発協力の実施に当たっては、JICAとその他の公的資金を扱う機関(株式会社国際協力銀行(JBIC)(注3)、独立行政法人日本貿易保険(NEXI)(注4)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)(注5)、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)(注6)等)との間の連携を強化するとともに、民間部門を含む多様な力を動員・結集するための触媒としての役割を果たせるよう、様々な主体との互恵的な連携を強化することとしています。

(1)官民連携

経済のグローバル化に伴い、ODAの約2.5倍の民間資金が開発途上国に流入する現在、開発途上国の開発のための資金ニーズに対応するためには、民間資金による開発への貢献を促進することがますます重要となっています。そのため日本政府は、インフラの分野では、先に見てきたとおり(参照1参照2)官民連携を活用した質の高いインフラ投資を推進しているほか、その他の分野においても、次のような官民連携によって民間投資を後押ししています。

日本の民間企業が開発途上国で様々な事業を行うことは、現地で雇用の機会を創り出し、開発途上国の税収の増加、貿易投資の拡大、外貨の獲得などに寄与し、日本の優れた技術を移転するなど、多様な成果を開発途上国にもたらすことができます。政府は、このような民間企業の開発途上国における活動を推進するために、2008年4月にODAなどと日本企業との連携強化のための新たな施策「成長加速化のための官民パートナーシップ」を発表し、開発途上国の経済成長や貧困削減に役立つ、民間企業の活動とODAとの官民連携案件に関する民間企業からの相談や提案を受け付けています。たとえば、技術協力を活用し、メキシコから医師団を日本に招き、日本企業の開発した高度な医療技術(心臓カテーテル技術)の移転を行った事例などがあります。

また、最近、民間企業が進出先の地域社会が抱える課題の解決に対して積極的に貢献することを目指す企業の社会的責任(CSR)(注7)活動や、生活の向上や社会的課題の解決への貢献が期待される低所得者層を対象にしたBOP(Base of the Pyramid)ビジネスが注目されています。日本の民間企業のCSR活動やBOPビジネスと、現地NGOの活動の連携を促進するため、現地NGOと日本の民間企業が連携する案件を積極的に採択するための優先枠を設定し、積極的に民と民のマッチングを支援しており、2014年度は18件を認定しました。ほかにも、官と民が連携して公共性の高い事業などをより効率的・効果的に行うことを目指す官民連携(PPP:Public–Private partnership)にも取り組み、技術協力による制度整備や人材育成のほか、海外投融資や円借款を活用して、プロジェクトの計画段階から実施までの支援を行っています。

さらに、2011年6月に開催されたミレニアム開発目標(MDGs)フォローアップ会合時に、日本は「MDGs官民連携ネットワーク」の設立を発表しました。これは、日本企業が開発途上国でビジネスや社会貢献活動を円滑に行えるよう支援するもので、日本企業に対して、開発途上国の開発ニーズに関する情報の提供、国内外のNGO、国際機関、大学などを紹介し、ネットワークづくりを支援、保健分野やポストMDGsなどのテーマごとのワークショップを開催するなどして、MDGs達成に貢献する日本企業の活動を促進してきました。

加えて、国連開発計画(UNDP)(注8)および国連児童基金(UNICEF(ユニセフ))(注9)などの国際機関は、開発途上国における豊富な経験と専門性を活かし、日本企業による包摂(ほうせつ)的(インクルーシブ)ビジネスを推進しています。たとえば、日UNDPパートナーシップ基金を活用して、UNDPの専門家が、インドにおける有機綿栽培を促進する日本企業に対して助言を提供したことにより、有機農法への移行支援プロジェクトは、企業利益と開発目的を同時に達成するビジネスを推進する国際的なイニシアティブであるビジネス行動要請(BCtA:Business Call To Action)に採択されました。

ア.PPPインフラ事業・BOPビジネス連携推進の協力準備調査

優れた技術や知識・経験を持ち、海外展開に関心を持つ日本企業の開発への参加を促すため、民間企業からの提案に基づく2種類の協力準備調査を実施しています。具体的には、PPPインフラ事業とBOPビジネス連携推進のそれぞれについて事業化調査のための企画書(プロポーザル)を民間企業から広く募集し、その提案を行った企業にフィージビリティ調査(実現の可能性を探るための調査)を委託することで事業化の計画策定を支援する民間提案型の調査制度です。これまで上下水道や高速道路案件などのPPPインフラ事業については75件、保健医療、農業分野におけるBOPビジネス連携推進については99件を採択しました。PPPインフラ事業の協力準備調査の実施後、海外投融資案件、または円借款案件として承諾に至った案件もあります。これにより、開発途上国の経済社会に民間企業の専門的知識、資金、技術等を活用するとともに、民間企業の海外展開を後押ししていきます。

イ.中小企業等の海外展開支援

発展著しい新興国や開発途上国の経済成長を取り込むことは、日本経済の今後の成長にとって重要な要素となっています。とりわけ、日本の中小企業は世界に誇れる多くの優れた製品・技術を有していますが、人材や知識・経験の不足により多くの企業が海外展開に踏みきれずにいます。一方で、開発途上国においては、こうした日本の中小企業等の製品・技術等が活用され、その国の経済社会開発に役立つことが期待されています。

このような状況を受け、外務省・JICAは、ODAを活用して、日本の中小企業等の海外展開を積極的に後押ししています。具体的には、中小企業等の製品・技術等の開発援助案件化を念頭に置いた調査(ニーズ調査)、開発途上国の課題解決に貢献する中小企業等の海外事業(直接進出による事業)に必要な基礎情報収集・事業計画策定のための調査(基礎調査)、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を開発途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査(案件化調査)および中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する開発途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業(普及・実証事業)を実施しています。

