(7)防災の主流化と防災対策・災害復旧対応、および持続可能な都市の実現
災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、災害が経済や社会全体に深刻な影響を与えています。このため、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組が求められており、中でも、あらゆる開発政策・計画に防災の観点を導入する「防災の主流化」を推進することが重要となっています。
また、近年、都市の運営に関わる様々な問題が注目されています。たとえば、市街地や郊外で排出される大量の廃棄物の処理、大気・水などの汚染、下水・廃棄物処理システムなどのインフラ施設の整備、急激な人口増加とそれに伴う急速な都市化などの問題です。こうした問題に対応し、持続可能な都市の実現に向けて取り組むことが重要な開発協力課題となっています。
そこでSDGsでは、目標11として、「包摂(ほうせつ)的で安全かつ強靱(きょうじん)(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住の実現」という課題が設定されました。このように、持続可能な都市の実現を含む人間居住の課題解決に向け、国際的な関心が高まっています。
●日本の取組
■防災協力

エクアドルの津波避難計画策定ワークショップで指導を行う専門家の様子(写真:JICA)
日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培われた優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで、防災対策および災害復旧対応において積極的な支援を行っています(「国際協力の現場から」、「案件紹介 グアテマラ」、「案件紹介 バングラデシュ」および「案件紹介 チリ」を参照)。第3回国連防災世界会議(2015年)において採択された「仙台防災枠組2015-2030」には、「防災の主流化」、事前防災投資の重要性、多様なステークホルダー(関係者)の関与、災害後において、被災前よりも強靱(きょうじん)なまちづくりを行う「より良い復興(Build Back Better)」、女性のリーダーシップの重要性など、日本の主張が多く取り入れられました。
現在は、2019年に発表された、日本の防災協力の基本方針となる「仙台防災協力イニシアティブ・フェーズ2」に基づき、防災に関する日本の進んだ知見と技術を活かし、誰もが安心して暮らせる災害に強い国際社会の発展に貢献しています。具体的には、洪水対策などにより、2019年から2022年の4年間で、少なくとも500万人に対する支援を行うことに加え、行政官や地方リーダー計4万8,000人の人材育成、および次世代を担う子どもたち計3万7,000人に対する防災教育の実施を推進しています。これにより、各国の建造物の性能補強や災害の観測施設の整備が進むだけでなく、防災関連法令・計画の制定や防災政策立案・災害観測などの分野での人材育成が進み、各国における「防災の主流化」に寄与しています。
このほか、日本の呼びかけにより、2015年の国連総会において、11月5日を「世界津波の日」とする決議が採択されました。これを受け、2016年より日本各地で「『世界津波の日』高校生サミット」が開催されているほか、2021年11月5日、日本は国連防災機関(UNDRR)と共催で、国連本部において津波防災の重要性を訴える啓発イベントを開催しました。
また、日本は、UNDPと緊密に連携し、アジア太平洋地域の津波の発生リスクが高い国を対象とした津波避難計画の策定や津波避難訓練などを支援する事業を実施しています。同事業注69では、2018年12月から2021年2月までの期間に、パラオで9月を防災月間とする大統領令が発出されるなど防災の制度化が推進されたほか、教師等の研修、15か国265の学校で津波防災計画の策定・改定、津波教育プログラムを実施し、100,119名の生徒、教師、および学校関係者が津波避難訓練に参加しました。このほか、2021年にはアラブ諸国(エジプト、レバノンおよびヨルダン)を対象として、UNDRRを通じて、新型コロナ等の感染症をも考慮した「より良い復興」のための防災戦略策定にかかる技術支援も実施しています。
加えて、2016年から毎年、国連訓練調査研究所(UNITAR)広島事務所との協力で、自然災害に脆弱な途上国の女性行政官などを対象に、特に津波発生時の女性の役割やリーダーシップに関する人材育成支援を実施しています。同事業には、2021年までに太平洋・インド洋島嶼(とうしょ)国26か国から287名が参加しました。
また、日本は、「防災ICTシステムの海外展開」にも取り組んでいます。日本の防災ICTシステムを活用すれば、情報収集・分析・配信を一貫して行うことができ、コミュニティ・レベルまで、きめ細かい防災情報を迅速かつ確実に伝達することが可能であり、途上国の防災能力の向上に貢献しています。
■持続可能な都市の実現
日本は、防災対策・災害復旧対応や健全な水循環の推進など、人間居住に直結した地球規模課題の解決に向けた取組を進めています。具体的には、日本はその知識と経験を活かし、上下水・廃棄物・エネルギーなどのインフラ整備や、「より良い復興」の考え方を踏まえた防災事業や人材育成などを実施しています(「国際協力の現場から3」、「国際協力の現場から5」も参照)。このほか日本は、持続可能な都市開発を推進する国連人間居住計画(UN-Habitat)への支援を通じた取組も進めています。その一例として、福岡に所在するアジア太平洋地域本部と連携し、日本の福岡県が有する防災技術等を開発途上国に導入するための支援などを実施しています。
グアテマラ


中米広域防災能力向上プロジェクト・フェーズ2
技術協力プロジェクト(2015年7月~2020年6月)
中米地域は地震や火山災害、風水害など、日本と同様に様々な自然災害のリスクを抱えており、日本は自らの知識と経験を活かしながら、同地域に対して防災に関する様々な支援を行っています。2007年から中米6か国注1を対象に開始された「中米広域防災能力向上プロジェクト(BOSAI)」では、廃タイヤを利用した堤防作りなどコミュニティのレベルで実施できる取組を着実に進めてきました。2015年からは、こうした成果を各国の国内および中米地域全体で広げていくため、フェーズ2が開始されました。
フェーズ2の対象国の一つであるグアテマラでは、国家災害対策調整委員会を対象に火山防災能力を強化するための取組が行われました。火山ごとに火山防災協議会が設置され、防災機関や火山観測機関、県や市などの関係者が一堂に会して対策を進めることができるようになったほか、火山の防災マップが更新され、災害時に必要な情報が一挙に把握できる体制が整えられました。また、火山周辺の住民が無線やSNSを通じて行政の防災担当者に火山の様子を連絡する仕組みを立ち上げたり、住民から聞き取りを行った過去の災害体験を記録し、教材として活用したりするなど、住民参加型の取組も進められ、住民の防災意識も次第に向上していきました。
2018年にフエゴ火山が噴火した際には、研修を受けた住民が危険を察知し、周囲の住民の避難を促したり、講習で学んだ応急手当を実践したりするなどの具体的な成果が見られました。その後、噴火によって明らかになった観測・避難警戒用機器およびインフラなどの問題を教訓にプロジェクトの改良も行われました。
本プロジェクト終了後も、効率的な避難所運営に向けた訓練など、日本の知見と経験が活かされた防災の取組がグアテマラの住民自身によって続けられています。

住民に火山の防災マップについて説明する日本人専門家チーム(写真:JICA)

国家災害対策調整委員会の職員が市役所職員や日本人専門家と検討しながらタイムラインを作成している様子(写真:JICA)
注1 グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、コスタリカ、パナマおよびニカラグア(ニカラグアは2008年12月から対象)。
- 注69 : フェーズ2の対象国はアジア太平洋地域の18か国(うち5か国は新規)。