2 中国・モンゴルなど
(1)中国
ア 中国情勢
(ア)内政
3月、第14期全国人民代表大会(以下、「全人代」という。)第3回会議が開催された。李強(りきょう)国務院総理が政府活動報告を読み上げ、前年の回顧として、昨年の発展の道のりは並大抵のことではなかった、外部からの圧力が高まり、内部は一層困難という複雑で厳しい情勢を前にしつつも、経済の動きは安定を保ちつつ上向きに推移したと述べた。一方、2025年の政策の方向性については、同年は第14次5カ年計画の詰めの年であり、第15次5カ年計画が良いスタートを切るための基礎を打ち固めねばならないと述べ、また、GDP成長率は昨年の当初目標とほぼ同じ(5%前後)としつつも、2025年の所期目標を達成することは容易ではなく、多大な努力を払う必要があると述べた。閉幕後の国務院総理による内外記者会見については、約30年続いてきたが、2024年、今後数年実施しないことが発表され、2025年も実施されなかった。
4月には中央周辺工作会議が開催された。最高指導部メンバーが出席する周辺外交をテーマとする党中央の会議は、2013年の「周辺外交工作座談会」以来約12年ぶりであった。また、習近平(しゅうきんぺい)国家主席は8月に「チベット自治区成立60周年祝賀行事」、9月に「新疆(きょう)ウイグル自治区成立70周年祝賀行事」にそれぞれ出席するため、辺境の少数民族自治区である両自治区を立て続けに訪問した。
2025年は戦後80年であり、中国は9月3日に天安門広場で「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80年記念大会」を開催し、軍事パレードを実施した。習近平国家主席は演説で、「抗日戦争」は世界反ファシズム戦争の重要な一部であり、中国人民は莫(ばく)大な民族的犠牲をもって、人類文明を救い、世界平和を守るために重大な貢献を行ったと自負した上で、今日、人類は平和か戦争か、対話か対抗か、ウィンウィンかゼロサムかという選択に再び直面しているとの認識を示した。また、「中華民族の偉大な復興」の勢いは止められないと述べた。
10月には、第20期中央委員会第4回全体会議(いわゆる「四中全会」)が開催され、「第15次5カ年計画に関する中共中央の提案」(以下、「提案」という。)を可決した。「提案」では、中国の発展環境は深刻かつ複雑な変化に直面し、戦略的チャンスとリスク・チャレンジが併存し、不確実で予測困難な要素が増える時期になるとの認識を示しつつ、第15次5カ年計画期間の主要目標として、質の高い発展が顕著な成果を上げること、科学技術の自立自強のレベルを大幅に向上させることなどを掲げた。人事関連では、何衛東(かえいとう)・前中央軍事委員会副主席を含む14人の高官に対する処分が追認された。
12月には、中央経済工作会議が例年どおり開催された。
新疆ウイグル自治区を始めとする中国の人権状況及び香港(ほんこん)をめぐる情勢について、国際社会の関心は引き続き高い。例えば、12月には香港におけるジミー・ライ氏への判決に関するG7外相声明が発出され、香港における権利、自由及び自治の悪化に対する懸念が引き続き表明された。日本としては、自由、基本的人権の尊重、法の支配といった国際社会における普遍的価値や原則が中国においても保障されることが重要であると考えており、首脳会談や外相会談の機会も捉え、これらの状況について深刻な懸念を表明するなど、こうした日本の立場については中国政府に対して直接伝達してきている。また、国連では、中国の人権状況を懸念する有志国による共同ステートメントに、日本はアジアから唯一参加している。11月の国連総会第3委員会では、米国が15か国を代表して共同ステートメントを発出し、ウイグル人やチベット人などの民族的・宗教的少数派への人権侵害を含め、中国で発生している深刻な人権侵害について深い懸念を表明し、日本はこれに参加した。日本政府として、引き続き国際社会と緊密に連携しつつ、中国側に強く働きかけていく。
(イ)経済
3月に行われた全人代では、2025年の成長率目標を前年同様の5.0%前後とした一方、消費者物価上昇率を2%前後(24年目標は3%)に引き下げた。李強総理は「今年の初期目標を達成するのは容易ではない」と明言した。また、財政赤字の対GDP比についても4.0%(前年は3.0%)に引き上げ、新規地方専項債の発行上限額は4.4兆元(前年は3.9兆元)に微増設定。結果として、2025年の実質GDP成長率は通年で前年比5.0%増と、目標を達成し、各四半期においては、第1四半期(1月から3月)は前年比5.4%増、第2四半期(4月から6月)に同5.2%増、第3四半期(7月から9月)に同4.8%増、第4四半期(10月から12月)に同4.5%増となった。

中国経済は、低迷する不動産市場と消費マインドの悪化により、足踏み状態が継続している。3月の全人代では、重点項目のうち「内需拡大」の位置付けが前年の3番目から1番目に上昇した。消費については、2025年前半にかけて、2024年から開催された家電や電気自動車(EV)などの買い替え政策の効果により、一部好調となるも、後半にかけては政策の息切れにより減速傾向であった。そのほか、内需拡大に関連して政府はサービス消費の拡大に向けた支援策、さらに民生分野への財政支出として公立幼稚園の園児の一部への保育・教育費の免除などを公表したが、依然として消費マインドは改善していない。なお、国内の消費マインドが低迷する中で、自動車産業等、消費者に対する過剰な値引きなど、過当競争(「内巻」)が問題視され、7月の政治局会議では企業の無秩序な競争や基幹産業の生産能力管理促進等の方針が示された。その後も10月には、国家発展改革委員会と国家市場監督管理総局が内巻に関する公告を発表し、政府は「反内巻」の姿勢を見せている。
一方、輸出入については、米中経済対立の影響による米国による対中関税の引上げに伴い、米国向け輸出が大きく減少したものの、ASEANやその他の地域向けが好調となり、輸出が中国経済全体を引き続き牽(けん)引することとなった。輸入は国内の内需低迷が影響し輸出と比較すると弱さが見られた。
なお、不動産市場に関して、24年を通じて大規模な支援策は公表されず、12月には国有企業が筆頭株主である大手不動産開発企業が社債の償還を延期するなど引き続き経済全体の足かせとなることが予想される。
12月には中央経済工作会議が開催され、2025年をとても平凡ならざる年と指摘。中国経済は圧力に耐えながら前進し、新たな方向、優れた方向に発展したとした。問題点として、外部環境の変化の影響、国内の供給過剰と需要不足の矛盾などを挙げつつ、これらの問題は、多くが発展過程や転換過程における問題であり、解決可能との認識を示した。2026年の経済政策の方向性として、カウンター・シクリカル及びクロス・シクリカル調整を通じたマクロ経済ガバナンスの効率性向上を挙げた上で、2025年に続き「より積極的な財政政策」、「適度に緩和的な金融政策」を実施することとした。