これらの事業は、日本の中小企業等の優れた製品・技術等を開発途上国の開発に活用することで、開発途上国の開発と日本経済の活性化の両立を図るものであり、2012年度から2014年度において、270件の中小企業による調査や普及・実証事業への支援を採択しました。こうした事業の成果として、2014年9月末までに基礎調査、案件化調査または普及・実証事業を終了した108件について、8割超(87件)が対象国でビジネス展開を継続しています。

参加企業等、経済団体からは、こうした取組をさらに拡充してほしい、などの声が多く寄せられており、今後ともODAを活用した中小企業等の海外展開支援を積極的に推進していきます。

さらに、開発途上国政府の要望や開発ニーズに基づき、日本の中小企業の製品を供与することを通じ、その開発途上国の経済社会開発を支援するのみならず、その中小企業の製品に対する認知度の向上を図り、継続的な需要を創出し、日本の中小企業の海外展開を力強く支援する無償資金協力(中小企業製品を活用した機材供与)も実施しています。

そのほか、中小企業等が必要とするグローバル人材の育成を支援するため、企業に籍を置いたまま企業等の社員を青年海外協力隊やシニア海外ボランティアとして開発途上国に派遣する「民間連携ボランティア制度」を2012年に創設し、企業等の海外展開を積極的に支援しています。

また、経済産業省でも、中小企業の海外展開に必要なグローバル人材の育成に資する取組として、若手人材の海外インターンシップ派遣事業を行い、2012年11月にはJICA・経済産業省の共催でグローバル人材育成に関するシンポジウムを開催するなど、日本の中小企業の海外展開を支援しています。加えて、2014年2月、経済産業省と共に「海外展開一貫支援ファストパス制度」を立ち上げ、上述の各種事業に中小企業がより簡単にアクセスできるよう配慮しています。

ウ.事業・運営権対応型無償資金協力

2014年度から、民間企業が関与して施設建設から運営・維持管理までを包括的に実施する公共事業に無償資金協力を行うことを通じ、日本企業の事業権・運営権の獲得を促進し、日本の優れた技術・ノウハウを開発途上国の開発に役立てることを目的とする事業・運営権対応型無償資金協力を導入しました。2014年度にはミャンマーにおける漏水対策と、ケニアにおける医療廃棄物対策の2件の案件を実施しています。

エ.円借款の制度改善

日本の優れた技術やノウハウを開発途上国に提供し、人々の暮らしを豊かにするとともに、特に日本と密接な関係を有するアジアを含む新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化にもつなげることが求められています。開発途上国と日本の民間企業双方にとって、より魅力的な円借款となるよう、制度の改善を一層進めていく必要があります。

日本は、2013年4月、および10月に「円借款の戦略的活用のための改善策」等の制度改善を発表しました。まず、4月の制度改善では、これまでの重点分野を「環境」および「人材育成」に整理した上で、新たに「防災」および「保健・医療」を加えた4分野における譲許(じょうきょ)性を引き上げ(金利を下げたり、返済期間を長くしたりすることで条件をより緩やかにすること)ました。また、中進国および中進国を超える所得水準の開発途上国に対しても円借款を一層活用していきます。加えて、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じて日本の「顔の見える援助」を促進するために導入された本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)について、適用範囲拡大、金利引き下げ等の制度改善を行ったほか、災害復旧スタンド・バイ借款(注10)の創設などの追加的な措置を行ってきています。次に、10月の制度改善では、特にアジア地域における膨大なインフラ需要に適切に対応していくために、官民連携(PPP)方式を活用したインフラ整備案件の着実な形成と実施を促進する、開発途上国政府による各種施策の整備と活用をニーズに応じて支援するべく、EBF円借款(注11)およびVGF円借款(注12)を導入しました。

また、2014年6月には、同一セクター等の複数案件に対して包括的に円借款を供与する「セクター・プロジェクト・ローン」の本格活用の開始や、日本企業の参画が期待できる円借款事業の実施に当たっての事前資格審査と本体入札との一本化などを通じ、円借款のさらなる迅速化を図ることとしました。同年11月には、新たなPPPインフラ信用補完スタンド・バイ借款(注13)を導入しました。

2015年11月には、「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップ策として、円借款の手続きの迅速化、新たな借款制度の創設など円借款や海外投融資の制度改善を行うことを発表しました。具体的には、たとえば、通常は3年を要する円借款における政府関係手続き期間を重要案件については最短で約1年半まで短縮し、その他の案件についても最短で約2年まで短縮することや、JICAの財務健全性を確保することを前提として、外貨返済型円借款の中進国以上への導入、ドル建て借款、ハイスペック借款および事業・運営権対応型円借款を創設すること、また交換公文(E/N)で約束(コミット)する金額の中に「特別予備費枠」を増額計上すること、および政府保証の例外的免除として、開発途上国の自治体や公社等(サブ・ソブリン主体)に円借款を直接供与するに当たり、相手国の経済の安定性や相手国政府の十分なコミットメントなど各種要件が満たされる場合には、政府保証の例外的な免除を関係閣僚会議でケース・バイ・ケースで決定することとしました。また、無償資金協力や有償勘定技術支援等を通じて、実証・テストマーケティング事業を実施することとしました。

オ.海外投融資

開発途上国での事業はリスクが高いなどの理由により、民間金融機関からの融資が受けにくい状況にあります。そこで、日本はJICA海外投融資を活用して、開発途上国において民間企業が実施する開発事業へ直接、出資・融資を行うことにより支援しています。

