1 朝鮮半島
(1)北朝鮮(拉致問題を含む。)
日本は、「対話と圧力」の方針の下、2002年9月の日朝平壌宣言に基づき、拉致問題、核・ミサイル問題といった北朝鮮との諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と緊密に連携しながら、引き続き様々な努力を行っている。
ア 内政・経済
(ア)内政
北朝鮮では、金正恩(キムジョンウン)国防委員会第一委員長を中心とした体制の基盤固めが進んでいる。
2013年3月、朝鮮労働党中央委員会全体会議(総会)が開催され、党の新たな戦略的路線として、経済建設と核武力建設を並進させるという「並進路線」が決定された。
核開発については、世界の非核化が実現するまで核武力を質・量的に拡大・強化していくことが表明された。また、4月の最高人民会議で「自衛的核保有国の地位」強化に関する法令が採択された。
2013年12月、金正恩第一委員長の義理の叔父で側近と言われた張成澤(チャンソンテク)国防委員会副委員長(7)が、党政治局拡大会議において、党内に派閥を形成しようとしたこと、金正恩第一委員長の命令に従わなかったことなどを理由に、全ての職務から解任されるとともに、党から除名された。その後、国家安全保衛部特別軍事裁判で、同氏に対し死刑判決が下され、即時執行された。
(イ)経済
厳しい経済難にあるといわれている北朝鮮にとって、経済の立て直しは極めて重大な課題とされている(8)。金正恩第一委員長は、「並進路線」を掲げ経済建設と人民生活向上を強調しており、2013年5月には経済開発区法を制定し、同年11月には、各道に経済開発区を設けることなどが決定された。
2012年の経済成長率は、1.3%(韓国銀行推計値)であり、前年の0.8%よりも高い数値を示したものの、資金やエネルギーの不足、生産設備の老朽化、技術水準の後れなどの構造的な問題が依然として産業全体に存在しているものと見られる。食糧事情についても、慢性的な肥料不足などの影響で穀物総生産量が低調な水準で推移しており、依然として厳しい状況が続いていると見られる。
北朝鮮は、中国との経済関係を引き続き拡大させており、経済的に中国に依存する傾向が顕著になっている。2012年の北朝鮮の対中貿易額は、総額で約60.1億米ドルに上り(大韓貿易投資振興公社推計値)、北朝鮮の対外貿易の約9割を占めている。
イ 安全保障上の問題
(ア)近年の経緯
日本を含む国際社会が強く自制を求めたにもかかわらず、北朝鮮は2012年4月と12月の2度にわたって「人工衛星」と称するミサイル発射を強行し、2013年2月には3回目の核実験を実施するなど(下記(イ)参照)、依然として核・ミサイル開発を継続している。
また、北朝鮮は、2013年春頃から、朝鮮戦争休戦協定の全面白紙化(9)、核先制攻撃の権利の行使(10)への言及、在平壌外交団への退避検討通告など、挑発的言動を繰り返して緊張を高めた。さらに、この時期に、南北の経済協力の象徴とされる開城(ケソン)工業団地(11)への韓国側人員の立入りの一方的遮断も行われた。一方、2013年5月頃から、対話姿勢をとり始めた。
(イ)核・ミサイル開発の現状
2012年12月、北朝鮮は、日本を含む関係各国が自制を求める中、ミサイル発射を強行した。これに対して、国連安保理は、2013年1月22日、決議第2087号を全会一致で採択し、同発射について、関連する国連安保理決議違反として非難し、制裁を強化する措置を決定するとともに、更なる発射又は核実験が行われる場合には、国連安保理が重要な行動をとるとの決意を表明した。
しかし、北朝鮮は、2月12日に3回目の核実験を実施した。これを受け、日本政府は、直ちに北朝鮮に抗議するとともに、核実験を非難する内閣総理大臣声明を発出した。3月7日、国連安保理は決議第2094号を全会一致で採択し、国連憲章第7章に言及した上で、2月の核実験について、関連する国連安保理決議違反として非難し、制裁を追加し、強化する措置を決定した。
その後も、北朝鮮は、4月、2007年の六者会合で合意された「共同声明実施のための第二段階の措置」において無能力化の対象とされていた寧辺(ヨンビョン)の黒鉛減速炉を含む核関連施設を再整備・再稼働する意図を表明するなど、依然として核開発を推進する姿勢を見せている。
北朝鮮の核・ミサイル開発の継続は、地域のみならず国際社会全体にとっての重大な脅威である。日本は、引き続き、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、いかなる挑発行為も行わず、六者会合共同声明や累次の国連安保理決議に従って非核化などに向けた具体的行動をとるよう強く求め続けていく。
