2015年版開発協力白書 日本の国際協力

第2節 持続可能な開発のための2030アジェンダの概要と意義

3.日本の取組

日本の漁業管理技術協力により、マヒマヒの冷凍管理に取り組むドミニカの漁協スタッフ(写真:岡原功祐/JICA)

日本の漁業管理技術協力により、マヒマヒの冷凍管理に取り組むドミニカの漁協スタッフ(写真:岡原功祐/JICA)

2030アジェンダは「すべての国で実施し、その進捗(しんちょく)を計る」と定めています。2030アジェンダが採択された2015年9月の国連サミットでも、開発途上国のみならず、多くの先進国の首脳から、自国の国家発展戦略・計画にSDGsを取り込みつつ、自らの国内で2030アジェンダの実施に取り組むとの発言がありました。そのために必要な体制や具体的な取組について、現在、各国では急ピッチで検討が進められています。ここでは、2030アジェンダの実施のための日本の基本方針について紹介します。

 

ブルキナファソの保健社会向上センター建設現場で建設統括管理者の沼田秀一さんおよび現地常駐管理者兼プロジェクト・マネージャーの野崎玲雄奈さんが地元の人々とサイト仮引渡し式にのぞむ(写真:沼田秀一)

ブルキナファソの保健社会向上センター建設現場で建設統括管理者の沼田秀一さんおよび現地常駐管理者兼プロジェクト・マネージャーの野崎玲雄奈さんが地元の人々とサイト仮引渡し式にのぞむ(写真:沼田秀一)

第1節で述べたとおり、日本は、国際社会の議論が本格化する前から、2030アジェンダの議論や交渉に一貫して積極的に貢献してきました。2030アジェンダに盛り込まれた「人間中心(people-centered)」、「誰一人取り残されない(no one will be left behind)」などの基本理念は、日本が国際的に主導してきた人間の安全保障の理念を反映したものです。「グローバル・パートナーシップ」の必要性も日本が従来から提唱してきたものです。SDGsの対象となった女性・保健・教育・防災・質の高い成長などの開発課題も、日本が従来から提唱してきたものです。だからこそ、日本は、2030アジェンダの採択を歓迎し、「グローバル・パートナーシップ」の一員としてSDGsの達成を目指して最大限努力していく考えなのです。

そのような日本の取組の羅針盤となっているのが、2015年2月に定められた新たな開発協力大綱です。新大綱では、これまで日本の開発協力を特徴付けてきた理念を継承し、非軍事的協力、自助努力支援や、一人ひとりの人間を大切にする人間の安全保障の推進といった方針が掲げられています。同時に、新大綱は、日本政府が、民間部門や、市民社会、地方自治体、大学などとの連携を強めながら、国際社会が直面する新たな課題にも効果的に対応していく方針であることも示しています。このように、開発協力大綱には、2030アジェンダの実施になくてはならない要素がすでに刻み込まれているのです。

モンゴル・ウブルハンガイ県の学校寄宿舎に設置された図書の貸し出しコーナーで本の管理方法を子どもたちに教える青年海外協力隊の玉井良枝さん(写真:塚越貴子)

モンゴル・ウブルハンガイ県の学校寄宿舎に設置された図書の貸し出しコーナーで本の管理方法を子どもたちに教える青年海外協力隊の玉井良枝さん(写真:塚越貴子)

開発協力大綱の中で、今後の日本の開発協力を方向付ける重点課題の一つとして掲げられたのが「『質の高い成長』とそれを通じた貧困撲滅」です。「質の高い成長」とは、誰一人として取り残さず、一人ひとりが開発の果実を享受できるような「包摂(ほうせつ)性」、経済・社会・環境の3つの側面において持続可能な開発を達成できる「持続可能性」、個人やコミュニティの能力強化やインフラ整備を通じて、紛争や災害、経済危機といったリスクに強い「強靱(きょうじん)性」を兼ね備えた経済成長のことです。これは、まさに2030アジェンダがSDGsを通じて達成しようとしている目標の一つです。

