外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第7節 中東と北アフリカ

1 概観

中東・北アフリカ地域(以下「中東地域」という。)は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝に位置する。世界の石油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割を占め、世界のエネルギーの供給地としても重要であることに加え、近年では高い人口増加率を背景に、湾岸諸国を中心に経済の多角化を進めており、市場としても高い潜在性を有している。

同時に中東地域は、歴史的に様々な紛争や対立が存在し、今も多くの不安定要因・課題を抱えている。イランをめぐり地域の緊張が高まっていることに加え、2011年に始まった「アラブの春」以降の政治的混乱も各地で継続している。シリアにおいて戦闘が継続し、多くの難民・国内避難民が生まれ、周辺国も含めた地域全体の安定に大きな影響を及ぼしている。イエメンにおいても、イエメン政府及びアラブ連合軍(イエメン政府の要請を受け、サウジアラビアなどが主導)と、ホーシー派との間での衝突により、厳しい治安、人道状況が継続している。また、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」のような暴力的過激主義の拡散のリスクも今なお各地に残存している。一方で、2020年には、これまでの情勢からの変化も見られた。1948年のイスラエル建国以来の歴史的課題である中東和平問題をめぐっては、アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン及びモロッコがイスラエルと国交正常化に合意するという動きがあった。また、アフガニスタンをめぐっては、2月に米国とタリバーンによる合意が成立し、9月からはアフガニスタン政府とタリバーンの間で和平に向けた協議が行われている。

2021年1月に成立した米国のバイデン政権は、トランプ前大統領が離脱したイラン核合意への復帰に向けてイランと協議を行う姿勢を表明し、中東和平に関してはパレスチナとの関係改善に取り組むなど、その諸政策が中東地域に及ぼす影響が注目される。

日本は、原油の約9割を中東地域から輸入しており、日本の平和と繁栄のためにも、中東地域の平和と安定を促進し、中東地域諸国との良好な関係を維持、強化していくことが、極めて重要である。こうした観点から、日本は、近年、経済のみならず、政治・安全保障、文化・人的交流を含めた幅広い分野で、中東地域諸国との関係強化に努めている。1月には米国とイランの対立を背景に中東において緊張が高まる中、事態の更なる悪化を避けるための外交努力の一環として、安倍総理大臣が、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーンの3か国を訪問した。

ムハンマド皇太子と会談を行う安倍総理大臣(1月12日、サウジアラビア・ウラー 写真提供:内閣広報室)
ムハンマド皇太子と会談を行う安倍総理大臣
(1月12日、サウジアラビア・ウラー 写真提供:内閣広報室)

また、新型コロナウイルス(以下「新型コロナ」という。)の感染拡大により外交活動に様々な制約を受ける中、日本は、中東地域に対し新型コロナ対策のため約1億2,200万米ドル規模のODAによる支援を実施している。こうした日本の支援や、特に脆弱(ぜいじゃく)な地域における人間の安全保障の理念に基づく対応の重要性について、国際会議の場で政務レベルからも発信を行っている。

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