2015年版開発協力白書 日本の国際協力

第4章 地方自治体、大学との連携

アルゼンチン南部に位置するサンタクルス州、リオ・ガジェゴス大気観測所にてオゾン層合同観測キャンペーンを実施する、名古屋大学太陽地球環境研究所の水野亮教授とアルゼンチン、チリの研究者(写真:三須裕二)

アルゼンチン南部に位置するサンタクルス州、リオ・ガジェゴス大気観測所にてオゾン層合同観測キャンペーンを実施する、名古屋大学太陽地球環境研究所の水野亮教授とアルゼンチン、チリの研究者(写真:三須裕二)

日本政府は、これまでもより効果的な開発協力の実施のため、大学や都道府県および市町村など地方自治体と緊密に連携してきました。今後、新たな開発協力大綱の下で、このような連携は一層重要なものとなっていきます。たとえば、政府は、大学が持つ専門的な知識を活用して開発途上国の課題に総合的に取り組むことを目的に、様々な大学と共同で技術協力や円借款事業を推進しています。また、都市インフラの運営ノウハウなど、開発協力に役立つ知見が豊富な地方自治体との間でも、積極的に連携を進めています。

大学との連携の一例として、水災害対策の研究が挙げられます。タイでは、近年、洪水、干ばつといった水分野の災害が拡大しており、気候変動との関係が注目されています。そこで、2009年から、日本政府はJICAを通じて、日本の東京大学が、京都大学、東北大学と共同し、タイのカセサート大学と連携することにより、タイの水資源の有効な管理法や水災害の軽減策を確立するモデルを提示し、タイ政府による対策を支援するための共同研究を実施しました。その研究の一つの成果が、河川の流量を予測し、数時間から数週間先の水位を予測する技術の開発です。この技術は、タイにおいてほぼリアルタイムで河川の流量や水位をモニターできる観測網の整備につながりました。また、共同研究を通じて、治水・利水対策に役立つ様々な予測モデルが構築されたほか、タイの将来を担う多くの若手研究者が育成されたことで、タイの政府や地方自治体が長期的な視点から総合的に利水、治水事業に取り組む基盤が整えられました。2011年にタイのチャオプラヤ川流域で大洪水が起きましたが、データの収集や水災害の軽減策の立案、タイ政府による迅速な対応には、この共同研究の成果が大いに役立ったと評価されています。洪水、土砂崩れ、水資源管理はタイのみならず、地域の周辺の国々においても大きな課題です。日・タイの大学が参加するこの共同プロジェクトの成果が、東南アジア全域の課題にも活かされることが期待されています。

バンコク北部にあるパトゥンターニ県における浸水の様子(写真:東京大学生産技術研究所)

バンコク北部にあるパトゥンターニ県における浸水の様子(写真:東京大学生産技術研究所)

水災害対策のため観測装置の設置を共同で行う日・タイの研究者(写真:東京大学生産技術研究所)

水災害対策のため観測装置の設置を共同で行う日・タイの研究者(写真:東京大学生産技術研究所)

水槽事業改善に共同で取り組むサモアおよび宮古島の人々(写真:JICA)

水槽事業改善に共同で取り組むサモアおよび宮古島の人々(写真:JICA)

日本の地方自治体と政府が連携した取組の一例として、サモアの水道事業を支援するために政府と宮古島市が協力して取り組んだ事例をここで紹介します。海に囲まれた島国でありながら水資源に乏しいサモアでは、雨水や地下水をためる貯水槽が雨季に濁って衛生状態が悪化すること、また、給水システムが漏水するといった様々な問題に苦しめられていました。しかしながら、電力の供給も不安定な中で、設置に高いコストがかかり、高度な維持管理のシステムやノウハウが必要とされる浄水施設を設置することは困難でした。そこで注目されたのが、サモアと同じように、島特有の水問題に取り組んできた沖縄県の宮古島の技術です。平坦な地形で山も川もない宮古島市は、飲料水や農業用水をすべて地下水に依存してきました。そのために、ためた地下水を効果的に濾過(ろか)する方法を工夫することが必要でした。こうして発展したのが、「生物浄化法」といわれる技術です。これは、何層にも重ねた砂利と砂に緩やかな速度で水を通過させ、その過程で微少な生物が不純物を分解する方法です。安全かつ低コストの「生物浄化法」はまさにサモアのニーズに応えるものでした。そこで、2010年から、宮古島市は、日本政府と連携して、サモアの政府の職員を受け入れて技術研修を行うとともに、市の上下水道担当の職員をサモアに派遣して現地での技術指導も行うようになりました。こうした取組を通じて、今では、サモアの様々な地域で、宮古島の「生物浄化法」が導入されるようになりました。宮古島の技術が、サモアの人々に安全な水とともに、サモアの人々自身によって運営される水道事業をもたらしたのです。

2014年10月には、政府は、国際協力を進める地方自治体の裾野を広げるとともに、海外展開を通じた地域活性化を図ることを目的として、地方自治体連携セミナーを実施し、43の地方自治体関係者を含む計107名が参加しました。このセミナーでは、JICAからODAを活用した地方自治体の海外展開の様々な仕組みの紹介があったほか、帯広市、東松島市、横浜市、駒ヶ根市、大阪市、北九州市および那覇市といった、水、防災、廃棄物などの様々な分野で開発途上国との協力の実績のある自治体から、その知識やノウハウが紹介されました。たとえば、帯広市からは、地元企業と協力して開発途上国の食品業者を対象に食の安全や流通に関するセミナーを実施した経験について、北九州市からは水分野の国際協力事業の経験について紹介がありました。政府としては、こうした取組を通じて、今後とも開発協力の分野での地方自治体との連携を一層強化していく考えです。

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