ウ 日朝関係
(ア)日朝協議
2012年11月、ウランバートル(モンゴル)において、約4年ぶりとなる日朝政府間協議が開催された。同協議では、日朝平壌宣言に基づき日朝関係の前進を図るべく、双方が関心を有する諸懸案について、幅広い意見交換を真剣な雰囲気の下で行い、できるだけ早期に次回協議を行うことで一致した。しかし、その後、北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射の予告を受け、日本は、12月上旬に予定されていた2回目の協議を延期することを北朝鮮側に伝達した。
(イ)拉致問題に関する取組
現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。日本としては、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要の外交課題の1つと位置付け、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。
また、日本は、2013年3月の人権理事会で設置が決定された北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)(下記エ(イ)参照)の報告・調査により、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況が明らかになり、国際世論が喚起され、国際社会が北朝鮮に対して、人権状況の改善に向けた具体的行動をとるように一層強く促すことにつながるよう、COIの活動に積極的に協力した(12)。
(ウ)対北朝鮮措置
日本政府は、これまでに広範な対北朝鮮措置(13)を実施してきている。2013年には、北朝鮮による2012年12月のミサイル発射や2013年2月の核実験、北朝鮮が拉致問題の解決に向けて誠意ある対応をとってこなかったことを踏まえ、新たな独自の対北朝鮮措置を決定した(14)。また、現在までに採択された国連安保理決議第1695号、第1718号、第1874号、第2087号及び第2094号に基づく様々な措置についても、関係各国と連携しながら着実に実施している(15)。
エ 国際社会の協力と取組
(ア)各国の取組
米国と北朝鮮の間では、北朝鮮は、2013年6月、朝鮮半島の緊張を緩和するためとして米朝の高官協議を提案した。これに対し、米国は、協議の前提として非核化に向けた北朝鮮の具体的行動が必要との認識を示した。また、北朝鮮に逮捕された米国人をめぐり、8月、米国は、キング北朝鮮人権問題担当特使を派遣すると発表したが、北朝鮮は、米国が軍事演習の一環としてB52爆撃機を朝鮮半島上空に展開したとして反発(16)し、同特使の訪朝は実現しなかった。
2013年2月に就任した韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は、確実な抑止力を土台に、北朝鮮との間に信頼を積み上げていく「朝鮮半島信頼プロセス」を進めていく考えを表明している。春には、開城工業団地の中断など、南北関係が緊迫する場面が見られた。しかし、南北実務者の間で協議が繰り返され、8月に再稼働に向けた合意書を採択した。また、朝鮮戦争により南北に離れ離れになった家族の再会事業は、2010年10月の延坪島砲撃事件以降、中断していたものの、朴大統領は、南北をめぐる政治状況に関係なく進めていく考えを表明し、北朝鮮側に再開を呼びかけている(17)。
しかし、2014年1月の「新年の辞」で金正恩国防第一委員長が南北関係改善をアピールしたことで、離散家族再開事業は2月末に実施された。
中国と北朝鮮との間では、2013年5月、北朝鮮の崔竜海(チェリョンヘ)総政治局長が金正恩第一委員長の特使として訪中し、習近平(しゅうきんぺい)中国国家主席などと会談した。7月には、金正恩第一委員長が、朝鮮戦争休戦60周年記念事業出席のために訪朝した李源潮(りげんちょう)中国国家副主席と会談を行い、中国が六者会合再開に向けて払っている努力を支持しており、関係国と共に努力し、朝鮮半島の平和と安定を擁護したいと表明した。
(イ)国際社会との連携
日本は、首脳・外相会談、国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を含む北朝鮮問題を提起し、諸外国からの理解と協力を得ている。
米国との間では、2013年2月の日米首脳会談において、北朝鮮の核実験に対する懸念を共有し、安倍総理大臣から国連安保理決議による制裁の追加・強化が重要であり、安保理以外の制裁も含め日米で協力していきたいと述べ、両首脳はこの問題での協力を確認した。また、その後も、9月のG20首脳会合の機会に行われた日米首脳会談を含む様々な機会を捉えて、引き続き日米、日米韓で連携していくことを確認してきている。
