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平成9年3月
冷戦後の世界は劇的に変化し、それまで政治的イデオロギーに没頭していた状態から、経済的現実主義が普及するに至っている。今日、アジアやヨーロッパの多くの国々では、現在の世代のためによりよい生活を実現し、次の世代のために持続的な繁栄を約束することを目指している。それぞれの社会では、十分な雇用を創出し、生活水準を向上させるために、最善の努力が払われている。経済成長が、雇用の持続、重要な公共サービスの提供、及び公共施設の充実のための条件として不可欠であるとの認識が背景にある。さらに、これまで実施されてきたさまざまな自由化政策は、より効率的な経済の実現に貢献している。また、一方では、公共福祉の基本形態を再検討する動きが、各国で見られるようになってきた。
今日、われわれの社会が、より堅固な成長と効率的な価値創造を実現するためのさまざまな努力が行なわれている。環境を傷つけずに保全しようとする意識が益々高まっている。今日のニーズを満たすために、未来の世代が未来のニーズを満たせなくなることは避ける必要がある。また、性別や人種による不均衡と不平等を是正する必要性に対する意識も高まっている。
社会の制度や形態の変化が避けられないとしても、人間の尊厳への深い配慮と多様性に対する深い尊敬の念によって、社会を導いて行くべきであることは、誰もが同意するところである。自由市場及び人間的な統治制度は選択権を優先的な価値として奨励する。
アジアとヨーロッパにおける経済発展には、いくつかの独特な特徴がある。比較的成熟した工業社会では、科学技術を原動力とする労働節約的経済成長に対応するため、福祉確保の新しい方法の開発や、今世紀初頭の数十年間に展開された国家福祉施策に代わる、より柔軟性のある施策の導入に関心が集まる傾向にある。成熟した工業社会を人口統計学的に見ると、老人介護問題への対処がより重要性を増すことは明らかであり、可能ならば若者と老人が苦労を分かち合う関係を保つボランティア組織を巻き込む新しい方法の採用が望まれる。
急速な経済成長を見せている国々、特にアジア諸国では、繁栄の拡大、生産市場への参入基盤の拡大、社会の不平等の是正への意欲が、経済成長における主要な原動力となっている。この場合、急激な変化の中で、社会を構成する人々の結束の維持、特に人間と自然との調和関係に依存する傷つきやすい共同体のための環境保護に最も関心が集まる。現行の体制は、急激な成長がもたらす大きな変化に直面することを余儀なくされている。
われわれは、アジアの成長拡大、また、ヨーロッパの成長持続によって、競争がより活発になり、協調関係が強化されるものと、かなり楽観的な期待を抱いている。価値創造が進展することにより、両地域間において、相互に有益なパートナーシップを構築する機会の増大が期待される。
自由化の進展と貿易の拡大により、それぞれの社会の相対的利点が強調され、両地域間の協力関係がより緊密になると考えられる。
われわれは、投資フローの拡大、技術移転の強化、貿易条件の改善、市場開放の促進を通じ、アジアとヨーロッパの両地域において、より豊かな経済が生み出されることを期待する。
また、両地域において、より公正な賃金制度や、次代を担う若年世代への投資と老人介護の拡大を通じ、より豊かな社会的価値を創造し、知識と専門技術をより包括的に共有することを期待する。
両地域間で、より体系的な専門知識の共有を促進し、類似的な環境規制を図ることにより、環境保護の強化が可能かもしれない。経済発展、生態学的均衡の保持、及び社会的結束の強化が不可分であるという全体的な視点を首尾一貫して維持することにより、福祉の確保及び傷つきやすい共同体の保護が保証されるかもしれない。
上記の考察に基づき、ASEMの枠組み内で行うべき考察に資するために、以下の提案をする。
1)ASEM内において、継続的な計画を策定し、「緑」の交流の促進、及び適切な技術の強化を図る。
2)アジアとヨーロッパの若者の交流、語学学習、インターンシップ・プログラムを展開することにより、異文化間の理解及び技術移転の進展を図る。
3)社会保障及び公共福祉に関する類似的基準の設定のための政策対話を開始し、また、アジアとヨーロッパの両地域内において、官僚、民間企業、ボランティア団体、社会福祉を専門とする学者などによる継続的連携を奨励する。
4)われわれの社会が、裾野の広い開発と少数民族の文化保護をはじめとする社会のダイナミックな多様性を確保する能力が増大するように、性別や人種による不平等を是正するための協調的人材開発プログラムの展開を図る。
5)われわれは、来年のシンポジウムの主催者に対し、老齢人口の増加と、生産人口の相対的な減少との関係に特に注目することを要請する。