外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

3 グローバルな安全保障

(1)地域安全保障

国際社会では、インド太平洋地域を中心に、歴史的なパワーバランスの変化が生じている。この地域に安全保障上の課題が多く存在する中で、日本自身の防衛力を抜本的に強化するとともに、同盟国・同志国などと連携していく必要があり、特に、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化することはこれまで以上に重要である。このような観点から、日本は、各国との二国間及び多国間の安全保障協力の強化に積極的に取り組むなど、日本にとって望ましい安全保障環境を能動的に創出するための外交を展開している。

オーストラリアとは、首脳及び外相レベルで、両国の「特別な戦略的パートナーシップ」を更なる高みに引き上げ、また、同志国連携の中核として「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、先導的役割を果たしていくことで一致している。9月に実施した第12回日豪外務・防衛閣僚協議(「2+2」)では、2022年に発出した「安全保障協力に関する日豪共同宣言」(9)に沿って、共同の抑止力の強化に向けた協力を更に発展させていくとともに、戦略的評価を共有しつつ、両国の主権及び地域の安全保障の利益に影響を及ぼし得る潜在的な緊急事態に関する外務・防衛当局間の議論を活性化していくことで一致した。2023年に発効した日豪部隊間協力円滑化協定の下、「タリスマン・セイバー25」や「オリエント・シールド」を始めとした40件以上の活動が行われるなど、運用協力・共同訓練が拡大しているほか、オーストラリア海軍の次期汎用フリゲートに、日本の「もがみ」型護衛艦の能力向上型が選定されるなど、防衛装備・技術協力も深化している。また、国連安保理決議により禁止されている北朝鮮籍船舶との「瀬取り」(10)を含む違法な海上活動に対して、駆逐艦「シドニー」が5月中旬から下旬に、また、航空機が3月下旬から4月中旬及び10月上旬から中旬に警戒監視活動を実施した。

ニュージーランドとは、安全保障を始めとした多くの分野で「戦略的協力パートナーシップ」を強化していくことで一致している。12月には東京で物品役務相互提供協定(ACSA)及び情報保護協定に署名するなど、安全保障協力を深化させる具体的な取組が進展している。また、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、補給艦「アオテアロア」が11月上旬から中旬に、また、航空機が4月下旬から5月下旬及び11月上旬から下旬に警戒監視活動を実施した。

インドとは、首脳及び外相レベルで、両国の「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」の更なる発展のため、安全保障を含む幅広い分野で両国の関係を一層多様化・深化させることで一致している。8月には、石破総理大臣が訪日中のモディ首相と首脳会談を行い、両首脳は2008年に発表した「日印安全保障協力に関する共同宣言」を改定するとともに、インド海軍への「艦艇搭載用複合通信空中線(ユニコーン)」の早期移転実現に向けて後押ししていくことで一致した。また、重要物資のサプライチェーン強靱(じん)化を始めとする両国の連携を強化するために、日印で「経済安全保障イニシアティブ」を立ち上げた。両首脳は、インド太平洋地域ひいては国際社会の平和と安定の実現という共通の目標に向け、日印でより大きな責任を果たしていくことを確認した。

韓国とは、厳しさを増す現下の戦略環境において、日韓両国が連携して対応するため、安全保障分野についての戦略的な意思疎通を続けていくことを確認している。また、現下の戦略環境において日韓関係が重要であるとの認識の下、様々な国際会議などの機会も活用しつつ、首脳、外相、防衛相、国家安全保障局長などの間で会合を行い、北朝鮮への対応を含め、引き続き、日韓、日米韓で緊密に連携することを確認している。さらに、2024年6月及び11月に続き、2025年9月に3回目を実施した複数領域における日米韓共同訓練「フリーダム・エッジ」や、その他の3か国による共同訓練(2025年1月、3月、4月、6月及び7月)を含め、地域の安全保障上の課題に対応するための更なる3か国協力を推進している。また、2023年12月、2024年3月及び9月並びに2025年8月には、北朝鮮サイバー脅威に関する日米韓外交当局間作業部会を実施し、サイバー分野における対応を含め、引き続き緊密に連携することを再確認した。

「強化されたグローバルな戦略的パートナー」である英国とは、2023年10月に発効した日英部隊間協力円滑化協定が適用される形で防衛協力が進んでおり、8月には、英国空母「プリンス・オブ・ウェールズ」を旗艦とする英国空母打撃群(CSG25)が日本に寄港した。その際には、英国軍からの要請に基づき、海上自衛隊護衛艦が英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」などに対し、英国軍に対しては初となる防護を実施した。また、9月には航空自衛隊F-15戦闘機などが初めて英国に寄航し、両国のアセット派遣を通じた協力が更に進展した。また、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、哨(しょう)戒艦「スペイ」が6月上旬に、また、CSG25の一艦であったフリゲート「リッチモンド」が9月上旬から中旬に警戒監視活動を実施した。6月には、日本、英国及びイタリアが共同開発を進めるグローバル戦闘航空プログラム(GCAP)の機体設計及び開発を担う合弁会社「エッジウィング」が英国に設立された。

「特別なパートナー」であるフランスとの間でも、日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)や日仏サイバー協議における議論、フリゲート艦の寄港、共同訓練などの実績が積み重なっている。5月にパリで開催された日仏外相会談において、両外相は、インド太平洋地域における安全保障分野での日仏協力を高く評価するとともに、引き続き緊密に協力していくことで一致した。11月に実施された日仏外相会談においても、価値や原則を共有する「特別なパートナー」としての連携を確認した。また、同月に実施された日仏首脳による意見交換においては、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分との認識の下、両首脳は、価値や原則を共有する「特別なパートナー」である日仏両国が、引き続き安全保障、経済、経済安全保障、宇宙などあらゆる分野で引き続き緊密に協力していくことで一致した。加えて、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、フランス軍の艦艇が2月中旬及び10月下旬に、また、航空機が10月中旬から11月中旬に警戒監視活動を実施した。

ドイツとは、2024年7月に日独物品役務相互提供協定(ACSA)が発効し、同年は両国の間でアセット派遣や共同訓練が行われた。2025年9月には航空自衛隊F-15戦闘機などが初めてドイツに寄航するなど、アセット派遣を通じた協力が更に進展した。日独両国はこうした協力の進展を歓迎しており、6月のG7カナナスキス・サミットの機会における日独首脳会談及び同月の石破総理大臣とシュタインマイヤー大統領との会談、8月の第1回日独外相戦略対話、11月のG20ヨハネスブルグ・サミットの機会における日独首脳会談などを通じ、日独両国が安全保障分野において一層協力を強化することで一致した。

イタリアとの間では、2024年6月のG7プーリア・サミットの機会に首脳間で発表された「日伊アクションプラン」に基づき、防衛分野の協力が進展した。また、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、3月から4月にかけて日本に寄港したフリゲート艦「アントニオ・マルチェリア」が4月下旬に警戒監視活動を実施した。9月には、2024年11月に岩屋外務大臣とクロセット国防相との間で署名が行われた日伊物品役務相互提供協定(ACSA)が発効した。

インド洋と太平洋の結節点という地政学的要衝に位置し、世界の「成長センター」となっている東南アジアの安定と繁栄は、インド太平洋地域及び国際社会全体の平和と繁栄にとっても極めて重要である。フィリピンとの間では、9月に日・フィリピン部隊間協力円滑化協定(RAA)が発効し、翌10月、フィリピンで実施した日比人道支援・災害救援共同訓練及びセブ州沖地震を受けての自衛隊機による支援物資の輸送に早速適用された。また、2026年1月には物品役務相互提供協定(ACSA)が署名された。東南アジア諸国に対しては、海洋における法の支配の確保の観点からも継続して実施している海上保安機関への海上保安能力向上のための支援に加え、政府安全保障能力強化支援(OSA)を通じた協力も強化している。これまでマレーシアへの無人航空機(UAV)及び救難艇の引渡しを実現したほか、インドネシアへの高速警備艇、フィリピンへの複合艇の供与などを決定した。2025年度は更に対象国の拡大を進めている。

