フィリピン共和国

平成27年11月20日
11月19日(木曜日),20時15分(現地時間)から約40分間,安倍晋三総理大臣は,APEC首脳会議出席のため訪問中のフィリピン・マニラにおいて,ベニグノ・アキノ3世・フィリピン共和国大統領(H.E. Mr. Benigno S. Aquino III, President of the Republic of the Philippines)との間で会談を行ったところ,概要は以下のとおり。
なお,会談終了後,両首脳の立ち会いの下,円借款「南北通勤鉄道計画」(注1)の交換公文及び「日・フィリピン社会保障協定」(注2)の署名が行われた。

1 冒頭

安倍総理から,本年6月のアキノ大統領の国賓訪日から半年もたたないうちにフィリピンを訪問できたとしつつ,相互訪問により,日本とフィリピンの関係が更に強化されることは大変に喜ばしい旨述べた。また,明年始めの天皇皇后両陛下のフィリピン御訪問は,国交正常化60周年の開幕を飾る慶事であるとして,御訪問の成功に向けてフィリピン政府と緊密に協力していきたい旨述べた。
アキノ大統領から,日本との「戦略的パートナーシップ」を進展させていきたい旨述べつつ,本年6月の国賓訪問の際には,温かいおもてなしをいただき大変感謝している,両陛下のフィリピン御訪問の際には,そのお返しとして良いおもてなしができるよう日本と協力していきたい旨述べた。

2 二国間関係

(1)政治・安全保障

安倍総理から,先般成立した「平和安全法制」に対するフィリピン政府の歓迎表明に謝意を表しつつ,「積極的平和主義」の取組を引き続き推進し,地域と国際社会の平和と安定に一層貢献していきたい旨述べた。また,本年6月に交渉開始に合意した防衛装備移転に関する協定が大筋合意に達したことを歓迎しつつ,早期の署名を目指すとともに,海洋安全保障分野の装備協力の実現に向けた検討を加速化していく旨述べた。また,安倍総理から,フィリピン沿岸警備隊の更なる能力向上を支援すると述べ,フィリピン政府から要請のあった大型巡視船の供与について前向きに検討する旨伝えた。
アキノ大統領から,「平和安全法制」に関する安倍総理のリーダーシップに敬意を表明するとともに,世界平和と安定への更なる日本の貢献に期待する旨述べた。また,防衛装備移転に関する協定については,合意に向けて協力を進展させていきたい旨述べた。

(2)経済・経済協力

安倍総理から,本年6月に合意した「マニラ首都圏の運輸交通インフラ整備協力ロードマップ」の進展を歓迎し,会談後に交換公文に署名する「南北通勤鉄道計画」(注1)に続き,地下鉄事業の具体化に向けた本格的な調査を開始したい旨述べた。安倍総理から,会談後に署名する「日・フィリピン社会保障協定」(注2)は,経済交流の一層の促進に貢献するものとして歓迎する旨述べた。
これに対し,アキノ大統領は,フィリピン国内インフラ整備への日本の支援について謝意及び日本からの更なる投資への期待を表明するとともに,「日・フィリピン社会保障協定」の早期発効を希望する旨述べた。
両者は,国家戦略特区でのフィリピンからの家事支援人材の受け入れについて,早期の事業開始に向けて,年内に相互の体制整備に努めていくことで一致した。
このほか,アキノ大統領から,フィリピンのTPP参加への関心が表明され,安倍総理は,フィリピンの関心表明を歓迎する旨述べるとともに,両者は日・フィリピン経済連携協定の一般的見直しに向けて作業を進めていくことで一致した。

(3)ミンダナオ和平

安倍総理から,日本はミンダナオの永続的な和平実現を引き続き支援する旨表明するとともに,バンサモロ地域の経済的自立に役立つ,約150億円規模の円借款「アグリビジネス振興・平和構築・経済成長促進計画」(注3)への支援決定を伝えたところ,アキノ大統領から,改めて日本のミンダナオ和平への支援に謝意が表明された。

3 地域情勢(南シナ海)

アキノ大統領より,南シナ海に関する比中仲裁手続について,フィリピンは法の支配を推進する立場から,本件に取り組んでおり,日本の支援に感謝する旨述べた。これに対し,安倍総理から,南シナ海における大規模な埋立てや拠点構築等,現状を変更し緊張を高める一方的行動は,国際社会共通の懸念事項であり,開かれた自由で平和な海を守るため,国際社会の連携が重要であると述べた。更に,安倍総理から,新たな段階に進む比中仲裁手続について,日本は,国際法に基づく平和的な紛争解決を引き続き支持する旨述べた。アキノ大統領から,最近の南シナ海における比中関係の状況につき説明がなされた。

(注1)円借款「南北通勤鉄道計画」
マニラ首都圏の南北軸の近郊と首都圏を結ぶ「南北鉄道計画」のうち,北方のブラカン州マロロス市から首都圏マニラ市ツツバンまでの約38kmの区間を新たに整備(線路の敷設や車両調達等)するもの(約2,420億円)。マニラ首都圏の交通ネットワークの強化とその深刻な交通渋滞の緩和を図り,もって投資促進を通じた持続低成長及び脆弱性の克服と生活・生産基盤の安定に寄与するもの。

(注2)「日・フィリピン社会保障協定」
現在,日・フィリピン両国からそれぞれ相手国に派遣される企業駐在員等について,日・フィリピン双方の社会保障制度に二重に加入を義務付けられる等の問題が生じている。本協定により,派遣期間が5年以内の一時派遣被用者等は,原則として,派遣元国の年金制度にのみ加入することとなり,また,両国での保険期間を通算してそれぞれの国における年金の受給権を確立することもできるようになる。日・フィリピン政府間で,本協定に関する二度の交渉を行い,本年8月に実質合意に達した。

(注3)円借款「アグリビジネス振興・平和構築・経済成長促進計画」
ミンダナオ紛争影響地域及び周辺地域の民間企業や農業協同組合に対して,設備投資や運転資金等を提供(約148億円)。同地域の金融アクセスの改善,経済活動の活性化を通じた雇用創出,生計向上に資する活動を促進し,ミンダナオにおける平和の定着と開発に寄与するもの。

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