日米韓3か国は、2013年7月に、ブルネイにおいて日米韓外相会合を開催し、北朝鮮問題に関する3か国協力を更に発展させていく重要性を確認した。また、3か国の六者会合首席代表者レベルの会合を、6月と11月にワシントンで実施するなど、緊密な連携を維持している
2013年6月にロック・アーン(英国)で行われたG8首脳会合や、10月にブルネイで行われたASEAN関連首脳会議、12月に東京で行われた日・ASEAN特別首脳会議などの国際会議の場で、安倍総理大臣から、国際社会が北朝鮮に対し、非核化に向けた具体的行動を強く求めるよう呼びかけるとともに、拉致問題について各国の理解と協力を求めた。
国連の場では、2013年3月の人権理事会で、日本とEUが共同提出した北朝鮮人権状況決議が採択され、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況全般に関する人権侵害の調査を任務とする調査委員会(COI)の設置が決定された。また、9月に、安倍総理大臣は、国連総会の一般討論演説において、北朝鮮問題に関する日本政府の基本的立場を改めて表明した(18)。12月には、国連総会本会議で、日本とEUが毎年共同提出している北朝鮮人権状況決議が、過去最多となる59か国の共同提案国を集め、2012年に引き続き無投票でコンセンサス採択された(決議の採択は9年連続9回目)。これは、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況に対して、国際社会が引き続き強い懸念を有することを示し、北朝鮮に対し状況改善を求める国際社会の明確なメッセージを改めて発出したものである。
オ その他
北朝鮮から逃れた脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。
(2)韓国
ア 日韓関係
(ア)二国間関係一般
韓国は、自由、民主主義、基本的人権などの基本的な価値と、地域の平和と安定の確保などの利益を共有する日本にとって、最も重要な隣国である。両国は、北朝鮮問題を始め、平和構築、核軍縮や不拡散、貧困などの地域や地球規模の様々な課題について連携して協力してきている。日韓間には、困難な問題も存在するが、大局的な観点から、未来志向で重層的な関係を構築していくことが重要である。
2013年2月25日の朴槿恵大統領の就任式には、麻生副総理兼財務大臣が出席し、就任式後に朴大統領を表敬した。また、3月6日には安倍総理大臣は朴大統領と電話会談を行い、安倍総理大臣から大統領就任への祝意を述べるとともに、日韓双方で新政権が成立した機会をいかし、未来志向の日韓関係の構築に向けて協力していくことで一致した。加えて、両首脳は、北朝鮮問題に関し、国連安保理も含め、日韓、日韓米の緊密な連携を維持していくことで一致した。
7月1日、岸田外務大臣は、ASEAN関連外相会合(於:ブルネイ)の機会に尹炳世(ユンビョンセ)外交部長官と初めての対面での外相会談を行い(19)、重層的で未来志向の日韓関係を築いていくことで一致した。
また、9月27日には、国連総会(於:ニューヨーク)の機会に日韓外相会談を行い、日韓関係の前進に向け率直な意見交換を行った。岸田外務大臣からは、経済や安全保障を始めとした様々な分野での協力や日韓国交正常化50周年を迎える2015年に向けた協力の重要性を指摘し、外務大臣間、外交当局間で意思疎通を行うことの重要性を確認するとともに、引き続き様々なレベルで意思疎通を続けていくことで一致した。

(イ)交流
日韓両国民の相互理解と交流の流れは着実に深化し、拡大してきている。近年、日韓両政府が両国民の交流環境の整備のための施策を講じていることもあって(20)、国交正常化当時には年間約1万人であった両国間の人の往来は、2013年には約520万人に達した(21)。日本では「K-POP」や韓国ドラマなどが世代を問わず幅広く受け入れられ、また、韓国において日本の漫画・アニメや小説を始めとする日本文化が人気を集めている。
2013年に9回目を迎えた「日韓交流おまつり」は、日韓両国で毎年開催される文化交流事業である。ソウルでは9月15日に「めばえる希望、未来へ」をテーマに、東京では9月21日、22日に「Japan-Korea共に行きましょう」をテーマに開催され、それぞれ約4.5万人、約5万人が参加するなど盛況となった。東京での開会式には、日本側から高円宮妃殿下が御臨場になり、安倍総理大臣夫人、岸田外務大臣などが参加した。
