軍縮・不拡散・原子力の平和的利用

平成29年12月8日

1 全体概要

 11月26日から30日まで,広島市において「第3回ユース非核特使フォーラム」(26日),「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議第1回会合」(27,28日),「第27回国連軍縮会議」(29,30日)の一連の軍縮関連会議・会合が開催されました。

(1)第3回ユース非核特使フォーラム(26日)

 本件フォーラムは,広島県・広島市の協力の下,広島平和記念資料館メモリアルホールにて開催され,日本及び海外のユース非核特使経験者等12名が出席しました。今次フォーラムは,ユース非核特使の活動の活性化を図るとともに国内外のユース非核特使経験者のネットワークを強化し,「核兵器のない世界」に向けた機運の維持・強化を図ることを目的とし,活動発表及びパネル・ディスカッションの2部で構成され,概要下記2のとおり活発な議論が行われました。

(2)核軍縮の実質的な進展のための賢人会議第1回会合(27,28日)

 本件会合は,広島市のグランド・プリンス・ホテル広島(G7外相会議会場)にて開催され,白石隆座長(日本貿易振興機構アジア経済研究所長)を始め15名の内外の有識者が参加しました。今次会合では,会議の目的である国際社会の協力と信頼関係を再構築し,立場の異なる国々が取り組む「共通の基盤」を模索する観点から,下記3のテーマに沿って活発な議論が行われました。また,オープニング・セッションには,岸田自民党政調会長(前外相)が出席し,挨拶を行いました。

第1回会合出席者リスト

  • 日本人委員(6名)
    1. 白石隆 日本貿易振興機構アジア経済研究所長(座長)
    2. 青木節子 慶應義塾大学大学院法務研究科教授
    3. 浅田正彦 京都大学法科大学院教授
    4. 小溝泰義 広島平和文化センター理事長
    5. 朝長万左男 日赤長崎原爆病院名誉院長
    6. 山口昇 国際大学副学長,笹川平和財団参与
  • 外国人委員(9名)
    1. リントン・ブルックス 米国エネルギー省国家核安全保障庁元長官
    2. ジョージ・パーコビッチ カーネギー国際平和財団副会長
    3. アントン・フロプコフ ロシア・エネルギー安全保障研究センター長
    4. ブルーノ・テルトル フランス・戦略研究所副所長
    5. トレバー・フィンドレイ メルボルン大学社会政治学院シニアリサーチフェロー
    6. アンゲラ・ケイン 元国連軍縮担当上級代表
    7. タリク・ラウフ 元国際原子力機関検証安全保障政策課長
    8. マフムード・カーレム 元駐日エジプト大使,元国連軍縮諮問委員会委員
    9. ティム・コーリー UNIDIRシニアフェロー

(3)第27回国連軍縮会議(29,30日)

  • ア 同会議は,広島国際会議場において,国連主催,広島県・市及び外務省の協力の下で開催され,2国際機関及び12か国から60名が参加し,下記4のテーマに沿って活発な議論が行われました。また,開会式では岡本外務大臣政務官が挨拶を行い,核軍縮・不拡散に関する日本の取組と考え方について述べました。
  • イ 今般の会議は,開会式の当日(29日)未明に北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことを受け,様々な立場から北朝鮮の核・ミサイル開発にかかる言及があり,安全保障の重要性を指摘する意見も多かった一方,被爆者,ICANの川崎国際運営委員やホワイト・ゴメス核兵器禁止条約交渉会議議長等,核兵器禁止条約を推進する立場からは同条約の普遍化の必要性,NPTとの整合性について意見が述べられました。また,会議の参加者は,平和記念公園や原爆資料館を訪問し,被爆者の話を聴講するなど,被爆の実相を伝えるプログラムにも参加しました。

2 第3回ユース非核特使フォーラムにおける議論概要

(1)被爆の実相プログラム(26日午前)

 フォーラム登壇者を対象とした被爆の実相プログラムが実施され,広島平和記念公園慰霊碑の参拝や献花が行われた後,被爆者による体験講話の聴講,平和記念資料館視察が行われました。

(2)第3回ユース非核特使フォーラム(26日午後)

 湯崎英彦広島県知事,松井一實広島市長による開会挨拶に続き,広島東洋カープOBの長谷部稔氏から,カープの歴史,平和の尊さ等に言及しつつ,次世代へのメッセージについて講演が行われました。その後,ユース非核特使経験者及びCTBTユースによる活動発表とパネル・ディスカッションが行われ,自国の核政策に対する考え,日本が果たしていくべき役割,ユース非核特使としての活動の原動力,自らの活動経験を踏まえ次世代へ伝えたいメッセージ等について意見が述べられました。

(3)ユース非核特使経験者による懇親会(26日夜)

