(1) アサド大統領は、国内少数派のアラウィー派出身ながら、巧みな国内多数派(スンニー派)への配慮と、現実的な経済運営等により、70年11月の政権掌握以来政権を維持している。国内におけるテロ、内部対立の兆候はほとんど見られず、イスラム原理主義運動についても目立った動きはなく、内政は安定的に推移してきている。
(2) 現在、シリアは、東アラブ地域の主要国として、中東和平問題をはじめとして中東情勢の鍵を握る重要な立場にある。冷戦終結と湾岸危機発生を受けた中近東の勢力地図の変動の中で、米国主導による中東和平プロセスに参加するとともに、イスラエルとの間では、イスラエル軍のゴラン高原からの撤退と両国間の関係正常化をめぐり直接交渉が実施された。この直接交渉は、96年2月にイスラエル国内で連続爆破事件が発生したために中断。同年5月に発足したイスラエルのネタニヤフ政権の下で長らく中断されたままとなっていたが、99年7月のバラック政権の成立により、その再開に向けた取組が進められつつある。
(3) 経済構造は、GDP構成比において農業20%、鉱工業(建設業を含む)30%、サービス業50%と基本的に各産業間のバランスがとれ、教育・技術水準も比較的高いが、95年以降は民間部門の低迷等により成長率が低下している。原油については89年から純輸出国になり、現在は日量60万バレルのうち半分以上が輸出に向けられ外貨収入増に寄与している。現政権は経済の自由化を進め、民間部門の拡大、投資・貿易自由化、複数為替レートの整理等各種規制緩和による経済の自由化が段階的に実施されつつある。
(4) 我が国は、シリアから綿花、石けん等を輸入し(98年輸入額3,394万ドル)、同国に対し自動車、タイヤ、機械類等を輸出している(同輸出額2億4,708万ドル)。95年9月には、村山総理(当時)、96年8月には池田外務大臣(当時)、99年1月には高村外務大臣が同国を訪問した。また、同年3月にはシャラ外相が訪日した。
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 12,533 | 14,112 | 14.502 | 14,895 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 12,404 | 15,780 | 16.808 | 16,643 |
一人当たり(ドル) | 990 | 1,120 | 1,160 | 1,120 | |
経常収支(百万ドル) | 1,762 | 367 | 165 | 564 | |
財政収支(百万シリア・ポンド) | 921 | -10,059 | - | - | |
消費者物価指数(90年=100) | 100.0 | 145.9 | 168.6 | - | |
DSR(%) | 23.3 | 4.7 | 3.9 | 9.3 | |
対外債務残高(百万ドル) | 17,068 | 21.318 | 21,420 | 20.865 | |
為替レート(年末、1米ドル=シリア・ポンド) | 1.225 | 11.225 | 11.225 | 11.225 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千平方キロメートル) | 183.8 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命(年) | 66 | 69(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
44 | 31(97年) | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
59 | 38(97年) | ||
下位20%の所得又は消費割合(%) | - | - | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
140(80-90年平均) | 180(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 35 | 21(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
20(80-90年平均) | 40(90-98年平均) | |
初等教育純就学率(%) | 98 | 91(96年) | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 70(88-90年平均) | 88(96年) | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 47 | 47(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
7 | 2(95年) |
中等教育 | 42 | 46(96年) |
(1) 我が国は、シリアが、中東和平実現の鍵を握る重要な国であり、中東和平プロセスに当事国として参加していることに鑑み、各形態による経済協力を実施している。95年4月及び99年5月には無償資金協力及び技術協力に関する経済協力政策協議、95年6月には円借款政府調査団を派遣し、同国の経済情勢、開発ニーズ等を調査し、今後の援助のあり方等について意見交換を行った。今後とも、中東和平プロセスへのシリアの積極的な参加を促すべく、同国民生の向上に資する援助実施を検討していく方針である。
(2) 有償資金協力については、エネルギー及び農業分野で供与実績があり、今後は、公的債務の返済状況を十分見極めつつ、優良案件を中心に援助を実施していく。
無償資金協力については、一人当たりGNPの低下に伴い、92年度より無償資金協力対象国となり、食糧増産援助のほか、教育、医療、上水道、環境等の分野に対する援助を実施している。なお、文化無償資金協力は、80年度以降ほぼ毎年実施している。