海外投融資については、2001年12月に発表された「特殊法人等整理合理化計画」において、基本的に、2001年度末までに承諾された案件以外、出・融資を行わないこととなっていました。しかし、民間部門を通じて開発効果の高い新しい需要に対応する必要性の高まりから、2011年3月以降にベトナムにおける産業人材育成事業やパキスタンにおける貧困層向けマイクロファイナンス事業など、JICAによる民間企業に対する海外投融資を試行的に再開しました。

2012年10月には海外投融資を本格的に再開し、ミャンマーのティラワ経済特別区(Class A)開発事業など2015年9月時点までに計8件の出・融資契約を調印しています。また、海外のインフラ事業に参画する日本企業の為替リスクを低減するため、海外投融資制度については、従来の円建てに加え、現地通貨建て(2014年6月)、米ドル建て融資(2015年6月)の導入を相次いで発表しました。

2015年11月には、「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップとして、海外投融資の迅速化、対象の拡大およびJICAと他機関の連携強化を行うことを発表し、民間企業等の申請から原則1か月以内に審査を開始すること、JBICに案件の照会があった場合の標準回答期間を2週間とすること、民間金融機関との協調融資を可能とすること、および「先導性」要件の見直し、既存の民間金融機関による非譲許的な融資で現状対応できない場合に融資できることとしました。

カ.開発途上国の経済社会開発のための民間技術普及促進事業

開発途上国の政府関係者を主な対象とする日本での研修や現地でのセミナーなどを通じて、日本企業が持つ優れた製品、技術、システムなどへの理解を促すとともに、開発途上国の開発への活用可能性の検討を行うことを目的とした民間提案型事業です。民間企業から提案を募り、採択案件の実施は、提案した企業に委託します。その事業およびその後の民間企業の事業展開を通じ、開発途上国の課題解決に貢献できるという効果があります。また、民間企業にとっては、その対象の国における自社の技術、製品、システムへの認知度の向上、公共性の高いビジネスの具体的な展開、開発途上国政府関係者との間の人的ネットワーク形成などの効果が期待できます。

2014年度は第1回公募において12件、第2回公募において17件(うち7件は2014年度補正予算による「健康・医療特別枠」での採択)を採択しました。提案された内容は、日本の技術やノウハウを活かした保健医療、都市交通、エネルギー、防災等の分野での提案に加え、宇宙開発等の新たな分野でのインフラ技術活用の提案など多様であり、対象地域は、東南アジアを中心に、南アジア、中央アジア、中東、中南米、アフリカ等と広範にわたります。

用語解説
BOPビジネス(BOP:Base Of the Pyramid)
開発途上国の低所得層※を対象にした社会的な課題解決に役立つことが期待されるビジネス。低所得層は約50億人、世界人口の約7割を占めるともいわれ、潜在的な成長市場として注目されている。低所得層を消費、生産、販売などのバリューチェーンに巻き込むことで、持続可能な、現地における様々な社会的課題の解決に役立つことが期待される。
事例として洗剤やシャンプーなどの衛生商品、水質浄化剤、栄養食品、防虫剤を練り込んだ蚊帳、浄水装置、太陽光発電などが挙げられる。
※低所得層:1人当たりの年間所得が購買力平価で3,000ドル以下の層。購買力平価とは物価水準の差を除去することによって、異なる通貨の購買力を等しくしたもの。
ODAを活用した官民連携(PPP:Public-Private Partnership)
官によるODA事業と民による投資事業などが連携して行う官民協力の方法。民間企業の意見をODAの案件形成の段階から取り入れて、たとえば、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理は民間で行うといったように、官民で役割分担し、民間の技術や知識・経験、資金を活用し、開発効率の向上とともにより効率的・効果的な事業の実施を目指す。
PPPの分野事例として上下水道、空港建設、高速道路、鉄道などが挙げられる。
包摂(ほうせつ)的(インクルーシブ)ビジネス(Inclusive Business)
包摂的な市場の成長と開発を達成するための有効な手段として、国連および世界銀行グループが推奨するビジネスモデルの総称。社会課題を解決する持続可能なBOPビジネスを含む。
フィージビリティ調査
立案されたプロジェクトが実行(実現)可能かどうか、検証し、実施する上で最適なプロジェクトを計画・策定すること。プロジェクトがどのような可能性を持つか、適切であるか、投資効果について調査する。
民間連携ボランティア制度
中小企業等の社員を青年海外協力隊やシニア海外ボランティアとして開発途上国に派遣し、企業のグローバル人材の育成や海外事業展開にも貢献するもの。企業等の要望に応じ、派遣国、職種、派遣期間等を相談しながら決定する。事業展開を検討している国等へ派遣し、活動を通じて、文化、商習慣、技術レベル等を把握したり、語学のみならず、コミュニケーション能力や問題解決力、交渉力などが身に付き、帰国後の企業活動に還元されることが期待される。
海外展開一貫支援ファストパス制度
海外展開の潜在力と意欲を持つ中堅・中小企業などの海外展開を支援するための制度。これらの企業に身近な存在である地方自治体、地方経済団体、地方金融機関等が、顧客企業と海外展開にノウハウを持つ在外公館・JETROなどとの橋渡しをすることにより、国内から海外まで切れ目のない支援を提供するもの。
海外投融資
JICAが行う有償資金協力の一つで、開発途上国での事業実施を担う民間部門の法人等に対して、必要な資金を出資・融資するもの。民間企業等の開発途上国での事業は、雇用を創出し経済の活性化につながるが、様々なリスクがあり高い収益が望めないことも多いため、既存の金融機関から十分な資金が得られないことがある。海外投融資は、そのような民間の金融機関だけでは対応が困難な事業、かつ、開発効果が高い事業に出資・融資することにより、開発途上国の開発を支援する。支援対象分野は①インフラ・成長加速、②SDGs(Sustainable Development Goals)・貧困削減、③気候変動対策。

