2021年版開発協力白書 日本の国際協力

2-2 平和と安定、安全の確保のための支援

(1)平和構築と難民・避難民支援

国際社会では依然として、民族・宗教・歴史の違いなどを含む様々な要因、また、貧困や格差などの影響によって地域・国内紛争が発生し、近年、特にその長期化が課題となっています。紛争は、多数の難民や避難民を発生させ、人道問題を引き起こし、長年にわたる開発努力の成果を損ない、大きな経済的損失をもたらします。そのため、紛争の予防や再発防止、持続的な平和の定着のため、開発の基礎を築くことを念頭に置いた平和構築の取組が国際社会全体の課題となっています。

ODAによる平和構築支援

●日本の取組

ナイジェリア北東部で国内避難民にインタビューを行うUNHCR職員

ナイジェリア北東部で国内避難民にインタビューを行うUNHCR職員

紛争などの人道危機への対応として、日本は初期の段階から、緊急に必要とされる人道支援と中長期的な開発協力とを並行して行う「人道と開発の連携」を推進しています。また、これに加え、紛争が長期化し、人道危機が多様化する中、平時から中長期的な観点に立って強靱(きょうじん)な国づくりや社会安定化といった平和の持続のための支援を行う「人道と開発と平和の連携」の考え方も重視しています。各国・地域において、自立的発展を後押しし、危機の根本要因に対処するため、人道支援、貧困削減・経済開発支援、平和構築や紛争再発予防の支援を継ぎ目なく展開しています。

国際社会では、国連平和構築委員会(PBC)解説などの場において、紛争の解決から復旧、復興または国づくりに至るまでの一貫した支援に関する議論が行われています。日本は設立時からPBC組織委員会のメンバーを務め、制度・能力の構築に取り組む重要性や紛争の根本原因に対処する必要性、PBCと国連主要機関および世銀・IMFなどの機関との関係強化について発信しつつ、積極的に貢献してきています。国連平和構築基金(PBF)解説にも、2021年12月時点で総額5,770万ドルを拠出し、主要ドナー国として、アフリカやアジアをはじめとする各国における紛争の予防・再発防止、平和の持続などを支援しています。また、2021年の国連総会一般討論演説において、菅総理大臣(当時)は、平和構築の取組を重視する旨を表明しました。

具体的には、紛争下における難民・避難民に対する緊急人道支援や、紛争終結後の和平(政治)プロセスに向けた選挙支援、また、平和の定着と紛争の再発防止を目的とした、元兵士の武装解除、動員解除および社会復帰(DDR:Disarmament、Demobilization、Reintegration)、治安部門改革、行政・司法・警察機能の強化に関する支援を実施しています。さらには、経済インフラや制度整備支援、保健や教育などの社会分野での支援も行っています。加えて、難民・避難民の帰還、再定住への取組のほか、基礎インフラ(経済社会基盤)の復旧といった復興のための支援にも取り組んでいます(難民・避難民支援については「難民・避難民支援」を参照)。日本は、このような支援を継ぎ目なく行うため、国際機関を通じた支援と、無償資金協力、有償資金協力、および技術協力といった支援を組み合わせて対応しています。

また、日本は、国連安保理決議第1325号をはじめとした、平和構築における女性の役割が重要であるとする一連の国連安保理決議に基づいて、紛争予防や平和構築への女性の参画促進に積極的に取り組んでいます。

さらに、開発協力大綱には、国連平和維持活動(PKO)などの国際平和協力活動と開発協力の連携を強化していくことが掲げられています。実際、国連PKOが行われている国や地域では、紛争の影響を受けた避難民や女性・子どもの保護、基礎インフラの整備などの取組が多く行われており、その効果を最大化するために、このような連携を推進することが引き続き重要です。たとえば、2021年には南スーダンにおいて、200名の女性に対し、平和構築への女性の参画に向けた能力構築支援を行ったほか、ジェンダーに基づく暴力の被害者に対する支援を行い、同国の平和と安定に向けた取組を促進しました。

日本は、国連、支援国および要員派遣国の3者が互いに協力し、国連PKOに派遣される要員の訓練や必要な装備品の提供を行う協力枠組みである「国連三角パートナーシップ・プロジェクト」にも積極的に貢献しています。同枠組みの下、たとえば、アフリカおよびアジアの工兵要員を訓練するために自衛隊員等を派遣して重機操作訓練を実施しているほか、医療分野においても救命訓練実施のための自衛隊員派遣やPKOミッションの遠隔医療体制整備への貢献などを行っています。

