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「近代養蜂発祥の地」岐阜の企業がタンザニアの蜂蜜収穫量の増加に貢献

ミツバチが日本から持ち込んだ養蜂器具に順応していることを確認している様子(写真:日新蜂蜜株式会社)

現地の養蜂関係者と協議する日新蜂蜜株式会社社員(写真右)(写真:日新蜂蜜株式会社)
東アフリカのタンザニアは、人口の約7割が農業に従事する農業国ですが、農業セクターの成長率は低く、都市部と農村部の格差や、若年層の雇用が課題となっています。このうち養蜂については、年間約3万トンの蜂蜜を生産し、アフリカで2番目の生産量を誇るものの、実際の収穫量は、気候や蜜源(ミツバチが蜂蜜作りのための蜜を集める植物)の多さを考慮した際の想定収穫量に比べると格段に少ないと言われています。その要因の一つに、小規模農家が伝統的な養蜂技術を用いていることが挙げられます。
そこで、「近代養蜂発祥の地」とも言われる岐阜県に拠点を置き、蜂蜜製品製造や輸入に携わる日新蜂蜜株式会社は、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用し、タンザニアにおける近代養蜂の導入に取り組んでいます。
日本の蜂蜜はそのほとんどを輸入に頼っており、日新蜂蜜(株)では南米、東欧、東南アジアなどから蜂蜜を輸入していますが、輸入先多角化の候補として挙がったのがタンザニアでした。日新蜂蜜(株)の代表取締役社長、岸野逸人(はやと)氏は「伝統的な方法で蜂蜜を採集しているタンザニアに日本の近代養蜂技術を取り入れれば収穫量を増やすことができると見込みました。」とタンザニアを選んだ理由を語ります。
「今回は、蜂蜜を輸入するだけでなく、現地の人材を育成し、生産力を向上させる新しい試みともなりました。その際に課題となったのが、日本式の巣箱の導入と、現地の蜂の攻撃性でした。」と、岸野社長は事業開始当初の様子を振り返ります。
タンザニアの伝統的な養蜂は、日本式の巣箱の4倍近い大きさの巣箱を使用して、一定の場所で蜂が来るのを待つ方式です。花のある場所に巣箱を移動することが困難な上、蜂蜜が十分に溜(た)まるまで数か月もかかるため品質も低下します。そのため、小型で移動可能な日本式の巣箱を導入することから始めました。安定的に巣箱を供給できるよう、宮崎県の企業と協力し、現地の木材を活用して巣箱を製造・流通させる体制を整える計画を進めています。岸野社長は、「小型の巣箱の導入により、花のある場所に巣箱を移動して、効率よく蜂蜜を集めることができます。また、巣箱を小さくすることで女性にも扱いやすくなり、女性の参画にもつながります。」と日本式巣箱の利点を語ります。
もう一つの課題であるタンザニアの蜂の攻撃性に関して、アフリカのミツバチは攻撃性が高く、作業中に刺される危険性が高いとされています。そのため、日新蜂蜜(株)ではJICAの協力の下、現地大学・研究機関と共同で、攻撃性を発揮しなくてもよい環境にミツバチを置いて3世代交配を繰り返し、攻撃性の低いミツバチを選別して養蜂に適したミツバチを増やしています。
日新蜂蜜(株)によれば、近代養蜂技術を取り入れることにより収穫量が伝統養蜂の約4倍にまで増加することが確認されました。当初は新しい技術の導入に懐疑的だった現地の養蜂家も、日本の養蜂技術導入に大きな期待を寄せるようになっています。岸野社長は、「2026年までに生産量をさらに増やし、安定した事業にすることを目標にしていますが、養蜂家の育成など量を増やすための課題のみならず、味や色など質の課題も残されています。こうした課題を解決し、タンザニアの養蜂家の収入を増加・安定させながら、日本の食卓にタンザニア産の蜂蜜を届けたいです。」と今後の抱負を語ります。