第6節 中東と北アフリカ
中東・北アフリカ地域(以下「中東諸国」という。)は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝である。また、国際通商上の主要な海上ルートに位置し、石油、天然ガスなどのエネルギー資源を世界に供給する重要な地域でもある。一方で、この地域は、「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」などの過激主義組織の伸張、イラク情勢、シリア情勢、イランの核問題、中東和平、アフガニスタン、イエメンやリビア情勢など同地域を不安定化させる様々な課題を抱えている。これら諸課題を抱えるこの地域の平和と安定を実現することは、日本を含む国際社会全体にとって極めて重要である。
日本は原油輸入量の8割以上をこの地域に依存していることから、中東諸国との間で、これまで資源・エネルギーを中心とする関係を築いてきた。近年はこれらに加えて、幅広い分野における経済面での協力や政治・安全保障、文化・人的交流といった多層的な関係を構築していくことを目指している。2012年12月の第二次安倍政権発足から2015年1月までの間に、安倍総理大臣はこの地域を5度訪問しており、「安定と繁栄に向けた包括的パートナーシップ」の構想の下、日本と中東諸国との関係を抜本的に強化すべく、政府は種々の外交上の取組に力を入れている。
国際社会全体の重大な脅威となっているISILをめぐる問題については、日本は各国との首脳会談、外相会談や2014年9月の国連総会における安倍総理大臣の一般討論演説、2015年1月の中東政策に関するスピーチなど様々な機会において、テロに対する非難と、国際社会によるテロとの闘いへの支持を表明してきている。2015年1月の安倍総理大臣の中東訪問時には、ISIL対策のため、難民・避難民支援や周辺国に対する人道支援として総額約2億米ドルの支援を表明した(ISILと邦人殺害テロ事件については15ページのフォーカス参照)。
シリア情勢については、2014年1月のシリアに関する国際会議(「ジュネーブ2」会議)や9月のシリア政治プロセス閣僚会合など累次の機会において、岸田外務大臣から人道支援と政治対話への貢献に取り組むことを表明した。日本は2014年までにシリア及び周辺国に対し、4億米ドル以上の人道支援を実施してきている。
中東和平については、2014年5月のネタニヤフ・イスラエル首相訪日時や、2015年1月の安倍総理大臣のイスラエル・パレスチナ訪問時に首脳レベルで和平交渉再開を働きかけた。また、「平和と繁栄の回廊」構想や「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」といった日本独自のパレスチナ支援の取組を着実に進めている。
また、2013年11月のイランとEU3+3との暫定合意に基づく交渉が続くイランの核問題についても、日本は日・イラン首脳会談(2014年9月)やザリーフ・イラン外相の訪日(2014年3月)などの機会にイラン側に一貫して柔軟な対応を求めるなど、日本独自の立場から働きかけを行った。
中東諸国の中には、近年、急速に増加する若年人口を活力として着実な経済発展を遂げ、市場や投資先としての存在感を高めている国も多い。そのため、日本は、こうした中東諸国との間で、EPA/FTA、投資協定、租税協定、社会保障協定など経済・ビジネス関係の強化の基盤となる法的枠組みの構築やインフラの海外展開などにも取り組んでいる。安倍総理大臣の中東諸国への訪問時においても、大企業から中小企業まで様々な業種・業態の企業を含む経済ミッションが同行し、日本の「強み」を各国首脳や経済界に積極的に売り込んでいる。