インド太平洋地域における重要な「戦略的パートナー」であるカナダは、6月、GDPの2%の国防費支出目標を2032年から2025年度中に前倒して達成すると発表した。あわせて、93億加ドルの国防費への追加支出を発表し、2025-26年度の国防関連予算を627億加ドルに増額した。その後、同月にハーグで開催されたNATO首脳会議に出席したカーニー首相は、国防費支出目標を2035年度までにGDP比で5%の支出を行う計画を発表した。また、日加間では、2022年に両国間で発表した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)に資する日加アクションプラン」に基づき、安全保障分野における協力が着実に進展している。例えば、日加で交渉を進めてきた情報保護協定は、2025年3月の日加外相会談で実質合意が発表され、7月に訪日したアナンド外相と岩屋外務大臣との間で署名され、2026年1月に発効した。また、日加防衛装備品・技術移転協定については、6月の日加首脳会談で実質合意が発表され、2026年1月に署名されるなど、日加間の安全保障上の協力を深化させる取組が進展している。また、2025年9月には航空自衛隊F-15戦闘機などが初めてカナダを訪問したほか、「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、カナダ軍は、艦艇及び航空機を派遣し、警戒監視活動を行うなど、日加防衛当局間の相互連携も進展した。

北大西洋条約機構(NATO)とは、4月にルッテNATO事務総長が就任後初めて訪日し石破総理大臣と会談した際に共同声明を発出し、日本とNATOのパートナーシップが欧州・大西洋及びインド太平洋地域の双方にとって戦略的に重要であることを確認した。同月に開催されたNATO外相会合には岩屋外務大臣が出席し、日本の外務大臣による出席は4年連続となった。6月のNATO首脳会合においては、岩屋外務大臣がルッテ事務総長と会談し、日・NATO間の防衛装備・産業対話の立上げを含め、様々な分野で日・NATO協力を更なる高みに押し上げるため連携していくことで一致した。さらに、同首脳会合の際に開催されたルッテ事務総長とインド太平洋パートナー(IP4:日本、オーストラリア、ニュージーランド及び韓国)の会合では、NATOのインド太平洋への関与拡大及びNATOとIP4との具体的協力の重要性を確認した。12月の高市総理大臣とルッテ事務総長との電話会談では、具体的協力を通じて協力関係を新たな高みに押し上げていくため、共に働いていくことで一致した。

欧州連合(EU)とは、2024年11月に第1回日・EU外相戦略対話を実施し、日・EU安全保障・防衛パートナーシップを公表した。これにより日本はEUにとってインド太平洋地域において最初に同パートナーシップを公表した相手国となった。2025年4月、第2回日・EU外相戦略対話を実施し、岩屋外務大臣とカッラスEU外務・安全保障政策上級代表は、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識を改めて共有するとともに、防衛産業分野、海洋安全保障、サイバー、宇宙、ハイブリッド戦への対応等における具体的な協力及び対話を強化していくことで一致した。

中国との間には、日本固有の領土である尖(せん)閣諸島周辺海域での中国海警局に所属する船舶による領海侵入、十分な透明性を欠いた軍事力の広範かつ急速な増強や日本周辺海空域における中国軍の活動の拡大・活発化など、様々な懸案が存在している。引き続き首脳会談や外相会談などのハイレベルの機会も活用して、中国側に対して主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていく。中国の軍事動向は日本にとって深刻な懸念事項であり、日中安保対話などの安全保障分野の対話や交流のチャネルの重層的な構築に努め、政策面での意思疎通を図り、また、日本の懸念を伝達し、国防政策や軍事力に係る透明性の向上や日本を含む地域と安全保障環境に資する具体的な行動の改善を働きかけている。2018年に運用開始された日中防衛当局間の海空連絡メカニズムは、相互理解及び相互信頼の増進や不測の衝突の回避を目的としており、2023年5月には、同メカニズム下でのホットラインの運用が開始された。

中東地域の平和と安定は、日本を含む国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要である。また、世界における主要なエネルギーの供給源であり、日本の原油輸入の約9割を依存する同地域において、日本関係船舶の航行の安全を確保することは非常に重要である。2019年12月には、中東地域における平和と安定及び日本関係船舶の安全確保のため、日本独自の取組として、(ア)中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けた更なる外交努力、(イ)関係業界との綿密な情報共有を始めとする航行安全対策の徹底及び(ウ)情報収集態勢強化のための自衛隊の艦艇及び航空機の活用について閣議決定し、2020年1月から中東の海域における情報収集活動を継続して実施している。また、ヨルダンとの間で、2025年11月にサイバーセキュリティ分野に関する協力覚書に署名した。さらに、2023年5月には、アラブ首長国連邦との間で、中東地域の国との間では初となる防衛装備品・技術移転協定に署名し、2025年1月に同協定が発効した。

これらに加え、日本は地域における多国間の枠組み、中でも東南アジア諸国連合(ASEAN)が中心的な役割を担う地域協力枠組みである東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)などへの積極的な参加・貢献を通じて、地域の安全保障面での協力強化に取り組んでいる。この中でもARFは、対話と協力を通じた信頼醸成や予防外交の促進などによりアジア太平洋地域の安全保障環境の向上を目的とする枠組みであり、北朝鮮やEUといった多様な主体が参加している。7月には、32回目となるARF閣僚会合が開催され、東シナ海・南シナ海、台湾、北朝鮮、ミャンマーなどの地域・国際情勢を中心に意見交換を行った。また、日本は、これまで海上安全保障、不拡散・軍縮、テロ・国境を越える犯罪対策、災害救援及びサイバーセキュリティの全ての会期間会合(ISM)において共同議長国を務めるなど、積極的に貢献している。

さらに、日本は、安全保障政策の発信や意見交換の場として、政府間協議(トラック1)のみならず政府関係者と民間有識者双方が出席する枠組み(トラック1.5)も活用するなど、日本の安全保障政策に対する各国の理解促進を図り、地域における協力促進や信頼醸成に取り組んでいる。

(2)サイバー

今日、国境を越えるサイバー空間は、世界各国のあらゆる活動に不可欠な社会基盤となり、全国民が参画する「公共空間」としてその重要性及び公共性がますます高まっている。一方、昨今の地政学的緊張を反映した国家等の間の競争が展開される中で、サイバー攻撃による重要インフラの機能停止や破壊、他国の選挙への干渉、身代金の要求、機微情報の窃取などは、国家を背景とした形でも平素から行われている。

外務省は、このような認識の下、自由、公正かつ安全なサイバー空間を実現するために、法の支配の推進、攻撃を抑止するための取組及び同志国への能力構築支援の実施並びにこれらに関する情報交換・政策調整のための関係国・機関とのサイバー協議などの活用といった様々な外交活動を行っている。

法の支配の推進のための取組として、国連での約四半世紀にわたる議論を通じ、国連において既存の国際法がサイバー空間に適用されることが確認され、2015年に11項目の責任ある国家の行動規範(11)が採択された。この行動規範そのものは国際法上の法的拘束力を有するものではないが、国連加盟国がコンセンサスで採択したものであり、サイバー空間におけるルールの基盤となっているため、各国がこれら規範を具体的に実践し、国家実行を積み重ねていくことが重要である。このような認識の下、日本は、2021年から2025年までを会期として国連全加盟国が参加して行われたオープン・エンド作業部会(OEWG)において、関連の議論に積極的に参加し、2025年7月に開催された最終会合では、サイバー空間において国連憲章を含む国際法が適用されることを改めて確認するとともに、OEWG終了後の将来のメカニズムの在り方を含む最終報告書がコンセンサスで採択され、12月には同報告書を支持する国連総会決議がコンセンサスで採択された。また、既存の国際法がどのようにサイバー空間に適用されるかについて、各国が基本的な立場を明らかにすることも重要である。日本は2021年に立場を公表している(12)ほか、基本的な立場を明らかにする重要性を様々な場で訴えている。

攻撃を抑止するための取組として、日本はサイバー攻撃主体に対する非難や懸念を公に表明する「パブリック・アトリビューション」を実施してきている。2025年1月には北朝鮮による暗号資産窃取及び官民連携に関する日米韓共同声明を発出し、8月には一般に「ソルトタイフーン(Salt Typhoon)」と呼ばれるサイバー攻撃グループの攻撃手法を技術的に説明した米国作成の国際アドバイザリ(注意喚起)の共同署名(日米を含む13か国の当局が署名)に加わり、これを公表するなど、同盟国・同志国と連携して取り組んでいる。

