経済協力開発機構(OECD)
第1回アジア国際経済フォーラム:質の高いインフラと強じん性を通じた地域統合及び開発の強化(結果)
平成29年5月1日



- 会場の様子
1 概要
- (1)4月14日(金曜日),品川プリンスホテルにおいて,外務省・OECD開発センター・ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)共催により,「第1回アジア国際経済フォーラム:質の高いインフラと強じん性を通じた地域統合及び開発の強化」が開催され,OECD関係者,ERIA関係者,有識者,民間企業,市民社会,在京大使館関係者,関係省庁・機関職員等220名以上が参加した(議事進行(英文)(PDF)
/(和文仮訳)(PDF)
)。
- (2)近年世界経済は大きな変容を遂げ,新興国の世界経済に占める割合が飛躍的に増加している。また,開発をめぐる環境も変化し,開発課題が多様化・複雑化している。このような状況の中,我が国は,昨年6月,16年ぶりにOECD開発センターに復帰し,12月には,国際セミナー「グローバルな開発潮流と新興アジアの課題:開発センターの知見を生かして」をOECD開発センターと共催した。我が国は,引き続きOECD開発センターの活動に積極的に協力,関与し,OECD開発センターとアジアの関係の更なる強化に貢献していく考えであり,この度,グリアOECD事務総長の訪日の機を捉え,4月14日に東京にて,「アジア国際経済フォーラム」をOECD開発センター,ERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)と共催する運びとなった。なお,OECD開発センターは,OECD加盟国のみならず,アジア諸国も含め,OECD非加盟国である新興国・途上国を広くメンバーに有しているところ,こうした強みを生かし,本フォーラムにおいてOECD側の中心的取り纏め役を果たした。
- (3)同フォーラムのオープニングでは薗浦外務副大臣,グリアOECD事務総長及び西村ERIA事務総長,クロージングでは二階自民党幹事長(OECD議連会長),越川JICA副理事長及びペッチーニOECD開発センター所長が登壇した。各セッションでは,我が国から,和泉内閣総理大臣補佐官(セッション1),伊藤環境副大臣(OECD議連事務局長)(セッション2),福井衆議院議員(セッション3)が登壇し,アジア諸国から閣僚級・次官級等が登壇した。
- (4)冒頭,外務省を代表して薗浦外務副大臣が挨拶を行い,アジアとOECDとの協力関係の重要性,質の高いインフラ整備を促進するための国際スタンダード作りに向けたOECDとの協力,インフラの開放性・公平性,途上国のインフラ整備に関する協力における経済性・財政の健全性に配慮する必要性等について述べた(和文(PDF)
)。また,OECDを代表してグリアOECD事務総長が挨拶を行い,第1回アジア国際経済フォーラムの開催を歓迎するとともに,持続可能な発展のためには,質の高いインフラ投資が必要であること,投資家が安心して投資できるようにするためのスタンダード作りが重要であること,OECDが国際社会におけるG7伊勢志摩原則の理念の普及に向けて協力していきたいこと等述べた。加えて,ERIAを代表して西村ERIA事務総長が挨拶を行い,ERIAの概要やOECD開発センターとの連携を含む取組を紹介するとともに,アジア総合開発計画(CADP)2.0では「インフラプロジェクトの質」の重要性を指摘していること,国内財政・金融含む資金調達手段の拡大が不可欠であること等述べた。
- (5)その後,基調講演として,マリオ・ペッチーニOECD開発センター所長は,アジアには輸出の伸びの鈍化,低金利,低い生産性向上といった経済リスクや,気候変動,急速な都市化などの長期的な課題が存在すること,地域統合,連結性強化においては質の高いインフラ投資が重要であり,ファイナンスもインフラ整備における大きな課題の一つであること等述べた。
2 各セッションの概要
- (1)セッション1:世界中で高まるインフラ需要への対応 質の高いインフラ投資推進のためのグローバルスタンダードの確立と新たなファイナンス(コンセプト・ノート(英文)(PDF)
/(和文仮訳)(PDF)
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- モデレーター:
- 吉野直行 アジア開発銀行研究所(ADBI)所長(資料(PDF)
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- スピーカー:
- ア 和泉洋人内閣総理大臣補佐官は,アジアが直面する課題として,インフラ開発資金の需給ギャップ及びインフラの質の確保を指摘。国際スタンダードに沿った形で質の高いインフラ開発資金の供給量を増やすことが重要であり,この取組を進める上で,開発資金のルールメイキングを司るOECDの役割は大きいこと,我が国としては,OECDと緊密に連携し,国際社会における質の高いインフラの重要性への理解の促進とインフラ開発資金の増大に取り組んでいきたい等述べた。
- イ アルミダ・アリシャバナ元インドネシア国家開発庁長官は,インフラ投資においては被支援国の戦略との整合性や債務持続性に留意すべきこと,投資を可能とする環境整備が必要であること等述べた。
- ウ 王金照・中国国務院発展研究中心(DRC)対外経済研究部副部長は,一帯一路に関する中国の取組,ファイナンスツールについて説明するとともに,持続可能で,包摂的かつ質の高いプロジェクトに投資を行っていること等述べた。
- エ 木村福成・慶應義塾大学経済学部教授・ERIAチーフエコノミストは,発展段階に応じた適切なインフラの質の確保が重要であること,情報開示,健全な競争の担保,譲許性等に関する国際ルールが必要であること等述べた。
- オ アレクサンダー・ボーマーOECDグローバル関係局東南アジア課長は,OECDのSEARP(東南アジア地域プログラム)における持続可能なインフラにかかる地域政策ネットワークの取組を説明しつつ,ASEANにおいては資金源の多様化が必要であること,ASEANのインフラ・ガバナンス等においてOECDとして更に協力できること等述べた。
