2015年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)災害時の緊急人道支援

日本は、海外で大規模な災害が発生した場合、被災国政府、または国際機関の要請に応じ、直ちに緊急援助を行える体制を整えています。人的援助としては、国際緊急援助隊の①救助チーム(被災者の捜索・救助活動を行う)、②医療チーム(医療活動を行う)、③専門家チーム(災害の応急対策と復旧活動について専門的な助言・指導などを行う)、④自衛隊部隊(大規模災害など、特に必要があると認められる場合に、医療活動や援助関連の物資や人員の輸送を行う)の4つがあるほか、「平和と健康のための基本方針」に基づき、感染症対策チームを新設し、効果的な支援に向けた取組が始まっています。

また、物的援助としては、緊急援助物資の供与があります。日本は海外4か所の倉庫に、被災者の当面の生活に必要なテント、毛布などを備蓄しており、災害が発生したときには速やかに被災国に物資を供与できる体制にあります。2014年度においては、フィリピン、パラグアイ、モザンビークなど19か国に対して計23件の緊急援助物資の供与を行いました。

さらに、日本は、海外における自然災害や紛争の被災者や避難民を救援することを目的として、被災国の政府や被災地で緊急援助を行う国際機関等に対し、援助活動のための緊急無償資金協力を行っています。その国際機関が実際に緊急援助活動を実施する際のパートナーとして、日本のNGOが活躍することも少なくありません。2014年度においては、災害緊急援助として、インドやパキスタンなどアジアにおける自然災害の被災者への人道支援を主な目的として、国際機関等を通じ、緊急無償資金協力を行いました。

また、日本のNGOがODA資金を活用して、政府の援助がなかなか届かない地域で、そのニーズに対応した様々な被災者支援を実施しています。NGO、経済界、政府による協力・連携の下、緊急人道支援活動を行う組織「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」は自然災害や紛争によって発生した被災者および難民・国内避難民支援のために出動し、JPF加盟のNGO団体が支援活動を実施しています。

2014年度には、アフガニスタン北部水害支援、東南アジア水害被災者支援等を実施しました。また、2015年4月のネパール地震の際には、被災者支援プログラムを立ち上げ、加盟NGO団体は被災が甚大であった山間部を中心に現地のニーズに合った支援活動を行いました。さらに、アジア5か国の緊急人道支援NGOや民間団体等と広い連携関係を持つ日本発の防災協力のネットワークであるアジアパシフィックアライアンスも、日本政府からの拠出金を活用し、捜索活動、医療支援や食料物資配布事業を行いました。

2015年4月にネパール中西部で発生したマグニチュード7.8の大地震に対し、日本は、ネパールとの伝統的な友好関係およびネパール政府からの要請を踏まえ、緊急援助物資の供与(テント、毛布等)および1,400万ドル(約16.8億円)の緊急無償資金協力の実施に加え、国際緊急援助隊(救助チーム、医療チーム、自衛隊部隊)を派遣し、被災者に対する緊急人道支援を実施しました。ネパールでの国際緊急援助隊の活動は約4週間にわたり、首都カトマンズ市内やその近郊、最も被害の大きかったシンドゥパルチョーク郡において活動しました。

ほかにも、2014年12月のインドネシア発シンガポール行きのエア・アジア機墜落事案に対し、海上自衛隊の護衛艦2隻およびヘリコプター3機から成る国際緊急援助隊を派遣し、捜索・救助活動を実施しました。

2015年7月、ミャンマーでは大雨に伴い、甚大な被害が発生しました。日本は、同国の復旧・復興に貢献するため、合計40億円程度の無償資金協力2件の実施を決定しました。さらに学校の再建、浄水車や井戸掘り機材の供与など、ミャンマーの要望を踏まえて、50億円をめどに必要な支援を迅速に進めます。

ミャンマー・ヤンゴン国際空港に到着した日本の緊急援助物資(写真:在ミャンマー日本大使館)

ミャンマー・ヤンゴン国際空港に到着した日本の緊急援助物資(写真:在ミャンマー日本大使館)