サイバー空間のボーダーレスな性質に鑑みれば、他国及び地域の能力を向上させることが日本を含む世界全体の安全を守ることにつながるとの考えから、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」実現のための要であるASEANを中心に、国際機関を通じた取組を含め、外務省を含む関係省庁が能力構築支援を実施している。具体的には、日・ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター(AJCCBC)における研修の実施、関係省庁による研修・機材供与、独立行政法人国際協力機構(JICA)による課題別研修・国別研修の実施や世界銀行の「サイバーセキュリティ・マルチドナー信託基金」への拠出、経済産業省及び独立行政法人情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンター(ICSCoE)が米国や欧州政府と共催で実施する「インド太平洋地域向け日米EU産業制御システムサイバーセキュリティウィーク」などが挙げられる。

サイバー空間におけるこれらの取組を進める上で、関係国・機関とのサイバー協議などの活用は非常に重要である。日本は多くの国・地域等とサイバー協議などを通じて国際連携を推進しており、2025年は、日米、日豪(オーストラリア)、日米韓、日ブラジルといった枠組みでの政府間協議などを実施した。また、日米豪印では、2022年5月の首脳会合で発表した「日米豪印サイバーセキュリティ・パートナーシップ」の下、重要インフラのサイバーセキュリティやインド太平洋地域における能力構築支援の協力などに取り組んでいる。このほか、急速に脅威が増大しているランサムウェア(13)に対処するための多国間枠組みである、「カウンターランサムウェア・イニシアティブ」や英国及びフランスが主催する商業的サイバー侵入能力の拡散と無責任な使用に対抗する枠組みである「Pall Mall Process」における議論にも積極的に参加している。

こうした外交活動を通じ、今後も自由、公正かつ安全なサイバー空間の実現に貢献していく。

(3)国際的な海洋秩序の維持・発展

日本は、四方を海に囲まれ、長い海岸線と広大な排他的経済水域(EEZ)とに恵まれた国であり、海上貿易と海洋資源の開発を通じて経済発展を遂げてきた海洋国家である。力ではなく、航行及び上空飛行の自由を始めとする法の支配に基づく海洋秩序に支えられた「自由で開かれた海洋」は、日本だけではなく国際社会全体の平和と繁栄に不可欠である。こうした考えの下、2023年4月に策定された第4期海洋基本計画や2024年4月に策定された海洋開発等重点戦略を踏まえ、領海などにおける国益の確保に加え、国際的な海洋秩序の維持・発展に向けた取組を政府一体となり推進してきており、同盟国・同志国などと協力しながら、FOIPの実現に向け、特に、重要なシーレーンが位置するインド太平洋地域の海洋秩序のための取組を進めている。

ア 基本的な考え方

海洋をめぐっては、特に、アジアにおいて、国家間の摩擦によって緊張が高まる事例が増えている。2023年3月には、インド世界問題評議会(ICWA)において、岸田総理大臣がFOIPのための新たなプランを紹介する中で、安倍総理大臣が2014年に表明した「海における法の支配の三原則」の重要性を改めて強調した。これらを踏まえ、日本は各国と連携しつつ、国際的な海洋秩序の維持・発展に向けて取り組んでいる(22ページ 第2章第1節参照)。特に、同盟国・同志国とはあらゆるレベルで海洋秩序の重要性を確認してきており、2025年3月にシャルルボワ(カナダ)で開催されたG7外相会合では、「海洋安全保障及び繁栄に関するG7外相宣言」が発出された。

イ 国連海洋法条約

海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:UNCLOS)は、「海の憲法」とも呼ばれ、法の支配に基づく海洋秩序の根幹を成す条約である。同条約を根幹とした海洋秩序は、日本の海洋権益を確保し、国際社会全体における海洋に係る活動の円滑な実施の礎となるものである。このため、日本は、同条約の更なる普遍化と適切な実施の確保のために、締約国会合を含む関連国際機関での議論や海洋法秩序の安定に向けた発信に積極的に貢献している(232ページ 6.(2)参照)。

ウ 日本の主権・海洋権益に対する挑戦への対応(東シナ海情勢:40ページ 第2章第2節2(1)イ(エ)参照)

東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国海警船の接続水域内における年間確認日数が2025年には357日となり過去最多を更新し、3月には領海侵入時間が過去最長の92時間8分となった。また、領海に侵入した中国海警船が日本漁船に近づこうとする事案も繰り返し発生しているほか、5月には中国海警船搭載のヘリコプターが日本領空を侵犯する事案が発生するなど、依然として情勢は厳しい。また、中国軍も東シナ海周辺海空域での活動を質・量ともに急速に拡大・活発化させている。EEZ及び大陸棚の境界画定がいまだ行われていない海域では、中国による一方的な資源開発が継続している。加えて東シナ海を始めとする日本周辺のEEZにおいて中国による日本の同意を得ない海洋調査活動も頻繁に確認されている。

魚釣島(沖縄県石垣市)
魚釣島(沖縄県石垣市)
写真提供:内閣官房領土・主権対策企画調整室

このように東シナ海における中国の一方的な現状変更の試みが継続・強化していることを踏まえ、日本としては周辺海空域における動向を高い関心を持って注視するとともに、引き続き、日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅然と対応していく。同時に、東シナ海の平和と安定のため、米国を始めとする関係国との連携を進めていく。

10月の日・ASEAN首脳会議において高市総理大臣は、東シナ海では日本の主権を侵害する活動や挑発的な軍事活動が継続・強化されていることを述べた。

エ 南シナ海の海洋秩序に対する挑戦への対応(82ページ 第2章第2節7(2)参照)

南シナ海では、法的根拠のない拡張的な海洋権益に関する主張に基づき、中国が係争地形の一層の軍事化や軍、海上保安機関、海上民兵などを用いた沿岸国等に対する威圧的かつ脅迫的な活動など、法の支配や開放性に逆行する力又は威圧による一方的な現状変更の試みや地域の緊張を高める行動を継続・強化している。特に2023年以降、中国船舶と沿岸国の船舶との衝突や中国船舶による放水銃の使用が度々発生している。2025年には、スカボロー礁周辺、サビナ礁周辺及びティトゥ島周辺における事案において、漁船を含むフィリピン船舶が損傷するとともに、複数の乗組員が負傷した。さらに、中国は9月にスカボロー礁に「自然保護区」を一方的に設定して、同礁周辺での「あらゆる違法行為」に対する監督・法執行能力の強化などを宣言し、南シナ海における自らの行動の正当化を試みている。

中国による係争地形の埋立てと軍事化
中国による係争地形の埋立てと軍事化
出展:CSIS/AMTI(http://amti.csis.org/island-tracker/)
CSIS/AMTI QRコード

南シナ海をめぐる問題は、紛争当事国だけでなく、地域の平和と安定に直結する国際社会全体の正当な関心事項である。特に、資源やエネルギーの多くを海上輸送に依存する日本にとって、海における法の支配の貫徹と、重要なシーレーンである南シナ海の平和と安定は重要である。こうした考えから、日本は、南シナ海における力又は威圧による一方的な現状変更の試みや緊張を高めるあらゆる行為に強く反対し、南シナ海をめぐる問題の全ての当事者が、UNCLOSを始めとする国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を一貫して強調してきている。また、2016年の南シナ海に関する比中仲裁判断は最終的かつ紛争当事国を法的に拘束するものであること、南シナ海に係る中国の主張はUNCLOSの関連規定に基づいていないこと、南シナ海における航行及び上空飛行の自由の遵守の重要性なども繰り返し指摘してきている。

南シナ海に関する比中仲裁判断から9年を迎えた7月にも、外務大臣談話を発出し、UNCLOSの締約国である紛争当事国が比中仲裁判断を遵守し、南シナ海における紛争の平和的解決につながることを強く期待すると改めて表明した。また、9月の国連総会ハイレベルウィークの機会に、フィリピンの呼びかけに応じ、日本などの共催により、多数の有志国の外相の参加の下、「海洋の安全と安定の確保に向けた協力強化に関する外相会合」を開催した。同会合において、岩屋外務大臣は、海洋秩序の維持のためには、国際法、とりわけ海洋における全ての活動を普遍的・統一的に規定するUNCLOSの遵守が極めて重要であること、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守るため、海洋の安全と安定の確保に向けて、引き続き国際社会と連携していくことを表明した。10月の日・ASEAN首脳会議に出席した高市総理大臣は、南シナ海で軍事化や威圧的な活動が継続・強化されていることへの深刻な懸念を表明し、UNCLOSに基づかない不当な海洋権益の主張や海洋活動は認められないことを強調した。10月の東アジア首脳会議(EAS)では、茂木外務大臣から、地域の緊張を高める危険で威圧的な活動が強化されていることを深刻に懸念していること、日本は、航行及び上空飛行の自由を含む、海における法の支配の貫徹を支持する観点から、当事国による比中仲裁判断の遵守と、紛争の平和的解決を望んでいることを表明した。