また、アジア・大洋州諸国・地域との青少年交流事業である「JENESYS2.0」(ジェネシス2.0)では、2013年3月末から4,400人規模で日韓の青少年交流を実施中であるなど、2013年を通して日韓間の交流を深化・拡大させるための様々な取組が実施された。
(ウ)竹島問題
日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土であるという日本の立場は一貫している。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに(22)、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や建造物の構築などについては、韓国に対して累次にわたり抗議を行ってきている。日本は、竹島問題に関し、国際法にのっとり、平和的に紛争を解決するため、今後も粘り強い外交努力を行っていく方針である。
(エ)その他の問題
慰安婦問題について、日本は誠意をもって取り組んできた。日本として、この問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は法的に解決済みとの立場(23)であるが、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るとの観点から、国民と政府が協力して「アジア女性基金」を設立し、医療・福祉支援事業、「償い金」の支給等を行うとともに、歴代総理大臣から、元慰安婦の方々に対し「おわびと反省の気持ち」を伝える手紙を送ってきた。しかし、韓国は、この問題は解決していないとして、日本による更なる対処を求め続けている。日本としては、この問題を政治問題、外交問題化させるべきではないと考えており、引き続き日本の立場やこれまでの真摯な取組に理解が得られるよう、最大限努力していく。
朝鮮半島出身の「旧民間人徴用工」をめぐる裁判(24)については、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済み(25)であるとの日本の一貫した立場に基づき、今後とも適切に対応していく。
そのほか、朝鮮半島出身者の遺骨問題(26)、在サハリン「韓国人」支援(27)、在韓被爆者問題への対応(28)、在韓ハンセン病療養所入所者への対応(29)など、多岐にわたる分野で、人道的観点から、日本は可能な限りの支援を進めてきている。
また、排他的経済水域(EEZ)境界画定交渉については、日韓間で協議を重ねており、同時に、海洋の科学的調査に関する暫定的な協力の枠組み交渉も韓国側と行っている。
イ 日韓経済関係
日韓の経済関係は、緊密に推移している。2013年の日韓間の貿易総額は、約9.01兆円であり、韓国にとって日本は第3位、日本にとって韓国は第3位の貿易相手国である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比約22%増の約2.03兆円となった(財務省貿易統計)。また、日韓間の投資額は、日本からの対韓直接投資額が約26.9億米ドル(前年比40.8%減)(韓国産業通商資源部統計)で、日本は韓国への第2位の投資国であり、韓国からの対日直接投資は約6.9億米ドル(前年比53.3%増)(韓国輸出入銀行統計)であった。
このように、日韓両国は相互に重要な貿易・投資相手国であり、製造業におけるサプライチェーンの一体化の進展とともに、日韓企業の第三国への共同進出など、両国間では新たな協力関係が進んできている。
日本は、こうした緊密な日韓経済関係を一層強固にし、また日韓両国としてアジア地域の経済統合に主導的な役割を果たすためにも、日韓両国の経済連携が重要であると考え、日中韓自由貿易協定(FTA)及び東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉などに取り組み、進展に向け努力を続けている。
また、2013年11月には、日韓経済関係の更なる強化を図る観点から、第12回日韓ハイレベル経済協議を開催し、国際経済・地域経済情勢の検討などを中心に、日韓間の経済分野における課題や2015年の日韓国交正常化50周年を見据えた今後の協力案件など、広範なテーマについて意見交換を行った。
一方、福島第1原発の汚染水問題を受け、韓国は2013年9月に日本産水産物に対する輸入規制の強化措置(30)を施行した。日本は、韓国への正確かつ迅速な情報提供、外相会談などの二国間のやりとりや、世界貿易機関(WTO)衛生植物検疫(SPS)委員会における議論などを通じ、韓国側が科学的な根拠に基づいて今次措置を早期に撤廃するよう求めている。
