第3章 民間企業との連携

マレーシアで、パームオイル工場における既存の水処理用ラグーン池から水質調査のために採水している阪神動力機械チーム
開発途上国の成長や貧困削減の推進において、ODAをはじめとする公的資金は今後とも中心的な役割を担うことになります。一方で、開発途上国に公的資金を遙かに凌(しの)ぐ民間資金が流入し、民間部門の活動が開発途上国の経済成長を促す大きな原動力となってきている今日の現状を踏まえた対応も必要です。そこで、開発協力大綱では日本として、民間部門主導の開発途上国の経済発展を一層力強く推進し、ひいては日本経済の力強い成長にもつなげるべく、官民連携や地方自治体との連携を通じた開発協力を推進していく方針が示されました。
2015年5月に安倍総理大臣が発表し、同年11月にさらなる具体策を発表した「質の高いインフラパートナーシップ」においても、民間との連携は不可欠な要素です。(詳細は、開発協力トピックス「質の高いインフラ投資」を参照。)アジアの膨大なインフラ需要に適切に対応するためには、公的資金のみでは十分とはいえません。したがって、公的資金に加えて民間資金がアジアのインフラ投資に流れ込む仕組みをつくりあげることが極めて重要となります。このため「質の高いインフラパートナーシップ」の下では、アジア開発銀行(ADB)(注1)とも連携しつつ、ODAをはじめとする公的資金を「触媒」として民間資金の動員を図るメカニズムを構築することが重要となってきます。これまでも、日本は、官民連携方式によるインフラ整備促進および開発途上国のニーズに対応するための円借款制度の改善を図ってきました。また、上記「質の高いインフラパートナーシップ」の具体策として、2015年11月には円借款の手続きの迅速化や新たな円借款制度の創設など円借款および海外投融資の制度改善を行うことも発表されました。
インフラ以外の分野においても、日本の企業の技術やノウハウは開発途上国が直面する様々な課題の解決に貢献することが期待されています。特に日本の中小企業の優れた製品・技術、ノウハウの潜在力が注目を集めています。日本政府は、開発途上国の開発課題に関心を持ち、あわせて事業の海外展開に意欲を持つ中小企業との連携を様々な開発の分野で強化してきました。具体的には、政府は、中小企業が開発途上国の開発協力に携わるための様々な調査、たとえば現地におけるニーズ調査や、現地情報収集・事業計画策定のための調査、具体的な製品や技術の可能性を探る調査を行っています。また、それら製品や技術の現地適合性を高めるための事業も行っています(以下を参照)。そのような取組を通じて、日本の中小企業の生み出す熟練の技が開発途上国の人々の生活を改善するのに役立つ例が次々と生まれています。


市内で発生した全ての浄化槽汚泥をアムコン株式会社が開発した脱水機で処理し、トラックで移送するところ。水分は適切な処理をして川に放流、固形分は堆肥化が可能(写真:アムコン(株))
たとえば、中小企業の製品・技術等に関する普及・実証事業の例として、フィリピン・セブ島における家庭排水問題への取組があります。セブ島の中心地であるセブ市は、家庭から排出された汚泥が適切に脱水処理されず、汚水が流出することにより、公共水域や地下水の汚染が深刻化しつつありました。
そこで注目されたのが、横浜市の脱水機メーカーであるアムコン社が開発した汚泥脱水装置です。この装置は、設置が容易で安価な上、人の排泄物なども含む汚泥を固形分と水分に分離することができるので、効率的な汚泥の脱水処理が可能になります。
日本政府は、2013年にアムコン社と連携して、セブ市においてこの技術の実用性を実証し、普及させるための事業を行いました。その結果、同市における汚泥処理の問題にたいへん効果的であることが示され、複数の民間企業や周辺自治体も高い関心を寄せることとなりました。日本の中小企業の技術がフィリピンの深刻な衛生問題を解決することに期待が高まっているのです。
このような日本の中小企業の活躍については、この白書の中の「匠の技術、世界へ」のコラムでも紹介されていますので、ご覧になってください。

1時間に10トンの汚泥処理能力を持つ脱水機。省電力・省水量、運転管理の容易さが特徴で、24時間無人運転が可能(写真:アムコン(株))
- 注1 : アジア開発銀行 ADB:Asian Development Bank