2015年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス 02

エボラ出血熱と日本の支援

2014年9月18日、感染症に関するものとしては異例の国連安保理決議が採択されました。日本も共同提案国となったこの決議で、エボラ出血熱(エボラウイルス病)の流行が「国際の平和と安全に対する脅威」として位置付けられ、各国政府は大きな危機感を持ってこの感染症に対処することになりました。

エボラ出血熱の流行地域における対策では、医薬品、医療スタッフ、感染症対策の専門家はもちろん、大量の医療消耗品(防護具など)、患者を隔離できる集中治療施設から出入国時の検疫まで、多様なニーズが存在します。これらに対応しながら、いかに流行の拡大を阻止し終息させるかが課題でした。

この課題の解決に向けて、日本は資金面だけでなく、専門家派遣や物資供与といった幅広い支援を実施してきました。ここでは、その中から、高い技術を駆使した「日本らしい」支援を、二つの事例を取り上げて紹介します。

(1)迅速検査キット

エボラ出血熱の流行を阻止する上での障害の一つは、都市部以外での感染拡大の詳細がなかなか把握しにくいことでした。患者の発熱がエボラ出血熱によるものか確認するために都市部の病院やエボラ治療施設を受診するのは容易ではありません。したがって、病院や治療施設での受診なしに、地元での感染を迅速かつ正確に把握できる体制を整えることが非常に重要になります。

「エボラ出血熱迅速検査キット」の特徴は、その迅速性、軽量性と正確性にあります。従来、エボラ出血熱の検査は、1回の検査ごとに約1時間半かかっていました。また、用いられる機材は、持ち運びが不便な上、安定電源を必要としていましたが、流行地域の多くではその確保が簡単ではありません。ところが、長崎大学と東芝が開発した迅速検査キットは、正確性で既存の検査法に匹敵しながら、迅速さや軽量性に優れ、加えて安定電源が不要なため、たとえば地方など基礎的インフラが十分に整っていない地域でも検査を容易に実施することができます。

迅速検査装置(写真:東芝メディカルシステムズ株式会社)

迅速検査装置(写真:東芝メディカルシステムズ株式会社)

エボラ出血熱迅速検査装置の使い方を技術指導する安田二朗・長崎大学教授(右)と黒崎陽平・同大助教(左端)

エボラ出血熱迅速検査装置の使い方を技術指導する安田二朗・長崎大学教授(右)と黒崎陽平・同大助教(左端)

移動式ラボにおける安田長崎大学教授(左)と黒崎同大助教(右)。後ろは、迅速検査キットを使用するギニア人検査技師

移動式ラボにおける安田長崎大学教授(左)と黒崎同大助教(右)。後ろは、迅速検査キットを使用するギニア人検査技師

流行国の一つ、ギニアでは、2015年3月~5月、エボラ出血熱の流行終息に向けた「強化緊急衛生宣言」の下で、集中的な撲滅キャンペーンが行われていました。日本政府は、ギニア政府から、キャンペーンでこの迅速検査キットを活用したいとの要請を受け、この年の4月、このキットを供与しました。同時に、このキットで使用される試薬を開発した安田二朗長崎大学熱帯医学研究所教授と黒崎陽平同大学助教が、日本の支援の一環として、自ら現地に赴き、現地政府関係者に対してキットの使い方に関する技術指導を行いました。二人は地方でのキャンペーンにも参加し、最前線での実地指導にも協力しました。このように、日本の供与した迅速検査キットは、エボラ患者の早期診断に大きく貢献しています。

■ (2)サーモグラフィカメラ

コートジボワールのアビジャンにあるフェリックス・ウフエ・ボワニ国際空港で、同時に複数の人たちの体表温度を測定しているサーモグラフィカメラ(写真:日本アビオニクス株式会社)

コートジボワールのアビジャンにあるフェリックス・ウフエ・ボワニ国際空港で、同時に複数の人たちの体表温度を測定しているサーモグラフィカメラ(写真:日本アビオニクス株式会社)

エボラ出血熱はギニア、リベリアおよびシエラレオネの西アフリカ3か国を中心に流行しましたが、7月にナイジェリア、9月にセネガル、そして10月にはマリといった周辺国に感染が拡大し、さらに治療に当たっていた医療従事者への二次感染(スペイン、英国、米国)といった問題を引き起こしました。

このような状況の中で、流行の拡大がアフリカ全体に経済的にも大きな被害を及ぼすことが懸念されるようになりました。これは、エボラ出血熱の水際対策として、世界各国において入国管理が過剰に強化されるようになり、流行国のみならずアフリカ地域全体への人の移動が減少したことが大きな要因です。そのためエボラ出血熱とその経済的被害を防ぐためには、信頼のおける検疫体制を整え、安全・安心な人の移動を確保することが重要でした。

NECのグループ会社である日本アビオニクス株式会社が製造した赤外線サーモグラフィカメラは、日本の成田空港でも使用されています。同時に複数の人の体表温を非接触で測定できるため、このカメラを使うことで検疫時の感染の拡大を防ぐと同時に、人の往来が激しい空港において、安心・安全な出入国管理が期待できます。

日本政府は、エボラ出血熱を中心にした感染症対策として、リベリアなど西アフリカを中心にアフリカ7か国(2015年8月時点)にサーモグラフィカメラを供与しています。供与されたカメラは各国の国際空港等に設置され、出入国時の検疫業務に役立っています。日本の高い技術が人々の安全と安心に貢献することで、人の移動が引き続き確保され、アフリカのさらなる経済発展のための素地が強化されることが期待されます。

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