日本は、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化に向け、引き続き、ASEAN諸国や米国を始めとする国際社会と連携していく(南シナ海が抱える課題に関する国際社会の対応については82ページ第2節7(2)参照)。

オ 海賊・海上武装強盗対策

日本は、アジアやアフリカでの海賊・海上武装強盗対策などの取組や各国との緊密な連携・協力を通じて、航行及び上空飛行の自由や海上交通の安全確保に積極的に貢献している。

(ア)アジアにおける海賊等事案対策

2006年、日本の主導によりアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)が発効し、シンガポールに設置された情報共有センター(ReCAAP-ISC)を通じ、マラッカ・シンガポール海峡などにおける海賊等の事案に関する情報共有及び能力構築支援協力が行われている。日本はこれまで事務局長(2022年3月任期満了)及び事務局長補の派遣、並びに財政的貢献によりReCAAP-ISCの活動を支援してきている。国際商業会議所(ICC)国際海事局(IMB)によれば、東南アジア海域における海賊等事案の発生件数は、2023年は67件、2024年は70件、2025年は80件となっているが、ReCAAP-ISCの活動や締約国の貢献を背景に、近年は誘拐や暴行などを含む深刻な事案の発生は抑制されている。

(イ)ソマリア沖・アデン湾における海賊等事案対策

アジアと欧州をつなぐ重要なシーレーンであるソマリア沖・アデン湾での海賊等事案の発生件数は、国際社会の継続的な取組により、IMBによれば、2011年(237件)のピーク時と比べ低い水準で推移しているものの、2024年に8件、2025年に5件の海賊事案が発生しており、依然予断を許さない状況にある。今後、再び海賊事案が増加傾向に転じないように、国際社会との協力が求められている。

日本は、2009年から海賊対処活動の一環としてソマリア沖・アデン湾に海上自衛隊の護衛艦(海上保安官が同乗)及びP-3C哨戒機を派遣し、当該海域の安定化に貢献している。また、ソマリアやジブチなど周辺国の海上保安能力の強化や、ソマリア社会の安定に向けた支援といった多層的な取組を行っている。

(ウ)ギニア湾における海賊等事案対策

IMBによれば、ギニア湾における海賊等事案の発生件数は、2023年22件、2024年は18件、2025年は21件であり、一つの事案で複数人が被害に遭うなど、引き続き世界で最も深刻な事案が多い海域となっている。沿岸国の海上法執行能力の強化が引き続き課題であり、日本は、国連開発計画(UNDP)、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)やJICAによる研修を通じた沿岸国の能力構築支援を行っているほか、「G7++ギニア湾フレンズ・グループ」の会合への参加を始め、国際社会と共に取り組んでいる。

カ 能力構築支援における国際協力

グローバル化の進展、技術革新によるグローバルな安全保障環境への影響、中国の軍事力増強などによる軍事バランスの急速な変化や、国境を越える脅威の増大は、特に海洋分野において、一国のみで自国の平和と安全を守ることを不可能としている。そのため、日本は自国の防衛力や海上法執行能力の強化を進めつつ、国際的な海洋秩序の維持・発展のため、同盟国・同志国などと連携・協力しながら、各国の海洋安全保障や海上法執行能力構築のための支援や、海洋状況把握(MDA)における国際協力を行っている。

こうした協力において、日本は以前から政府開発援助(ODA)を活用してきており、2022年のアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において岸田総理大臣は、衛星、AI、無人航空機などの先端技術の知見の共有も含め、2025年までの3年間で、20か国以上に対し、海上法執行能力強化に貢献する技術協力及び研修などを通じ、800人以上の海上安保分野の人材育成・人材ネットワーク強化の取組を推進すること、インド太平洋諸国に対し、少なくとも約20億ドルの巡視船を含む海上安保設備の供与や海上輸送インフラの支援を行うこと、日米豪印や国際機関なども活用しながら各国への支援を強化していくことを表明した。2025年からは、犯罪捜査、船艇の運用・維持管理能力の向上を目的とした技術協力プロジェクト「フィリピン沿岸警備隊海上保安能力向上プロジェクト」を開始した。また、UNODCのグローバル海上犯罪プログラム(GMCP:Global Maritime Crime Programme)の下で実施される海上法執行能力等強化プロジェクトを通じ、インド太平洋及び西アフリカ各国に対して海上犯罪対策に係る訓練コースの開発や、同訓練・ワークショップの実施を支援している。

また、インド太平洋沿岸国の海上保安機関に対する能力向上支援のため、専門的な知識や高度な技術を有する海上保安官や能力向上支援専従部門である海上保安庁MCT(Mobile Cooperation Team)を各国の海上保安機関に派遣しているほか(GMCPの枠組み含む。)、「海上保安政策プログラム」を始めとする日本での研修により、各国海上保安機関職員への人材育成を実施している。さらに、インド太平洋地域の各国の軍などに対し、艦船整備や潜水医学等に関する能力構築支援、ASEAN加盟国等の若手士官などに海上自衛隊艦艇への乗艦研修等を行った。

2023年に創設された政府安全保障能力強化支援(OSA)は、海洋安全保障を優先分野の一つとし、インド太平洋諸国を中心に、軍などに対して資機材の供与やインフラの整備を行い、同志国の安全保障上の能力・抑止力の強化を図っている。2025年度はマレーシアに潜水作業支援船、スリランカ及びトンガに無人航空機(UAV)を供与することなどを決定した。

キ 海上保安機関間の連携

国際機関や多国間の枠組みを通じた海上保安機関間の連携強化も行っており、海上保安庁では、5月、日米韓連携の取組として、捜索救助に関する日米韓海上保安機関による合同セミナー及び机上訓練に職員を派遣し、日米韓海上保安機関間の連携強化を図るとともに、日米韓共同でASEANの海上保安機関職員に対する能力向上支援を行った。また同年6月、日米比(フィリピン)連携の取組として、鹿児島県において、日本で初めてとなる日米比合同捜索救助訓練を実施した。さらに同月、日米豪印の取組として、4か国の海上保安機関が知見の共有や信頼醸成を図ることを目的として、初めての「シップオブザーバー・ミッション」を実施し、海上保安官が豪印海上保安機関職員と共に、米国沿岸警備隊の巡視船に乗船した。MDAの取組として、日米豪印で行う「海洋状況把握のためのインド太平洋パートナーシップ(IPMDA)」との連携のほか、各国と覚書に基づきMDA情報の共有を図るなど、同盟国・同志国との協調も進めている。

(4)宇宙

日本は2023年6月、3年ぶりに宇宙基本計画を改定するとともに、宇宙安全保障構想を策定した。宇宙安全保障構想には、宇宙安全保障分野の課題と政策を具体化し、宇宙安全保障に必要なおおむね10年の期間を念頭に置いた取組が盛り込まれ、同盟国・同志国などと共に宇宙空間の安定的利用と宇宙空間への自由なアクセスを維持することが記載されている。

近年、宇宙利用の多様化や宇宙活動国の増加に伴って宇宙空間の混雑化が進んでおり、また、スペースデブリが増加するなど、宇宙空間の持続的かつ安定的な利用に対するリスクが増大している。こうした状況に対応するため、日本はデブリ対策や、宇宙状況把握(SSA)、宇宙システムの機能保証の強化などに取り組んでおり、また、国際的なルール形成や国際宇宙協力を実施している。

ア 宇宙空間における法の支配の実現

宇宙空間が核兵器のない領域であり続けるべきとの考えの下、2024年、日本は、米国、アルゼンチンと共同で、宇宙条約を含む国際法上の義務の遵守の重要性などを強調し、宇宙空間に設置することなどを目的とした核兵器その他の大量破壊兵器の開発を行わないよう各国に求める国連総会決議案を提出した。同決議は、167か国の圧倒的多数の賛成を得て採択された。

民生宇宙活動に関する国際的なルール形成に関しては、国連総会の下に設置された常設委員会である宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)が重要な役割を果たしている。6月から7月にかけて開催されたCOPUOS本委員会では、城内実内閣府特命担当大臣(科学技術政策、宇宙政策等担当)から、スペースデブリに係る日本のイニシアチブを含め、宇宙分野における日本の官民の取組を国際社会に積極的に発信した。