 フォーラム出席者を含む国内外のユース非核特使経験者22名他による懇親会が開催され,岡本三成外務大臣政務官が出席し,同参加者と懇談しました。岡本外務大臣政務官は,現在,核軍縮を取り巻く状況は大変厳しく,「核兵器のない世界」の実現に向けては,核兵器国と非核兵器国の双方が納得できる形で,国際社会が一致団結して取り組んでいくことが必要であり,そうした取り組みを実現する上での共通の土台として,被爆の実相が国境と世代を超えて広がっていくことが極めて重要であり,この点からも,ユース非核特使の活動は「核兵器のない世界」を実現する上で大変意義のあるものであり,政府としても引き続き支援をしていきたい旨述べました。

3 核軍縮の実質的な進展のための賢人会議第1回会合における議論概要

(1)歓迎夕食会(26日夜)

 岡本三成大臣政務官が主催し,河野外務大臣挨拶を代読しました。同挨拶では,核兵器禁止条約やICANのノーベル平和賞受賞に触れつつ,核軍縮の進め方には様々なアプローチがあるが,我が国としては,安全保障の観点も踏まえつつ,核廃絶に向けた歩みを着実に進めていくことが核兵器のない世界に向けた近道であると考えており,国際社会の協力と信頼関係の再構築に資する提言が得られることを強く期待している旨述べました。

(2)被爆の実相プログラム(27日午前)

 賢人会議委員によって広島平和記念公園慰霊碑の参拝や献花が行われた後,被爆者による被爆体験講話の聴講,広島平和記念資料館の視察が行われました。

(3)オープニング・セッション(27日午前)

 岸田文雄自民党政調会長(前外相)が挨拶を行い,核軍縮の進め方をめぐる各国の立場の違いや核兵器国を動かさなくては,現実は一歩も動かないことを痛感する中で,唯一の戦争被爆国の,また広島出身の外務大臣として状況を打開すべく賢人会議を立ち上げた旨,また,信頼関係の再構築に資する提言を得て「核兵器のない世界」に向けて協力するきっかけを作りたいとして議論の結果に期待している旨発言しました。

(4)セッション1:「核軍縮についての現状認識」(27日午後)

 核兵器禁止条約をめぐる状況について,条約を推進する立場,安全保障を重視する立場の双方から発言があったほか,米露の軍備管理交渉を前進させるための方策やNPT運用検討プロセスの現状,核兵器の役割の問題等に議論が及びました。

(5)セッション2:「核兵器廃絶への道筋と必要な措置」(27日午後)

 セッション1を踏まえ,今後の核廃絶に向けた道筋に関し議論が行われました。異なる立場の国々が歩み寄るために,それぞれの立場がこれまで必ずしも説明できていない論点について議論を進め,折衷点を探ることの必要性が提議されたほか,「最小限ポイント」の具体的内容や核廃絶の過程で必要となる検証措置,また核廃絶の後にそれを維持するための執行措置や安全保障のあり方等についても議論がなされました。

(6)NGO等との意見交換会(28日午前)

 2日目の議論に入る前に,地元高校生や被爆者団体,NGO等との意見交換会を実施。被爆の実相や核兵器禁止条約の重要性を始めとしてNGO側から賢人会議委員に対して率直な意見表明がなされ,委員からは市民社会の活動を高く評価する,あるいは核兵器の禁止を現実の安全保障環境で考えるべきなど,多様な意見が示され,有意義な意見交換が行われました。

(7)セッション3:「2020年NPT運用検討会議までに取り組むべき短期的措置」(28日午前)

 来年の第2回準備委員会に向け提出する提言について議論が行われました。例えば,NPTのレビュー・プロセスの活性化,またCTBTやFMCT,核の脅威の低減等の具体的な取組について議論が行われました。

(8)セッション4:「核廃絶に向けて取り組むべき中長期的課題」(28日午後)

 中・長期的な提言の内容として,「最小限ポイント」の考え方をめぐる問題点,また,人道や規範の観点を踏まえた核兵器の役割,抑止の目的に関する幅広い論点について議論が行われました。

(9)セッション5:「総括セッション」(28日午後)

 今次会合の総括として,次回会合に向けた提言の取り纏めの方法等について確認が行われた。提言に含める内容については一定の相場観が得られたことから,第二回会合に向け更に調整を行うことで合意しました。

4 第27回国連軍縮会議における議論概要

(1)セッション1「核兵器のない世界」の実現に向けて 被爆地と市民社会からのメッセージ」

 被爆地の代表者等が,被爆の実相を踏まえた議論の必要性や核兵器禁止条約への期待等について述べました。また,坪井直広島県原爆被害者団体協議会(広島県被団協)理事長は,核兵器廃絶からもう一歩踏み込んで戦争自体をなくすことが大切であり,原爆の戦争はいけないが他の戦争はよいというのは人類の知恵ではない旨述べ,会場全体から大きな拍手が送られました。

セッション1 登壇者

  • モデレーター:アンゲラ・ケイン元国連軍縮担当上級代表
  • パネリスト:松井一實広島市長,坪井直広島県被団協理事長,朝長万左男日赤長崎原爆病院名誉院長,リン・シュナイダー赤十字国際委員会駐日事務所代表

