外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

2 領事サービスと日本人の生活・活動支援

(1)領事サービスの向上

海外の日本人に良質な領事サービスを提供できるよう、在外公館の領事窓口・電話での職員の対応や業務実施状況などが在留邦人にどのように受け止められているかについてのアンケート調査を毎年実施している。2020年2月に140公館を対象とした調査では、3万9,579人からの有効な回答が得られ、在外公館が提供する領事サービスにおおむね満足しているとの評価が示された。一方、マナーや接客態度について改善を求める意見も寄せられており、利用者の声として真摯に受け止め利用者の視点に立ったより良い領事サービスを提供できるよう、サービスの向上・改善に引き続き努めていく考えである。

(2)旅券(パスポート)の発給と不正取得などの防止

2019年には計449万冊の一般旅券が発行された。2019年12月末時点で、約3,023万冊の一般旅券が有効であり、全てIC旅券4である。

旅券発行数の推移
旅券発行数の推移
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IC旅券の発行により、偽変造など旅券の不正使用は困難になっているが、他人になりすますなどの方法によって旅券を不正取得する事案5は引き続き発生している。日本人又は不法滞在外国人が、不正取得した他人名義旅券を使って出入国する例が見られるほか、名義人の知らないところで金融機関に借金をしたり、他の犯罪をたくらむ者に売り渡す目的で銀行口座が開設されたり、携帯電話が契約されるなどの事例が報告されている。こうした2次・3次の犯罪を助長するおそれのある旅券の不正取得を未然に防止するため、各都道府県にある旅券窓口では、なりすましによる不正取得防止のための審査強化期間を設けるなど、旅券の発給時の本人確認の強化に一層の力を入れている。さらに、刑事訴追されている者、執行猶予中の者、旅券法に違反した者などに対する一般旅券の発給を制限しているほか、逮捕状が発行されている者などで関係機関から外務大臣に通報があった者に対しては、返納を命ずるなどの措置を講じている。

一方、日本の旅券に搭載されているICチップには、顔画像や人定事項などの情報が記録されているが、諸外国では更に指紋などの生体情報を追加するなど、偽変造防止対策を向上させたIC旅券の普及が進んでおり、国際民間航空機関(ICAO)及び国際標準化機構(ISO)でも、IC機能のより効果的な利用が検討されている。また、2016年1月4日から在外公館で運用を開始した「ダウンロード申請書」につき、2018年10月1日から国内でも受付を開始し、申請者の利便性の向上に努めた。

2006年以降、申請の受理や交付などの旅券事務を都道府県から市町村へ再委託することが可能となった。2019年12月末現在、その数は、897市町村に達し、全国の5割強の市町村で旅券事務を行っている状況である。

(3)在外選挙

在外選挙制度は、海外に在住する有権者が国政選挙で投票するための制度である。在外選挙制度を利用して投票するためには、事前に市区町村選挙管理委員会が管理する在外選挙人名簿への登録を申請の上、在外選挙人証を入手する必要がある。2018年6月から、国外転出後に在外公館を通じて申請する従来の方法に加え、国外転出の届出と同時に市区町村窓口で申請することが可能になった。これにより、国外転出後に在外公館に出頭する必要がなくなるなど、手続の簡素化が図られた。投票は「在外公館投票」、「郵便投票」または「日本国内における投票」のいずれか一つを選択することができる。

在外公館では、管轄地域での在外選挙制度の広報や遠隔地での領事出張サービスなどを通じて、制度の普及と登録者数の増加に努めているほか、選挙が実施される際は、事前の広報を含め、在外公館投票事務も担う。

在外選挙
在外選挙

(4)海外での日本人の生活・活動に対する支援

ア 日本人学校、補習授業校

海外で生活する日本人にとって、子供の教育は大きな関心事項の一つである。外務省では、義務教育相当年齢の児童・生徒が海外でも日本と同程度の教育を受けられるよう、文部科学省と連携して日本人学校への支援(校舎借料、現地採用教師謝金、安全対策費などへの一部援助)を行っている。また、主に日本人学校が存在しない地域に設置されている補習授業校(国語などの学力維持のために設置されている教育施設)に対しても、日本人学校と同様の支援を行っている。特に、最近の国際テロ情勢の変化などを踏まえ、安全対策に関連する支援を更に強化・拡充している。今後もこうした支援を継続していく考えである。

イ 医療・保健対策

外務省は、海外で流行している感染症などの情報を収集し、海外安全ホームページや在外公館ホームページ、メールなどを通じ、広く提供している。さらに、医療事情の悪い国に滞在する日本人に対する健康相談を実施するため、国内医療機関の協力を得て巡回医師団を派遣している(2019年度は1か国7都市)。また、感染症や大気汚染が深刻となっている地域に専門医を派遣し、健康安全講話を実施している(2019年度には7か国8都市)。

ウ その他のニーズへの対応

外務省は、海外に在住する日本人の滞在国での各種手続(運転免許証の切替え、滞在・労働許可の取得など)の煩雑さを解消し、より円滑に生活できるようにするため、滞在国の当局に対する働きかけを継続している。

例えば、外国の運転免許証から日本の運転免許証へ切り替える際、外国運転免許証を持つ全ての人に対し、自動車などを運転することに支障がないことを確認した上で、日本の運転免許試験の一部(学科・技能)を免除している。一方、在留邦人が滞在国の運転免許証を取得する際に試験を課している国・州もあるため、日本と同様に手続が簡素化されるよう働きかけを行っている。

また、日本国外に居住する原子爆弾被爆者が在外公館を経由して原爆症認定及び健康診断受診者証の交付を申請する際の手続の支援も行っている。

4 IC旅券は、旅券の偽変造や第三者による不正使用を防止するため、生体情報である顔画像を電磁的に記録したICチップを搭載した旅券。2006年から発行

5 2015年31冊、2016年22冊、2017年21冊、2018年35冊、2019年42冊の不正取得事案を把握

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