(1) 53年に即位した故フセイン国王は、人口の半数強を占めるパレスチナ系住民を含め、国民の強い支持を受けてきた。99年2月同国王が逝去し、息子のアブドッラー皇太子が王位を承継した。今後、新国王の下、経済成長の確保及び周辺アラブ諸国との関係強化が急務である。
(2) 外交面においては、欧米諸国及びアラブ諸国との友好関係維持を基調とし、アラブ穏健派の一つとして両者の橋渡しを行ってきた。湾岸危機の際にイラク寄りの姿勢を取ったことから、湾岸諸国を始めとする周辺アラブ諸国との関係が著しく悪化したが、過去のしがらみとは無関係の新国王の即位に伴い、急速に関係改善が進んでいる。なお、前国王統治下の94年、アラブ諸国の中ではエジプトに次いでイスラエルとの平和条約を締結し、国交を樹立している。
(3) 非産油国であるジョルダン経済の特徴は、第一次及び第二次産業の比率が低く、第三次産業の割合が高いことである。肥料製造業や観光業以外、外貨獲得産業に乏しいため、恒常的な貿易収支赤字に悩まされており、海外出稼労働者からの送金、外国援助により帳尻を合わせる体質が定着している。湾岸危機後、92年から95年までの4年間、国営企業の民営化等の構造改革の実施により年6%前後の高度成長を達成したものの、石油価格の低迷等に伴い湾岸市場が縮小したため、96年以降、成長率は1%前後に張り付いている。このため、99年5月にはパリクラブにおいて債務繰延の適用を受け、また、同年6月のケルン・サミットにおいては、国際社会としてジョルダンの債務負担の実質的軽減を図ることが決定された。目下、国際競争力を有する製造業の育成を図ることが急務とされている。
(4) 我が国は、ジョルダンからリン鉱石、カリ肥料等を輸入し(98年輸入額6,436万ドル)、同国に電気機械、輸送機械等を輸出している(同輸出額1億9,249万ドル)。フセイン国王(当時)が過去4回来日する等従来より我が国との関係は良好で、95年1月及び99年2月には皇太子・同妃両殿下(99年2月はフセイン国王葬儀参列のため)、95年9月には村山総理(当時)、96年8月には池田外務大臣(当時)、99年1月には高村外務大臣、99年2月には小渕総理(フセイン国王葬儀参列のため)が同国を訪問した。
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 3,154 | 4,212 | 4,312 | 4,437 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 3,924 | 6,354 | 7,088 | 6,755 |
一人当たり(ドル) | 1,240 | 1,510 | 1,650 | 1,520 | |
経常収支(百万ドル) | -227.1 | -258.6 | -221.9 | - | |
財政収支(百万ジョルダン・ディナール) | -94.42 | 15.20 | 75.90 | 14.30 | |
消費者物価指数 | 100.0 | 120.9 | 127.0 | - | |
DSR(%) | 20.3 | 12.7 | 12.3 | 11.1 | |
対外債務残高(百万ドル) | 8,177 | 8,111 | 8,070 | 8,234 | |
為替レート(年平均、1ジョルダン・ディナール=米ドル) | 1.5069 | 1.4276 | 1.4104 | 1.4104 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千平方キロメートル) | 88.9 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命(年) | 67 | 70(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
40 | 29(97年) | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | 2.5(92年) | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
52 | 35(97年) | |
下位20%の所得又は消費割合(%) | 6,9(91年) | 5.9(91年) | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
48(80-90年平均) | 150(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 20 | 13(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
26(80-90年平均) | 53(90-98年平均) | |