技術協力については、行政、農業、工業等の分野において研修員受入、専門家派遣、青年海外協力隊派遣、開発調査等により実施し、特に市場経済体制への移行支援等の知的支援にも力を入れている。青年海外協力隊員派遣累計人数(98年度までの累計291人)は、中近東域内第3位である。
また、電力分野や水関連分野において、資金協力と技術協力が連携した協力を実施している。
(1)我が国のODA実績
暦年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
16.53(5) 17.60(14) 12.64(36) 26.57(40) 15.84(32) |
8.57(3) 14.63(12) 19.38(56) 17.12(26) 16.20(32 |
25.10(8) 32.23(26) 32.03(92) 43.70(66) 32.04(64) |
327.38 116.48 24.30 41.46 41.33 |
304.93(92) 90.03(74) 2.84(8) 22.63(34) 17.98(36) |
330.03(100) 122.27(100) 34.87(100 66.33(100) 50.02(100) |
累計 | 94.64(9) | 118.74(11) | 213.39(21) | 983.39 | 826.43(79) | 1,039.84(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2)DAC諸国・国際機関のODA実績
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 | ||||||||||
95 96 97 |
|
|
|
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122.3 34.9 66.3 |
158.9 70.2 93.0 |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 | ||||||||||
95 96 97 |
|
|
|
|
|
9.8 9.0 -3.1 |
75.1 56.6 43.5 |
(3)年度別・形態別実績
年度 | 有償資金援助 | 無償資金援助 | 技術協力 |
90年度までの累計 |
452.38億円 内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
3.40億円 内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
43.95億円
研修員受入 278人 |
91 |
648.68億円
商品借款 (132.70) |
0.46億円 ダマスカス市文化宮殿に対する視聴覚機材 (0.46) |
4.04億円
研修員受入 24人 |
92 | なし | 8.11億円
緊急医療体制整備計画(1/2期) (4.66) |
5.26億円
研修員受入 20人 |
93 | なし | 18.18億円
救急医療体制整備計画(2/2期) (6.29) |
4.25億円
研修員受入 24人 |
94 | なし | 23.91億円
食品検査所機材整備計画 (5.68) |
10.15億円
研修員受入 33人 |
95 |
461.99億円 アル・ザラ火力発電所建設計画 (461.99) |
23.98億円
ダマスカス市ごみ処理機材改善計画 (6.24) |
17.45億円
研修員受入 50人 |
96 | なし | 23.59億円
食糧増産援助 (6.00) |
20.85億円
研修員受入 64人 |
97 | なし | 24.82億円
電力技術研究所建設計画(2/2期) (6.49) |
22.09億円
研修員受入 68人 |
98 | なし | 12.54億円
ダマスカス市内配水管改修計画 (4.36) |
14.39億円
研修員受入 73人 |
98年度までの累計 | 1,563.05億円 | 137.99億円 | 142.42億円
研修員受入 634人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.73年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/904-14.htm)
(参考1)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案件名 | 協力期間 |
鶏病予防センター 国立計測標準研究所 国立計測標準研究所(II) |
72.11~77.11 87.10~92.10 95.12~99.1 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案件名 |
ダマスカス市都市交通計画調査(第2年次) 北西部・中部水資源開発計画調査(フェーズII) ダマスカス首都圏配電網改良計画調査(第1年次) 太陽光発電利用民生向上技術協力計画調査(第4年次) 総合観光開発計画調査(第3年次) ダマスカス首都圏配電網改良計画予備調査(配電系統計画) ダマスカス首都圏配電網改良計画予備調査(配電設備) 太陽光発電利用民生向上技術協力計画調査(機材調整)(プラントエンジニア) 太陽光発電利用民生向上技術協力計画調査(機材調整)(機器エンジニア) |
(参考3)98年度実施草の根無償資金協力案件
案件名 |
スウェイダ新老人ホーム開設計画 女性慈善教会洗濯施設改善計画 タッル地区の貧困家庭女性のための交通手段改善計画 老人ホーム修繕及びサービス拡充計画 出産病院新保育器導入計画 |