外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

4 軍縮・不拡散・原子力の平和的利用

(1)概観

日本は、自国の安全を確保・維持し、また、日本国憲法がうたっている平和主義の理念を基礎として、平和で安全な世界を目指すため、国際社会の責任ある一員として軍縮・不拡散に取り組んでいる。その対象は、大量破壊兵器(一般に核兵器・生物兵器・化学兵器を指す。)、通常兵器、ミサイルを含む運搬手段とそれらの関連物資・技術である。

核兵器については、日本は唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」を実現させるべく、様々な外交努力を行っている4。現在の国際的な核軍縮・不拡散体制の基礎となっているのは、核兵器不拡散条約(NPT)である。日本は、このNPT体制を維持・強化するために、現実的かつ実践的な提案を打ち出して行くに当たり、非核兵器国12か国5からなるグループ「軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)」をオーストラリアと共に主導し、NPT運用検討会議準備委員会への作業文書の提出や共同ステートメントの発表などを通じ、具体的貢献を行っている。

核兵器以外の大量破壊兵器である生物兵器や化学兵器、また、通常兵器についても、関連する条約の運用の強化と普遍化に向けた努力を日本として行っている。

このほか、ジュネーブ軍縮会議(CD)における兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)などの新たな条約交渉の開始や国際原子力機関(IAEA)6の保障措置7の強化・効率化に向けて日本として取り組んでいる。

各種の国際輸出管理レジームや「拡散に対する安全保障構想」(PSI)8、核セキュリティ強化9に向けた取組についても積極的に参画している。

さらに、二国間の対話を通じた軍縮・不拡散外交も積極的に行っており、二国間原子力協力協定の締結などによる原子力の平和的利用の促進やロシア退役原子力潜水艦の解体支援など10、その活動は多岐にわたっている。

(2)核軍縮

ア 核兵器不拡散条約(NPT)

2010年のNPT運用検討会議で合意されたNPTの3本柱(①核軍縮、②核不拡散、③原子力の平和的利用)に関する将来に向けた具体的な行動計画を各国が着実に実施していくことが重要である。次回の2015年運用検討会議に向けて、2013年にジュネーブで第2回準備委員会が行われた。なお、同行動計画で2012年に開催することとなっていた中東非大量破壊兵器地帯に関する国際会議は、2013年現在も開催の目途が立っていない。

イ 軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)

NPDIは、メンバー国の外相自身による関与の下、現実的かつ実践的な提案を通じ、核兵器国と非核兵器国の橋渡しの役割を果たし、軍縮・不拡散分野における国際社会の取組を主導している。2013年4月にハーグで行われた第6回外相会合では、核兵器の役割低減や非戦略核など、2015年NPT運用検討会議第2回準備委員会に提出する作業文書に合意した。また、岸田外務大臣から、「ユース非核特使」制度の立ち上げが表明された。9月の第7回外相会合では、ナイジェリアとフィリピンが新たにグループに参加した。2014年4月には広島においてNPDI外相会合が開催される予定となっている。

ウ 包括的核実験禁止条約(CTBT)11

日本は、NPTを基礎とする核軍縮・不拡散体制を支える重要な柱であるCTBTの早期発効を重視し、未批准国への働きかけなどの外交努力を継続している。2013年9月、国連本部において第8回CTBT発効促進会議が開催された。岸田外務大臣は、事実上の国際規範となりつつある核実験の禁止に関し3つの行動12を提案し、国際社会の先頭に立って取り組んでいく決意を改めて表明した。また、発効促進のための賢人グループの活動支援と核実験を探知するためのシステムに対し、45.5万米ドルを供与した。

エ 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:カットオフ条約)13

CDにおけるFMCTの交渉がパキスタンの反対により開始されていないことを受け、2012年に国連総会でFMCTに関する政府専門家会合(GGE)の設置が決定された。GGEは2014年及び2015年に開催されることとなっており、日本はGGEメンバーとして交渉開始に資する議論となるよう貢献していく。