  1. 注3 : 国際協力銀行 JBIC:Japan Bank for International Cooperation
  2. 注4 : 日本貿易保険 NEXI:Nippon Export and Investment Insurance
  3. 注5 : 海外交通・都市開発事業支援機構 JOIN:Japan Overseas Infrastructure Investment Corporation for Transport & Urban Development
  4. 注6 : 海外通信・放送・郵便事業支援機構 JICT:Fund Corporation for the Overseas Development of Japan’s ICT and Postal Services
  5. 注7 : 企業の社会的責任 CSR:Corporate Social Responsibility
  6. 注8 : 国連開発計画 UNDP:United Nations Development Programme
  7. 注9 : 国連児童基金 UNICEF:United Nations Children’s Fund
  8. 注10 : 災害の発生が予想される開発途上国に対して、事前に円借款の契約を締結しておき、災害が発生した際には、迅速に復旧のための資金を融通できる仕組み。
  9. 注11 : EBF(Equity Back Finance)円借款は、開発途上国政府・国営企業等が出資をするPPPインフラ事業に対して、日本企業も事業運営主体に参画する場合、開発途上国の公共事業を担う特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)に対する開発途上国側の出資部分に対して円借款を供与するもの。
  10. 注12 : VGF(Viability Gap Funding)円借款は、開発途上国政府の実施するPPPインフラ事業に対して、原則として日本企業が出資する場合において、SPCが期待する収益性確保のため、開発途上国がSPCに供与する採算補塡(VGF)に対して円借款を供与するもの。
  11. 注13 : PPPインフラ信用補完スタンド・バイ借款は、オフテイク契約の履行を確保する仕組みの整備と活用を開発途上国政府に促し、そのことにより官民の適切なリスク・シェアリングに基づくPPPインフラ整備を促進することを目的として、事業者からの保証履行請求に基づく貸付等を行うもの。

 

(2)大学・地方自治体との連携
地方自治体による海外展開推進のための自治体連携強化セミナーの様子

地方自治体による海外展開推進のための自治体連携強化セミナーの様子

日本は、より効果的なODAの実施のため、大学や地方自治体が蓄積してきた実務的な経験や知見を活用しています。政府は、大学が持つ専門的な知識などを活用して開発途上国の課題に総合的に取り組むことを狙って、様々な大学と共同で技術協力や円借款事業を推進しています。また、開発途上国において、都市問題に対応するニーズが急速に増大している中、水、エネルギー、廃棄物処理、防災等の分野で知見を蓄積している日本の自治体がそれらの国のニーズに対応することは開発に有益であることから、ODAを活用した地方自治体の海外展開を積極的に推進しています。

2014年11月には、水、廃棄物、防災などの開発途上国の開発に役立つ分野で海外展開を進め、先進的な取組を行っている地方自治体の海外展開に関する知見を他の地方自治体と共有することを目的としたセミナーを実施しました。

2015年2月には、政府はJICAの草の根技術協力事業の枠組みを活用し、地域活性化特別枠として地方自治体の海外展開を通じて開発途上国の支援および日本の地域の活性化を図っています。

2015年7月には、地方自治体からの無償資金協力事業の提案をJICAが随時受け付け、地方自治体が無償資金協力案件に参加する枠組みを設けることとしました。

 

(3)市民社会との連携

現在の国際社会では、民間企業、地方自治体、非政府組織(NGO)をはじめとする多様な主体が開発課題の解決、そして開発途上国の質の高い成長にますます大きな役割を果たしています。このような中で、NGOを中心とする市民社会との連携は、開発協力に対する市民の理解と参加を促進し、開発協力を支える社会基盤をより一層広げ、強化していく観点から重要です。

ア.青年海外協力隊・シニア海外ボランティアによる開発途上国支援への直接参加
メキシコのサン・ファン・デル・リオ工科大学で、機械工学を担当する清水宏シニア海外ボランティア(写真:JICA)

メキシコのサン・ファン・デル・リオ工科大学で、機械工学を担当する清水宏シニア海外ボランティア(写真:JICA)

1965年に発足し、2015年に50周年を迎えた青年海外協力隊事業は、累計で88か国に約4万人を派遣し、まさしく日本の「顔の見える援助」として開発途上国の発展に貢献してきました。青年海外協力隊事業は、技術を有する20歳から39歳までの青年が開発途上国に原則2年間滞在し、ボランティアとして現地の人々と生活や労働を共にしながら、経済社会開発に協力する国民参加型事業です。

シニア海外ボランティア事業は、幅広い技術、豊かな経験を持つ40歳から69歳までの男女が開発途上国の発展のために活動する国民参加型事業であり、青年海外協力隊事業のシニア版として位置付けられています。

これらのボランティア事業は、現地の経済社会発展のみならず、現地の人たちの日本への親しみを深めることを通じて、日本とこれらの国との間の相互理解・友好親善を促進しています。また、近年は帰国したボランティアが、日本の民間企業の開発途上国への進出等に貢献するなどボランティア経験の社会還元という側面も注目されています。

こうした取組を促進するため、帰国ボランティアの進路開拓支援を行うとともに、現職参加の普及・浸透に取り組むなど、これらのボランティア事業に参加しやすくなるよう努めています。

用語解説
現職参加
現在、企業や国・地方自治体、学校に勤務している者が、休職や職務専念義務免除などの形で所属先に身分を残したまま青年海外協力隊やシニア海外ボランティアに参加すること。
イ.NGOへの支援や活動への参加