なお、長期的な経済目標としては、10月に第20期4中全会が開催され、「第15次5カ年計画」に関する中国共産党からの提案が審議、通過された。15次5カ年計画期の主要目標として、「質の高い発展」で顕著な成果を上げる、科学技術の自強自立のレベルを大幅に向上させる、全面的な改革深化が新たな突破を遂げるなどを挙げ、2035年までに一人当たりGDPが中程度の先進国レベルに到達することを目指すとした。引き続き製造業や新質生産力を中心とする供給主導型の経済モデルが優先されている一方、内需拡大の方針がこれまで以上に強調されるとともに、可処分所得の拡大に繋(つな)がる民生(社会保障の充実等)について具体的に記載された。
近年、過剰生産能力の問題が顕在化している中で、鉄鋼やEVなど、中国の複数の産業セクターにおいて過剰生産能力又はその恐れが指摘され、各国が対中関税引上げや貿易救済措置を実施している。不透明な産業補助金など、根本的原因である非市場的政策・慣行に対処し、グローバルに公平な競争条件を確保するため、ルールの発展等に取り組むことが重要となっている。
また、中国は、輸出管理措置として、2025年2月にタングステン等5鉱種の関連品目を、同年4月に中・重レアアース7鉱種の関連品目を管理対象に追加した。さらに同年10月、レアアース関連品目の再輸出規制や技術輸出規制、新たな中・重レアアース5鉱種の関連品目を管理対象に追加するなど、輸出管理措置を立て続けに発表した。10月に公表されたこの措置は、同月の米中首脳会談における合意を受け、約1年間の延期が発表されている。さらに、2026年1月、中国は、日本向けデュアルユース品目の輸出管理強化措置を発表し、2月には、中国商務部が、一部の日本企業等に対するデュアルユース品目の輸出禁止等を発表した。
(ウ)外交
3月の全人代での外交部長記者会見において、王毅(おうき)・中央政治局委員兼外交部長は2025年の首脳外交について「中国と世界が互いに相手を訪れ、互いに成果を上げる新たな一章を書き記すだろう。」と述べ、2025年も習近平国家主席を始めとするハイレベルを筆頭に、様々なレベルによる外交活動が活発に行われた。特に中国は8月末から9月初旬の「上海協力機構(SCO)天津(しん)サミット」、「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」、10月の「世界女性サミット」といった式典・会議を自国で開催し、各国元首・首脳らを招いて首脳会談を実施するなど、活発な首脳外交を展開した。中でもSCOサミットで習近平国家主席は、各国と共により公正で合理的なグローバル・ガバナンス体制の構築を推進し、手を携えて人類運命共同体へと歩みを進めたいとして、「グローバル・ガバナンス・イニシアティブ」を初めて提唱した。
ロシアとの関係では2025年にも頻繁に首脳間の直接の意思疎通が行われ、5月の対ドイツ戦勝利80周年を記念する軍事パレードに併せて習近平主席がロシアを訪問し中露首脳会談を実施したほか、8月末から9月初旬にはSCOサミット、「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」に併せてプーチン大統領が訪中した。中でも5月の中露首脳会談の際には、両国の包括的・戦略的協力パートナーシップ関係の更なる深化に関する共同声明が発出され、終始互いを優先的な協力のパートナーとみなし、中露の伝統的友好と深い相互信頼を妨害・破壊しようとするいかなるたくらみにも共に対抗するとした。また9月の「中国抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」の際には北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)国務委員長も訪中した。
周辺国との関係でも4月に習近平国家主席がベトナム、マレーシア、カンボジアを訪問したほか、6月の中国・中央アジアサミット出席のためにカザフスタン・アスタナ、11月のAPEC首脳会議出席のために、韓国・慶州(キョンジュ)をそれぞれ訪問し、各国首脳と会談するなど、活発な外遊・首脳外交を展開した。
欧州との関係では、EUと中国の外交関係樹立50周年を迎えた2025年、7月に中国で中国EU首脳会議が開催され、コスタ欧州理事会議長とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が訪中し、習近平国家主席、李強国務院総理とそれぞれ会談した。そのほか、11月のフェリペ6世スペイン国王訪中、12月のマクロン・フランス大統領訪中など、EU加盟国のハイレベルも個別に中国を訪問した。
米中間では、2025年1月に発足した第二期トランプ政権との間で、幅広い分野において、関税措置を含む貿易制限措置の応酬が展開された。一方、2025年5月以降、複数回にわたる閣僚級の米中経済・貿易協議や、7月の米中外相会談、10月には、第二期トランプ政権発足後初めてとなるトランプ大統領と習近平国家主席の対面での米中首脳会談などに加え、米中国防相会談も実施されるなど、米中間の意思疎通は継続している。
米国は、フェンタニルなどの違法薬物の流入の阻止を目的として、2025年2月に中国に対し10%の追加関税を課すと発表、続く3月には中国の対応が不十分として一律20%に追加関税を引き上げると発表した。これに対し中国は、米国からの特定の輸入品目に対する関税の引上げや、レアアースの輸出管理措置等を発表した。中国側は米国に対し、強烈な不満を表明した上で、米国が関税戦や貿易戦に固執をする場合、最後まで付き合うと表明した。4月には、米国は貿易赤字の解消などを目的として、相互関税の導入を発表し、中国に対し34%の追加関税を課すことを表明した。これに対して、中国が措置を発表するなど、両国の関税措置が激化し、一時は相互に125%の追加関税(米国側は3月時点までの20%の追加関税も加えれば、145%の追加関税を賦課)を掛け合う状況となった。こうした中、5月にスイスで、米国のベッセント財務長官及びグリア通商代表、中国の何立峰(かりつほう)国務院副総理との間で、第1回米中経済・貿易会談(閣僚級)が開催され、米中共同声明が発表された。これにより、米中両国は、相互に高止まりしていた関税の撤廃や一時停止、非関税措置の撤廃などを表明し、両国間で経済貿易協議メカニズムを設置することを決定した。その後は、6月、9月の米中首脳電話会談や、米中経済・貿易会談(閣僚級)の場で、関税措置の一時停止の延長や、中国によるレアアースの輸出管理措置や大豆の輸入停止措置等について継続して議論が行われた。10月には、韓国で米中首脳会談が実施され、フェンタニルを理由とする追加関税を20%から10%に引き下げること、相互関税の一部を34%から10%に引き下げる措置を1年間延長すること、中国によるレアアース輸出管理措置の一時停止、米国産大豆の大規模購入などの合意に達した。