通商分野以外では、環境分野などにおいても日韓間の協力が進められている。12月の第16回日韓環境保護協力合同委員会では、気候変動、生物多様性、域内の大気・海洋汚染に関する共同対応及び北東アジア地域の環境協力の枠組みにおける日韓協力について議論を行った。
ウ 韓国情勢
(ア)内政
2012年の第18代大統領選挙で当選し、2013年2月25日に就任した朴槿恵大統領は、「経済復興」、「国民の幸福」、「文化の隆盛」、「平和統一基盤の構築」を国政目標として掲げ、「第2の漢江の奇跡」を成し遂げると表明した。
就任直後は、省庁再編や閣僚人事をめぐる混乱などがあったものの、自らの訪米や対北朝鮮政策を始めとする外交・安全保障分野の政策が評価され、朴槿恵大統領の支持率は就任直後を上回る状態が続いた。しかし、大統領選挙時の福祉政策の公約とは異なる「基礎年金導入政府案」をめぐる混乱(31)や、国家機関による大統領選挙への不正介入の発覚(32)などの問題も起きている。
(イ)外交
朴槿恵大統領は、外交関連の主な国政課題として、「韓米同盟の持続的発展及び関係国との国際協力強化」、「北東アジア平和協力構想(33)とユーラシア協力拡大」、「韓米同盟と韓中パートナーシップの調和発展及び韓日関係の安定化」を発表し、米国、中国、ロシア、英国、フランスなどの主要国との首脳外交を積極的に展開した。
朴槿恵大統領は、初の外遊先として2013年5月に米国を訪問し、首脳会談を行った。会談後、両国は、「米韓同盟60周年記念共同宣言」を発表し、安全保障上の米韓同盟の重要性を確認するとともに、安全保障のみならず経済を含めた全般的な関係に発展させていくことを確認した。また、両国は、北朝鮮が国際社会の義務を遵守し、朝鮮半島の平和と繁栄を促進するために協力していくことでも一致した。
朴槿恵大統領は、対中関係の強化にも努めている。6月には、就任後2番目の訪問先として中国を国賓訪問し、習近平国家主席と首脳会談を行い、戦略的協力パートナーシップ関係の強化などを盛り込んだ「中韓未来ビジョン共同声明」を発出した。両国は、10月にも、APEC首脳会議に際して首脳会談を行い、6月に発出した共同声明のフォローアップ状況や北朝鮮の非核化などに関して意見交換を行った。
一方、11月23日に中国が設定した「東シナ海防空識別区」(第2章第1節2(1)「中国」参照)に対して、一部が韓国の防空識別圏(ADIZ)と重なり離於島(イオド)(34)を含むものであることなどから、韓国は強い遺憾の意を表明し、中国側に是正を求めた。その後、12月8日には、自国のADIZを中国の「東シナ海防空識別区」及び日本のADIZに重なる形で拡大することを発表し(35)、同月15日に発効させた。これに対し、中国側は遺憾の意を表明した。
(ウ)経済
2013年、韓国のGDP成長率は2.8%を記録し、前年の2.0%よりも上昇した。これについて、韓国政府は、輸出が成長をけん引した一方、民間消費及び建設投資も増加したことが主な原因であると分析している。総輸出額は、前年比2.1%増の約5,596億米ドルであり、総輸入額は、前年比0.8%減の約5,156億米ドルとなったため、貿易黒字は約441億米ドルとなった(韓国銀行統計)。
朴槿恵大統領は、2013年の経済政策目標を「民生経済の回復と創造経済の実現」とし、「雇用創出」、「民生安定」、「経済民主化」、「リスク管理の強化」を方針に掲げた。通商分野では、引き続きFTAを積極的に推進しており、2013年12月にはオーストラリアとのFTA締結交渉が実質的に妥結したと発表した。また、日中韓FTAを積極的に推進する方針も表明しており、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定についても同年11月に交渉参加への関心を表明した。
7 金正日国防委員長の妹である金慶喜(キムギョンヒ)の夫であり、国防委員会副委員長、朝鮮労働党政治局員、党行政部長、国家体育指導委員長などを務めていた。
8 2002年には、価格体系や配給制度の変更を含む「経済管理改善措置」を実施し、一定範囲で利潤の追求を認めた。また、2003年には公の管理の下に、総合市場を全土に300か所余り設置したとされ、個人や企業が農産品や消費財を販売している。2010年には、第三国からの投資呼び込みを目的として「国家開発銀行」の設立や、中朝国境地帯の経済貿易地帯設置など、外資誘致を目指す動きも見せた。
9 朝鮮人民軍最高司令部スポークスマン声明(2013年3月5日)
10 外務省スポークスマン声明(2013年3月7日)