■難民・避難民支援
テレビ会議で開催されたUNRWAに関する閣僚級国際会合に出席する鈴木外務副大臣(2021年11月)

テレビ会議で開催されたUNRWAに関する閣僚級国際会合に出席する鈴木外務副大臣(2021年11月)

シリアやアフガニスタン、ミャンマーなどの情勢を受け、2019年に引き続き、2020年も世界の難民・避難民等の数は第二次世界大戦後で最大規模となり、人道状況が厳しさを増しています。人間の安全保障の観点から、日本は、最も脆弱(ぜいじゃく)な立場にある人々の生命、尊厳および安全を確保し、一人ひとりが再び自らの足で立ち上がれるような自立支援のため、難民・避難民等に対する支援を含む人道支援を行っています(「国際協力の現場から」も参照)。

具体的には、主に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)をはじめとする国際機関と連携して、シェルターや食料などの基礎的な生活に必要な物資の支援を世界各地の難民・避難民等に対して継続的に実施しています(IOMで働く日本人職員について、「国際協力の現場から」も参照)。また、日本は、国連世界食糧計画(WFP)、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、赤十字国際委員会(ICRC)などの国際機関と連携することにより、治安上危険な地域においても、それぞれの機関が持つ専門性や調整能力などを活用し、難民・避難民等への支援を実施しています。たとえば、2021年には、エチオピアに対して、同国における武力衝突により発生した国内避難民などに対する支援として、WFPやIOMなどを通じて医療資機材や食料などを供与する緊急無償資金協力を実施しました(詳細は第Ⅲ部8アフリカ地域を参照)。

日本は、こうした国際機関を通じて難民・避難民等への支援を行う際、JICAやNGO、民間企業との連携を図っています。たとえば、UNHCRが行う難民支援においては、JICAと連携し、緊急支援と復興支援を連携させた支援を実施しています。また、特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)注30と連携した難民・避難民への支援も行っています(「(3)日本のNGOとの連携」も参照)。

■社会的弱者の保護と参画

紛争や地雷などによる障害者、孤児、寡婦(かふ)、児童兵を含む元戦闘員、避難民などの社会的弱者は、紛争の影響を受けやすいにもかかわらず、紛争終了後の復興支援においては対応が遅れ、平和や復興の恩恵を受けにくい現実があります。

こうした観点から、日本は、児童兵の社会復帰や紛争下で最も弱い立場にある児童の保護・エンパワーメントのため、国連児童基金(UNICEF)を通じた支援を行っており、たとえば中央アフリカにおいては、元児童兵の社会統合支援のほか、性的暴力を受けた子どもおよび国内避難民に対する総合的な人道支援を実施しています。ほかにも、日本は、国連女性機関(UN Women)と協力して、南スーダン、ナイジェリアなどにおいて、紛争および災害下の女性・女児を対象に、持続可能な生計手段確保のためのインフラ整備や職業訓練などを実施しています(「国際協力の現場から」も参照)。

■対人地雷・不発弾対策および小型武器対策
地雷が除去された村の伝統的首長に作業完了を通知する丸橋駐アンゴラ日本大使

地雷が除去された村の伝統的首長に作業完了を通知する丸橋駐アンゴラ日本大使

かつて紛争があった国・地域には対人地雷や不発弾が未だ残るとともに、非合法な小型武器が現在も広く流通しています。これらは、一般市民などに対して無差別に被害を与え、復興と開発のための活動を妨げるだけでなく、対立関係を深刻にする要因にもなります。そのため、対人地雷や不発弾の処理、小型武器の適切な管理、地雷被害者の支援や能力強化などを通じて、こうした国・地域を安定させ、治安を確保するための持続的な協力を行っていくことが重要です。