このように、一時は、第二期トランプ政権による追加関税の関税率が100%を超えるなど、米中両国の関係は緊張が高まっていたが、ハイレベルの頻繁な意思疎通の結果、一部の貿易制限措置が撤廃、一時停止されるなどの動きも見られる。
米中両国間で安定的な関係が構築されることは、日本のみならず、国際社会全体にとって重要であり、日本として引き続き高い関心を持って今後の動向を注視していく。
(エ)軍事・安保
習近平国家主席は、第19回党大会(2017年)で、今世紀半ばまでに中国軍を世界一流の軍隊にすると述べた。また、2020年10月に発表された第19期党中央委員会第5回全体会議(以下「五中全会」という。)コミュニケでは、「2027年の建軍100周年の奮闘目標の実現を確保する」との新たな目標が示された。さらに、第20回党大会(2022年)では、「建軍100周年の奮闘目標を期限までに達成し、人民軍隊を早期に世界一流の軍隊に築き上げることは社会主義現代化国家の全面的建設の戦略的要請である」と改めて述べた。中国が公表している国防費は、予算の内訳、増額の意図については十分明らかにされておらず、実際に軍事目的に支出している額の一部にすぎないと見られる。こうした中、中国は「軍民融合発展戦略」の下、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心として、軍事力の質・量を広範かつ急速に強化し、宇宙・サイバー・電磁波やAI、無人機といった新たな領域における優勢の確保も重視しており、「機械化・情報化・インテリジェント化の融合発展」による軍の近代化を推進している。
2025年は、引き続き、中国による日本周辺での活動が活発に行われた。6月には、中国海軍の空母「遼寧(りょうねい)」が硫黄島より東側の海域(いわゆる「第2列島線」より東側の海域)で活動したこと、空母2隻「遼寧」及び「山東」が同時期に太平洋上で活動したことを初めて確認・公表した。9月には、これまでの2隻よりも大型で、固定翼早期警戒機などを運用可能な電磁カタパルトを装備していると見られる空母「福建」が航行していることを初めて確認・公表した。12月には空母「遼寧」が太平洋に進出し、沖縄本島東方から奄(あま)美大島東方の公海を航行したことが初めて確認された。加えて、中国は台湾周辺の海空域において、4月及び12月に軍事演習を実施した。南シナ海では、中国は、法的根拠のない拡張的な海洋権益に関する主張に基づき、係争地形の一層の軍事化や沿岸国等に対する放水銃の使用や衝突などの危険な操船を始め、法の支配や開放性に逆行する力又は威圧による一方的な現状変更の試みや、地域の緊張を高める危険で威圧的な行動を継続・強化している。
近年、中国は、政治面、経済面に加え、軍事面でも国際社会で大きな影響力を有するに至っており、現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向などは、日本と国際社会の深刻な懸念事項であり、日本の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、日本の総合的な国力と同盟国・同志国などとの連携により対応すべきものである。中国の急速な軍事力の強化及び軍事活動の拡大に関しては、透明性などを向上させるとともに、国際的な軍備管理・軍縮などの努力に建設的な協力を行うよう同盟国・同志国などと連携していく。また、日中間の信頼の醸成のため、各種の対話を始め、中国との安全保障面における意思疎通を強化し、中国との間における不測の事態の発生を回避・防止する日中間の取組を進めながら、関係国と連携しつつ、日本を含む国際社会の懸念が払拭されるよう努力していく。
イ 日中関係
(ア)二国間関係一般
中国とは、戦略的互恵関係を包括的に推進し、建設的かつ安定的な関係を構築していくことが一貫した方針である。中国との間には、尖(せん)閣諸島情勢を含む東シナ海や南シナ海における力又は威圧による一方的な現状変更の試み、ロシアとの連携を含む日本周辺での一連の軍事活動や、中国によるレアアース等の輸出管理措置など、数多くの懸案や課題が存在している。また、台湾海峡の平和と安定も重要である。さらに、日本は香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況についても深刻に懸念している。重要な隣国であり、様々な懸案と課題があるからこそ、意思疎通を継続しながら、国益の観点から冷静かつ適切に対応していく。
3月22日、岩屋外務大臣は、日中韓外相会議出席のため訪日中の王毅外交部長と日中外相会談を行った。両外相は、国際情勢が大きく変動する中、日中両国の外相同士が対面で会い、課題や懸案の解消も含めて率直に議論することが重要であることを確認した。また、両外相は、2025年の日中関係の取り進め方について議論し、日中両首脳で確認した、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を双方の努力で構築するという大きな方向性の下、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくための歩みを確かなものとしていくことで一致した。また、第6回日中ハイレベル経済対話では、双方は、医療・介護・ヘルスケアの分野での協力を引き続き強化していくことの重要性を確認するとともに、第三国市場での民間経済協力を引き続き推進していくことで一致した。
7月10日、ASEAN関連外相会議に出席するためマレーシアを訪問中の岩屋外務大臣は、王毅外交部長と会談を行った。両外相は、2024年12月及び2025年3月の相互訪問以降も、日中間で様々な分野について協議が行われ、いくつかの具体的な懸案についても解消に向けた動きが見られており、課題が残っている中でも、意思疎通を強化することで日中関係を前に進めていくことを確認した。
また、7月11日には大阪・関西万博において中国のナショナルデー行事が開催され、式典には日本政府の代表として武藤容治経済産業大臣が出席したほか、中国からは何立峰国務院副総理が出席した。武藤経済産業大臣は、中国のナショナルデー行事に先立ち、日中友好議員連盟会長の森山裕(ひろし)自由民主党幹事長と共に、何立峰国務院副総理と面会し、経済分野を含む日中関係の進展について意見交換を行った。同日、日本産牛肉の対中輸出再開の前提となる日中動物検疫協定が発効した。日本政府として、本協定の発効を踏まえ、早期の輸出再開に向けて、中国政府との間で関連の協議を引き続き推進していく。