またCOPUOSには、包括的な議論を行う本委員会以外に、宇宙活動に係る諸問題について科学技術的側面から検討を行う科学技術小委員会と宇宙活動により生ずる法律問題を議論する法律小委員会が設けられている。

2月に開催された科学技術小委員会においては、スペースデブリやリモートセンシングなどの個別のテーマに加え、宇宙活動の長期持続可能性についても活発な議論が行われた。

5月に開催された法律小委員会においては、近年関心が高まっている宇宙交通管理(STM)や宇宙資源に関する議論が行われた。特に、2021年以降法律小委員会の下に設置されている宇宙資源ワーキンググループにおいて、宇宙資源活動に係る推奨原則案に関する集中的な議論が行われた。

宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)については、2024年に国連総会の決定に基づき「宇宙空間における軍備競争の防止のあらゆる側面に関するオープン・エンド作業部会」が立ち上げられ、2025年4月及び7月にジュネーブ(スイス)で日本を含め、参加国の間で活発な議論が行われた。なお、この作業部会は2028年まで議論を継続する予定である。

このほか日本は、宇宙空間における法の支配に貢献するため、2021年に国連宇宙部の「宇宙新興国のための宇宙法プロジェクト」への協力を発表して以降、アジア太平洋地域の宇宙新興国に対して国内宇宙関連法令の整備及び運用の支援を行っている。宇宙活動の許認可や継続的監督等などに焦点を当てた法的能力構築支援を継続的に実施し、1月にはタイ向けに、11月にはベトナム向けに、宇宙活動の監督及び許可に関する法制度や宇宙活動の安全性について、国内外の有識者を招いたワークショップを開催した。

イ 各国との宇宙対話・協議

日本は、主要な宇宙活動国やアジア太平洋地域諸国を中心に、宇宙分野における対話・協議などを推進している。米国とは、民生、安全保障、商業分野における強力なパートナーシップを継続してきており、2月の日米首脳共同声明、10月の「日米間の技術繁栄ディールについての協力に関する覚書」(小野田紀美内閣府特命担当大臣(科学技術政策、宇宙政策等担当)とクラツィオス米国大統領府科学技術政策局(OSTP)局長との間で署名)においても、宇宙協力について盛り込まれた。また4月に4年ぶりとなる「第3回日印宇宙対話」、5月に2年ぶりとなる「第6回日EU宇宙政策対話」を、それぞれ東京において開催し、双方の宇宙政策に関する情報交換のほか、安全保障分野での協力や機関間協力など、多岐にわたる意見交換を行った。

多国間の取組としては、11月に文部科学省及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)がフィリピン宇宙庁(PhilSA)との共催により、「第31回アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)」をセブ(フィリピン)で開催し、宇宙エコシステムの実践による地域の活性化について議論が行われた。

ウ 国際宇宙探査・国際宇宙ステーション(ISS)

平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の進歩は、全人類の共同の利益であり、外交的にも重要な意義を持つものである。

日本は、2019年、米国提案による国際宇宙探査計画「アルテミス計画」への参画を決定した。2020年には、日米を含む8か国が、アルテミス計画を念頭に、宇宙活動を促進する安全で透明性の高い環境を作り出すための諸原則に対する政治的コミットメントを示す「アルテミス合意」に署名した。その後、アルテミス合意の署名国は増加し59か国となった(2025年10月末時点)。

また、2023年、日米両政府は、宇宙の探査及び利用を始めとする宇宙協力を一層円滑にするための新たな法的枠組みである「日・米宇宙協力に関する枠組協定」を1月に署名し、同協定は6月に発効した。同協定の下で作成され、2024年4月に署名された実施取決めでは、日本が月面与圧ローバを提供して運用を維持する一方で、米国はアルテミス計画の将来のミッションで日本人宇宙飛行士による2回の月面着陸の機会を割り当てることが記載された。また、2025年4月にはNancy Grace Roman宇宙望遠鏡計画、12月にははやぶさ2拡張ミッションに係る協力につき署名されるなど、様々な分野における日米の宇宙協力案件について、複数の実施取決めが署名・検討されている。

日本は、宇宙分野における能力構築支援などを目的として、ISSの「きぼう」日本実験棟を活用し、アジア太平洋地域に対してはAPRSAFに設置されたKibo-ABCイニシアチブを通した人材育成プログラム(ロボットプログラミング、物理・植物実験など)を提供している。さらに、宇宙新興国に対しては国連宇宙部との協力枠組み「KiboCUBE」プログラム(14)を通した超小型衛星の放出機会を提供しており、2025年にプログラム開始から10周年を迎えた。同プログラムは国連が推進するイニシアチブのうち宇宙に届いた最初のプログラムであり、これまでに8回にわたる公募を行い、そのうち5機関の衛星が「きぼう」を活用して放出された。現在、中米統合機構(SICA)並びに、タンザニア及びコートジボワール(両国共同)が放出に向けた衛星開発を行っている。メキシコの衛星は軌道上にあり、近く放出される。

エ 宇宙技術を活用した地球規模課題への対応

近年、地球規模課題の解決において、宇宙技術に対する期待が高まる中、日本は、国際的に優位性を持つ宇宙技術を活用した国際協力を推進し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成などに向けて貢献している。

例えば、日本は、世界の降水状況を観測する衛星を複数活用した「衛星全球降水マップ(GSMaP)」を無償で提供しており、世界163の国や地域において、降水状況の把握や防災管理、農業などの多岐にわたる分野で利用されている。さらに、日本は、アジア太平洋地域の災害管理のため、災害発生時に衛星観測情報を無償提供する「センチネルアジア」の立ち上げを主導し、同プロジェクトは、これまでに37か国・地域、540回以上の緊急観測要請に対応している。防災関係者を対象にワークショップを開催し、アジア諸国における災害時の衛星データ利活用に係る能力向上にも貢献している。9月30日に発生したマグニチュード6.9のセブ島地震(フィリピン)について、JAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号」による被害域の緊急観測及び衛星データ提供に対し、フィリピン外相から在フィリピン日本国大使宛に感謝状が贈られた。

独立行政法人国際協力機構(JICA)は、JAXAとも連携し、8月に7か国の宇宙関連機関職員9人を日本に受け入れて、SDGsに資する宇宙技術の利活用能力の向上に係る研修を実施した。加えて、2023年度より開始したパラグアイやルワンダに対する宇宙関連技術の活用のキャパシティ向上に係る技術協力事業において、日本の宇宙分野の産学官の支援を得つつ、日本での研修を複数回実施した。また、8月の第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)では、JICAがJAXA及び一般社団法人クロスユーとの共催でテーマ別イベント「アフリカの変革を加速する宇宙技術」を開催した。本イベントは、宇宙技術及び関連技術における課題と可能性を探り、アフリカの開発加速に向けた道筋を探ることを主な目的としており、ケニア、セネガル、ガーナ、エジプトの宇宙機関及びアフリカ宇宙庁の高官、日本の宇宙関連企業の代表者、JICA宇宙国際頭脳循環プログラム運営委員などによる基調講演とパネルディスカッションが行われた。

(5)平和維持・平和構築

国際社会では依然として、民族・宗教・歴史の違いを含む様々な要因、また、貧困や格差などの影響によって地域・国内紛争が発生し、近年、特にその長期化が課題となっている。このため、国連平和維持活動(国連PKO)の派遣などによる紛争後の平和維持に加え、紛争の予防や再発防止、紛争後の平和の持続と国造りの観点から、開発の基礎を築くことを念頭に置いた平和構築の取組が課題となっている。

近年では、紛争だけでなく、気候変動や感染症など新たなリスクが平和と安定に及ぼす影響についても懸念されており、より統合的なアプローチが必要となっている。このように国際社会の課題が複雑化・多様化する中、「新・平和への課題(New Agenda for Peace)」や2024年9月に国連総会で開催された未来サミットの成果文書「未来のための約束(Pact for the Future)」において、平和維持・平和構築といった平和活動の強化が盛り込まれるなど、その取組はますます重要になっている。

ア 現場における取組
(ア)国連平和維持活動(国連PKO)など

2025年12月末時点で、11の国連PKOミッションが中東・アフリカ地域を中心に活動しており、停戦監視、政治プロセスの促進、文民の保護など幅広い任務を行っている。従事する軍・警察・文民要員の総数は約6.8万人である。PKO予算の不足や、新たな技術を用いた脅威の増加など、国連PKOを取り巻く環境は複雑化しており、PKOの将来に関する議論が活発に行われている。

