(1) 72年に即位したジグメ・シンゲ・ワンチュク現国王は、前国王の近代化・民主化路線を推進する一方、国家開発計画に意欲的に取り組み国民一般の信望は厚く政情は安定している。また、98年6月には国王主導による国政改革が行われ、国民議会により選出された閣僚が国王に代わり内閣の運営を行うなど、民主化が進められている。
他方、近年ブータン政府が押し進めるいわゆるブータン化政策(民族衣装着用の義務化等)に反発した同国南部のネパール系住民が難民としてネパールに流入し、ブータン・ネパール間の懸案となっている。
(2) 外交面では、非同盟中立政策と善隣友好外交を基本方針としているが、インド・ブータン条約によりインドとの間に特殊な関係(対外関係への助言)を有している。
(3) 経済面では、畜産部門も含めた農業がGDPの約40%、就業人口の約85%を占め最大産業であるが、小規模な地域自給型の労働集約産業が中心となっている。対外経済は、貿易をはじめインドとの関係が圧倒的に高い割合を占めている。97年7月からは第8次経済5か年計画が開始されたが、人口増加の抑制、民間部門の育成等が主要課題となっている。
(4) 我が国との経済関係は比較的稀薄であるが、86年に外交関係を開設して以来、浩宮殿下(現皇太子殿下(87年))、秋篠宮・同妃両殿下(97年)のブータン御訪問や、ワンチュク国王(89年、90年)の来日といった要人往来もあり、文化的に類似性を有する我が国に強い親近感を有している。ブータンが我が国との関係を重視していることは、昨年の国政改革により選出された内閣の議長を務めるティンレイ外相が初の外遊先として我が国を訪問したことにも表れている。
(参考1) 主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 1,433 | 695 | 715 | 737 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 273 | 295 | 282 | 315 |
一人当たり(ドル) | 190 | 420 | 390 | 430 | |
経常収支(百万ドル) | - | - | - | - | |
財政収支(百万ニュルタム) | -390.0 | -311.7 | - | - | |
消費者物価指数 | 100.0 | 151.1 | 165.8 | - | |
DSR(%) | 5.5 | 9.0 | 4.9 | 5.1 | |
対外債務残高(百万ドル) | 83.5 | 87.2 | 86.7 | 89.3 | |
為替レート(年平均、1米ドル=ニュルタム) | 17.505 | 32.427 | 35.433 | 36.313 | |
分類(DAC/国連) | 後発開発途上国/LDC | ||||
面積(千平方キロメートル) | 47.0 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命(年) | 49 | 53(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
123 | - | |
所得が1ドル/日以下の人口割合(%) | - | - | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
189 | - | |
下位20%の所得又は消費割合(%) | - | - | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
1,310(80-90年平均) | - | |
成人非識字率(%) | 62 | 58(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
- | - | |
初等教育純就学率(%) | - | - | 安全な水を享受しうる人口割合(%) | 32(88-90年平均) | - | |
女子生徒比率(%) | 初等教育 | 37 | - | 森林面積 (1000平方キロメートル) |
28 | - |
中等教育 | 29 | - |
我が国は、ブータンとの友好関係、同国がLLDCであること等を踏まえ、ブータンに対する援助を積極的に行ってきており、87年以降ブータンに対する最大の二国間ODA供与国となっている。
無償資金協力については、81年度より農業分野及び同国がLLDCであることを考慮し、基礎的インフラ整備を中心に協力を行ってきている。91~94年に同国中央部・東部地域の国内電気通信網整備を目的に無償資金協力が実施されたが、同協力はUNDP/ITUが作成した「国内・国際サービス・テレコミュニケーション開発計画」マスター・プランに基づくものであり、国際機関とのマルチ・バイ協力の成功例として評価されている。
技術協力については、行政、人的資源、通信放送を主とする研修員受入れを中心に実施しており、また、87年に両国間で青年海外協力隊派遣取極に署名し、88年より隊員を派遣している。開発調査については実績こそ少ないものの、引き続き農業分野、基礎生活分野(BHN分野)を中心に協力を行う方針である。97年度には子供の健康の改善のためのプロジェクト形成調査団を派遣した。
なお、94年度より、我が国がUNDP内に設置した「人造り信託基金」よりブータン第7次5か年計画(92~97年)の重点項目である人材開発(主に森林管理、都市管理、職業教育分野のトレーニング)に対する支援(30万ドル)を実施したほか、98年度からは、我が国無償資金協力の道路建設機材整備計画を補完するものとして、ブータン通信省職員に対し道路・橋梁メンテナンスに関する技術訓練を実施している。
(1) 我が国のODA実績
年 | 贈与 | 政府貸付 | 合計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
23.19(84) 14.88(68) 6.63(57) 11.29(70) 4.31(51) |
4.35(16) 6.97(32) 5.01(43) 4.92(30) 4.15(49) |
27.54(100) 21.86(100) 11.64(100) 16.21(100) 8.47(100) |
- - - - - |
-(-) -(-) -(-) -(-) -(-) |
27.54(100) 21.86(100) 11.64(100) 16.21(100) 8.47(100) |
累計 | 132.92(76) | 42.15(24) | 175.10(100) | - | -(-) | 175.10(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績(97年支出純額、単位:百万ドル)
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合計 |
95 96 97 |
日本 21.9 日本 11.6 日本 16.2 |
デンマーク 9.7 デンマーク 10.8 デンマーク 9.8 |
スイス 9.0 オランダ 6.3 オーストリア 7.0 |
オランダ 5.5 スイス 4.7 スイス 4.7 |
オーストリア 3.9 オーストリア 3.9 オランダ 4.3 |
21.9 11.6 16.2 |
55.2 42.1 45.0 |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 96 97 |
UNDP 3.9 UNDP 5.2 UNDP 6.8 |
ADB 3.8 CEC 4.8 ADB 6.7 |
UNTA 2.5 ADB 2.4 CEC 3.6 |
UNICEF 1.7 WFP 2.1 WFP 1.9 |
CEC 1.7 UNICEF 1.8 UNICEF 1.9 |
4.9 4.0 4.6 |
18.5 20.3 25.5 |
(3) 年度別・形態別実績
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 | ||
90年度までの累計 | なし |
68.93億円
(内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照) |
14.42億円
|
||
91 | なし |
18.86億円
国内通信網整備計画(1/3期) (15.40) |
2.78億円
|
||
92 | なし |
18.22億円
国内通信網整備計画(2/3期) (15.67) |
3.14億円
|
||
93 | なし |
15.18億円
国内通信網整備計画(3/3期-1) (3.13) |
3.62億円
|
||
94 | なし |
14.43億円
国内通信網整備計画(3/3期-2) (4.22) |
5.25億円
|
||
95 | なし |
14.11億円
第二次道路建設機材整備計 (5.57) |
5.78億円
|
||
96 | なし |
10.06億円
食糧増産援助 (2.00) |
5.35億円
|
||
97 | なし |
12.42億円
西部地域国内通信網整備計画(国債2/3期) (9.94) |
4.96億円
|
||
98 | なし |
3.88億円
西部地域国内通信網整備計画(国債3/3) (3.88) |
5.58億円
|
||
98年度までの累計 | なし | 176.09億円 |
50.90億円
|
(注)1. 「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2. 「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3. 81年度から90年度までの無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/jisseki/kuni/j_90sbefore/902-06.htm)
(参考1)98年度実施開発調査案件
案件名 |
プナチャンチュ水力発電事業計画調査(第1年次) 橋梁整備計画調査(第2年次) プナ・チャンチュ水力発電事業計画予備調査 |