物資の引渡し式を行う樋口建史駐ミャンマー日本国大使とス・ス・フライン社会福祉・救済復興副大臣(写真:在ミャンマー日本大使館)

物資の引渡し式を行う樋口建史駐ミャンマー日本国大使とス・ス・フライン社会福祉・救済復興副大臣(写真:在ミャンマー日本大使館)

●タイ

パサック川東部アユタヤ地区洪水対策計画
無償資金協力(2012年8月~2015年4月)

クラマン水門建設予定地の様子(写真:JICA)

クラマン水門建設予定地の様子(写真:JICA)

タイでは、2011年から断続的に続いた記録的な大雨により、全国61県以上が被災する大規模な洪水が発生しました。特に、首都バンコクから70キロメートル北上した場所に位置するアユタヤ県は沖積平野であり、農用地が広がるほか日系企業も進出するアユタヤ工業地帯があることでも重要な地域です。しかし、バンコク近郊の農工業地帯であるこの県は平坦で標高も低く、また、多くの河川が流れているため、最も洪水被害が大きい場所の一つとなってしまいました。このまま放置すると、タイの産業振興に引き続き大きな影響が出ることとなります。

そこで日本は、アユタヤ工業団地を流れるパサック川に接続するハントラ水路、クラマン水路を対象に水門の整備を行うとともに、水門設置箇所上下流の護岸整備を行い、排水ポンプ車を追加配備することにより、工業団地が浸水するリスクを低減させる取組を支援することとなりました。2013年10月に起工式が行われてから、このプロジェクトはおよそ2年間続き、2015年8月には水門2基が完成しました。

周囲の護岸整備とともに完成した水門は、今後大雨によりパサック川の水かさが増えても、ハントラ、クラマンの両水路に雨水が流れ込むのを効果的に抑制するものと期待されます。また、あわせて供与されたポンプ車10台が、洪水時に迅速な排水を実施することとなっています。

ASEAN(アセアン)諸国の中で力強い開発を進めるタイにとって、日本の支援により、日系企業をはじめとする外国企業の安定的な進出が確保されることはたいへん重要なものといえます。

 

国際機関等との連携

日本は、2006年に設立された「世界銀行防災グローバル・ファシリティ」(注74)への協力を行っています。このファシリティ(基金)は、災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な低・中所得国を対象に、災害予防の計画策定のための能力向上および災害復興の支援を目的としています。

防災の重要性への認識の高まりを背景に、2006年の国連総会においては、各国と世界銀行など防災にかかわる国連機関が一堂に会しました。この総会で、防災への取組を議論する場として、「防災グローバル・プラットフォーム」の設置が決定され、2007年6月に第1回会合が開催されました。日本は、この組織の事務局である国連国際防災戦略(UNISDR)(注75)事務局の活動を積極的に支援しています。2007年10月には、UNISDRの兵庫事務所が設置されました。

日本は防災に関する自身の豊富な知見・経験を活かし、積極的に国際防災協力を推進している立場から、国連防災世界会議を第1回(1994年横浜市)、第2回(2005年神戸市)に続き、第3回の会議もホスト国となり、2015年3月に仙台市で開催しました。第3回会議では、仙台防災枠組2015-2030および仙台宣言が採択され、防災の新しい国際的指針の中に、防災投資の重要性、多様なステークホルダーの関与、「より良い復興(Build Back Better)」など日本から提案した考え方が取り入れられました(詳細は、「開発協力トピックス」を参照)。

また、ASEAN(アセアン)防災人道支援調整センター(AHA(アハ)センター)(注76)に対して、情報通信システムの支援や人材の派遣等を行うとともに、緊急備蓄物資の提供と物資の管理・輸送体制の構築支援を行っています。


  1. 注74 : 世界銀行防災グローバル・ファシリティ Global Facility for Disaster Reduction and Recovery
  2. 注75 : 国連国際防災戦略 UNISDR:United Nations International Strategy for Disaster Reduction
  3. 注76 : ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター) AHA Centre:ASEAN Coordinating Centre for Humanitarian Assistance on Disaster Management
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