また、国連は、PKOミッションに加え、文民主体の特別政治ミッション(SPM)を設立し、紛争の平和的解決、紛争後の平和構築、紛争予防といった多様な役割を付与している。

日本は、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO法)」に基づき、1992年以来、計29の国連PKOミッションなどに延べ1万2,700人以上の要員を派遣してきた。直近では、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に対し、2011年から司令部要員を、2012年から施設部隊を派遣した。施設部隊は、インフラ整備や避難民への給水活動などを実施し、2017年5月に活動を終了した。UNMISS司令部では2024年5月に追加派遣した副参謀長ポストを含む2人の自衛官は任期を終えて帰国し、2025年12月末時点で4人の自衛官が活動し、同国の平和と安定に向けた協力を行っている。また、日本は、2019年から、エジプトのシナイ半島に駐留する多国籍部隊・監視団(MFO)に司令部要員を派遣し、2025年12月末時点で4人の自衛官が活動し、中東の平和と安定に資する活動を行っている。日本は、今後も、日本の強みをいかした能力構築支援の強化、部隊及び個人派遣などを通じて、国際平和協力分野において積極的に貢献していく。

(イ)平和構築に向けた政府開発援助(ODA)などによる協力

紛争及び人道危機への対応においては、人道支援と開発協力に加え、平時から包摂的な社会を実現するための平和構築及び紛争再発防止が重要である。2022年には世界の難民・避難民数が初めて1億人を超えたが、中長期的な観点に立って強靱な国造りや社会安定化のための支援を行い、自立的発展を後押しすることで、危機の根本原因に対処する必要性が一層高まっている。日本は、「人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)」(15)の考え方を、2023年6月に改定された開発協力大綱で明記した。同年12月に開催された第2回グローバル難民フォーラム(GRF)では、同アプローチにおいて日本が主導的役割を務めることを打ち出し、国際社会と協力して、平和構築支援も含め未曽有の人道危機に取り組む姿勢を示した。

a 中東

日本は、中東の平和と安定のための包括的支援を実施しており、食糧援助や難民支援などのほか、国造りを担う人材の育成を支援している。パレスチナでは、難民人口が増大する一方、難民キャンプのインフラ劣化や失業・貧困などの生活環境の悪化が深刻化している。日本はパレスチナの難民キャンプにおいて、「キャンプ改善計画(CIP)」や教育施設への支援を通じて、難民の生活環境の改善を図り、人間の安全保障(16)に基づく民生の安定と向上に貢献した。

b アフリカ

日本は、8月に横浜において第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)を開催し、「革新的な課題解決策の共創」のテーマの下、重要分野の一つである平和と安定につき、議論を行った。議論の成果をまとめて採択された「TICAD 9横浜宣言」では、人道・開発・平和の連携の枠組みの中での協力促進の必要性、女性・平和・安全保障の促進へのコミット、安保理改革達成に向けた協力の決意を表明するとともに、人間の安全保障促進の重要性、グッドガバナンス・民主主義・法の支配の重要性、核兵器のない世界の実現に向けたコミットメントなどを再確認した。

例えば、日本は、アフリカ連合(AU)委員会に対して50万ドルの拠出を行い、AU加盟国におけるWPSアジェンダの実現を加速することを目的としてブルキナファソ、ニジェール、マリ、タンザニア、マラウイに対して女性の平和構築や政治的交渉への参加促進の支援を行った。

また、日本は、2014年からサヘル地域の諸国を対象に刑事司法研修を行い、捜査機関及び司法機関の能力強化を通じた同地域の安定化を支援してきた。また、アフリカ諸国の法執行機関に対し、頻発するテロや越境犯罪などに対処するための治安対策機材供与、能力構築支援を行うとともに、地雷除去支援なども進めている。TICAD 9に際しては、国連地雷対策サービス部(UNMAS)やカンボジア地雷対策センター(CMAC)など様々な地雷対策機関と連携し、アフリカにおける地雷対策に係る取組を一層促進する観点から、「アフリカ地雷対策プラットフォーム」の設立を表明した。

加えて、「アフリカの角」地域では、「アフリカの角」担当大使による人道アクセス確保及び停戦に向けた働きかけを行う一方、選挙支援、エチオピアにおけるDDR(元兵士の武装解除、動員解除、社会復帰)支援、人道支援の実施などを通じ、地域の平和と安定に向け貢献している。さらに、日本は、2008年から2025年までに国連開発計画(UNDP)経由で、アフリカ諸国が運営するPKO訓練センターのうち計14か国のセンターに総額約6,600万ドルを拠出し、アフリカの平和維持活動能力の向上に寄与している。

イ 国連における取組

平和構築の取組の必要性に関する国際社会の認識が高まった結果、2005年の安保理決議第1645号及び総会決議に基づき、紛争解決から復旧・社会復帰・復興まで一貫した支援に関する助言を行うことを目的とする国連平和構築委員会(PBC)が、国連安保理及び国連総会の諮問機関として設立された。PBCは国・地域における平和構築の在り方に関する議論に加え、女性・平和・安全保障(WPS)や若者・平和・安全保障(YPS)などのテーマに関する議論も行っており、近年は国連安保理や国連総会などへの助言機能を果たす機会が増える傾向にある。

日本はPBC設立時から一貫して、PBCの組織委員会のメンバーを務めており、強靱で持続的な平和を実現するためには、HDPネクサスに基づくアプローチが必要との考えの下、制度構築や人への投資に取り組むことの重要性を唱えてきている。2025年には、日本はPBC副議長として、特にアジア開発銀行との平和構築の取組における連携強化に向けた議論を主導するとともに、PBCと国連総会との間の非公式調整役として、両機関の連携強化に貢献している。

また、日本は、国連平和構築基金(PBF)(17)に、2025年12月末まで総額7,133万ドルを拠出し、主要ドナー国として、国連関連機関が実施するアフリカなどにおける事業の遂行を積極的に支援している。

ウ 人材育成
(ア)平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業

紛争後の平和構築では、高い能力と専門性を備えた文民専門家の人材育成が課題となっている。日本は、現場で活躍できる人材を育成する事業を実施しており、2025年末までに育成した人材は1,000人を超える。事業修了生はアジアやアフリカなどの平和構築・開発の現場で活躍しており、諸外国などから高い評価を得ている。また、若手人材向けの研修コース(初級コース)に参加した日本人修了生に対する現況調査の結果、半数以上が国際機関の職員(正規職員のほか、ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)や国連ボランティア、コンサルタントを含む。)を務めるなど、この事業は平和構築・開発分野の国際機関における日本人のキャリア形成とプレゼンス強化に大きく貢献している。2025年も、プライマリー・コース及び平和構築・開発分野での経験を持つ中堅層の実務家を対象とするミッドキャリア・コースを実施した(205ページ コラム参照)。

(イ)各国平和維持要員の訓練

日本は、国連PKOに参加する各国の平和維持要員の能力向上を支援してきている。2015年から、国連、支援国、要員派遣国の三者が互いに協力し、必要な訓練や装備品の提供を行うことでPKO要員の能力向上という喫緊の課題に対処するための革新的な協力の枠組みである国連三角パートナーシップ・プログラム(Triangular Partnership Programme:TPP)に資金を拠出し、自衛隊員などを教官として派遣するなど協力を行っている。これまで、国連PKOへ施設部隊を派遣する意思を表明したアフリカの10か国366人の要員に対し、重機操作の訓練を実施してきた。2018年にはアジア及び同周辺地域にも対象地域が拡大され、ベトナム及びインドネシアで訓練を実施した。2019年10月から、国連PKOにおいて適切な訓練を受けた要員の不足が深刻な問題となっている医療分野でも救命訓練を開始し、2021年から国連PKOミッションに遠隔医療を導入するための支援を開始した。これら分野における教官として自衛官など延べ420人が訓練に貢献している。2023年に、TPPを拡充し、アフリカ連合(AU)が主導する平和支援活動に派遣される要員への訓練を実施するために約850万ドルの拠出を決定し、2024年、AUミッション要員への訓練を開始した。また同年、カンボジアにおいて、韓国及びオーストラリアと共に、分野横断的な訓練も開始した。なお、本プログラムとは別に、アジア・アフリカ諸国のPKO訓練センターに対する講師などの人材派遣や財政支援も行っている。