10月31日、APEC首脳会議に出席するため韓国を訪問中の高市総理大臣は、習近平国家主席と首脳会談を行った。習主席から高市総理大臣就任に対する祝意が表明され、両首脳は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという日中関係の大きな方向性を改めて確認した。その上で、高市総理大臣から習主席に対し、地域と国際社会の平和と繁栄という重責を果たしていく重要性について働きかけた。高市総理大臣から、安全保障や経済安全保障など懸案や課題があるからこそ、それらを減らし、理解と協力を増やし、具体的な成果を出していくとともに、首脳間で、戦略的互恵関係を進める意思を確認する重要性を指摘した。両首脳は、首脳間での対話、そして日中間の幅広い分野での重層的な意思疎通を行う重要性を確認した。

また、ALPS処理水(8)の海洋放出に関し、国際原子力機関(IAEA)の枠組みの下での追加的モニタリングが累次実施され、中国政府からは、分析が完了したものについては結果が正常であったと発表するとともに、2025年6月末には、日本の一部地域の水産物の輸入を回復させる公告が発出したことなどを踏まえ、両首脳は、日本産水産物の輸入再開を前向きに受け止め、引き続き2024年9月に両政府で発表した「日中間の共有された認識」をきちんと実施していくことを確認し、高市総理大臣から、日本産水産物の輸入の円滑化を求めた。また、日本産牛肉の輸入再開と10都県産の農水産物など残された輸入規制撤廃の早期実現に向けて、関連協議の促進を求めた。両首脳は、第三国市場協力、グリーン経済、医療・介護・ヘルスケア等の分野において、具体的な協力の進展を図っていくこと、グローバルな課題で協力していくことで一致した。高市総理大臣から、大阪・関西万博での展示デザイン部門における中国館の金賞受賞に対し祝意を示した。
高市総理大臣から、尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海での中国によるエスカレーションや海洋調査活動、日本周辺の中国軍の活動の活発化につき、深刻な懸念を伝え、中国側の対応を求めた。両首脳は、防衛当局間の実効性のある危機管理と意思疎通の確保の重要性について一致した。高市総理大臣から中国によるレアアース関連の輸出管理措置に強い懸念を表明し、両首脳は、日中輸出管理対話を始め、当局間の意思疎通を強化していくことを確認した。高市総理大臣から、中国での邦人襲撃事件や邦人拘束が発生する中で、中国滞在に不安を感じている日本国民のため、安全確保を求めるとともに、拘束中の邦人の早期釈放を求めた。高市総理大臣から、台湾海峡の平和と安定の日本を含む国際社会にとっての重要性を強調した。また、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区等の状況に対する深刻な懸念を表明した。
両首脳は、拉致問題を含む北朝鮮情勢等についても意見交換を行った。
11月1日にはマレーシアで開催された拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)に際し、小泉進次郎防衛大臣と董軍(とうぐん)・中国国防部長との日中防衛相会談も行われた。
2025年は、日中両国の議員間・政党間交流も活発に行われた。1月には第9回日中与党交流協議会に参加するため、森山自由民主党幹事長、西田実仁(まこと)公明党幹事長一行が訪中した。4月には斉藤鉄夫・公明党代表一行、森山裕会長を団長とする日中友好議員連盟の代表団が相次いで訪中した。
一方、11月以降、中国は、国会における議論に対するものを含め、日本に対して一方的な批判や威圧的措置を強めている。こうした中で行われた中国の在大阪総領事によるSNSの投稿については、在外公館の長の発信として極めて不適切と言わざるを得ないものであり、中国側に対し、累次にわたり、強く抗議を行った。また、中国政府は、中国国民に対し、日本への渡航自粛要請を行った。こうした中国側の発表は、留学や観光を含む二国間の人的交流を委縮させかねないものであり、中国側に対して、しかるべく申入れを行った。さらに、中国の国連常駐代表は、事実に反し、根拠に欠ける主張を含む書簡を2度にわたり発出したほか、11月21日には、駐日中国大使館は、国連憲章のいわゆる「旧敵国条項」に関する発信を行った。そして、12月6日には、中国軍の戦闘機が、当該機体に対する対領空侵犯措置を実施していた航空自衛隊の戦闘機に、レーダー照射を断続的に行う事案が発生した(40ページ (エ)参照)。政府としては、状況を注視しながら、これらの事実と反する中国側の発信や威圧的措置に対しては、毅(き)然と反論・抗議すると同時に、中国側に対して適切な対応を求めてきているところである。
さらに、2026年1月6日、中国は、日本向けデュアルユース品目の輸出管理強化措置を発表した。これに対し日本は、日本のみをターゲットにした同措置は、国際的な慣行と大きく異なり、決して許容できず、極めて遺憾であると中国側に申し入れ、強く抗議するとともに、措置の撤回を求めている。また、2月24日、中国は、一部の日本企業等に対するデュアルユース品目の輸出禁止等を発表した。これに対し日本は、1月6日発表の上記措置と同様に、断じて受け入れられず、極めて遺憾であるとして、強く抗議するとともに措置の撤回を求めている。
日中間に懸案と課題があるからこそ、意思疎通が重要であり、日本としては、中国との様々な対話についてオープンであり、扉を閉ざすようなことはしていない。このような姿勢の下、中国側と意思疎通を継続しつつ、今後も国益の観点から冷静かつ適切に対応を行っていく考えである。また、日本政府の立場や正しい事実関係について各国の理解を得ることは極めて重要であり、日本政府として、これまでも米国を含む各国に対し、様々な機会を捉えて日本の立場や考えを説明してきており、国際社会からも理解を得てきているところである。例えば、2026年2月時点で、米国連邦議会上下両院において、日米同盟への揺るぎないコミットメントを再確認するとともに、日本の取組への支持を示す内容の決議案が提出されているところである。
(イ)日中経済関係
日中間の貿易・投資などの経済関係は、非常に緊密である。2024年の日中間の貿易総額(香港を除く。)は、約44.2兆円(前年比4.7%増)となり、中国は、日本にとって前年に続き最大の貿易相手国となった。

