2023年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅴ部 効果的・戦略的な開発協力の推進

チュニジア柔道連盟カラートアンダルース支部で、同僚コーチと一緒にこどもたちに指導するJICA海外協力隊員(写真:Ahmed Souayed/JICA)

チュニジア柔道連盟カラートアンダルース支部で、同僚コーチと一緒にこどもたちに指導するJICA海外協力隊員(写真:Ahmed Souayed/JICA)

1 共創を実現するための多様なパートナーとの連帯

新たな開発協力大綱では、明確な解決策が見つかっていない様々な開発課題に対して、民間企業や公的金融機関など様々な主体が互いの強みを持ち寄り、対話・協働することにより、新たな社会的価値を共に創り出す「共創」を基本方針に掲げています。

(1)民間企業との連携

日本政府は、日本企業の持つ総合力が、外務省やJICAが行うODA事業等においてもさらに発揮されるよう、日本の民間企業の優れた技術・知識・経験・資金の効果的な活用に努めています。また、民間の知見やノウハウをODAの案件形成の段階から取り入れたり、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理は民間で行うといったように、官民で役割を分担したりし、民間による投資事業等との連携を促進しています。民間企業との連携を強化して、より効果的・効率的な事業を行うことで開発効果を高めていきます。

ア 民間提案型の官民連携支援スキーム

日本政府およびJICAは、民間企業の意見や提案を積極的に取り入れるべく、「中小企業・SDGsビジネス支援事業」や「協力準備調査(海外投融資)」といった民間提案型の官民連携支援スキームも推進しています。

■中小企業・SDGsビジネス支援事業
モンゴルでのドローンによる血液輸送の実証実験の様子(株式会社エアロネクスト/中小企業・SDGsビジネス支援事業)

モンゴルでのドローンによる血液輸送の実証実験の様子(株式会社エアロネクスト/中小企業・SDGsビジネス支援事業)

中小企業・SDGsビジネス支援事業解説は、民間企業の自由な発想に基づいたアイデアを開発協力に取り込み、民間企業の製品・技術を活用し、ビジネスを通じた現地の課題解決や多様なパートナーとの連携を進めることを目的としています。JICAホームページで公示を行い、企業から提出された企画書の内容を踏まえJICAが採択します。2010年から2023年までの累計採択数は、1,516件に上っています。

2023年度公示では、29か国における合計68件の事業(ニーズ確認調査:32件、ビジネス化実証事業:23件、普及・実証・ビジネス化事業:「中小企業支援型」12件、「SDGsビジネス支援型」1件)が採択されました(「匠の技術、世界へ1」および「匠の技術、世界へ4」も参照。事業の仕組み、対象分野・国などについては、JICAホームページ注1を参照)。

■協力準備調査(海外投融資)

近年、官民協働による開発途上国のインフラ整備および民間事業を通じた経済社会開発の動きが活発化しています。JICAは、海外投融資での支援を念頭に、民間資金を活用した事業の形成を図るため、協力準備調査(海外投融資)を実施しています。開発途上国における事業参画を検討している民間企業から事業提案を広く公募し、事業計画策定のためのフィージビリティ調査を支援しています(事業の仕組み、対象分野・国などについては、JICAホームページ注2を参照)。2010年から2022年度までの採択案件数は、86件に上っており、2023年はアジア地域において1件事業が採択されています。

■JICA海外協力隊(民間連携)

2012年に創設された「JICA海外協力隊(民間連携)」では、2023年3月までに129人が38か国に派遣され、企業の海外展開を積極的に支援してきました。派遣された隊員は、隊員活動を通して、その国特有の商習慣や市場ニーズを把握し、帰国後の企業活動へ還元することが期待されています。なお、このプログラムは2023年4月に、「JICA海外協力隊(連携派遣)」として、大学連携、自治体連携といった他の連携制度と統合されました(「案件紹介」も参照)。

図表Ⅴ-1 ODAを活用した官民連携支援スキーム
イ 海外投融資

海外投融資解説は、開発効果の高い事業を開発途上国で行う企業に対し、民間金融機関から十分な資金が得られない場合に、JICAが必要な資金を出資・融資するものです。2011年から2022年度末までに累計114件の出融資契約を調印しており、多くの日本企業も参画しています(事業の仕組み、対象分野・条件などについては、JICAホームページ注3を参照)。