コラムガバナンス・選挙支援から見る平和構築の現場
―ガンビア―
国連開発計画(UNDP)ガンビア事務所 梁(りゃん) 詠美(えみ)

外務省委託「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」の「プライマリー・コース」日本人研修員の梁詠美です。現在、国連開発計画(UNDP)1ガンビア事務所で、ガバナンス担当官(国連ボランティア)として勤務しています。

ガンビアは西アフリカ地域に位置するアフリカ大陸最小の国で、“Smiling Coast of Africa”とも呼ばれ、人々の温かさに満ちています。一方、22年間に及んだ前政権の終焉(えん)から10年を迎えようとする中、民主化の歩みは続くものの、民主改革の停滞や政治的分極化など課題も残されており、持続可能な平和の構築には制度及び社会双方へのアプローチを強化することが不可欠です。私が所属するガバナンス部署では、法の支配の強化、治安部門改革(SSR)2、真実・和解・賠償委員会(TRRC)3の支援など、より包摂的で民主的な統治の確立を目指した事業を展開しています。

首都バンジュールで行った選挙支援事業研修実施時の全体写真(筆者前列左から2番目)
首都バンジュールで行った選挙支援事業研修実施時の全体写真(筆者前列左から2番目)

私は選挙支援事業管理を担当し、2026年の大統領選挙及びその翌年の議会・地方選挙に向け、ガンビア独立選挙管理委員会(IEC)4と連携して、法務部及びジェンダー・障がい者(PwDs)5部の設置や能力強化を支援しています。全国10地域で実施した「包摂的かつ参加型選挙の強化」研修には2025年11月時点で約562人の地域住民(うち女性325人、障がい者113人)が参加し、選挙制度や政治参加におけるジェンダー平等などについて活発な議論が交わされました。多様な立場の参加者が意見や課題を共有し合う姿を通じ、包摂的な政治参加が平和構築に直結することを実感しました。

また、部署が実施する事業を横断的に支援する立場でもあるため、日本政府も拠出する国連平和構築基金(PBF)6によるSSR事業にも従事しています。長期政権下での市民弾圧にも関わった治安機関の信頼回復は喫緊の課題であり、UNDPは、司法省、国家警察、軍、移民局、市民団体、メディア等を対象に、SSR政策の理解促進やジェンダー主流化、法制度対話の支援を行っています。異なる立場の関係者が共通の目標に向けて歩み寄る現場を支援する中で、持続的な平和の構築には時間と対話の積み重ねが不可欠であることを学びました。

さらに、サヘル地域各国の首脳級関係者を招いた「サヘル・ガバナンス・フォーラム」では、UNDPガンビア事務所の主担当として、現地政府や国際機関との調整、UNDPアフリカ局長向けブリーフィング資料の作成などを担当しました。同フォーラムでは、変化の著しいサヘル地域の安定に向け、社会的結束と信頼の再構築の重要性が再確認され、地域社会の声を政策対話へ反映させる意義を改めて認識しました。

サヘル・ガバナンス・フォーラム実施時、上司や同僚らと一緒に(筆者左から2番目)
サヘル・ガバナンス・フォーラム実施時、上司や同僚らと一緒に(筆者左から2番目)

より民主的な社会を目指す上で残された課題を多角的に学ぶ機会を得ている今、中立的な立場から各国を支援できるUNDPや、平和構築の現場でガバナンスや選挙支援に携われることに大きな意義とやりがいを感じています。日本人国連ボランティアとして、ガンビアの民主的発展に貢献できるよう引き続き尽力していきます。

1 UNDP:United Nations Development Programme

2 SSR:Security Sector Reform

3 TRRC:Truth, Reconciliation and Reparations Commission

4 IEC:Independent Electoral Commission

5 PwD:Persons with Disabilities

6 PBF:Peacebuilding Fund

(6)治安上の脅威に対する取組

良好な治安を確保し、国民の生命などを守ることは、様々な社会経済活動の前提であり、国の基本的な責務である。科学技術の進展、特に様々な新興技術の普及といった社会情勢の変化もあいまって複雑化、深刻化している国際的なテロや組織犯罪といった治安上の脅威に効果的に対処するためには、国際社会全体が協力して取り組むことが不可欠である。

ア テロ及び暴力的過激主義対策

近年、人々の情報通信技術への依存が高まるにつれ、オンライン上での過激思想の拡散や、テロなどを誘発する有害コンテンツの発信が容易となり、テロ組織が、資金調達、勧誘、扇動にインターネットやSNS、あるいはAI等の新興技術を悪用している傾向が顕著に見受けられる。また、ドローンなどの簡易で安価な武器を利用し、多くの人が集まる警備が手薄なソフト・ターゲットを対象とした無差別テロが増加しており、テロの致死性が高まっているという見方もある。こうしたテロ活動に対抗するには、テロリストへの資金の流れを断ち切る必要があり、国際的な連携と併せて、官民で協力して対応していくことが重要となっている。

日本は、国際的なテロ・暴力的過激主義対策の取組の一環として、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)や国際刑事警察機構(インターポール)を含む国際機関等によるプロジェクトに拠出し、東南アジア諸国を始めとする各国法執行機関の能力構築を継続的に支援してきている。また、テロ対策に係る国際的な枠組みであるグローバル・テロ対策フォーラム(GCTF)の関連会合や議論に積極的に参加し、特に近年は、GCTFの派生団体である「コミュニティの働きかけと強靱性に関するグローバル基金(GCERF)」や国際司法・法の支配研究所(IIJ)との間でプロジェクト・レベルの協力を推進してきている。

また、国際社会における「法の支配」の普及・定着に向けた日本の取組として、2月に、外務省、IIJ、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)及びフランス欧州・外務省の四者共催で、「中央アジア地域におけるテロ対策・法の支配ワークショップ」を東京で開催した。同ワークショップは、中央アジア5か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)より検察・法執行当局関係者を招へいし、テロ関連事件に対する公正・独立した刑事司法手続の下での捜査・訴追の在り方、及び、元戦闘員の送還や社会復帰・再統合などをテーマとして議論を行った。

続けて12月には、外務省、UNODC、UNAFEI、欧州連合(EU)の四者共催で「南アジア地域におけるテロ対策・法の支配ワークショップ」を東京で開催し暴力的過激主義防止のための若者の役割とデジタル空間での対応について、官民連携の観点から協議を行った。

さらに、二国間テロ対策協議、日米豪印テロ対策作業部会などを通じて、テロ情勢に関する情報交換や連携の強化などを確認しつつ、実践的な協力を強化してきている。

イ 刑事司法分野の取組

国連の犯罪防止刑事司法委員会(CCPCJ)及び犯罪防止刑事司法会議(通称「コングレス」)(いずれも事務局はUNODC)は、犯罪防止及び刑事司法分野における国際社会の政策形成を担っている。2021年3月に京都で開催された第14回コングレス(京都コングレス)では、全体テーマ「2030アジェンダの達成に向けた犯罪防止、刑事司法及び法の支配の推進」の下、国際社会が犯罪防止・刑事司法の分野で中長期的に取り組むべき内容をまとめた政治宣言(京都宣言)が採択された。日本は、その後もリーダーシップを発揮し、UNODCなどと協力しつつ、(ア)アジア太平洋地域において刑事実務家が情報共有や意見交換をするプラットフォームとしての「アジア太平洋刑事司法フォーラム」の定期開催、(イ)若者(ユース)たちが自ら議論し、その声を政策に取り入れていくことを目指す「法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラム」の定期開催、(ウ)国際社会による再犯防止の取組を推進するための国連準則の策定への取組を進めたほか、UNODCが行う京都宣言のテーマ別討論をサポートするなど、京都宣言のフォローアップを積極的に行っている。さらに、5月に開催されたCCPCJにおいて、日本は、京都宣言を引き続きフォローアップする決議案を提出し、同決議案は全会一致で採択された。これにより、京都コングレスの成果は、2026年の第15回コングレス(アラブ首長国連邦がホスト国)に受け継がれていくこととなった。12月には、日本が策定を主導してきた再犯防止国連準則(京都モデルストラテジー)が国連総会で採択された。さらに、UNODC、インターポール及び欧州評議会を通じて、東南アジア諸国の検察その他刑事司法機能の強化、刑務所運営の強化及びサイバー犯罪対策に係る能力強化を支援している。そのほか、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)(18)を通じて、犯罪者処遇や犯罪防止、犯罪対策などに関する研修を日本で実施し、各国刑事司法担当者などの能力構築に貢献している。日本は、テロを含む国際的な組織犯罪を一層効果的に防止し、これと戦うための協力を促進する国際的な法的枠組みを創設する国際組織犯罪防止条約(UNTOC)の締約国として、同条約に基づく捜査共助や条約の履行状況を審査する取組による国際協力を推進している。また、今日、サイバー犯罪が国境を越える脅威となっており、国際社会が一致してサイバー犯罪に対応するため、2019年に国連で議論が開始された国連サイバー犯罪防止条約が、2024年12月にニューヨーク(米国)の国連本部において採択された。日本は、「自由、公正かつ安全なサイバー空間」の確保を目指し、同条約策定のために設立された特別委員会の副議長を務めるなど、交渉妥結に尽力した。その後、2025年10月25日及び26日にベトナム・ハノイで同条約の署名式典が開催され、日本は条約の精査のため式典での署名は見送ったものの、駐ベトナム日本国大使が出席し、本条約の意義や国際的なサイバー犯罪対処能力の向上に向けた日本の貢献などについて発信した。