また、日本の対中直接投資は、中国側統計によると、2024年は約21億3,000万ドル(前年比45.2%減(投資額公表値を基に推計))と、中国にとって国として第4位(第1位はシンガポール、第2位は米国、第3位は韓国)の規模となっている。なお、国際収支統計によると、日本にとって中国は第14位の投資先国であり、約2.7兆円に上る直接投資収益の収益源となっている。

また、日中間の民間レベルでの経済交流として、2024年に続き、2月に経団連、日中経済協会及び日本商工会議所による合同訪中代表団の派遣が実現し、何立峰国務院副総理らとの会見が行われたほか、6月には日本国際貿易促進協会が訪中した。
(ウ)両国民間の相互理解の増進
中国からの訪日者数は、2025年は約909.6万人(日本政府観光局(JNTO)推定値)に達し、前年の約698.1万人(JNTO確定値)から大幅に増加し、2019年比の約95%まで回復した。一方、11月14日、中国政府が中国国民に対し日本への渡航自粛を呼びかけたことで、中国からの訪日旅行に関して一部キャンセルの動きがあり、2025年11月は前年比約3%増、12月は前年比約45%減と増加ペースの鈍化、減少傾向となっている。
次世代を担う青少年交流については、対日理解促進交流プログラム「JENESYS」で日中両国の学生や若手研究者などが交流を通じて相互理解を深め、各分野の代表団も関連分野の視察や講義などにより日本の取組に対する理解・関心を深めた。
また、中央・地方の政・経・官・学など各界の様々なレベル・分野の人材を日本に招へいし、幅広い関係構築・強化に努めている。こうした交流を通じ、被招へい者と日本の関係者との間に良好な関係が構築され、日本に対する正確な理解が促進されることが期待されている。
日中両国の間では、10月まで文化、経済、教育、地方など幅広い分野で交流が積み重ねられていたが、11月以降イベントのキャンセルや延期など相次いでいる。
(エ)個別の懸案事項
東シナ海では、尖閣諸島周辺海域における中国海警船による領海侵入が継続しており、また、中国軍も当該海空域での活動を質・量とも急速に拡大・活発化させている。
尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。日本が1895年に国際法上正当な手段で尖閣諸島を日本の領土に編入してから、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘され尖閣諸島に対する注目が集まった1970年代に至るまで、中国は、日本による尖閣諸島の領有に対し、何ら異議を唱えてこなかった。中国側は、それまで異議を唱えてこなかったことについて、何ら説明を行っていない。その後、2008年に、中国国家海洋局所属船舶2隻が尖閣諸島周辺の日本の領海内に初めて侵入した(9)。
2025年の尖閣諸島周辺海域における中国海警船による年間の領海侵入の件数は27件であり(2024年は39件、2023年は34件)、また、2025年の接続水域内における中国海警船の年間確認日数は過去最多の357日を記録した。さらに、2020年5月以降、中国海警船が尖閣諸島の日本の領海に侵入し、当該海域において日本漁船に近づこうとする動きが頻繁に発生しており、2025年3月にはこれに伴う領海侵入時間が過去最長の92時間以上となる事案が発生するなど、依然として情勢は厳しい。また、5月には、尖閣諸島周辺の日本領海に侵入した中国海警船から発艦したヘリコプター1機が日本領空を侵犯した。尖閣諸島周辺の日本の領海で独自の主張をする中国海警船の活動は、国際法違反であり、このような中国の力による一方的な現状変更の試みに対しては、外交ルートを通じて厳重に抗議し、日本の領海からの速やかな退去及び再発防止を繰り返し求めてきている。引き続き、日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅然と対応していく。
中国軍の艦艇・航空機による東シナ海を含む日本周辺海空域での活動も活発化している。2025年5月には、空母「遼寧」が、東シナ海を航行し、日本に近い海域で艦載戦闘機及び艦載ヘリの発着艦を行ったことを確認した。また、6月の太平洋上の公海上空における特異な接近に続き、7月には、東シナ海の公海上空で、自衛隊機に対し、中国軍戦闘爆撃機が接近して飛行した。また、12月には、沖縄本島南東の公海上空で、同空母「遼寧」から発艦した艦載戦闘機が、当該機体に対する対領空侵犯措置を実施していた航空自衛隊の戦闘機に対して、約30分にわたる断続的なレーダー照射を行う事案が発生した。こうした事案に対して、偶発的な衝突を誘発する可能性があることから、外交及び防衛ルートの双方で、深刻な懸念を表明し、再発防止を厳重に申し入れた。加えて、日本の周辺における中露軍事連携について、8月には中露艦艇による共同航行、12月には中露爆撃機による共同飛行が、前年に引き続き確認された。また、中国海軍艦艇による尖閣諸島周辺を含む海域での航行も複数回確認された。中露連携を含め、中国軍による東シナ海等の日本周辺海空域における最近の動向を踏まえ深刻な懸念を有しており、それぞれの事案について、中国側に対ししかるべく申し入れてきている。
無人機を含む航空機の活動も引き続き活発であり、2013年以降、航空自衛隊による中国軍機に対する緊急発進の回数は高い水準で推移している。このような最近の中国軍の活動全般に対して、日本は外交ルートを通じ繰り返し提起してきている。
10月に行われた日中首脳会談においても、高市総理大臣から、日本周辺の中国軍の活動の活発化につき、深刻な懸念を伝え、中国側の対応を求めた。
東シナ海における日中間の排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚の境界が未画定である中で、中国側の一方的な資源開発は続いている。政府は、日中の地理的中間線の西側において、中国側が東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」(10)以前に設置した4基に加え、2013年6月から2016年5月にかけて新たな12基の構造物が、さらに2022年に新たに2基が設置されたほか、2025年から2026年にかけて、新たに4基の構造物の設置に向けた動きが確認され、これまでに合計22基の構造物が設置されていることを確認している。このような一方的な開発行為は極めて遺憾であり、日本としては、中国側による関連の動向を把握する度に、中国側に対して、一方的な開発行為を中止し、東シナ海の資源開発に関する「2008年合意」に基づく国際約束締結交渉再開に早期に応じるよう強く求めてきている。なお、2019年6月に大阪で行われた安倍総理大臣と習近平国家主席との首脳会談においては、両首脳は資源開発に関する「2008年合意」を推進・実施し、東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするとの目標を実現することで一致している。