(2)セッション2「軍縮・不拡散教育 被爆の実相の次世代への継承」

 被爆地の代表者の他,海外の教育者,作家等が被爆の実相を次世代に伝えるべく各種取組について紹介しました。

セッション2 登壇者

  • モデレーター:ティム・コーリー 国連軍縮研究所(UNIDIR)シニア・フェロー
  • パネリスト:湯崎英彦広島県知事,小溝泰義(公財)広島平和文化センター理事長,土岐雅子米国ミドルベリー国際大学院モントレー校ジェームズ・マーティン不拡散研究センター・プロジェクト・マネージャー兼リサーチ・アソシエート,スーザン・サザード氏(作家,”Nagasaki: Life After Nuclear War”著者),マシュー・ボルトン・ペース大学ダイソン・カレッジ(人文科学)准教授

(3)セッション3「核軍縮・不拡散の見通し 核兵器禁止条約の採択を受けて」

 核兵器禁止条約の推進派及び安全保障を重視する立場の双方から活発な議論が行われました。NPT体制との補完性の指摘,普遍化の必要性,核保有国参加への期待や,同条約がもたらす法規範性等の主張がなされた一方,現下の国際情勢に鑑みて,「軍縮派」と「抑止派」との橋渡しが求められているとの意見や,核兵器国間の戦略的駆け引きが行われている現状についても考慮されるべきとの意見も出されました。

セッション3 登壇者

  • モデレーター:秋山信将在ウィーン代表部公使参事官
  • パネリスト:沈丁立(シェン・デン・リー)復旦大学教授,トレバー・フィンドレイ・メルボルン大学社会政治学院シニアリサーチフェロー,エレイン・ホワイト・ゴメス在ジュネーブ代表部コスタリカ大使(核兵器禁止条約交渉会議議長),川崎哲ピースボート共同代表

(4)セッション4「地域安全保障:非核兵器地帯の実現に向けて」

 NPTの課題の重要な論点の一つとして,主に北東アジアと中東地域安全保障についての議論が行われました。厳しい安全保障環境についての指摘が多くなされたほか,2020年のNPT運用検討会議成功のため中東非大量破壊兵器地帯に関する進展の重要性が指摘されました。

セッション4 登壇者

  • モデレーター:アントン・フロプコフ・ロシア・エネルギー安全保障研究センター長
  • パネリスト:アンドレア・バーガー米国ミドルベリー国際大学院モントレー校ジェームズ・マーティン不拡散研究センター・シニア・リサーチ・アソシエート,山口昇国際大学副学長・笹川平和財団参与,マフムード・カーレム元駐日エジプト大使

(5)セッション5「2020年NPTのあり方運用検討会議に向けて」

 NPT50周年の節目となる2020年運用検討プロセスの成功に向けた方策,具体的には,同プロセスの問題点やあり得べき改革の姿や,漸進的アプローチが核軍縮を如何に進められるか等について議論が行われました。

セッション5 登壇者

  • モデレーター:タリク・ラウフ元国際原子力機関(IAEA)検証安全保障政策課長
  • パネリスト:浅田正彦京都大学法科大学院教授,イアン・マコンビル豪州外務貿易省軍備管理部次官補代行,マジョリン・ファン・デーレン・オランダ外務省不拡散・軍縮・軍備管理・輸出管理局長,周 昶(ツゥオ・チャン)中国軍備管理軍縮協会ディレクター

5 評価

  • (1)今次会議は,国際的な安全保障環境が悪化していることに加えて,核軍縮の進め方を巡り国際社会の立場の違いが顕在化する中で,2020年NPT運用検討プロセスが開始されるとともに核兵器禁止条約が成立するなど,核軍縮の進展に向けた関心と機運が高まりつつある重要な時期に開催されました。
  • (2)第3回ユース非核特使フォーラムでは,国内外のユース非核特使経験者にCTBTユースも交えた活発な意見交換が行われ,各国の核政策や世代と国境を越えた被爆の実相の伝達の重要性について認識を深め,今後の「核兵器のない世界」に向けた機運の維持・強化に向けて,各ユースの活動の活性化とネットワークの強化が図られました。
  • (3)核軍縮の実質的な進展のための賢人会議第1回会合及び第27回国連軍縮会議における議論では,国際社会の核軍縮へのアプローチの違いも認識されましたが,核軍縮を実質的に前進させるため,すべての国々の間の橋渡しを行い,各国が結束して取り組むことのできる共通の基盤を見いだすことの重要性及びNPT体制の重要性の再確認について意見の一致がみられました。また,被爆の現実に関する正確な認識を広める上で,被爆地及び被爆者の方々が果たす役割や軍縮・不拡散教育の役割の大きさについても意見が一致しました。
  • (4)今般,世界の様々な地域から政府関係者・有識者及び若者が広島に集い,被爆の現実に触れたうえで核軍縮・不拡散について自由闊達に議論し,核兵器のない世界の実現という共通の目標に向けて一層協力する必要があることを確認することができました。この一連の会議における議論が,2020年NPT運用検討プロセス等の今後の核軍縮の進展に向けた国際社会の更なる取組につながることが期待されます。

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