日本のNGOは、開発途上国・地域において教育、医療・保健、農村開発、難民支援、地雷処理技術指導など様々な分野において質の高い開発協力活動を実施しています。また、地震・台風などの自然災害や紛争等の現場において迅速かつ効果的な緊急人道支援活動を展開しています。このように日本のNGOは、開発途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく丁寧に対応することが可能であり、政府や国際機関による支援では手の届きにくい草の根レベルでの支援を行うことができます。また、外務省はこうした「顔の見える援助」を行う日本のNGOを開発協力における重要なパートナーとして、連携を重視しています。具体的には、①NGOの開発協力活動に対する資金面での協力、②NGOの能力強化に対する支援、③NGOとの対話を進めています。

さらに、開発協力大綱の下、NGOとの今後5年間における連携の方向性に関(かか)わる計画をNGOと共同で作成し、2015年6月に発表しました。

ウ.NGOが行う事業への資金協力

日本政府は、日本のNGOが開発途上国・地域において開発協力活動および緊急人道支援活動事業を円滑かつ効果的に実施できるように様々な協力を行っています。

▪日本NGO連携無償資金協力

外務省は、日本NGO連携無償資金協力として、日本のNGOが開発途上国で実施する経済社会開発事業に資金を提供しています。2014年度に57団体が、この枠組みを通じて、36か国・地域において、医療・保健、教育・人づくり、職業訓練、農村開発、水資源開発、地雷・不発弾処理等の分野で、総額41億円の事業を108件実施しました。また、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である特定非営利活動法人「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」には、2015年7月時点で47のNGOが加盟しています。JPFは、外務省から拠出されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して、大規模な災害が起きたときや紛争により大量の難民が発生したときなどに生活物資の配布や生活再建等の緊急人道支援を行っています。2014年度には、イラク・シリア難民・国内避難民支援、南スーダン緊急支援、アフガニスタン・パキスタン人道支援、ミャンマー少数民族帰還支援、ガザ人道支援2014など、11のプログラムで81件、40億円のODA資金が、JPF加盟のNGOが実施する事業に使用されました。

●マラウイ

ムジンバ県における農民自立支援・生計向上プロジェクト
日本NGO連携無償資金協力(2014年3月~実施中)

農家を対象とした養蜂ワークショップ(写真:青年海外協力協会)

農家を対象とした養蜂ワークショップ(写真:青年海外協力協会)

マラウイ政府は、ほかのアフリカ諸国と同様に、小規模農家に対しても商業的な農業を普及させ、生産性の向上、食料の安定供給確保、貧困削減を目指しています。そのような中で、日本の公益社団法人「青年海外協力協会」は2005年、マラウイの北部ムジンバ県において、自ら考え、行動し、自立する農村コミュニティの実現を目指し、農民リーダー育成、グループ強化、営農多様化と現金収入増加を支援しました。さらに、2009年からの3年間に続き、日本NGO連携無償資金協力を活用し、2014年から3年間にわたり実施されてきているこのプロジェクトを通じて、事業の最終目的である農村コミュニティの持続可能な自立発展の確立を目指しています。

その結果、2015年9月時点で、主力商品のニンニクの収穫は前年比3倍の約75トンとなりました。また、農家による新規投資も盛んで、養鶏では農家による鶏の自主購入が1,000羽を超え、養蜂は7名が計15個の巣箱を設置し、ウサギ飼育も開始しました。加えて、二つのグループと2軒の農家が継続的なパンの製造販売を開始し、1軒の農家は雑貨店を開店するなど、商業的アプローチは地域に着実に根付いています。

これらの成果を支えるのは、主体的に行動できる農民の個人やグループ、そして委員会の存在であり、2015年3月からの半年間で、農民による自発的ワークショップ(参加型の講習会)は26回も開催されました。ワークショップのテーマはグループ強化(14回)、野菜栽培(11回)、養蜂(1回)となっています。

最も象徴的な出来事の一つは、支援対象の村の一つが自力で小規模水力発電を導入して村の全15戸に配電し、その後、隣村にまで送電を始めたことです。また、村では修理費用の積み立ても行っています。このように日本のNGOによる本事業では当初想定したレベルを超えた成果が現れており、さらに継続的に良い影響が拡大することが期待されます。(2015年8月時点)

▪NGO事業補助金

外務省は、日本のNGOを対象に、経済社会開発事業に関連し、事業の形成、事業実施後の評価、国内外における研修会や講習会などを実施するNGOに対し、200万円を上限に総事業費の2分の1までの補助金を交付しています。2014年には16団体がこの補助金を活用し、プロジェクト形成調査および事後評価、国内外でのセミナーやワークショップ(参加型の講習会)などの事業を実施しました。

 

▪JICAの草の根技術協力事業ほか

北部ラオスにおける障害者の社会自立のための就労支援事業(写真:NPO法人アジアの障害者活動を支援する会)

北部ラオスにおける障害者の社会自立のための就労支援事業(写真:NPO法人アジアの障害者活動を支援する会)

JICAの技術協力プロジェクトはNGOを含む民間の団体に委託して実施される場合があり、NGOや大学といった様々な団体の専門性や経験も活用されています。さらに、JICAはNGOや大学、地方自治体などが提案する案件で、開発途上国の地域住民の生活向上に直接役立つ協力活動について、ODAの一環として事業委託する「草の根技術協力事業」を実施しています。2014年度は244件の事業を世界50か国で実施しました。(注:2014年度の実施案件で、全支援形態の実績です。)

エ.NGO活動環境の整備

NGOに対する資金協力以外のさらなる支援策として、NGOの活動環境を整備する事業があります。これは、NGOの組織体制や事業実施能力をさらに強化するとともに、人材育成を図ることを目的とした事業で、外務省は、具体的には以下の4つの取組を行っています。