11 韓国企業123社(主に繊維業)が進出し、韓国側は約800人、北朝鮮側は約5万人が勤務。北朝鮮側には①土地賃貸料、②北朝鮮労働者の賃金、③韓国側労働者の所得税が支払われ、韓国報道によれば北朝鮮に支払われる金額は年間で合計約9,000万米ドルに達する。2012年の同工団での年間総生産額は約4億米ドルであり、同工団における取引が南北交易全体の99.1%を占めた。
12 COIは、2014年2月、最終報告書を公表し、その中で北朝鮮における深刻な人権侵害を包括的に記述し、拉致問題を含むいくつかの分野における人権侵害を「人道に対する罪」に該当すると断定した。日本としては、同報告書が北朝鮮による具体的な行動を求める国際社会の新たな意思表示につながるよう、関係国及び国連とも連携しつつ、主体的な役割を果たしていく。
13 2006年の北朝鮮によるミサイル発射を受け、万景峰(マンギョンボン)92号の入港禁止を含む9項目の対北朝鮮措置を即日実施し、同年10月9日の北朝鮮による核実験実施の発表を受け、同11日、全ての北朝鮮籍船の入港禁止及び北朝鮮からの輸入禁止を含む4項目の対北朝鮮措置を発表した。2009年には、4月5日の北朝鮮によるミサイル発射を受け、同10日に①北朝鮮を仕向地とする支払手段等の携帯輸出について届出を要する下限額を100万円超から30万円超に引き下げること、②北朝鮮に住所等を有する自然人等に対する支払について報告を要する下限額を現行の3,000万円超から1,000万円超に引き下げることを発表した。また、2009年5月25日の北朝鮮による核実験実施発表を受け、6月16日に①北朝鮮に向けた全ての品目の輸出を禁止、②「北朝鮮の貿易・金融措置に違反し刑の確定した外国人船員の上陸」及び「そのような刑の確定した在日外国人の北朝鮮を渡航先とした再入国」を原則として許可しないことを発表した。さらに、6月13日に採択された国連安保理決議第1874号を受け、7月6日に①北朝鮮の核関連、弾道ミサイル又はその他の大量破壊兵器関連の計画等に貢献し得る活動に寄与する目的で行う資産移転等の防止及び②北朝鮮の拡散上機微な核活動等に係る専門教育・訓練の防止等を発表した。2010年5月28日には、日本が実施する貨物検査等に関する特別措置法案が成立するとともに、韓国の哨戒艦沈没事件を受け、①北朝鮮を仕向地とする支払手段等の携帯輸出について、届出を要する下限額を30万円超から10万円超に引き下げること、②北朝鮮に住所等を有する自然人等に対する支払について報告を要する下限額を1,000万円超から300万円超に引き下げること、③措置の執行に当たり、第三国を経由する迂(う)回輸出入等を防ぐため、関係省庁間の連携を一層緊密にし、更に厳格に対応していくことを発表した。①及び②については、2009年4月10日に、北朝鮮のミサイル発射を受けて発表された措置を更に厳格化したもの。
14 2013年2月の日米首脳会談において、北朝鮮に対する制裁について日米間で協力していくことで一致したことを受け協議してきた結果として、4個人・1団体に対して資金凍結等の措置を講じ、8月30日には、新たに2個人・9団体を同措置の対象に追加した。
15 2012年12月のミサイル発射を受けて採択された安保理決議第2087号に基づき、2013年2月6日、同決議で指定された4個人・6団体に対する資産凍結等の措置を講じた。また、4月5日には、2月の核実験を受けて採択された安保理決議第2094号に基づき、①3個人・2団体に対する資産凍結、②日本の金融機関等に対する北朝鮮の金融機関とのコルレス関係の確立等の差し控え要請、③北朝鮮金融機関の本邦における支店の設置等の不認可、本邦の金融機関の北朝鮮における支店の設置の不認可、④禁制品を積載している疑いのある航空機の離着陸・上空通過の不許可等の措置を新たに講じた。
16 8月31日、北朝鮮外務省スポークスマンは、招待撤回について、米国がB52爆撃機を演習のために朝鮮半島上空に進出させたことに反発を示し、「こうして米国は、やっとのことで整った人道的対話の雰囲気を一瞬にして台無しにした」と非難した。
17 2014年に入り、2月20日から25日まで3年4か月ぶりとなる南北の離散家族再会事業が行われた。
18 安倍総理大臣は、「北朝鮮の核・ミサイル開発は、許されざることです。同国にあり得べき他の大量破壊兵器についても、強い懸念を留保しています。北朝鮮は、国際社会の一致した声に耳を傾け、おのれの行動を改め、具体的一歩を踏み出すべきです。北朝鮮には、拉致した日本国民を、残らず返してもらいます。自分が政権にいるうちに、私は、これを完全に解決する決意であり、また本問題の解決を抜きに、日朝の国交正常化はあり得ません。」と述べた。
19 日韓電話外相会談は3月14日に実施。
20 2006年から短期滞在査証免除措置の無期限延長を実施。また、2011年には、日韓ワーキング・ホリデー制度における双方の査証発給枠を年間7,200件から1万件に拡大。