また、東シナ海を始めとする日本周辺のEEZにおいて、中国による日本の同意を得ない調査活動も継続して確認されており、その都度、外交ルートを通じて中国側に申入れ及び抗議を行っている。
日中両国は、海洋・安全保障分野の諸懸案を適切に処理するため、関係部局間の対話・交流の取組を進めている。例えば、2018年6月に運用開始した日中防衛当局間の「海空連絡メカニズム」は、両国の相互理解の増進及び不測の衝突を回避・防止する上で大きな意義を有するものである。
日中安保対話、日中高級事務レベル海洋協議、その他の関係部局間の協議を通じ、両国の関係者が直接、率直に意見交換を行うことは、信頼醸成及び協力強化の観点から極めて有意義である。日本政府としては、引き続き個別の懸案に係る日本の立場をしっかりと主張すると同時に、一つ一つ対話を積み重ね、意思疎通を強化していく。
日本海の大和堆周辺水域における違法操業中国漁船への対応について、水産庁取締船及び海上保安庁巡視船による退去警告隻数は、2024年は32隻、2025年は12隻となっており、中国漁船による違法操業が依然として確認されている。こうした状況を踏まえ、中国側に対し、様々な機会を捉えて日本側の懸念を繰り返し伝達するとともに、違法操業問題解決のための実効的措置をとるよう強く申入れを行ってきている。
中国による日本産食品に対する輸入規制については、首脳・外相レベルを含む様々なレベルで早期撤廃を繰り返し強く求めている。
2023年8月、ALPS処理水の海洋放出開始を受けて、中国政府は日本産水産物の輸入を全面的に一時停止すると発表したが、2024年9月、ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制について、日中両政府で「日中間の共有された認識」(11)を発表し、中国側は、国際原子力機関(IAEA)の枠組みの下での追加的モニタリングを実施後、日本産水産物の輸入規制措置の調整に着手し、日本産水産物の輸入を着実に回復させることとなった。同年10月以降、中国を含む第三国専門家も参加して追加的モニタリングが累次実施され、中国政府からは、分析が完了したものについては結果が正常であったと発表されている。2025年3月の日中ハイレベル経済対話で、両政府は、IAEAの枠組みの下で追加的モニタリングを引き続き実施していくことを確認し、分析結果に異常がないことを前提に、日本産水産物の輸入再開に向けて関連の協議を推進していくことで一致した。こうしたやり取りも踏まえ、同年3月、4月及び5月に日本産水産物の輸入再開に伴う技術的事項についての日中当局間協議が開催され、5月28日の第4回技術協議で日中双方は、日本産水産物の対中輸出再開に必要な技術的要件について一致した。2025年6月末には、中国政府から、日本の一部地域の水産物の輸入を回復させる公告が発出され、これにより、日本側輸出関連施設の再登録手続が開始されることとなった。日本産水産物の輸入再開については、2024年9月に発表された「日中間の共有された認識」をしっかり実施していくことが何より重要であり、政府としては、引き続き中国側に対して、日本側輸出関連施設の速やかな再登録を含め、輸出の円滑化について働きかけるとともに、残された10都県産の水産物の輸入規制の撤廃などを強く求めていく。
中国の「国家安全」に係る罪により、2015年5月以降、17人の邦人が拘束されている。一連の邦人拘束事案については、日本政府として、これまで首脳・外相会談など、日中間の様々な機会に早期釈放に向けた働きかけを行ってきている。これまで5人が逮捕前に解放され、1人が服役中に病死、6人が刑期を満了し帰国し、2025年末時点、5人が拘束中(服役中)である。
政府としては、2025年11月の日中首脳会談及び10月の日中外相電話会談を始め、首脳・外相レベルを含む様々なレベル・機会を通じて、早期釈放、改訂反スパイ法を含め拘束理由を始めとする法執行及び司法プロセスにおける透明性の向上、邦人の権利の適切な保護、公正公平の確保並びに人道的な取扱いを中国政府に対して強く求めてきており、引き続きそのような働きかけを粘り強く継続していく。また、邦人保護の観点から、領事面会や御家族との連絡など、できる限りの支援を行っている。
一連の邦人拘束事案発生を受け、在留邦人などに対しては、外務省や在中国日本国大使館・総領事館のホームページなどにおいて、「国家安全に危害を与える」とされる行為は、取調べの対象となり、長期間の拘束を余儀なくされるのみならず、有罪となれば懲役などの刑罰を科されるおそれがあるので注意するよう呼びかけている。また、2023年7月の改訂反スパイ法の施行を受け、外務省海外安全ホームページにおける注意喚起の内容を更新し、より詳細かつ具体的な形で注意喚起を行っている(12)。
日本政府は、化学兵器禁止条約に基づき、中国における旧日本軍の遺棄化学兵器の廃棄処理事業に着実に取り組んできている。2025年は、吉林(きつりん)省敦化(とんか)市ハルバ嶺(れい)地区で発掘・回収及び廃棄処理事業を実施し、黒竜江(こくりゅうこう)省ハルビン市及び湖北省武漢市での廃棄処理事業を実施した。加えて、その他中国各地における遺棄化学兵器の現地調査及び発掘・回収事業を実施した(2025年12月時点の遺棄化学兵器廃棄数は累計約14.9万発)。
(2)台湾
ア 内政・経済
汚職容疑で起訴された柯文哲(かぶんてつ)民衆党主席が2025年1月に辞任したことを受け、2月に主席補欠選挙が行われ、黄国昌(こうこくしょう)氏が党主席に就任した。
1月以降、立法院の膠(こう)着状態の打開を企図する大規模な罷免運動が市民団体主導で進められた。7月及び8月には国民党立法委員31名に対する罷免投票が実施されるも、全て不成立となった。8月27日、行政院は、運動部の新設を含む内閣改造を発表した。
10月、任期満了に伴う国民党主席選が実施され、前立法委員の鄭麗文(ていれいぶん)氏が選出された。
近年、台湾経済は、AIや情報通信機器関連の堅調な需要を背景に好調が続き、2025年の実質GDP成長率はこの15年間で最も高いプラス8.63%となり、一人当たりGDPは3万7,826ドルに達している。頼清徳(らいせいとく)政権は、半導体、AI、軍事、次世代通信などの産業を重視し、社会全体の防衛強靭(じん)性を強化すること、グローバル・サプライチェーンにおける重要な地位を確立することに取り組んでいる。
イ 両岸関係・対外関係
