外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

各論

1 イラク情勢

2003年の対イラク武力行使終結後、イラクは新たな国づくりを進めてきているが、内政面では、多数派のシーア派、少数派のスンニ派やクルド人などの国内各勢力を包含した国民融和の進展が課題となっている。

2014年4月30日に第3回国民議会選挙が実施された。その結果を受けて、9月には、2期8年にわたって首相を務めてきたマーリキー首相が退陣し、アバーディー首相を首班とする新政権が発足した。アバーディー首相は、就任後、国内の各政治勢力との調整を経て、マーリキー政権下では空席であった内務大臣及び国防大臣の任命を行ったほか、スンニ派やクルド人との対話を行うなど、国民融和の進展に向けた取組を進めてきている。

このような中、イラクにおいて「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」(詳細については15ページのフォーカス参照)は治安上の大きな問題となっている。2014年1月にISILを中心とする武装勢力とイラク軍及び治安部隊との間で武力衝突が発生し、ISILはイラク西部のアンバール県ラマーディー及びファッルージャを制圧した。6月以降は、ISILを中心とする武装勢力の攻勢により、イラク北部のニナワ県モースルなどの北部の都市・村落が次々に占拠され、多数の国内避難民が生じ、深刻な人道危機に陥っている。

アバーディー政権にとっては、国際社会の協力を得つつ、ISILの侵攻をくい止め、これを駆逐していくことが当面の優先課題となっている。昨年12月にアバーディー政権は、クルディスタン地域政府との間で、石油収入の配分をめぐる問題について合意に至った。また、各県毎の国家警備隊の設置について検討を進めている。これは、ISILのイラクにおける勢力拡大の背景とされている、スンニ派の不満の解消に向けた措置と見られている。

日本は、2003年の対イラク武力行使終結後、イラクとの間で良好な関係を維持・強化してきている。アバーディー政権との間でも、2014年9月の国連総会出席の際、安倍総理大臣とマアスーム大統領との首脳会談及び岸田外務大臣とジャアファリー外相との外相会談が行われている。これらの機会を通じ、日本は、イラク政府を含む国際社会による「テロとの闘い」を支持していること、イラクの安定と国民融和の実現に向けてイラクの新政権への支援を継続していくことを表明した。また、日・イラク関係の一層の発展に向けて、エネルギー・電力分野を始めとする各種プロジェクトへの日本企業の参画や、イラクにおける投資環境の改善などについて率直な意見交換が行われた。

2014年7月には牧野外務大臣政務官がイラク北部のクルディスタン地域のエルビルを訪問し、クルディスタン地域政府要人との会談を行った。また、10月に開催されたバグダッド国際見本市に際しては、多くの日本企業が出展した。

そして2015年2月には、薗浦外務大臣政務官が、イラクの首都であるバグダッド及びイラク南部の主要都市であるバスラを訪問し、政府関係者などと意見交換を行い、邦人殺害テロ事件を経てもなお、日本の中東地域全体に対する支援は揺るぎないものであり、過激主義と対峙するイラクにおいて日本が人道支援や国づくり支援などの非軍事分野での貢献を今後も着実に実施していくという確固たる姿勢を示した。

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