21 2013年の渡航者数 訪日韓国人数:245万6,100人(日本政府観光局(JNTO)発表)、訪韓邦人数:274万7,750人(韓国観光公社(KTO)発表)
22 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成した。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語の10言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記10言語にイタリア語を加えた11言語での閲覧が可能になっている[http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/index.html]。
23 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第2条1により、日韓両国は、「財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題」が「完全かつ最終的に解決されたこととなること」を確認している。
24 第二次世界大戦中、日本統治下の朝鮮半島において、新日鉄住金株式会社及び三菱重工業株式会社の前身企業に「強制徴用」されたとされる韓国人が、それぞれの企業に損害賠償と未払賃金の支払を請求した件に関し、2013年7月10日に韓国ソウル高等裁判所が新日鉄住金に対して、同月30日には韓国釜山高等裁判所が三菱重工業に対して、それぞれ原告側の訴えを認め、損害賠償などの支払を命じた。
25 脚注23に同じ。
26 第二次世界大戦終戦後、日本に残された朝鮮半島出身者の遺骨返還問題。韓国政府から返還要請があった遺骨について、可能なものから順次返還を進めている。
27 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で旧南樺太(サハリン)に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留を余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、永住帰国支援を行ってきている。
28 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。
29 第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所入所者が、「ハンセン病療養所などに対する補償金の支給などに関する法律」に基づく補償金の支払を求めていたが、2006年2月に法律が改正され、新たに国外療養所の元入所者も補償金の支給対象となった。
30 (1)福島を含む8県の水産物50種に対する輸入禁止措置を、これら8県の全ての水産物に拡大。(2)8県以外の水産物について、セシウムとヨードが微量でも検出された場合には、他の放射性物質の証明書を追加で要求。
31 朴槿恵大統領は、大統領選挙の際の福祉政策の公約として、65歳以上の全員に基礎老齢年金20万ウォン(日本円にして約2万円(2013年末時点))を支給することを掲げていたが、所得や加入期間により基礎老齢年金の額を減額したり、基礎老齢年金の支給対象外としたりする基礎年金導入政府案を発表した。
32 2012年の大統領選挙の際に、国家情報院(国情院)や軍が特定の政党や候補者を非難・擁護する内容の文章をインターネット上に書き込んだことが判明し、国情院職員の送検や元世勲(ウォンセフン)前国情院長の起訴に至った。
33 北東アジアにおいて多者間対話の枠組みをつくり、可能な分野から対話と協力を始め、信頼を築いていき、安全保障などの他の分野へと協力の範囲を広げていくという構想。
34 離於島は、中韓双方が自国の排他的経済水域(EEZ)と主張する海域に位置している。両国は、離於島が海面上に現れることがない「岩」であり、「島」ではないという点で一致しており、現在は両国間でEEZ境界画定協議を継続中。韓国側は、離於島に海洋調査施設を構築している。
35 同措置に関し、韓国は事前に日本を含む関係国に対して内報を行った。日本は、韓国の措置が、中国の措置のように、国際法上の一般原則である公海上空における飛行の自由を不当に侵害することにつながらないことが重要との考えを踏まえ、事前に日韓間で意思疎通を図り、こうした日本の考えを韓国側に伝えた。韓国による同措置の発表後、日本は、韓国の措置が、中国のものとは異なり、日本との関係で直ちに問題となるものではないとの認識を表明した。