両岸の軍事バランスは、全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している。台湾周辺における中国人民解放軍の活動は増大傾向にあり、軍用機による台湾海峡の中間線越えや艦艇の台湾東部での活動が常態化している。
2025年3月13日、頼清徳総統は国家安全会議ハイレベル会合を招集し、中国による「統一工作」への17項目の対策を発表するとともに、中国は「域外敵対勢力」に合致していると言及した。これを受け、中国は空母や海警が連動する形で4月1日及び2日には軍事演習を実施した。
8月、台湾行政院は2026年度の防衛予算案がGDP比3.32%になると公表するとともに、頼清徳総統は2030年までにGDP比5%を目標とする方針を表明した。
12月17日、米国政府は台湾に対して過去最大となる約111億ドルの武器売却を承認し、議会への通知手続を開始したと発表した。12月29日、中国は同日から台湾周辺において軍事演習を実施すると発表し、演習は31日まで行われた。同演習について、中国は「『台湾独立』勢力と外部干渉勢力に対する厳重な警告」と発表した。台湾周辺海域への実弾射撃及び台湾を取り囲む形で航空機などの進入を禁止する演習区域の設定は2022年8月以来となる。これに対し、日本は本件軍事演習は台湾海峡において緊張を高める行為であり、日本の懸念を中国側に伝達したとの外務報道官談話を発表した。
台湾承認国や欧米諸国に対する台湾当局高官の訪問は2025年も行われ、11月、蕭美琴(しょうびきん)副総統はベルギー・ブリュッセルで開催された「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)年次総会に出席し、台湾の高官としては初めて海外の議会での演説を行った。
台湾海峡の平和と安定は、国際社会全体の安定にとっても重要である。G7においても、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認し、両岸問題の平和的解決を呼びかけることで一致しており、2025年G7外相会合共同声明では、台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調し、特に力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対すると表明している。
台湾は、2009年から2016年までは世界保健機関(WHO)総会にオブザーバー参加していたが、2017年以降は参加できていない。日本は従来、国際保健課題への対応に当たっては、地理的空白を生じさせるべきではないと一貫して主張してきており、こうした観点から台湾のWHO総会へのオブザーバー参加を一貫して支持してきている。2025年G7外相会合共同声明では、適切な国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明している。
4月に米国が台湾に対して課した相互関税については、6回にわたる対面交渉の結果、2026年1月15日、米台双方が、台湾製品に適用される米国の相互関税率は合計15%までとすること、台湾企業が2,500億ドル規模の対米投資を行うことなどの貿易・投資合意に達したと発表した。
ウ 日台関係
台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である。日本と台湾との関係は、1972年の日中共同声明を踏まえ、非政府間の実務関係として維持されている。
日台双方の市民感情は総じて良好であり、公益財団法人日本台湾交流協会の調査(2024年12月から2025年1月実施)によれば、「日本に親しみを感じる(どちらかというと親しみを感じる)」と台湾住民の81%が回答し、台北(たいぺい)駐日経済文化代表処の調査(2025年10月実施)によれば、「台湾に親しみを感じる(どちらかというと親しみを感じる)」と日本人の74.5%が回答したとの結果も出ている。
人的往来について、日本からの海外渡航者数は回復途上であるものの、台湾からの訪日客数は676万人に達し、2024年の604万人を超えて過去最高となった。
2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う輸入規制については、これまで緩和が進められてきたが、11月21日、台湾は全ての日本産食品に対する規制を撤廃すると発表した。台湾側の決定は、被災地の復興を後押しするものであり、日本政府として歓迎している。このほか、5月22日、台湾側は日本産牛肉の輸入に関し、生後30か月未満とする月齢制限を撤廃すると発表した。これにより、2001年から継続していた台湾による日本産牛肉の輸入規制が完全に撤廃された。
日本と台湾は共に大規模な自然災害が多く、これまでも発災時には互いに支援の手を差し伸べてきた。2025年10月には、台風18号による集中豪雨の影響で花蓮(かれん)県において災害が発生したことを受け、日本側から台湾側に対し、河道閉塞(土砂ダム)の水位を観測する水位観測ブイを提供した。引き続き日台間で防災面での協力と交流が深化することが期待されている。
12月、日本台湾交流協会と台湾日本関係協会は「日台デジタル貿易取決め」及び「地方税関の協力に関する日台間覚書」に署名した。こうした成果を通じ、円滑で信頼性の高い自由なデジタル貿易や、水際対策や税関手続の円滑化等、実務面の協力が一層強化されることが期待される。また、半導体サプライチェーン分野での日台協力については、2024年12月、Japan Advanced Semiconductor Manufacturing株式会社(JASM)の熊本第1工場が量産を開始し、第2工場については2025年10月に着工するなど、進展が見られている。
(3)モンゴル
ア 内政
2024年の第9回国家大会議総選挙で首相に再任したオヨーンエルデネ首相に対し、5月以降、同首相子息の婚約者との豪奢(しゃ)な生活ぶりに対する国民の不満が爆発し、同首相の退陣などを求める抗議デモが連日続いた。結果、6月に国家大会議に提出された首相信任決議案が否決され、同首相は辞任し同内閣は総辞職した。
6月、最大与党人民党の推薦によりザンダンシャタル大統領府長官を首相に任命する決議案が可決され、ザンダンシャタル首相が誕生した。同首相は、人民党、人間党及び国民勇気・緑の党の連立政権を発足させた。同首相は、オヨーンエルデネ内閣の政策や党内の団結を維持しつつ、「人を中心に」据えた発展、「公正性を重んじる政府」などのスローガンを実行することを強調している。
イ 外交
中国とロシアに挟まれ、経済・エネルギー面で両国への依存を深めているモンゴルは、両国との良好な関係維持を最優先課題としつつも、「第三の隣国」と位置付ける日本や欧米諸国を始めとする諸外国との関係を強化することでバランスを維持する外交政策を従前から推進している。
