1 シリア情勢
シリア・アラブ共和国では、2011年3月以降の混乱に拍車がかかり、政府と反政府勢力との間の暴力的衝突に国外からイスラム過激派勢力が加わり、人道状況が急速に悪化した。そのような状況の中、2013年1月にクウェートで開催されたシリア人道支援会合で、日本は、シリア及び周辺国への人道支援として、約6,500万米ドルの追加支援を行うことを検討していると表明した。また、6月には、日本は、シリア政府や国際機関の支援の手が及ばない地域の人々に対する支援(いわゆるクロスボーダー支援)を新たに行っていくと表明した。
8月21日に発生した首都ダマスカス郊外での化学兵器使用をめぐる問題は、緊張を一気に高め、様々な側面において、シリア情勢に大きな影響を与えた。
化学兵器の問題に関しては、米国などによるシリアに対する軍事行動の可能性が残される中、9月のG20サンクトペテルブルク・サミット(於:ロシア)の機会に、シリアにおける化学兵器の使用を強く非難する有志国共同声明が発出され、日本もこれに参加した。同月14日には米露間でシリアの化学兵器を国際管理下に置くこと等について合意がなされた。これを受け、28日にはシリアの化学兵器廃棄に関する化学兵器禁止機関(OPCW)の決定が採択され、続いて、同日、これを補強する国連安保理決議第2118号が採択された。9月の国連総会の一般討論演説では、安倍総理大臣がシリアの化学兵器の廃棄に向けた国際社会の努力に日本として能(あた)うる限りの協力を行うと表明した。具体的には、11月に、OPCWに対し、査察官としての勤務経験を有する自衛官を派遣する用意があると通報したほか、12月には、OPCW及び国連への財政的支援として、2013年度補正予算政府案に総額約15億円を計上したと発表した。
人道支援に関しては、化学兵器使用をめぐる問題の発生を受け、シリア国外に流出したシリア難民数は9月初旬には200万人を突破した。9月のG20サンクトペテルブルク・サミットの機会には、シリアに関する人道支援会議が開催された。日本からは麻生副総理大臣兼財務大臣が出席し、人道支援に一層積極的に取り組んでいくとのスピーチを行った。さらに、国連総会の一般討論演説で、安倍総理大臣がシリア及び周辺国への人道支援として、新たに約6,000万米ドルの追加的な支援を行うことを表明した。シリアへの支援については、この追加支援のほか、12月には、シリア難民の厳しい人道状況に対処するため、これらの難民が流入した周辺国であるイラク及びトルコへのテント・毛布・スリーピングマットなどの無償譲渡を決定し、引渡しを行った。また、12月にソウルで開催されたシリア・フレンズ経済復興開発ワーキング・グループ第3回会合にも参加し、日本が得意とする水分野における支援を行っていくことを改めて表明した。
政治プロセスに関しては、5月に米露主導でシリアに関する国際会議(いわゆる「ジュネーブ2」会議)開催のイニシアティブが発表された。その後、しばらく動きはなかったものの、化学兵器廃棄に関する国連安保理決議第2118号に可能な限り早期にシリアに関する国際会議を開始することを要求することが盛り込まれた。これを受け、11月「ジュネーブ2」会議を2014年1月に開催することが発表された。12月の参加国発表を経て、2014年1月22日にモントルー(スイス)において同会議が開催され、日本からは岸田外務大臣が出席した。
日本としては、暴力の停止や政治対話の促進、劣悪な人道状況の改善は、引き続き喫緊の課題であると考えており、「ジュネーブ2」会議で岸田外務大臣が表明したとおり、「美しいシリアを取り戻す」ため、人道支援と政治対話への貢献を車の両輪として取り組んでいく方針である。また、国連総会の機会にも安倍総理大臣や岸田外務大臣が表明したとおり、化学兵器の廃棄に可能な限りの協力・貢献を行っていく。
2013年10月11日、ノーベル賞委員会は、世界的な化学兵器の全面禁止及び不拡散のための多大な貢献を評価し、2013年ノーベル平和賞を化学兵器禁止機関(OPCW)に授与することを発表しました。
OPCWは、1997年4月に発効した化学兵器禁止条約(CWC)の実施を確保することなどを任務とする機関として、同年5月オランダのハーグに設置されました。OPCWの検証の下で、米露などが保有する化学兵器は約80%が廃棄されており、現在も廃棄作業が続けられています。また、OPCWは、条約の普遍化、国内実施支援、化学兵器に対する防護等に関するセミナーや研修を開催し、CWCの実施を促進するとともに、締約国間の協力を積極的に推進してきています。
日本は、OPCWの執行理事会のメンバーとして、OPCWと緊密な協力関係を築き、CWCの実効性を高めるための取組に積極的に参加しています。具体的には、アジア地域を対象として、国内実施措置の強化のためのワークショップを開催するとともに、OPCWの「アソシエート・プログラム」の下で、日本の化学産業の事業所に開発途上国政府関係者を受け入れ、化学工場における安全管理等に関する研修を実施してきています。また、日本は、OPCW技術事務局に、専門的知識を持つ自衛官及び経済産業省職員を派遣してきており、査察局長を務めた秋山一郎・元陸上自衛隊陸将補は12月にオスロ(ノルウェー)で行われたノーベル平和賞授賞式に招待されました。さらに、日本独自の取組として、非締約国への個別の働きかけを行っています。
OPCWの目下の大きな課題の1つは、シリア化学兵器廃棄にかかる取組です。2013年9月以降、OPCWは国連とともにシリアの化学兵器の完全な廃棄に向けた国際社会の取組を主導してきていますが、内戦下における化学兵器廃棄は、OPCWが今まで直面したことがない挑戦です。また、非締約国・地域(イスラエル、ミャンマー、アンゴラ、エジプト、北朝鮮、南スーダン)の加入を促していくこともCWCを真に普遍的な規範とするために重要な取組です。日本は、OPCWのそのような努力に対して、引き続き協力していきます。