 

▪NGO相談員制度

外務省の委嘱を受けた全国各地の経験豊富なNGO団体(2014年度は17団体に委嘱)が、市民やNGO関係者から寄せられる国際協力活動やNGOの組織運営の方法、開発教育の進め方などに関する質問や相談に対応する制度です。そのほか、国際協力イベントや教育現場等において国際協力に関する講演やセミナー等を無料で提供し、多くの人がNGOや国際協力活動に対して理解を深める機会をつくるようにしています。

 

▪NGOインターン・プログラム

NGOインターン・プログラムは、まず日本の国際協力NGOへの就職を希望する若手人材のために門戸を広げると同時に、将来的には日本のODAにも資する若手人材の育成を目指しています。これを通じて日本のNGOによる国際協力を拡充し、それによりODAとNGOとの連携関係をさらに強化していくことを目的として、インターンの受入れと育成を日本の国際協力NGOに委託し、育成にかかる一定の経費を支給しています。

インターン受入れNGOは、「新規」に10か月採用されたインターンをさらに12か月間の「継続」インターンとして採用するための申請を行うことができ、最長22か月かけてインターンの育成を行うことが可能となっています。2014年度は、このプログラムにより、計18名がインターンとしてNGOに新規に受け入れられました。

 

▪NGO海外スタディ・プログラム

NGO海外スタディ・プログラムは、日本の国際協力NGOの人材育成を通じた組織強化を目的として、日本の国際協力NGOの中堅職員を対象に、1か月から6か月程度まで、海外での研修を受けるための経費を支給するものです。国際開発分野の事業や同分野の政策提言等において優良な実績を有する海外NGO、または国際機関にて実務能力の向上を図る「実務研修型」と、海外の研修機関が提供する有料プログラムの受講を通じて専門知識の向上を図る「研修受講型」の二つの形態で実施しています。研修員は、所属団体が抱える課題に基づき研修テーマを設定し、帰国後には研修成果の還元として、所属団体の活動に役立てるとともに、ほかのNGOとも情報を広く共有し、日本のNGO全体の能力強化に尽力することとしています。2014年度は、このプログラムにより、12名が研修を受けました。

 

▪NGO研究会

政府は、NGOの能力、専門性向上のための研究会の実施を支援しています。具体的に、業務実施を委嘱されたNGOがほかのNGO等の協力を得ながら、調査、セミナー、ワークショップ(参加型の講習会)、シンポジウムなどを行い、具体的な改善策を報告・提言することを通じて、NGO自身の組織および能力の強化を図ります。2014年度は、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとNGO」、「持続可能な開発のための教育(ESD)において国際協力NGOが果たす役割」、「NGOの広報能力強化」、「NGOの安全対策に関する国際比較調査」、「防災分野における国際協力NGOが果たすべき役割」の5つのテーマに関する研究会を実施しました。活動の報告書・成果物は外務省のODAホームページに掲載されています。

なお、外務省が行う支援のほかに、JICAは、NGOの職員のために様々な研修を行っています。たとえば、次のようなものがあります。

①「国際協力担当者のためのPCMを活用したプロジェクト運営基礎セミナー」
プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)を活用して開発途上国でのプロジェクトの計画立案・評価の手法を習得

②「NGO人材育成研修 地域NGO提案型研修(現・地域提案型NGO組織力アップ! 研修)」

③「NGO組織強化のための国内アドバイザー派遣制度」
NGOが国内での広報活動や資金獲得、経理・会計分野での能力などを強化することを目的にこの分野の知識・経験を持つアドバイザーを派遣

④「NGO活動強化のための海外アドバイザー派遣」
海外においてプロジェクトを効果的に実施するために必要な能力強化の指導を行うアドバイザーを派遣

オ.NGOとの対話

▪NGO・外務省定期協議会

NGO・外務省定期協議会は、NGOと外務省との連携強化や対話の促進を目的として、ODAに関する情報共有やNGOとの連携の改善策などに関して定期的に意見交換する場として1996年度に設けられました。現在では、年1回の全体会議に加え、「ODA政策協議会」と「連携推進委員会」の二つの小委員会が設置されています。どちらの小委員会も原則としてそれぞれ年3回開催されます。「ODA政策協議会」ではODA政策全般に関する意見交換が、「連携推進委員会」ではNGO支援・連携策に関する意見交換が行われています。2014年度は、通常の開催に加え、「ODA大綱見直しに関するODA政策協議会臨時会合」も開催されました。

 

▪NGO・在外ODA協議会(通称:ODA・NGO(オダンゴ)協議会)

2002年以降は開発途上国で活動する日本のNGOと意見を交換する場として「NGO・在外ODA協議会(通称:ODA・NGO(オダンゴ)協議会)」を開設しました。NGO等がODAの効率的・効果的な実施について意見交換を行っています。

 

▪NGO-JICA協議会、NGO-JICAジャパンデスク

JICAは、NGOとの対等なパートナーシップに基づき、より効果的な国際協力の実現と、国際協力への市民の理解と参加を促すために、NGO-JICA協議会を開催しています。また、NGOの現地での活動を支援するとともに、NGOとJICAが連携して行う事業の強化を目的として、「NGO-JICAジャパンデスク」を海外20か国に設置しています。