オ 軍縮・不拡散教育

近年、軍縮・不拡散問題への取組を推進する上で、市民に対する軍縮・不拡散についての教育の重要性が国際社会に広く認識されてきており、日本は、唯一の戦争被爆国として、軍縮・不拡散教育を積極的に推進してきている。日本の取組として、被爆証言の多言語化、各国若手外交官の被爆地研修の実施、NPT運用検討会議のプロセスにおける作業文書の提出や演説を実施している。このほか、被爆経験者を「非核特使」として委嘱し、国際会議等で被爆体験証言をするなど被爆の実相を国内外に伝達する活動を政府として後押ししている。さらに、日本における国連軍縮会議開催に際した協力も行っている。近年被爆者が高齢化する中、これまでの「非核特使」制度に加え、2013年6月に新たに若い世代を対象とした「ユース非核特使」制度を創設し、広島・長崎の被爆の実相を世代を越えて語り継いでいく取組にも重点を置いている。

カ その他の多国間での取組

2013年9月、国連総会において、核軍縮に関するハイレベル会合が開催され、日本から安倍総理大臣及び岸田外務大臣が出席した。また、10月、国連総会第1委員会においてニュージーランドが行った核兵器の人道的結末に関する共同ステートメントについて、これが日本の安全保障政策や核軍縮アプローチとも整合的な内容に修正されたことを踏まえ、参加した。さらに、12月に開催された第68回国連総会においては、日本が1999年以降毎年提出している核軍縮決議が過去最多の102か国の共同提案国を集め、賛成169、反対1(北朝鮮)、棄権14と圧倒的多数の支持を得て採択された。

キ その他の二国間での取組

核軍縮・不拡散及び環境汚染防止の観点から、日露非核化協力委員会を通じ、ロシアにおける退役原子力潜水艦解体関連事業を実施している14。また、ウクライナやカザフスタンとの間でそれぞれ設立した非核化協力委員会を通じ、核セキュリティ強化に資する協力を実施している15

世界の核弾頭数の状況(2013年)
世界の核弾頭数の状況(2013年)

(3)不拡散

ア 大量破壊兵器などの拡散防止の取組

日本は、不拡散体制の強化のために様々な外交努力を行っている。日本はIAEA指定理事国16としてその活動に人的・財政的貢献を行っている。国際的な核不拡散体制の中核的な措置であるIAEAの保障措置については、日本は、より多くの国が追加議定書17を締結するようIAEAが主催する地域セミナーへの人的・財政的支援を含め、IAEAと協力し、様々な協議の場で各国に働きかけている。

輸出管理レジームは、兵器やその関連汎用品・技術の供給能力を持ち、かつ、適切な輸出管理を支持する国々による協調のための枠組みである。核兵器、生物・化学兵器、ミサイル18、通常兵器それぞれの輸出管理レジームに、日本はすべて参加し、貢献している。特に、原子力供給国グループ(NSG)に対しては、ウィーン日本政府代表部が事務局の役割を果たしている。

また、日本は「拡散に対する安全保障構想(PSI)」の取組を重視しているほか、不拡散体制への理解促進と取組の強化を目指し、アジア不拡散協議(ASTOP)19やアジア輸出管理セミナー20を通じ、アジア諸国を中心に地域的取組の強化のための働きかけを行っている。さらに、ロシアや中央アジアなどで大量破壊兵器やその運搬手段の研究開発に関与していた科学者などを国際科学技術センター(ISTC)を通じて平和目的の研究に従事させることにより、大量破壊兵器に関する知識・技能の拡散防止と国際的な科学協力に貢献している。

イ 地域の不拡散問題

北朝鮮の核・ミサイル開発の継続は、国際社会の平和と安全に対する重大な脅威であり、特に核開発は国際的な核不拡散体制に対する重大な挑戦である。

2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮計画の存在を認め、これを契機に核問題が再び深刻化し21、2006年7月にテポドン2を含む7発の弾道ミサイルが発射され、10月には核実験実施に至った。

その後六者会合においては、2007年に「共同声明の実施のための初期段階の措置」及び「共同声明の実施のための第二段階の措置」が採択され、右措置の一環として、寧辺(ヨンビョン)の3つの核施設の無能力化がされたが、まもなく北朝鮮はこれらの措置の中断を発表した。北朝鮮は、2009年4月にミサイルを発射、5月に核実験を実施するなど、強硬姿勢を強めた。

また、2010年11月には、北朝鮮は訪朝したヘッカー・スタンフォード大学教授らに、ウラン濃縮施設等を視察させた。さらに、2012年には4月と12月の2度にわたり、累次の国連安保理決議に違反してミサイルの発射を行った。