開発協力大綱は、地域紛争、テロ、脆弱(ぜいじゃく)国家を含む様々なリスクが、日本はもちろん、開発途上国を含む各国の経済に深刻な影響を与え得ることを踏まえ、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から一層積極的に開発協力を推進していく方針であることも強調しています。そして、平和国家としての日本にふさわしい形で、繁栄の基盤となる安定と安全を維持するための支援を行っていくこととしています。このような取組も、目標16として「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会の促進」を目標として掲げ、具体的なターゲットとして法の支配の促進や、組織犯罪の根絶、暴力の防止やテロ撲滅のための能力支援などを設定する2030アジェンダが目指しているところと合致しています。

 

ルワンダ・キガリの変電施設および配電網建設現場(写真:久野武志/JICA)

ルワンダ・キガリの変電施設および配電網建設現場(写真:久野武志/JICA)

開発協力大綱では、一国のみでは解決し得ない地球規模課題への取組を通じた持続可能で強靱な国際社会の構築を目指すとされています。また、民間企業、市民社会、地方自治体、大学も含めたオールジャパンの連携推進の方針や、「開発協力」という言葉にこめられた、開発途上国との対等で互恵的なパートナーシップを発展させていく方針も示されています。開発協力大綱に基づくこのようなパートナーシップの構築は、2030アジェンダの実施に不可欠なものとして位置付けられている「グローバル・パートナーシップ」に大いに資するものです。今後、日本の国内において、開発協力大綱や2030アジェンダの内容や意義、また、その背景にある世界の開発の現状についての理解を広げ、深めていくための政府の努力が一層求められることになります。

ソロモンのガダルカナルの村でマラリア対策で集団血液採取をしている様子(写真:小栗清香)

ソロモンのガダルカナルの村でマラリア対策で集団血液採取をしている様子(写真:小栗清香)

このように、日本は今後、開発協力大綱の下で、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、人間の安全保障、自助努力支援といった理念を掲げ、官民・NGO・地方自治体も含むオールジャパンの連携を活用しつつ、グローバルな「質の高い成長」に貢献する開発協力を一層積極的に展開していくことになります。そのため、アジアはもちろん、アフリカを含む世界各地で質の高いインフラ投資(開発協力トピックスを参照)を推進するとともに、鍵となる人づくりのために、日本の強みである高い教育力と技術力を活かした産業人材育成を推進していくことになります。エボラ出血熱の感染拡大のような危機対応や「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」(注2)の推進をはじめとする保健、教育、女性支援などの分野での取組を含め、脆弱な人々に目を配り、誰一人取り残さないための協力も進めていきます。日本は2015年12月の国連総会での「世界津波の日(11月5日)」の採択を主導しましたが、引き続き、世界各地での強靱な社会やコミュニティの構築を支援するため、2015年3月に採択された仙台防災枠組の実施や、津波に対する啓発活動や対策強化など、防災の分野でも国際社会においてリーダーシップを発揮していきます。持続可能な環境・社会づくりの実現に向け、気候変動分野での取組のほか、「リデュース・リユース・リサイクル」の「3R」(注3)に象徴される日本の循環型社会形成の知見を世界と共有していきます。そして、平和の構築のための支援や、難民を含む人道支援、海上保安や入国管理などの法執行支援など、開発途上国の経済発展、ひいては日本を含む世界の繁栄の基盤となる安定と安全の構築に努めていきます。

開発協力大綱に基づく日本のこうした取組は、国際社会全体による2030アジェンダの実施にも大いに貢献することが期待されています。


  1. 注2 : ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、すべての人が生涯を通じて必要なときに基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられること。日本は2013年策定の「国際保健外交戦略」以来UHCの推進を重要な政策目標に掲げている。
  2. 注3 : 3Rとは、「廃棄物の発生抑制、資源や製品の再使用および再生利用」のこと。
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