初等教育純就学率(%) | - | - | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 99(88-90年平均) | 98(96年) | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 48 | 49(96年) | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
1 | 0(95年) |
中等教育 | 49 | 47(96年) |
(1) 我が国は、ジョルダンが1)中東和平プロセスの当事国として同プロセスにおいて積極的な取組み及び貢献を行っており、同国の政治的・経済的安定が中東地域の平和にとって重要であること、特に、現在ジョルダンはフセイン国王逝去後の移行期にあり、国際社会全体がジョルダンを支援する必要性が一層高まっていること、2)民主化及び経済改革に関し積極的に努力していること、3)我が国との関係が良好であること等に鑑み、インフラ整備、人的資源開発等幅広い分野で各形態による援助を積極的に実施している。また、ジョルダンにおける開発の現状と課題、開発計画等に関する調査・研究及び96年3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等におけるジョルダン側との政策対話を踏まえ、以下の分野を援助の重点分野としている。
(イ)基礎生活の向上
1)水供給
ジョルダンは乾燥地域に属しており、水供給源が少ないことから、水の効率的活用に留意しつつ、特に深刻な問題となっている生活用水及び農業振興のための灌漑用水の確保を支援する。
2)食糧
ジョルダンは、水資源の制約から国土に占める農耕地の割合が低く、農業生産性が低いことから農産品の輸入依存度が高い。ジョルダンの安定的食糧供給を確保するため、農業機械、肥料等の供与、灌漑事業、品種改良等への支援を行う。
3)基礎的保健・医療
都市と地方の公共医療施設の整備状況に大きな格差が存在するところ、地方における医療施設の質的改善に重点をおいた支援を行う。
4)基礎教育
ジョルダンが現在取り組んでいる初等教育に重点をおいた教育改革を支援していく。
(ロ)産業振興
1) 輸出産業発展を目的とした人的協力及び資金
協力天然資源及び有力産業を有さないジョルダンの自立的発展には輸出指向型産業の育成が必要であるが、今後、人的協力及び資金協力を含む包括的な輸出産業支援策を推進していく。
2) 観光及び中継貿易のためのインフラ整備
歴史的建造物や観光資源に恵まれたジョルダンの有望産業である観光産業及び交通上の要衝に位置する同国の貴重な外貨獲得源である中継貿易を含む産業分野の基盤整備を支援する。
(ハ)環境保全
急激な都市化及び人口増加による水質汚濁、大気汚染、廃棄物の増加等の環境問題が深刻化しているところ、これらの問題へのジョルダンの対応を支援していく。
(2) 有償資金協力については、従来より農業、通信、教育、運輸等の分野に対し円借款を供与してきており、今後もプロジェクト案件に対する支援を積極的に実施する方針である。98年度までの累計(交換公文ベース)は2,287.02億円(うち、同国に対する円借款に係る債務繰延額242.77億円)で、エジプトに次ぎ中近東域内第2位である。
無償資金協力については、一人当たりのGNPの低下に伴い、93年度より供与対象国となり、民生環境、保健医療等の基礎生活分野の援助を実施し、特に、中東和平に対する貢献の一環として「シェイクフセイン橋架け替え計画」の他、各種の案件を実施している。94年度以降、経済構造調整支援のためのノン・プロジェクト無償資金協力も実施している。文化無償は82年度よりほぼ毎年供与を行っている。
技術協力については、保健・医療、農業、エネルギー、計画・行政等の分野を中心に実施しており、92年度からは域内周辺国及びアフリカ、94年度からはパレスチナ人を対象とした第三国研修を実施している。また、開発調査については、中東和平多国間協議への積極的貢献の一環として、「汽水淡水化計画」、「観光開発計画」等を実施した。
(1) 我が国のODA実績
暦年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
1.23(1) 23.76(13) 32.26(26) 38.72(28) 18.79(43) |
9.95(9) 18.72(10) 14.13(11) 10.53(8) 10.41(24) |
11.19(10) 42.48(23) 46.39(37) 49.25(35) 29.21(66) |
95.49 141.75 77.34 94.55 25.58 |
95.49(90) 141.75(77) 77.34(63) 90.37(65) 14.75(34) |
106.67(100) 184.23(100) 123.73(100) 139.63(100) 43.96(100) |
累計 | 123.68(8) | 124.11(8) | 247.82(16) | 1,349.62 | 1,278.17(84) | 1,526.00(100) |