2013年に入ってからも、北朝鮮は依然として核・ミサイルの開発を継続しており、2月には3度目となる核実験を強行した。これを受け、国連安保理は3月に決議第2094号を採択した。加えて、北朝鮮は4月には寧辺の核施設の再稼働の意思を表明した。同年夏頃より、黒鉛減速炉の再稼働の兆候が報道されている。日本は、引き続き北朝鮮に対し、ウラン濃縮活動の即時停止を含め、すべての核兵器及び既存の核計画の放棄に向けた措置を着実に実施するよう強く求めつつ、北朝鮮の非核化に向けて引き続き米韓を含む関係国と緊密に連携していく考えである(第2章第1節1(1)「北朝鮮」参照)。

また、イランの核問題も、国際的な核不拡散体制への重大な挑戦である。2003年以降、その活動の停止などを求めるIAEA理事会決議22及び国連安保理決議23がそれぞれ採択されてきた。それにもかかわらず、イランはウラン濃縮関連活動を継続していたが、2013年8月ローハニ政権が発足して以降、交渉姿勢に変化が現れた。11月、EU3(英仏独)+3(米中露)との協議において、イランは20%濃縮ウランの5%への希釈又は酸化ウランへの転換、アラク重水炉に関する活動の停止に合意した。また、IAEAとの協議24では、イランがガチン鉱山や重水製造施設の関連情報と管理されたアクセス等を提供することなどで合意した。同時期にイランを訪問した岸田外務大臣は、IAEA追加議定書の批准・実施などのIAEAとの完全な協力、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准などの措置をとることを働きかけた。日本はIAEA及びEU3+3とイランの合意を問題の包括的解決に向けた具体的な一歩であると評価する一方で、引き続き問題の包括的解決に向けた努力が行われることが重要であるとの立場である。米国を始めとするEU3+3などと緊密に連携しながら、イランとの伝統的友好関係に基づく働きかけを継続し、問題の平和的・外交的解決に向けた貢献を行っていく。

シリアによるIAEA保障措置の履行に関する問題も、2008年以降、IAEA理事会において取り上げられている。2011年、IAEA理事会は、デイル・エッゾールにおける未申告での原子炉建設がIAEA保障措置協定下の違反を構成することを認定した。シリアがIAEAに対して完全に協力し、事実関係が解明されるためにも同国が追加議定書を署名・批准し、これを実施することが極めて重要である。

大量破壊兵器、ミサイル及び通常兵器(関連物質などを含む)の軍縮・不拡散体制の概要
大量破壊兵器、ミサイル及び通常兵器(関連物質などを含む)の軍縮・不拡散体制の概要

(4)原子力の平和的利用

ア 多国間での取組

近年、国際的なエネルギー需要の拡大や地球温暖化問題への対処の必要性などから、原子力発電の拡充や新規導入を計画する国が増加しており、東京電力福島第一原子力発電所の事故後も、原子力発電は国際社会における重要なエネルギー源となっている25

一方、原子力発電に利用される技術や機材、核物質が軍事転用が可能であることや、一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得ることから、原子力の平和的利用に当たっては、①核不拡散、②原子力安全(原子力事故の防止に向けた安全性の確保など)、③核セキュリティ(核テロ対策)の「3S」26の確保が重要である。日本はこれまで、二国間、多国間の枠組みを通じて、「3S」確保の重要性に関する国際社会の共通認識を形成するための外交を展開している。

また、東京電力福島第一原発の状況について適切な情報発信を行うとともに、国内外の叡智と技術を集結してその解決に取り組むこととしている。このため、IAEAによる廃炉レビューミッション(2013年4月及び11月)、除染ミッション(2013年10月)、海洋モニタリング専門家(2013年11月)の受入れなど、国際社会との連携・協力を進めている。

また、事故の経験と教訓を世界と共有し、国際的な原子力安全の向上に貢献していくとの観点から、日本とIAEAは、緊急事態の準備及び対応の分野における訓練活動を行うため、「IAEA緊急時対応能力研修センター」(IAEA・RANET・CBC)を2013年5月に福島県に指定し、国内外の関係者を対象とした研修を実施している。

イ 二国間原子力協定

二国間原子力協定は、特に原子力の平和的利用の推進と核不拡散の確保の観点から、原子炉のような原子力関連資機材等を移転するに当たり、移転先の国からこれらの平和的利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものである。

また、日本は、「3S」を重視する観点から、最近の原子力協定においては、原子力安全面に関する規定も設けており、協定の締結により、原子力安全の強化などに関し、協定に基づく協力の促進も可能となる。