2025年も、5月にオーストリア、6月にトルクメニスタン及びウズベキスタンの国家元首のモンゴル訪問がそれぞれ行われたほか、フレルスフ大統領、オヨーンエルデネ首相、ザンダンシャタル首相及びバトツェツェグ外相がそれぞれ諸外国を積極的に訪問するなど、活発な要人外交を展開した。
両隣国との関係では、フレルスフ大統領が8月から9月にかけて中国を訪問し、上海協力機構(SCO)首脳会合、及び中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80年記念大会に出席した。また、11月、ザンダンシャタル首相がロシアでのSCO拡大会合の際にロシアを訪問した。
ウ 経済
2025年、モンゴル経済は、引き続き石炭及び銅などの鉱物資源の対中輸出が堅調となり、石炭の国際価格下落の影響を受けながらもプラス成長が継続した。一方、同年末の物価上昇率は7.5%となり、前年と同様に高止まりの状況で推移した。2025年の経済成長率は、前年から1.9ポイント上昇し6.8%となった。また、2025年の貿易額は、前年比で輸出0.5%減、輸入2.6%減となった。また、国際的な信用格付け機関(S&P)は、モンゴルの信用格付けを「B+」から「BB-」へと引き上げた。
エ 日・モンゴル関係
日本との関係では、2025年もハイレベルの往来や対話が行われた。
3月、バトツェツェグ外相が外務省賓客として来日し、石破総理大臣表敬、岩屋外務大臣との会談などを実施した。7月下旬、大阪・関西万博に出席するため、ドルジハンド副首相が来日した。8月、生稲晃子外務大臣政務官は、モンゴル政府が主催する世界女性ビジネス・リーダーズ会合に出席し、バトツェツェグ外相表敬、チンギス・ハーン国際空港の視察などを行った。
特に、二国間協力の関連では、1月に防衛装備品・技術移転協定が発効するなど安全保障分野で進展が見られた。また、経済交流促進に向け、11月、第12回日・モンゴル官民合同協議会を日本で実施し、ガンホヤグ副首相が同協議会に出席するため訪日した。
7月、天皇皇后両陛下は、フレルスフ大統領の招待を受け、国賓としてモンゴルを御訪問になりました。天皇陛下は2007年(皇太子殿下当時)にモンゴルを御訪問になっており、2度目の御訪問となりましたが、皇后陛下にとっては初の御訪問でした。また、歴代の天皇皇后としても初めてのモンゴル御訪問となりました。今回の御訪問は、両国の深い友好親善関係を内外に示すのみならず、フレルスフ大統領が、日本とモンゴルの二国間関係にとっての金字塔となる御訪問であると述べられるなど、大きな歓待をお受けになりました。

両陛下は、歓迎式典や晩餐(さん)会に御出席になり、また、国民的祭典「ナーダム」では、開会式のほか、弓射や競馬、羊のくるぶしの骨を指で弾(はじ)いて的に当てるモンゴルの伝統的な競技である「シャガイ」など様々な競技を御覧になりました。こうした行事において、フレルスフ大統領夫妻からの温かいおもてなしを受けられました。
御訪問中、ウランバートル市郊外に所在する日本人死亡者慰霊碑において御供花になり、戦後、心ならずも故郷を離れた地で亡くなった方々を慰霊されました。
また、チンギス・ハーン国立博物館やガンダン寺、ウランバートルの西方約100キロに所在する特別自然保護区であり、モンゴルの野生馬であるタヒ(和名:モウコノウマ)を保護しているホスタイ国立公園を御視察になり、モンゴルの歴史・文化や大自然に触れられました。
さらに、日本の無償資金協力により建設されたモンゴル日本病院を御訪問、ガチョールト水源を御視察になり、日本の支援・協力がモンゴルの経済・社会の発展に貢献している様子を御視察になりました。天皇陛下の御関心の深い「水」分野では、モンゴルの水問題に関して関係者のお話に耳を傾けられました。
今回の御訪問を通じ、日本とモンゴルの友好親善を長年にわたって支えてきた関係者と御懇談になったほか、ウランバートル市第149番学校、モンゴルコーセン技術カレッジ、新モンゴル学園などにおいて、両国関係の将来を担うモンゴルの若い人々や子どもたちとも親しく交流されました。
両陛下の御訪問に際しては、御視察先周辺や沿道で大勢のモンゴル国民が歓迎の意を表していたほか、御訪問の様子は、モンゴル国内のメディアにおいても連日好意的に報道されました。特に、両陛下が空港御到着時や御視察先で、モンゴル側から歓迎の意味を込めて差し出される「アーロール」(乾燥させた乳製品)をお口にされるお姿や、ナーダム会場でシャガイ競技を試技された御様子などは、両陛下がモンゴルの文化に敬意を示されていることの現れとして極めて好意的に受け止められました。

今回の御訪問は、日本とモンゴルとの間における、これまでの様々な交流と協力を改めて確認し、若い世代の相互理解と友好親善の未来を展望する重要な機会となりました。日本政府としては、両国の国民の相互理解の更なる深化、日本とモンゴルの友好親善と協力関係の一層の発展のために取り組んでいきます。
(8) ALPS処理水とは、東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System:ALPS)を含む複数の浄化設備により、トリチウム以外の放射性物質の濃度が安全に関する規制基準値を確実に下回るように浄化した水である。海洋放出に当たっては、トリチウムについても安全に関する規制基準値を十分に満たすよう、海水で大幅に希釈する。
(9) 尖閣諸島に関する日本政府の立場については外務省ホームページ参照:
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senkaku/index.html

(10) 「2008年合意」については外務省ホームページ参照:
https://warp.ndl.go.jp/web/20250902074637/https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/press.html

(11) 2024年9月20日に発表された「日中間の共有された認識」については、外務省ホームページ参照:
https://warp.ndl.go.jp/web/20250901221814/https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_01181.html

(12) 外務省海外安全ホームページにおける注意喚起の掲載箇所はこちら(「滞在時の留意事項」10):
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure_009.html