用語解説
草の根技術協力事業
国際協力の意思を持つ日本のNGO、大学、地方自治体および公益法人等の団体による、開発途上国の地域住民を対象とした国際協力活動を、JICAがODAの一環として支援し、共同で実施する事業。
団体の規模や種類に応じて、次の3つの支援方法がある。
①草の根パートナー型(事業規模:総額1億円以内、期間:5年以内)
②草の根協力支援型(事業規模:総額1,000万円以内、期間:3年以内)
③地域提案型(事業規模:総額3,000万円以内、期間:3年以内)
プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)手法
開発協力プロジェクトの分析・計画・実施・評価という一連のサイクルを、プロジェクト概要表を用いて運営管理する参加型開発手法で、参加型計画とモニタリング・評価から成る。JICAや国際機関などが開発協力の現場で用いる手法。

 

(4)国際機関・地域機関等との連携
ア.国際機関との連携の必要性

近年、貧困、気候変動、防災、保健など、一国のみで解決が困難な、国境を越える地球規模課題に対して、国際社会が一致団結して取り組むことが強く求められています。このような中、積極的平和主義に基づく日本の政策目標を実現する上で、専門性や幅広いネットワークや、普遍性を有する国際機関との連携は極めて重要です。

2015年は、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択、気候変動に関する2020年以降の枠組みの策定、第3回国連防災世界会議の仙台での開催など、国連外交においては極めて重要な1年でした。こうした中で、国際的なルール作りを日本が主導していく上でも国際機関との連携を一層強化していくことは重要な課題です。

また、国際機関を通じた支援の実施においては、日本企業やNGO等、日本の様々な担い手との連携が図られています。

 

▪具体的な国際機関との連携プロジェクト

2014年には、国連開発計画(UNDP)や国連児童基金(UNICEF(ユニセフ))をはじめとする国際機関と協力して、日本は地球規模課題への取組に積極的に貢献しました。

たとえば、アフガニスタンにおいてUNICEFを通じ、14億4,800万円の無償資金協力「小児感染症予防計画」として、ポリオ・ワクチン、BCG定期予防接種ワクチン、はしか定期予防接種ワクチンや、これらのワクチンの冷蔵設備等を供与するとともに、啓発活動等を実施しました。

ほかにも、カリブ8か国(注14)に対しUNDPと連携し、15億2,600万円の環境・気候変動対策無償資金協力を実施しました。これらの小島嶼(とうしょ)国では、ハリケーンや洪水等の自然災害が頻発しており、地球温暖化による海面上昇がもたらす沿岸浸食、国土の減少、塩害による水不足等、様々な課題に直面しています。今回の協力は、特に支援の必要性が高い8か国において、UNDPを通じて、気候変動政策の策定支援、緩和・適応技術移転のためのパイロット・プロジェクトの実施を行うとともに、その他のカリブ諸国にも広く役立て得る情報共有体制を構築・強化するものです。

加えて、2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際、日本は、ギニア、リベリア、シエラレオネなどのエボラ出血熱流行国に感染を防ぐ個人防護具や毛布・テントなどの緊急物資を供与するとともに、国連世界食糧計画(WFP)、国際赤十字・赤新月社連盟((IFRC)への緊急無償資金協力を通じた支援や、世界保健機関(WHO)と連携して日本人専門家を派遣するなど国際機関等と積極的に連携して支援を実施しました。

 

▪政策における国際機関との連携の例

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」策定過程においても、日本は、国連内部の調整役を務めるUNDPや国際社会と密接に連携し、新しい国際開発目標の策定に向けた議論を主導しました。2014年7月、UNDP2014年人間開発報告書の国際公式発表を日本で開催し、安倍総理大臣より、同報告書のテーマである強靱(きょうじん)性の構築に向けて、UNDPをはじめとする国際社会と連携し、防災、人間の安全保障の推進、女性のエンパワーメントに取り組んでいく旨を発信しました。

 

イ.地域機関との連携の例

ASEAN(アセアン)(東南アジア諸国連合)は、2015年末までの「政治・安全保障共同体」「経済共同体」「社会・文化共同体」から成る「ASEAN共同体」の構築を目指し、域内の連結性強化を最重要の課題として掲げてきました。日本は、統合を強めたASEANが地域協力のハブとなることが、地域の安定と繁栄にとって重要であるとの観点から、これまでのインフラや投資環境整備の経験を活かし、連結性強化に向けたASEANの努力を支援してきました。

ASEAN共同体の構築およびその後の統合努力においては、域内の連結性強化や開発格差の是正など、残された様々な課題の解決に向けた取組を、これまで以上に推進していく必要があります。日本は引き続き、ASEANとの信頼と友好の絆(きずな)を強化していきながら、ASEAN統合に向けた積極的な協力を行っていく方針です。

ウ.他のドナー国との連携

日本は、他のドナー(援助国)との開発協力における協調を推進しています。2014年から2015年前半には、米国、英国、フランス、オーストラリア、韓国、EUと開発協力に関する対話を行いました。主要ドナー全体のODA予算が減少傾向にある中で、限られたODA予算を開発途上国の開発に効果的に活用しながら開発協力を進め、国際社会全体で開発課題に取り組むためにも、国際機関や他のドナーとの協力や連携の重要性は高まっています。

近年、日本と米国との協力・連携の強化が進展しています。2013年12月、バイデン米副大統領の訪日の際に発表した「日米のグローバル協力に関するファクト・シート」の中で、開発援助、グローバルな安全保障への貢献を強調しました。新たに、東南アジア、アフリカを焦点とした定期的な高級実務者レベルでの「日米開発対話」の立ち上げを表明しました。2014年2月、および2015年2月に日米開発対話を開催し、幅広い開発課題に対する日米協力につき協議しました。2014年4月のオバマ大統領の訪日に際しては「ファクトシート:日米のグローバル及び地域協力」を発表し、東南アジアやアフリカなどにおける具体的連携を打ち出しました。