福島第一原発の事故後も、日本の原子力技術に対する期待が、引き続き複数の国から表明されている。二国間の原子力協力については、同事故に関する経験と教訓を世界と共有することにより、国際的な原子力安全の向上に貢献していくことが日本の責務である。この認識の下、相手国の事情や意向を踏まえつつ、世界最高水準の安全性を有するものを提供していく考えである。このため、原子力協定の枠組みを整備するかどうかについては、核不拡散の観点や、相手国の原子力政策、相手国の日本への信頼と期待、二国間関係などを総合的に勘案し、個別具体的に検討していくこととしている。

なお、日本は、2013年末までに米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、中国、欧州原子力共同体(EURATOM)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシアとの間でそれぞれ原子力協定を締結し、トルコとアラブ首長国連邦との間でそれぞれ原子力協定の署名を行った。

ウ 核セキュリティ・サミット

核セキュリティについては、2001年の米国同時多発テロ事件以降国際的な関心が高まっており、2010年の米国に続き、2012年には、第2回目となるサミットがソウルで開催された(第3回は2014年オランダのハーグで開催)。日本は、ソウル・サミット時に立ち上げた輸送セキュリティ作業部会を主導するなど国際的な貢献を積極的に行うとともに、国内の核セキュリティ強化の取組も原子力規制委員会を中心に進めている。

特集
核セキュリティ(いわゆる核テロ対策)の強化
1.核セキュリティ

2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、国際社会は新たな緊急性をもってテロ対策を見直し、その取組を強化しています。核物質や放射線源がテロリストの手に渡り悪用された場合、人々の生命・財産への被害や、広域の社会・経済への大きな影響も想定されます。こうした核テロを未然に防ぐための対策が核セキュリティであり、国際社会の喫緊の共通課題となっています。

2.注目を浴びる日本の取組

2013年7月に、IAEA主催では初めての核セキュリティに関する閣僚級会議である「核セキュリティに関する国際会議:グローバルな努力の強化」(於:ウィーン)が開催されました。この会議で、日本は、これまで一貫して、保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)に、核セキュリティ(Security)を加えた「3S」の重要性を主張してきていること、2012年には「3S」を独立した組織で一元的に扱う原子力規制委員会を設置したことなどを紹介しました。さらに、国際的取組として、2010年に日本原子力研究開発機構(JAEA)内に立ち上げた核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)が、IAEAなどとの協力の下、アジア諸国を中心とする各国の能力構築支援を行ってきており、今後も貢献を継続することを表明しました。

また、2013年11月には、日本が主導して、他の有志国(米国・英国・フランス・韓国)と共に、核物質及びその他の放射性物質の輸送セキュリティに関する机上演習を開催しました。この結果を受け、2014年3月のハーグ核セキュリティ・サミット(於:オランダ)の際に、輸送セキュリティ強化に向けた共同声明と提言を含むレポートを発表する予定です。

各国の能力構築支援にも活用されるバーチャル・リアリティ・システムを用いた模擬訓練の様子(写真提供:JAEA/ISCN)
各国の能力構築支援にも活用されるバーチャル・リアリティ・システムを用いた模擬訓練の様子(写真提供:JAEA/ISCN)
3.中・長期を見据えて

日本は、原子力発電の利用経験が長く、核燃料サイクルを推進しており、高い水準の技術や人材を有しています。防護の対象となる使用済み燃料等の核物質や放射性物質も多く保持しているため、日本の取組に対する各国からの注目度も高く、また、東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した国として果たすべき役割は重大です。このため、今後とも核セキュリティ・サミットを始めとする様々な場において積極的に貢献していくことが、原子力を利用する日本の責務と考えています。

また、2014年1月の岸田外務大臣による政策スピーチにおいて、核不拡散に関する新たな政策理念として、「3つの阻止」を打ち出しましたが、その中にも「核テロの阻止」を掲げています。2013年12月に閣議決定された「世界一安全な日本」創造戦略の中に掲げている国内の核テロ対策強化と併せ、引き続き、核セキュリティを国政の重要課題と位置付けて取り組んでいきます。

(5)生物兵器・化学兵器

ア 生物兵器

生物兵器禁止条約(BWC)27は、生物兵器の開発・生産・保有などを包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みである。条約遵守の検証手段に関する規定がなく、条約をいかに強化するかが課題となっている。