(注) ( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
日本 184.2 日本 123.7 日本 139.6 |
米国 107.0 ドイツ 67.5 米国 65.0 |
ドイツ 35.8 米国 45.0 ドイツ 34.8 |
フランス 18.2 イタリア 42.5 英国 12.2 |
イタリア 17.8 フランス 19.4 フランス 11.3 |
184.2 123.7 139.6 |
392.1 324.3 288.1 |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
UNRWA 77.3 CEC 113.4 CEC 86.9 |
CEC 55.3 UNRWA 65.2 UNRWA 76.8 |
WFP 5.5 WFP 5.5 WFP 4.8 |
UNTA 2.2 UNDP 2.4 UNDP 2.7 |
UNDP 2.2 UNICEF 1.5 UNTA 1.7 |
0.4 1.2 0.9 |
142.9 189.3 173.8 |
(3) 年度別・形態別実績
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 |
90年度までの累計 | 1,029.53億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
13.17億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
62.64億円
研修員受入 314人 |
91 | 594.86億円 緊急商品借款 (594.86) |
0.45億円 ジョルダン大学語学センターに対するLL機材及び視聴覚機材 (0.45) |
7.62億円
研修員受入 314人 |
92 | 37.81億円 債務繰延べ (37.81) |
0.27億円 アンマン市立図書館に対する視聴覚機材 (0.27) |
6.13億円
研修員受入 36人 |
93 | 12.31億円 債務繰延べ (12.31) |
9.72億円
大アンマン市環境衛生改善計画 (5.04) |
7.43億円
研修員受入 42人 |
94 |
131.38億円
アカバ火力発電所増設事業計画 (47.45) |
30.32億円
水道施設補修機材整備計画 (6.60) |
14.72億円
研修員受入 50人 |
95 |
286.77億円
経済開発・改革計画 (75.23) |
33.66億円
北部アカバ湾油汚染防止計画 (5.47) |
17.36億円
研修員受入 56人 |
96 | なし | 50.66億円
食糧増産援助 (4.00) |
11.02億円
研修員受入 68人 |
97 | 122.37億円
人材開発セクター投資計画(II) (71.23) |
26.63億円
ジョルダン大学病院医療機材整備計画 (7.99) |
11.50億円
研修員受入 65人 |
98 |
71.99億円 観光セクター開発計画 (71.99) |
33.20億円
ノンプロジェクト無償 (25.00) |
13.87億円
研修員受入 73人 |
98年度までの累計 | 2,215.03億円 | 198.08億円 | 152.29億円
研修員受入 1,044人 |
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
2.74年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/904-13.htm)
(参考1)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案件名 | 協力期間 |
王立科学院電子工学サービスセンター 電力訓練センター コンピューター訓練研究センター 家族計画・WID 職業訓練技術学院 |
77.12~81.12 86.3~91.2 90.6~94.6 97.6~00.5 97.10~02.9 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案件名 |
観光施設建設事業実施設計計画調査 水資源管理計画予備調査(水資源システム計画) 観光施設建設事業実施設計予備調査(建築設計/積算) 観光施設建設事業実施設計予備調査(土木設計/積算) 送配電網電力損失低減計画予備調査(電力損失低減計画) 観光施設建設事業実施設計予備調査(自然条件/環境) 送配電網電力損失低減計画予備調査(配電設備) |
(参考3)98年度実施草の根無償資金協力案件
案件名 |
髄膜炎撲滅キャンペーン支援計画 砂漠地域巡回診療車供与計画 地域母子医療センター設立計画 南部地域貧困家庭生活用水貯水槽設置計画 カラク障害者センター支援バス供与計画 ホーシャ村立図書館改善計画 |