最近の好事例としては、2023年に調印されたラオスでの風力発電事業(融資事業)やアフリカにおけるスタートアップ企業支援事業(ファンドへの出資)があります。前者は、ラオス初の風力発電事業であり、ベトナム電力公社(EVN)に国境を超えて売電するもので、メコン地域の連結性強化にも資するものです。発電所が建設されるラオスにおいて、再生可能エネルギー発電による電力供給能力の増強に寄与するとともに、売電先となるベトナムでも温室効果ガス排出量の削減による気候変動対策に寄与します。後者は、ベンチャー・キャピタルファンドへの出資を通じて、イノベーションを駆使してアフリカの金融包摂、保健医療、気候変動等の社会課題解決に取り組むスタートアップ企業へ投資を行い、アフリカの持続的な経済成長に貢献することを目指します。日本は、これまでにも「Project NINJA」注4等を通じて、アフリカで起業家支援活動を行ってきていますが、本事業により創業初期段階にある企業に向けた金融支援へと支援の幅を広げることが可能となります。また、本事業では日本企業との連携促進も期待されます。

2023年5月20日に岸田総理大臣がG7広島サミットに際し開催した、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)に関するサイドイベントにおいて、官民のインフラ投資を通じてパートナー国の持続可能な開発に貢献することを表明したことを踏まえ、気候変動対策、食料安全保障、金融包摂の3つの分野における融資枠を創設しました(詳細は第Ⅰ部2を参照)。

日本の開発協力は、多様なアクターとのパートナーシップの下で推進されています。開発協力の実施にあたっては、JICAとその他の公的資金(OOF)を扱う機関(株式会社国際協力銀行(JBIC)解説、株式会社日本貿易保険(NEXI)、株式会社海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)、株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等)との間の連携を強化するとともに、政府が、民間部門を含む多様な力を動員・結集するための触媒としての役割を果たすことが重要です。

なお、国連開発計画(UNDP)および国連児童基金(UNICEF)などの国際機関も、開発途上国における豊富な経験と専門性をいかし、日本企業による包摂的ビジネス解説を支援しています。

ウ 事業・運営権対応型無償資金協力

2014年度から、日本政府は、民間企業が施設整備から運営・維持管理まで包括的に関与して実施する公共事業に無償資金協力を行う、事業・運営権対応型無償資金協力を実施しています。本無償資金協力は、日本企業の開発途上国における事業権・運営権の獲得を促進することを通じて、日本の技術・ノウハウを当該国の経済社会開発に役立てることを目的としています。

用語解説

中小企業・SDGsビジネス支援事業
民間企業からの提案に基づき、開発途上国の開発ニーズと企業が有する優れた製品・技術等とのマッチングを支援し、開発途上国での課題解決に貢献するビジネスの形成を後押しするもの。また、本事業は、日本の中小・中堅企業の海外展開を支援するのみならず、日本国内の経済や地域活性化を促進することも期待されている(図表Ⅴ-1も参照)。
海外投融資
JICAが行う有償資金協力の一つで、開発途上国での事業実施を担う民間セクターの法人などに対して、必要な資金を出資・融資するもの。民間企業の開発途上国での事業は、雇用を創出し、経済の活性化につながるが、様々なリスクがあり、高い収益が望めないことも多いため、民間の金融機関から十分な資金が得られないことがある。海外投融資は、そのような事業に出資・融資することにより、開発途上国の開発を支援している。支援対象分野は、(1)インフラ・成長加速、(2)SDGs(貧困削減、気候変動対策を含む)。
国際協力銀行(JBIC)
日本政府が全株式を保有する政策金融機関。一般の金融機関が行う金融を補完することを旨としつつ、(1)日本にとって重要な資源の海外における開発および取得の促進、(2)日本の産業の国際競争力の維持および向上、(3)地球温暖化の防止などの地球環境の保全を目的とする海外における事業の促進、(4)国際金融秩序の混乱の防止またはその被害への対処、の4つの分野について業務を行い、日本および国際経済社会への健全な発展に寄与することを目的としている。
包摂的ビジネス(Inclusive Business)
包摂的な市場の成長と開発を達成するための有効な手段として、国連および世界銀行グループが推奨するビジネスモデルの総称。社会課題を解決する持続可能なBOPビジネス(開発途上国・地域の低所得者層(Base of the Economic Pyramid)を対象にした、社会的な課題解決に役立つことが期待されるビジネス)を含む。

  1. 注1 : 中小企業・SDGsビジネス支援事業について https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/sme/index.html
  2. 注2 : 協力準備調査(海外投融資) https://www.jica.go.jp/priv_partner/activities/psiffs/index.html
  3. 注3 : 海外投融資 https://www.jica.go.jp/activities/schemes/finance_co/loan/index.html
  4. 注4 : 注23を参照。
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