2013年は、8月に専門家会合が、また、12月に締約国会合が開かれた。日本は、専門家会合において、バイオ技術・生物剤が本来の目的から外れ悪用・誤用され得るという二重用途性(デュアル・ユース)の認識を取り込んだ科学者の行動規範に関する専門家による発表を行うなど条約強化のための議論に貢献した。

イ 化学兵器

化学兵器禁止条約(CWC)28は、化学兵器の開発・生産・保有・使用などを包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めている。条約の遵守を検証制度(申告と査察)によって確保しており、大量破壊兵器の軍縮・不拡散に関する国際約束としては画期的な条約である。CWCの実施機関として、ハーグ(オランダ)に化学兵器禁止機関(OPCW)が設置されている。日本は、加盟国を増やすための協力、条約の実効性を高めるための締約国による条約の国内実施措置の強化及びそのための国際協力につき積極的に取り組んでいる。

シリアの化学兵器については、2013年9月以降、その廃棄のため、OPCWの決定及び関連する国連安保理決議に従って、国際社会の努力が行われている。日本としても、二度と化学兵器が使用されることがないよう、可能な限りの協力を行うこととしている。OPCW及び国連の活動を財政的に支援するとともにOPCWの査察官として勤務経験を有する陸上自衛官を派遣する用意があると表明している。

また、日本は、CWCに基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器について、国内の老朽化した化学兵器と同様に廃棄義務を負っている。中国と協力しつつ、1日も早い廃棄の完了を目指して最大限の努力を行っている。

OPCWは、これまでの化学兵器全面禁止に向けた貢献とシリアにおける対応が評価され、2013年ノーベル平和賞を受賞した(詳細については95ページのコラム参照)。

(6)通常兵器

ア クラスター弾29

日本は、クラスター弾の人道上の問題を深刻に受け止め、被害者支援や不発弾処理といった対策を実施するとともに、クラスター弾に関する条約(CCM)30の締約国を拡大する取組を継続している。また、ラオスやレバノンなどのクラスター弾の被害国に対し、不発弾処理や被害者支援事業の協力を行っている31

イ 小型武器

事実上の大量破壊兵器とも称される小型武器は、その操作の手軽さゆえに、非合法拡散が続いている。少なくとも年間50万人が小型武器の使用の結果死亡しているとされ、紛争の長期化や激化、治安回復や復興開発の阻害などの問題の一因となっている。日本は、毎年の国連小型武器決議の国連総会への提出を始め、国連における取組に貢献すると同時に、世界各地において武器回収、廃棄、研修などの小型武器対策プロジェクトを支援している。

ウ 対人地雷

日本は、実効的な対人地雷禁止と被害国への地雷対策支援(地雷除去、被害者支援等)の双方を強化する包括的な取組を推進している。アジア太平洋地域各国への対人地雷禁止条約(オタワ条約)32締結の働きかけに加え、1998年以降、49か国・地域に対して約530億円を超える地雷対策支援を実施してきている。2013年12月に開催された第13回締約国会議において、日本は、2年間の任期で、同条約の枠組における地雷除去に関する常設委員会の議長に就任した。また、地雷対策支援のドナー国から成る「地雷対策支援グループ(Mine Action Support Group)」の議長役も、2014年1月から務めることとなった。

エ 武器貿易条約(ATT)

通常兵器の国際貿易を規制するための国際的な共通基準を確立し、不正な取引等を防止するためのATTが、2013年4月に国連総会で採択され、日本は、ATTの署名開放日の6月3日に署名を行った。日本は、ATTの原共同提案国としてATTの作成を主導した。2013年9月にニューヨークで開催された、ATTハイレベル会合において、岸田外務大臣は、日本の早期締結に向けた決意を表明するとともに、武器主要取引国を含む全ての国に対して早期署名及び早期締結に向けた努力を呼びかけた。

4 より詳細な日本の核軍縮・不拡散分野の政策については2013年発行の「日本の軍縮・不拡散外交(第六版)」(外務省編http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gun_hakusho/2013/index.html)を参照。

5 2010年9月に日本、オーストラリアが立ち上げ、カナダ、チリ、ドイツ、ポーランド、メキシコ、オランダ、トルコ、アラブ首長国連邦、フィリピン及びナイジェリアの計12か国が参加。

