第2章 市民社会との協力

インドネシア・西ジャワ州バンドン市の工業省繊維センター(Textile Centre)にて、繊維工場における省エネルギー診断の指導を行う
深山浩シニア海外ボランティアと指導を受けるセンター職員(写真:ペリー・ラクソノ)
外務省およびJICA(国際協力機構)は、開発協力に関する議論や対話の促進、開発教育の推進、開発協力の現状についての情報公開、地方に住む人々を含む幅広い層への発信など様々な形で国民参加を強化しています。幅広い層の国民が実際の開発途上国支援に参加でき、開発協力の現場を体験できる機会も提供しています。中でも市民社会との協力を強化し、開発協力を推し進めていく重要性は一段と増しています。青年海外協力隊やシニア海外ボランティアなどのJICAボランティア活動、緊急人道支援の際のNGOとの連携はその一例です。
青年海外協力隊事業は、20歳から39歳までの男女が開発途上国に原則2年間滞在し、現地の人々と生活や労働を共にしながら、経済社会開発に協力する国民参加型事業です。青年海外協力隊は、2015年に事業発足50周年を迎え、海外でも高く評価されている日本の「顔の見える援助」の一つです。一方、シニア海外ボランティア事業は、40歳から69歳までの男女が幅広い技術、豊かな経験を活かして開発途上国のために活動するという国民参加型事業であり、青年海外協力隊のシニア版として位置付けられています。現地の人々と協力して開発途上国の開発に取り組むこれらのボランティア事業は、現地の人たちの日本への親しみを深め、日本と開発途上国の間に草の根レベルの友好関係を作り出す効果をもたらします。
JICAボランティアの活躍の一つの好例として、ベトナム北部のドンラム村の歴史的景観の保存活動をここで紹介します。首都のハノイから約60キロメートル離れ、辺り一面を水田に囲まれたドンラム村では、飴色(あめいろ)の板壁の家や稲藁(いなわら)を焚(た)く香りが漂う蜂の巣レンガの小道など、昔懐かしいベトナムの風景が見られます。このような伝統的な景観は、ドンラム村にとって重要な観光資源となり得るものでした。そこで、JICAとドンラム村保存管理事務所は、2007年の初頭から村の景観保存事業に着手しました。「文化財の保存」と「観光開発」。文化財を保存できなければ、観光客を呼び込むことはできない一方で、観光振興による収入の向上がなければ、文化財の保存もおぼつきません。歴史的建築物である家屋に暮らす住民にとって、「便利なものへの改築」をあきらめて「保存」に協力するためには、「収入向上」というモチベーションが必要でした。そこで、様々な専門性を持つJICAボランティアが派遣されました。たとえば「建築」の職種で派遣されたJICAボランティアは、文化財としての価値を損なうことなしに歴史的建築物を修復する技術を現地に伝えました。

ベトナム・ドンラム村の飴工場で、祭りの看板を飴で作製してもらうためヒアリングをする、村落開発普及員の宗陽香さん(写真:加藤雄生/JICA)
一方、「ビジネス」に関するノウハウを持つボランティアは、観光開発に向けたアイデアの提供や技術指導に携わりました。このように、ドンラム村に派遣されたJICAボランティアたちは「文化財の保存」と「観光開発」の両輪の双方に正面から取り組み、2015年現在も、JICAからは青年海外協力隊の隊員がドンラム村保存管理事務所に派遣され、現地のスタッフと共にハノイ市指定文化財の民家(指定民家)の修復管理や、地域開発の計画・策定に取り組んでいます。
日本政府は、JICAを通じてこうしたボランティアの事業への参加を促進するため様々な取組を行っています。たとえば、海外から帰国したボランティアたちの就職をはじめとする進路開拓支援を従来から行っているほか、仕事を辞めずにJICAボランティアに参加できる「現職参加」(注1)の制度が広く活用されるよう、広報も含めて積極的に取り組むなど、人々がこれらのボランティア事業に参加しやすくなるよう努めています。
国民参加型の別の例として、日本のNGOによる活動があります。NGOは、開発途上国・地域において教育、保健医療、農業・農村開発、難民・国内難民支援、地雷処理技術指導など様々な分野において質の高い開発協力活動を実施しています。開発途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく丁寧に対応し、政府や国際機関による支援では手の届きにくい草の根レベルでの支援が、NGOの強みです。地震・台風などの自然災害や紛争等の現場では、迅速かつ効果的な緊急人道支援活動を展開しています。

衛生状態の改善された井戸の周囲に集う人々(写真:ピースウィンズ・ジャパン)
その一例として、日本政府がジャパン・プラットフォーム(JPF)(注2)を通じて資金協力を行い、日本のNGO「ピースウィンズ・ジャパン」が緊急人道支援事業として2012年に実施した南スーダンのジョングレイ州における給水・衛生支援の事例をここで紹介します。二十数年に及ぶ内戦を経て、2011年に独立した南スーダンでは、人々の生活を再建する国づくりが進められています。しかしながら、内戦による影響を受け、給水施設が壊れたままの状態となり、井戸の数が絶対的に足りない中で周辺国からの難民の帰還が進んだ結果、ジョングレイ州など多くの地域で安全な水を十分に入手することが困難な状況となっており、衛生面でも問題が生じる事態となりました。
そこで、日本政府の支援を受けたピースウィンズ・ジャパンはコミュニティのために井戸の修復や建設、また、地域住民で組織する水管理委員会を立ち上げる支援に取り組みました。井戸の完成後は、住民の水管理委員会を通じて、住民自らが井戸の維持管理をするための研修も行いました。このような取組を通じて、ジョングレイ州では、安全な水の入手が可能となり、住民にとって衛生的な生活環境が整いつつあります。さらには、政府と反政府勢力による衝突等を逃れた国内避難民への物資の支援や、学校や診療所のトイレの建設、衛生ワークショップの開催などの取組も行いました。
- 注1 : 現職参加とは、現在、企業や国・地方自治体、学校に勤務している者が、休職や職務専念義務免除などの形で所属先に身分を残したまま青年海外協力隊やシニア海外ボランティアに参加すること。
- 注2 : 2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である特定非営利活動法人。