2015年4月の安倍総理大臣の訪米に際して発出された「より繁栄し安定した世界のための日米協力に関するファクトシート」の中では、開発協力、環境および気候変動、女性・女児のエンパワーメント、国際保健といった各分野での連携を打ち出しています。

こうした中で日米間では、アフリカ女性起業家への支援、インドにおける女性に安全な街づくりのためのUN Womenの事業、ラオスの不発弾処理活動やパプアニューギニアの女性支援グループへの資金協力、カンボジアで活躍する女性起業家等に対するセミナーなどに関する連携を実現してきています。こうした日米開発協力の強化は、日米関係の幅を広げ、日米同盟のさらなる発展に寄与するものと考えています。

これまで国際社会では、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC(ダック))の加盟国、いわゆるドナー国が中心となって開発協力を行ってきましたが、近年、中国、インド、サウジアラビア、ブラジル、トルコなど伝統的なドナー以外の国や新興国も開発途上国の開発課題に大きな影響力を持っています。

G20の枠組みにおいても、開発課題につき先進国のみならず、新興国・開発途上国を交えた形で協議が行われるようになったこともこの現れです。新興ドナーが国際的な取組と調和した開発協力を行うよう、日本は様々な会合への新興ドナーの参加を促し、話し合いを進めています。

自らが援助を受ける側から主要な援助国へと歩んできた歴史と経験を持つ日本は、新興国をはじめとする諸国と連携して、南南協力を取り込んだ三角協力を推進しています。

エ.国際的な議論への積極的貢献

グローバル化が進む中で、世界の国々が相互に影響を与えたり、依存したりする度合いは急速に高まっており、貧困や紛争、感染症や環境問題など、一国のみの問題ではなく国際社会全体にかかわるものとして協力して取り組むべき脅威や課題も少なくありません。

特に、2015年は、2030年までの国際開発目標である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択した国連サミット(9月、ニューヨーク)や、気候変動に関する2020年以降の新たな国際的枠組みである「パリ協定」を採択したCOP21(11月~12月、パリ)といった重要な国際会議が開催され、様々な地球規模課題に対する国際社会の取組にとって重要な節目の年でした。

日本は、国際社会の議論が本格化する前から、MDGsフォローアップ会合の開催や非公式な政策対話の主催、国連総会サイドイベントの開催、また、2015年1月からの政府間交渉にも積極的に参加し、同年3月の第3回国連防災世界会議の開催等を通じて、真に効果的な新しいアジェンダの策定を主導してきました。こうした地球規模課題への取組を通じて、持続可能で強靱(きょうじん)な国際社会の取組に貢献してきています。

一方、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC(ダック))では、対開発途上国援助の量的拡大とその効率化を図るべく、新興国や民間部門等の開発に携わる多様な主体との連携を強化し、また、公的および民間資金をより効果的に動員し、活用しようとしています。具体的には、各国のODA実績が正当に評価されるための測定方法の改訂や、民間による投資や新興ドナー国の資金などのODA以外の開発資金を幅広く統計として捕捉する方策を議論しています。

また、持続可能な開発目標(SDGs)等の国際的な開発目標を達成するため、援助の「量」に加え、援助効果の向上(「質」)のための取組が「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(GPEDC)(注15)」において進められています。GPEDCは、2011年に韓国・釜山で開催された第4回援助効果向上のためのハイレベルフォーラムを発展させる形で設立されました。

2014年4月にメキシコで開催されたGPEDC第1回ハイレベル会合では、開発途上国の開発課題の解決のためには、先進国・開発途上国政府だけでなく、市民社会組織(CSO)(注16)や民間部門、議会等、開発に携わる様々な組織や団体が参加した包摂(ほうせつ)的な取組が必要であるとの認識が、参加者の間で共有されました。また、開発に役立てる資金源として、ODAだけではなく、開発途上国の税制度改善などによるその国内資金の有効活用、南南協力や三角協力による開発への貢献、民間資金の効果的な活用とそのためのODAの触媒的役割(たとえばODAで開発途上国のインフラを整備し、民間投資の誘致につなげるなど)の重要性などについても議論が行われました。日本は、2015年8月からGPEDCの運営委員に就任し、日本の経験をもとに開発協力の効果向上のための国際的な取組強化に貢献しています。

また、2014年9月には、ハノイで「第5回アジア開発フォーラム」を開催し、「アジアの持続的成長のための課題と戦略」をテーマに、アジアの経験を踏まえた開発協力のあり方について議論を深めました。

用語解説
南南協力
より開発の進んだ開発途上国が、自国の開発経験と人材などを活用して、他の開発途上国に対して行う協力。自然環境・文化・経済事情や開発段階などが似ている状況にある国々に対して、主に技術協力を行う。また、ドナー(援助国)や国際機関が、このような開発途上国間の協力を支援する場合は、「三角協力」という。
アジア開発フォーラム
アジア各国の政府関係者、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行、国連開発計画(UNDP)などの国際機関、および民間企業関係者などが集まり、開発に関する各種課題や今後の取組のあり方などに関して議論し、開発協力に関する「アジアの声」を形成し、発信することを目的とするフォーラム。日本および韓国の発案で立ち上がり、2010年より開催されており、その運営に当たっては、主催国に加え、日本を含む過去の開催国から成るグループが中心的な役割を果たしている。

  1. 注14 : ガイアナ、グレナダ、ジャマイカ、スリナム、セントビンセント、セントルシア、ドミニカ国、ベリーズ。
  2. 注15 : 効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ GPEDC:Global Partnership for Effective Development Co-operation
  3. 注16 : 市民社会組織 CSO:Civil Society Organization
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