6 IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とし、1957年に設立された。事務局はウィーンに設置されている。最高意思決定機関は全加盟国で構成され年1回開催される総会である。総会に対して責任を負うことを条件に、35か国で構成される理事会がIAEAの任務を遂行する機関として機能している。2013年12月現在、159か国が加盟。天野之弥氏が2009年12月以降事務局長を務めている。

7 IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、査察などの手段により、核物質が平和的目的だけに利用され、核兵器などに転用されないことを担保するために行われる検認活動(査察、各国の計量管理(核物質の在庫量の管理)記録のチェックなど)。NPT締約国たる非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内の全ての核物質について保障措置(包括的保障措置)を受け入れることが求められている。

8 PSIとは、大量破壊兵器などの拡散阻止のため各国が国際法・各国国内法の範囲内で共同してとり得る措置を実施・検討するための取組で、2003年5月に発足。2013年12月現在102か国が、PSIの活動に参加・協力している。日本は、PSI海上阻止訓練を2004年及び2007年の2度主催し、2010年11月に東京においてオペレーション専門家会合(OEG)を主催したほか、2012年7月には日本で行うものとしては初のPSI航空阻止訓練を主催した。また、他国が主催する訓練及び関連会合にも積極的に参加している。2013年5月には、PSI創設10周年を記念するハイレベル政治会合がPSI参加国のうち72か国の参加を得てポーランドにて開催され、日本からも参加した。

9 核物質等がテロリストやその他の犯罪者の手に渡ることを防ぐための措置。

10 原子力潜水艦解体作業で取り出された原子炉区画を長期陸上保存するために必要な機材を供与(2012年)。

11 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止。1996年に署名開放されたが、2013年3月現在、条約発効のために批准が必要な国(発効要件国)全44か国のうち、中国、エジプト、イラン、イスラエル、米国が未批准、インド、北朝鮮、パキスタンが未署名のために未発効となっている。

12 ①核実験が行われた場合の国際社会全体による協調的かつ強固な反対を呼びかけ、核実験の禁止に関する国際規範化を推進すること、②CTBTにおける国際監視制度(IMS)の有効性を実例と共に示しつつ、当該ネットワークを早急に完成させる重要性を訴えること、③各国による政治的アクションを強化し、発効要件国の批准に向け全ての国がそれぞれの立場から積極的に働きかけ、行動すること。日本としても、各国と連携しつつ、CTBT発効促進に向けたハイレベルでの働きかけを積極的に行っていくことを表明。

13 核兵器その他の核爆発装置製造のための原料となる核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウムなど)の生産を禁止することにより、核兵器の数量増加を止めることを目的とする条約構想。

14 退役原子力潜水艦解体事業「希望の星」は、2002年6月のG8カナナスキス・サミット(於:カナダ)において合意された。大量破壊兵器及びその関連物質の拡散防止を主な目的とする「G8グローバル・パートナーシップ」の一環として実施されたもので、2009年12月までに計6隻を解体して完了した。2010年8月からは、解体した原子力潜水艦の原子炉区画を安全に保管するため原子炉区画陸上保管施設の建設に対する協力を実施している。

15 また、2011年1月、日・ウクライナ核兵器廃棄協力委員会を通じ、ハリコフ物理化学研究所核セキュリティ強化、さらに、同年11月、日・カザフスタン核兵器廃棄協力委員会を通じ、カザフスタン核セキュリティ防護資機材整備に対する協力をそれぞれ実施している。

16 IAEA理事会で指定される13か国。日本を始めG8などの原子力先進国が指定されている。

17 包括的保障措置協定に追加して、各国がIAEAとの間で締結する議定書。追加議定書の締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大されるなど、検認活動が強化される。2013年12月現在、122か国が締結。

18 弾道ミサイルに関しては、輸出管理体制のほかにも、その開発・配備の自制などを原則とする「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範」(HCOC)があり、日本は2013年5月から1年間議長国を務めている。

19 ASTOPとは、日本のほか、ASEAN10か国、中国、韓国、米国、オーストラリア、カナダ及びニュージーランドが参加し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行う日本主催の多国間協議。最近では2013年11月に開催された。

20 アジア諸国・地域の輸出管理当局関係者などの参加により、アジア地域における輸出管理強化に向けて意見・情報交換をするセミナー。1993年から毎年東京で開催しており、最近では2013年2月に開催し、41か国・地域・機関が参加した。