ウ 腐敗対策

持続的な発展や法の支配を危うくする要因として指摘される腐敗への対処に対する国際的な関心が高まる中で、日本は、贈収賄、公務員による財産の横領などの腐敗行為に対処するための措置や国際協力を規定した国連腐敗防止条約(UNCAC)の締約国として、同条約の効果的履行や腐敗の防止・撲滅のための国際協力の強化に向けた議論に積極的に参加している。2023年9月には、UNCAC実施審査メカニズム(締約国間の相互審査)において、同条約上の犯罪化及び法執行(第3章)並びに国際協力(第4章)の規定に係る日本の実施状況に関する審査の結果についてのエグゼクティブ・サマリー(要旨)が公表された。また、G20の枠組みで開催される腐敗対策作業部会の活動にも積極的に参加し、同作業部会における腐敗に関連する押収・没収財産の管理に関する成果文書の策定に貢献した。さらに2025年10月には、G20腐敗対策作業部会が設置されて以来4回目の開催となる閣僚会合が南アフリカ・ムプマランガで開催され、日本を含むG20各国が国際的な腐敗対策に係る枠組みを強化するための議論を行った。そのほか、UNAFEIを通じて日本で汚職防止刑事司法支援研修を実施している。経済協力開発機構(OECD)贈賄作業部会は国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(外国公務員贈賄防止条約)の各締約国による履行状況を監視するための相互審査を通じて、外国公務員に対する贈賄行為の防止に取り組んでおり、日本も積極的に参加している。

エ マネー・ローンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与対策

マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策については、多国間の枠組みである金融活動作業部会(FATF)が、各国が実施すべき措置の国際基準を策定し、その履行状況について相互審査を行っている。また、近年、FATFは、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与の防止対策にも取り組んでおり、北朝鮮による不正な金融活動の根絶を求める声明を発出している。日本は、設立時からのメンバー国として、これらの議論に積極的に参加している。なお、日本は2024年10月のFATF全体会合において、同第4次審査で改善が必要と指摘された勧告全ての評価引上げを達成し、現在は2028年夏にオンサイト審査が実施される第5次対日審査に向けた準備作業を進めているところである。こうしたFATFを通じた取組に加えて、日本は、テロ資金供与防止条約の締約国としてテロ資金対策に積極的に取り組んでおり、国連安保理タリバーン制裁委員会及び同ISIL(ダーイシュ)及びアル・カーイダ制裁委員会の指定を受け、又は、国連安保理決議第1373号(19)に基づく日本独自の対応として、テロリスト等に対する資産凍結などの措置を実施している。2025年11月末時点では、安保理制裁委員会により指定されたタリバーン、アル・カーイダ及びISIL関係者等387個人及び94団体並びに、安保理決議第1373号に基づき指定された40個人及び31団体の合計416個人及び122団体(ただし、重複する11個人3団体を除く。)に対し、外国為替及び外国貿易法(外為法)及び国際テロリスト財産凍結法に基づく資産凍結などの措置を実施している。

オ 人身取引対策・密入国対策

日本は、手口が一層巧妙化・潜在化する人身取引犯罪に効果的に対処するため、「人身取引対策行動計画2022」に基づき、国内体制を強化し、また、開発途上国に対する支援にも積極的に取り組んでいる。2025年も、国際協力機構(JICA)を通じ、日本を含む各国の関係者の人身取引対策(特に、予防、被害者保護・自立支援)に関する取組の相互理解及びより効果的な地域連携の促進を目的とする研修事業を引き続き実施した。例えば、2022年1月から2025年1月までタイ政府に、2022年3月からカンボジア政府に対する技術協力を実施し、さらに2025年度からは第三国研修「メコン地域内における人身取引被害者保護に関する国境を越えた連携能力強化」を実施し、関連機関による人身取引被害当事者への支援能力の向上を目指している。国際機関との連携としては、国際移住機関(IOM)への拠出を通じて、日本で保護された外国人人身取引被害者の母国への安全な帰国支援及び帰国後に再被害に遭うことを防ぐための社会復帰支援事業を2025年も継続して行った。また、UNODCが実施する東南アジア向けのプロジェクトへの拠出を通じ、法執行当局に対する研修を始めとする対応能力強化支援を実施した。日本は、人身取引議定書及び密入国議定書の締約国として、人身取引や移民の密入国対策のため、諸外国との連携を一層深化させている。

カ 薬物対策

日本は、UNODCと協力し、薬物の原料の生産や新たな合成薬物の製造、密輸などの取締りに関係する調査、分析情報の整備や連携ネットワークの維持拡大に貢献している。また、国境を越える国際的な薬物取締りの実地的な能力強化、特に政情不安定な開発途上国などの農村や国境管理上脆(ぜい)弱な地方の貧困層(移民や若者等を含む。)が組織犯罪に関わらないよう、薬物原料植物の違法栽培に代わる作物等の生産などの代替生計手段の開発支援や、密輸の取締りを含む海上法執行能力強化を進めるとともに、薬物対策分野における地域ごとの開発課題を考慮しながら、国際的な薬物対策に取り組んでいる。

(9) 2022年10月の日豪首脳会談で署名された日豪安全保障協力の今後10年の方向性を示す文書

(10) ここでの「瀬取り」は、2017年9月に採択された国連安保理決議第2375号が国連加盟国に関与などを禁止している、北朝鮮籍船舶に対する又は北朝鮮籍船舶からの洋上での船舶間の物資の積替えのこと

(11) 2015年、サイバーセキュリティに関する国連政府専門家会合(GGE)において、国家による責任ある行動に関する拘束力のない自発的な規範11項目を記載した報告書が採択された。

(12) 日本の立場については、外務省ホームページ参照:
https://warp.ndl.go.jp/web/20240702065251/https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page3_003059.html

外務省ホームページQRコード

(13) 身代金目的のサイバー攻撃

(14) 宇宙新興国などの宇宙関連技術の向上に貢献することを目的に、ISSの「きぼう」日本実験棟から超小型衛星を放出する機会を選定された機関に提供するプログラム

(15) HDPネクサス(人道(Humanitarian)、開発(Development)、平和(Peace)の連携(Nexus)):短期的な「人道支援」と合わせて、中長期的な観点から、難民の自立支援や受入国の負担軽減のための「開発協力」を行い、さらに難民発生の根本的な原因である紛争の解決・予防に向けた「平和の取組」を進める考え方

(16) 人間の安全保障とは、個人の保護と能力強化により、恐怖と欠乏からの自由、及び一人一人が幸福と尊厳を持って生存する権利を追求するという考え方

(17) 2006年10月に設立された基金。アフリカを始めとする地域で、地域紛争や内戦の終結後の再発防止や、紛争の予防のための支援を実施。具体的には、和平プロセス・政治対話への支援、経済活性化、国家の制度構築、女性・若者の国造りへの参加支援などを実施している。

(18) 日本政府と国連との協定に基づき、1962年に設立された国連地域研修所。東京都昭島市に所在。法務省が運営し、海外参加者を招へいして刑事司法分野の研修などを継続的に実施している。

(19) 2001年9月の米国同時多発テロ発生を受け、同年同月に国連安保理で採択された。国連加盟国に対し、テロ行為を行う者やテロ行為に関与する者などに対する資産凍結等の包括的な措置を講じることを求めている。

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