- カ アナ・ノーヴィックOECD金融企業局投資課長は,インフラ整備に必要な民間資金の量や低炭素インフラの需要につき説明するとともに,質の高いインフラ整備に関する国際スタンダード作りに際し,OECDには様々な手段があり協力できること等述べた。
- キ 吉野直行ADBI所長は,インフラ建設による波及効果の一部を民間へのリターンとすることの重要性,長期的な投資を呼び込むことの必要性等につき述べた。
- (2)セッション2:循環経済に向けて 廃棄物処理のための質の高いインフラに関する再考(コンセプト・ノート(英文)(PDF)
/(和文仮訳)(PDF)
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- モデレーター:
- マリオ・ペッチーニ OECD開発センター所長
- スピーカー:
- ア 伊藤忠彦環境副大臣は,我が国の3R推進に関する取組につき説明するとともに,アジアにおける3R促進に際し,質の高いインフラを導入することの必要性等述べた。
- イ シャドゥール・アグラワラOECD環境局環境経済・統合課長は,ごみ収集率の向上や屋外投棄の停止,分別の推進,非公式の労働者の公式セクターへの統合の重要性等につき述べた。
- ウ チュー・ファム・ゴック・ヒエン・ベトナム天然資源環境省副大臣は,持続可能な経済開発に向けたベトナムの政策,ベトナムにおける循環経済構築に向けた課題につき説明するとともに,ベトナムとしては節約型経済発展モデルに移行する国際的な取組に参加する用意がある旨述べた。
- エ プーンサック・チャンチャンピー・ウェイスト・マネージメント・サイアム社上席課長は,効率的な廃棄物処理のためには規制が必要であり,政府の適切な政策が必要であること,資源を効率的に利用するためには質の高いインフラが必要であること等述べた。
- オ デチェン・ツェリング国連環境計画アジア太平洋地域事務所長は,グリーンインフラの重要性に対する認識が今日高まっており,いかに資金供給を増やすかが重要である旨説明するとともに,ごみを出さないインセンティブが必要であること,気候変動への対応という観点からインフラ投資は好機となり得ること等述べた。
- カ ラミア・カマル・チャウイOECD起業・中小企業・地域開発センター局長は,公的な環境サービスについて地方政府が責任を有していること,廃棄物管理をより幅広い政策に入れ込むことが重要であること等述べた。
- (3)セッション3:持続可能な都市の課題 災害リスクに対処するための包摂的な都市インフラの建設(コンセプト・ノート(英文)(PDF)
/(和文仮訳)(PDF)
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- モデレーター:
- 河田惠昭 関西大学社会安全学部 特別任命教授(資料(PDF)
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- スピーカー:
- ア 冒頭,河田教授は,防災の主流化は重要な課題であること,日本として地震から得た教訓をどう活かすかが重要であること,長期的な視野に立った戦略が必要であること等述べた。
- イ 福井照衆議院議員は,国土強じん化の必要性について一人でも多くの市民に理解してもらう重要性を指摘するとともに,「世界津波の日」の制定を始めとする我が国の取組について説明した。
- ウ ロルフ・アルターOECD公共ガバナンス局長は,国家の都市政策・防災政策・インフラ政策を統合して考える必要があること,防災文化を人々に組み込むための教育が必要であること等述べた。
- エ アニータ・フィルマンティ・インドネシア公共事業・国民住宅省次官は,都市化の進展,地域間格差,インドネシアにおける都市開発のビジョン,持続可能な都市化支援のためのプラットフォーム,戦略的開発地域等につき説明した。
- オ タニ・トンパクディ・タイ外務省副次官は,防災のためのタイの取組につき説明するとともに,インフラ整備に当たっては「より良い復興」を導入し,インフラの中断をいかに最小限に抑えるかが重要であること,防災を成功させるためには社会全体で取り組む必要があること等述べた。
- カ 平原敏英横浜市副市長は,横浜スマートシティ・プロジェクトを初めとする横浜市の取組について紹介した。
- (4)閉会の辞として,二階自民党幹事長は,各国において国土の強じん化が強化されることが「世界全体の安定と安心」につながること,質の高いインフラ投資に関し,今後国際社会で広く共有できるスタンダードを作るべく,OECDや開発センターと協力していきたいこと等述べた(和文(PDF)
)。また,越川JICA副理事長は,「インフラの質」や防災について,関係諸国,OECD,ERIA等と互いに学び合うことが重要である旨述べた。最後に,ペッチーニOECD開発センター所長は,本日の議論を踏まえ今後の開発センターの作業を進めたい,互いに学び合うことが重要であり,今後もアジア国際経済フォーラムを続けていきたい旨述べた。
3 評価
- (1)本セミナーは,昨年12月に開催された国際セミナー「グローバルな開発潮流と新興アジアの課題:開発センターの知見を生かして」に続き,日本のOECD開発センター復帰後の大型共催行事であり,今後OECD,ERIA,日本が更に関係を強化していく上で,重要な一歩となった。
- (2)本セミナーでは,スピーカーによるプレゼンテーション,有識者を含む参加者を交えた活発な意見交換を通じ,質の高いインフラ投資,循環経済,持続可能な都市について,互いの事例を提供し合い,今後の取組に関する方向性を示すことができた。特に,セッション1の主要な論点であったアジアにおけるインフラ需要への対応について,国際スタンダードに沿った形での質の高いインフラの供給量を増やすことの重要性,及びそのためのOECDとの緊密な連携の必要性につき,参加者間で共有することができた。
- (3)本セミナーには,多くの企業及び研究機関等の関係者が参加し,OECD,ERIA,及び日本関係者との間での新たな人的ネットワークを築く有意義な機会となった。