日本は、「対人地雷禁止条約」および「クラスター弾に関する条約」の締約国として、人道と開発と平和の連携の観点から、地雷除去や被害者への支援に加え、リスク低減教育などの予防的な取組を通じた国際協力も着実に行っています。たとえば、カンボジア地雷対策センター(CMAC)に対しては、設備支援にとどまらず、国内外に対する研修機能の強化、組織運営部門の職員の育成や情報システム構築など、今後さらに国際的に貢献する組織となっていくためのCMACの組織全体の能力向上のための協力を行っています。こうした包括的な支援により、CMACはコロンビアやラオスなど他国の地雷対策職員の研修場所としても機能し、南南協力の実現にも貢献しています。また、日本は、ボスニア・ヘルツェゴビナにおいて、スロベニアに本部を置く国際NGO「人間の安全保障強化のための国際信託基金(ITF)」が「ボスニア・ヘルツェゴビナ地雷行動センター」と協力して実施している地雷除去活動を支援しており、西バルカン地域の連結性向上にも貢献しています。

また、アフガニスタンにおいては、特定非営利活動法人難民を助ける会(AAR Japan)が、地雷や不発弾などの危険性と適切な回避方法に関する知識の普及を目的として、教材開発や講習会などの教育事業を、日本NGO連携無償資金協力(2009年度以降)やJPF事業(2001年度以降)を通じて実施しており、住民への啓発活動が着実に進められています。

このほか、日本は、不発弾の被害が特に大きいラオスに対して、不発弾処理専門家の派遣や機材供与などを行っています。具体的には、同国の不発弾処理機関の能力向上支援のほか、特に不発弾の被害が大きく貧困率の高い地域のセコン県、サラワン県およびチャンパサック県において、不発弾処理に必要な灌木(かんぼく)除去の機械や関連資機材の整備、人材育成などを行っています。

日本は、こうした二国間支援に加え、国際機関を通じた地雷・不発弾対策も積極的に行っています。2021年には、アフガニスタン、シリア、パレスチナ、スーダン、ナイジェリア、南スーダンに対して、国連地雷対策サービス部(UNMAS)を通じた地雷・不発弾対策支援(除去、危険回避教育、被害者支援など)を行っています。たとえば、シリアでは、UNMAS経由で、爆発物事故の被害者への支援を行うとともに、被害者支援実施のための枠組み策定にも取り組みました。2021年はほかにも、UNICEF経由でパレスチナ、イエメン、中央アフリカ、チャド、南スーダン、イラク、ウクライナにおいて危険回避教育に関する支援を実施しています。また、ICRCを通じて、パレスチナ、イラク、シリア、ウクライナでも危険回避教育などの支援を行っています。

また、日本は、グテーレス国連事務総長の「軍縮アジェンダ」(2018年)に基づいて設置された「人命を救う軍縮」(SALIENT)基金への最大のドナー国として小型武器対策に貢献しています。小型武器は実際の紛争の場面で今もなお使われ、多くの人命を奪っていることから、「事実上の大量破壊兵器」とも呼ばれており、日本は、こうした小型武器による暴力やその流用を防止するための国際的な取組を積極的に支援しています。

■平和構築分野での人材育成

平和構築に従事する人材に求められる資質は多様化、複雑化しています。日本は「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」注31を通じて、現場で活躍できる国内外の文民専門家を育成しており、これまでに実施した国内研修には延べ800人以上が参加しました。修了生の多くが、アジアやアフリカ地域の平和構築・開発の現場で活躍しています。

用語解説

国連平和構築委員会(PBC:Peacebuilding Commission)
2005年3月に設立された国連機関。地域紛争や内戦は終結後に再燃することが多いため、事後に適切な支援を行うことが極めて重要であるとの認識の下、紛争解決から復旧・社会復帰・復興までの一貫した支援に関する助言を行うことを目的とする。
国連平和構築基金(PBF:Peacebuilding Fund)
2006年10月に設立された基金。和平プロセスに対する差し迫った脅威への対応、和平合意や政治対話の支援、国家機構および国家能力強化、経済活性化および行政サービス確立などに使用される。

  1. 注30 : 2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織。
  2. 注31 : 2007年度に「平和構築人材育成事業」を開始し、2015年度には同事業の内容を拡大、「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/peace_b/j_ikusei_shokai.html)となった。現場で必要な知識や技術を習得するための国内研修と国際機関の現地事務所での海外実務研修とを行う「プライマリー・コース」に加え、平和構築・開発分野に関する一定の実務経験を有する方のキャリアアップを支援する「ミッドキャリア・コース」を実施。
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