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平成9年3月
本ワークショップの冒頭、地域統合に関わる全体的な課題、及び地域統合が多国間貿易体制に与える影響に関して、吉富勝氏によるプレゼンテーションが行われた。続いて、参加者は、これらの問題について活発で率直な意見の交換を行った。この討論において、地域統合に関わる施策が、貿易自由化の多角的プロセスにとって差別的で、有害になる可能性があるという指摘があった。本討論の締めくくりにあたって、自由貿易圏や関税同盟などの各種の地域統合の形態は、WTOのルールと原則を厳正に遵守する限りにおいて、多国間貿易体制に有益となりうると結論された。しかし一方では、このような努力を混乱させ、その潜在的可能性を制限する貿易は規制しなければならない。その規制の方法は、上記の施策を実施していく多国間ルールを厳格に適用し、この多国間ルールを保護することである。
本ワークショップでは、「貿易と投資」、「貿易と競争」、「労働基準」、「後発開発途上国(LLDCs)に関わる事項」、「中国のWTOへの加盟」の5つの特定の問題を取り上げた。
(1)貿易と投資
参加者の中には、開発途上国の立場に立って、WTOが開発の重要性をより強く反映した作業をおこなうべきであると強く主張する者がいた。また、ある者は、投資に関する拘束力のある多角的枠組を設置する必要性を強調した。
また、OECD、UNCTAD、ASEM、APECなどのフォーラムにおいて現在行われている討議は、WTOの投資に関する作業グループが、その議題を設定する上で、有益な準備作業となりうるという点で、参加者の意見が一致した。
全参加者は、貿易と投資フローとの間の密接な関係があることを指摘し、現在WTOで行われている討議以外に、ASEM投資促進行動計画(ASEM Investment Promotion Action Plan: IPAP)を前進させることが、緊急の課題であることを勧告した。
(2)貿易と競争
貿易と競争のルールに関する多角的枠組みを形成する必要があるとの指摘があった。また、競争政策に関する討議には、結果の如何に関わらず、反ダンピング政策などの貿易救済策の観点を盛り込むべきであるという意見が出された。さらに、競争政策に関する討議においては、独占禁止規則が特に重要であるとの見解もあった。
参加者は、競争の促進がすべての人々にとって必要不可欠であり、その点に関して、WTOでの研究を活発に推進するべきであることを確認した。
すべての参加者は、WTOの役割の一つとして、WTOは各国の開発のレベルに関わらず、すべての加盟国に対し、競争体制を整え、規定し、実施することを奨励すべきであると認識した。また、独占禁止の国際的規則に関する協定は、主に司法管轄権と国際儀礼に焦点を当て、明確なルールを定義し、さまざまな法規の対立点の解決を図るとともに、国内法規の施行のための政府間協力の強化を図らなければならないとした。さらに、このような協定には、カルテルに関する共通のルールを盛り込み、主に輸出カルテル防止策を強化すべきであると提案した。
(3)労働基準
WTOが労働関連問題を討議する場としては適切ではないとする意見と、反対に、特にこの問題における法的真空状態を防止するために、WTOの枠組内での話し合いが必要とする意見に分かれた。
参加者は、国際的に承認された労働基準の中核を遵守する必要性を確認し、また、労働基準は、いかなる状況下であれ、保護主義のために利用されたり、いずれかの国の比較優位に不利な影響を与えるために利用されるべきではないと意見が一致した。
参加者は、WTOシンガポール閣僚会議の妥協策を念頭におき、WTO及びILOの両事務局が、現行の協調関係を継続することを奨励する。この協調は、ASEM加盟国が、労働基準の中核の遵守を再度約束するために、また、保護主義に労働基準を利用させないために必要である。
(4)後発開発途上国(LLDCs)に関わる事項
参加者の中には、後発開発途上国からの輸入関税撤廃努力をより一層強化することの重要性を強調する者、また反対に、より自主的な自由化が望ましいとする者がいた。
さらに、経済発展の度合いによって、自由化のペースもそれぞれ変える必要があることが強調された。参加者は、これまでのWTOの努力を認めるものの、WTOが後発開発途上国の問題に、より大胆なアプローチを採用すべきであることを提案した。
参加者は、後発開発途上国の開発促進、また、後発開発途上国の輸出に対する先進国の市場開放のより一層の推進のため、WTOが緊急行動を起こすべきであると提案した。
(5)中国のWTOへの加盟
中国のWTO加盟条件については、さまざまな意見が述べられた。しかし、ルールに基づいた貿易体制を推進するためには、中国のWTOへの早期加盟が極めて有益であると点で、意見の一致が見られた。
参加者は、これまでの交渉が大きく進展していることに歓迎の意を表した。特に、最近の進展には勇気づけられるとともに、すべての関係者が、このプロセスを早める努力を行うべきであるとした。
参加者は、一方的な制裁や国内法規の自国領土外への適用は、多国間貿易体制の安定に有害であると考える。
参加者は、市場開放度に関するASEMのデータベースを構築することを提案した。これには、中小企業の活動促進のためのアジア、ヨーロッパ、及びその他の地域における貿易障壁のデータも含む。
すべての参加者は、多国間貿易体制の強化及び支援の必要性が極めて大きいことを強調した。また、この点において、アジアとヨーロッパの間の話し合い、特にASEMの枠組み内での話し合いにより、これらの分野における協力が強化され、自由で開かれた貿易が促進され、ウルグアイ・ラウンドの成果の実施といった現行の自由化が推進されるべきであるとの点で意見が一致した。