3 北アフリカ地域情勢(エジプト、リビア、チュニジア、モロッコ、アルジェリア)
(1)エジプト
エジプトは、中東・北アフリカ地域の安定に重要な役割を有する地域大国であり、エルシーシ政権は引き続き安定している。経済面では、新型コロナの影響(観光収入減少、海外労働者の送金減少など)があったが、近年のマクロ経済改革を経て、元々好調であったことも一因となり、近隣諸国との比較では経済的打撃が抑制され、GDPはプラス成長を維持している。
日本との関係は引き続き良好で、2016年のエルシーシ大統領訪日以降、日本式教育の導入、エジプト・日本科学技術大学(E-JUST)支援強化や、大エジプト博物館(GEM)建設計画などの協力案件が進んでいる。また、新型コロナの感染拡大による影響を受けている社会経済活動の活性化に貢献するため、12月の日・エジプト外相電話会談において、茂木外務大臣から、電力セクター支援のための開発政策借款の準備を進めていることが述べられ、2021年2月には同案件の署名が行われた。
2019年4月から派遣されているシナイ半島駐留多国籍部隊・監視団(MFO)の自衛官2人についても、7月には第2次要員が派遣され、引き続き地域の平和と安定に向けた貢献を行っている。
(2)リビア
リビアでは、2011年のカダフィ政権崩壊後、議会と政府が東西に並立し、不安定な状況が続いている。2019年4月には、東部勢力の実力者であるハフタル「リビア国軍」(LNA)総司令官がトリポリへの進軍を指示し、国民統一政府(GNA)傘下の部隊との間で空爆を含む武力衝突へと発展したが、2020年5月以降、トルコの支援を受けたGNA側が反撃に転じ、LNA側はトリポリ近郊から撤退し、現在は中部沿岸都市のシルテと内陸都市のジュフラを結ぶラインで双方の勢力が対峙(たいじ)している。一方、10月にはGNA側とLNA側の間で恒久的停戦合意が署名されるといった前向きな動きも見られ、以降、大きな武力衝突は発生していない状況が継続している。
政治面では、11月に国連主導でリビア人の代表75人が参加した国民対話フォーラムがチュニスで開催され、2021年12月24日の独立記念日に一連の選挙を行うことについて基本的合意が成立した。その後、2021年2月には、一連の選挙実施を担う統一暫定行政機関が国民対話フォーラムにおいて選出され、3月中旬までに代表議会で承認される予定となっている。日本としても、こうした国連主導の政治対話を後押ししてきている。
(3)マグレブ諸国
マグレブ地域は、欧州・中東・アフリカの結節点に位置する地理的優位性や豊富かつ廉価な若年労働力などによる高い潜在性から、アフリカにおいて経済面で高い重要性を有している。また、域内の各国はそれぞれの手法で「アラブの春」を乗り越え政治的な安定を維持してきた。一方で、新型コロナの影響もある中、アルジェリアでは国家財政を支えるエネルギー収入の減少が深刻化しているほか、モロッコ及びチュニジアでも地域格差や高失業率などの克服が課題となっている。加えて、リビアやサヘル地域からの武器や不法移民の侵入による治安面への影響が懸念されている。
チュニジアでは、2019年10月の国民代表議会選挙の結果を受け、2020年2月にファフファーフ新内閣が成立したが政党間不和を解消できず7月に退陣した。その後、9月にムシーシー新内閣が成立し、今後、経済・社会政策が安定的に実施されていくか注目されている。日本との関係では、12月に茂木外務大臣がチュニジアを訪問し、サイード大統領、ムシーシー首相及びナフティ国務長官との会談において、2022年にチュニジアで開催予定の第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向けた連携を確認するとともに、経済分野を含む二国間関係の一層の発展と地域の平和と安定に向けて取り組むことを確認した。

(12月9日、チュニス)

(12月9日、チュニス)
アルジェリアでは、2019年2月以降、ブーテフリカ大統領の長期政権への反発から抗議デモが発生・長期化し、同政権は4月に退陣した。同年12月に大統領選挙が行われ、テブン元首相が当選した。同大統領は「新しいアルジェリア」の実現を掲げて改憲を進め、革命記念日の2020年11月1日に改憲の是非を問う国民投票を実施した。新型コロナの影響に加え、国民の関心の低さなどの理由で、投票率は23.7%と極めて低調であったものの、改憲案は採択された。
モロッコとの間では、両国の皇室・王室の関係を基礎に、長年にわたり友好関係を発展させてきている。こうした中、2020年1月には鈴木外務副大臣がモロッコを訪問、日・モロッコ合同委員会を開催し、経済分野を含め各種協力の具体化について議論したほか、日・モロッコ租税条約及び投資協定が署名した。また、2月には、中谷真一外務大臣政務官を団長とするアフリカ貿易・投資促進官民合同ミッションがモロッコに派遣されるなど、良好な二国間関係が着実に発展した。こうした各種往来や協力を通じ、今後、日本企業の更なるモロッコ進出を通じた両国の経済関係の強化が期待されている。

中谷外務大臣政務官(2月、モロッコ)