開発協力トピックス 01
質の高いインフラ投資
インフラ不足が世界中で経済成長や人々の生活の改善の妨げとなっています。特に、アジアのインフラ需要は膨大であるといわれています。ここで大事なのは、インフラづくり自体が目的であってはならないということです。重要なのは、インフラを通じて、アジアが世界の成長センターとして世界経済を牽引(けんいん)し続けること、そして、その成長の配当が、社会的な弱者を含め、地域や社会の隅々まで行き渡ることです。そのような目的を実現していくためには、「質の高いインフラ投資」が必要であるとの問題意識が世界中で広がっています。質の高いインフラについては、2015年9月に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や、最近のG7サミット、G20、APECなどの首脳文書にも明記されています。
「質の高いインフラ投資」とはどのようなものでしょうか?
インフラ自体が使いやすく、安全で、災害にも強い、「質」の高いものであることは当然大事ですが、それだけではありません。インフラの計画が国や地域の開発戦略や成長戦略とちぐはぐであっては困ります。人と人、町と町、国や地域をつなげ、成長の潜在力を開花させるようなものであることが重要です。地元の環境やコミュニティ、人々の生活と調和するものであること、工事やメンテナンスに至る長い目で費用対効果が高いこと、そして、現地に雇用が生み出され、技術が伝わることも大事です。計画の段階から、長期的な視野からの調整や対話が丁寧に行われること、様々な国際的なスタンダードやルールに従っていくことも重要です。そして、民間の資金やノウハウを活用することも必要です。このような全体像が「質の高いインフラ投資」なのです。
日本は、長年、アジアを中心に、質の高いインフラ投資を推進し、地域の成長の一翼を担ってきました。今日のアジアの目覚ましい成長と繁栄は、そのような日本のアプローチが正しかったことを示しています。
たとえば、インドの首都のデリー市の地下鉄「デリーメトロ」は、日本のODAによって整備が進められ、既に十年以上前から運行を開始しています。首都の人口急増や自家用車の増加に伴う渋滞増と、これに伴う経済的な損失の解消という、インドの成長戦略上の課題の解決のため、綿密な調整を通じて進められた事業です。そして、今日では、1日当たり平均約250万人が利用し、デリー市内の車両が12万台削減され、渋滞が大いに緩和されるという成果を出しています。工事の過程では、地元の住民やコミュニティとも丁寧な対話が行われ、周辺の環境にも細やかな配慮がされました。地下鉄の安全運行や車両整備、納期の遵守(じゅんしゅ)や安全面を含む日本の作業のスタンダードや現場文化をインド側に伝えることもできました。ブレーキ・システムの日本の最先端の省エネ技術の導入によって、二酸化炭素の排出権のクレジットを通じた収入を得ることもできるようになりました。まさに「質の高いインフラ投資」の好例です。

2015年に開通したベトナムのニャッタン橋
日本のODAによって作られ、2015年に開通したベトナムのニャッタン橋(きょう)も同様です。この橋の開通によって、首都のハノイ市の玄関口である空港から市内への所要時間の大幅な短縮を実現しました。これは物流の効率化をもたらし、ハノイ市を含むベトナム北部地域の経済発展と国際競争力強化という、ベトナム側の成長・開発戦略の前進に大いに役立つものとなりました。最新の施工技術を用いることにより、工事の際の環境への影響が格段に削減され、経済性の向上につながりました。そして、地元に雇用を生み出すとともに、建設や品質管理に関する日本の技術がベトナム側に伝えられることにもなったのです。
日本は、引き続き、アジアの中で、「質の高いインフラ投資」を主導していきます。時々誤解もある点ですが、日本は、これまでも「質」だけでなく「質も量も」追求してきています。それは今後も同様です。そのために、2015年5月、安倍総理大臣は、様々な国や国際機関と協働してアジアの「質の高いインフラ投資」を推進することを目指す「質の高いインフラパートナーシップ」を発表しました。

デリーメトロ(写真:船尾修/JICA)
このパートナーシップの一つの側面は、「質」とともに「量的な拡大」です。日本政府は、アジア開発銀行(ADB)と連携し、今後5年間で約1,100億ドルの「質の高いインフラ投資」をアジア地域に提供することを目指します。これは従来の約3割増しの支援量に相当します。さらに、このような日本の支援やADBの資金が触媒として働くことによって、世界の民間企業の資金が流れることも目指しています。そのために、日本の様々な機関や援助の方法を通じて、支援の量の拡大と迅速化を図るとともに、国際協力銀行(JBIC)の機能強化、ADBとの連携の強化などを進めていきます。
2015年11月、安倍総理大臣は、「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップ策として、円借款の手続きの迅速化、新たな借款制度の創設など、円借款や海外投融資の制度改善を行うことや、ADBとの連携をさらに進めること、JBICの制度改正なども行っていくことを発表しました。
また、日本政府として、世界の成長や、貧困や格差などの開発課題の解決にとって「質の高いインフラ投資」を進める必要性を、様々な場面で、アジアを含む世界の国々や国際機関と確認していきます。
「質の高いインフラパートナーシップ」を通じ、可能性あふれるアジアのインフラ整備に、民間を含む資金やノウハウが世界から流れ込むこと、そのことによって、環境やコミュニティと調和し、人々が取り残されることのない、力強い成長が導かれることが期待されます。このように、「質の高いインフラパートナーシップ」は、まさにアジアの未来への投資なのです。
| 質の高いインフラ投資」の具体例
デリー高速輸送システム建設計画(インド、円借款)
・1日当たり約250万人もの市民が利用し、快適で便利な移動手段を提供
・首都圏の渋滞や大気汚染の緩和
・工事現場における「安全第一」の心構えや、「納期」の重要性も浸透
・地下鉄のブレーキに採用されている日本の高い技術が、使用電力やCO₂削減にも貢献