21 2003年1月、北朝鮮はNPTから脱退することを通告し、その後、1994年10月に米朝間で署名された「合意された枠組み」の下で凍結していた5メガワットの実験炉を再稼働させ、使用済み核燃料棒の再処理を再開した。

22 2003年9月のIAEA理事会決議や10月のEU3(英国、フランス、ドイツ)とのテヘラン合意を受け、イランは濃縮関連活動の停止の約束のほか、保障措置に関する是正措置やIAEA追加議定書の署名など一時的には前向きな対応を見せたものの、活動を継続した。また、2004年11月のEU3とのパリ合意により同活動を停止したものの、2005年8月には再開している。これを受け、2005年9月、IAEA理事会は、イランによる保障措置協定の違反を認定し、2006年2月のIAEA特別理事会において、イランの核問題を国連安保理に報告する決議を採択し、これ以降、イランの核問題は国連安保理でも協議されるようになった。

23 これまでイランの核問題に関連し、累次の国連安保理決議が採択されているが、これらの決議は、国連憲章第7章下で、イランに対し、全ての濃縮関連・再処理活動及び重水関連計画の停止、未解決の問題の解決などのため、IAEAに対するアクセス及び協力を提供することを義務付け、また、追加議定書の迅速な締結を要請しており、決議第1835号は、イランに対しこれら4本の決議の義務を遅滞なく遵守するよう求めている。また、決議第1737、1747、1803号は、核関連物資の対イラン禁輸やイランの核・ミサイル関連個人・団体の資産凍結などの憲章第7章第41条下のイランに対する措置を含んでおり、決議第1929号は、イランに対する追加的な措置として、武器禁輸の拡大、弾道ミサイル開発の規制、資産凍結・渡航制限対象の拡大、金融・商業分野、銀行に対する規制の強化、貨物検査などの包括的な措置を含んでいる。

24 IAEAとイランとの間の協力のための枠組みについての共同声明(11月11日)
1.合意内容
・IAEAとイランは、全ての未解決の問題の解決を通じ、イランの核計画が完全に平和的性質であることを確保するための協力と対話を強化する。
・この関連で、双方は、全ての現在及び過去の問題を解決するためのIAEAによる検証活動において更に協力する。この協力には、イランがIAEAに対し、透明性のための措置を実施すること及び核施設に関し適時に情報を提供することが含まれる(詳細は下記2参照)。
・IAEAは、管理されたアクセス及び機密情報の保護を含め、イラン側の安全保障上の懸念を考慮する。
・最初のステップとして、双方は、(下記2の)実際的な措置に合意し、イランは、(関連施設に対する)アクセスと情報をこの合意の日(11月11日)から3月以内に提供する。
2.今後3か月以内に、イラン側が取るとされた措置
(1)相互に合意された範囲でのガチン鉱山(イラン国内のウラン鉱山)についての関連情報と管理されたアクセスの提供
(2)相互に合意された範囲での重水製造施設(注:かねてよりプルトニウムの製造に結びつきやすいとされ、懸念されてきたイランの重水炉施設の一部)についての関連情報と管理されたアクセスの提供
(3)全ての新規の研究炉についての情報提供
(4)(イラン側により)原発建設予定地として指定された16か所の特定に関する情報提供
(5)追加的な濃縮施設に関してなされたイラン側発表の明確化
(6)レーザー濃縮技術に関してなされたイラン側発表に関する更なる明確化

25 IAEAによれば、2013年12月現在、原子炉は世界中で436基が稼働中であり、72基が建設中(http://www.iaea.org/programmes/a2/)。

26 核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字を取って「3S」と称されている。

27 1975年3月発効。締約国数は170か国(2013年12月現在)。

28 1997年4月発効。締約国数は190か国(2013年12月現在)。

29 一般的に、航空機などから投下、発射される容器の中に複数の子弾を内蔵した弾薬のこと。不発弾が多いことが問題とされ、不発弾による民間人の被害が問題となっている。

30 クラスター弾の使用、所持、製造などを禁止するとともに、貯蔵クラスター弾の廃棄、汚染地域におけるクラスター弾の除去などを義務付ける条約で、2010年8月に発効した。2013年12月現在の締約国数は、日本を含め84か国。

31 クラスター弾対策及び対人地雷対策に関する国際協力の具体的な取組については、政府開発援助(ODA)白書を参照。

32 対人地雷の使用・生産などを禁止するとともに、貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去などを義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2013年12月現在の締約国数は、日本を含め161か国。

このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る