※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations)
ラオス政府は「読書推進事業」として、全国の小学校に図書箱(約130冊の本が入っている)を配布し、図書館として利用する事業を全国規模で展開している。ASPBは、これに10年以上にわたって支援をしてきた。
図書箱・袋の配布は、地域の拠点校などに周辺の学校から教員を集めて行われ、その際、図書についての研修も行っている。本が果たす教育的な意味を学び、図書貸し出しや管理、修繕、読み聞かせの訓練などだ。
研修には、いくつか課題がある。限られた予算の中で、校長か教員か、どちらか一方しか参加できない。読書推進を学校の取り組みとするには校長への研修が必要だが、校長だけが読み聞かせの訓練を受けても、実践の場がない。一般教員の場合は、その逆で、実践の場はあるが、もし校長の理解が得られなければ、現場での読書推進が活発にならない。また、教員の異動で停滞してしまうこともある。さらに、ASPBは資金がなく、研修日数が十分とはいえなかった。
<ポイントとなる事柄>
1.現場の状況把握、行政とのつながり
ASPBでは、この事業に関わる中で、運搬に楽な布製の図書袋を開発したり、空き教室を利用して図書室を開設するプロジェクトを独自に起こすなどしてきた。
また、事業の10年間の成果と今後の課題について、小学校教員と関係機関が一堂に会して総括する会議を呼びかけ、2000年に実施した。
研修についても、教員養成校(全国に8校)で行うことを教育省に持ちかけ、合意が得られ、2002年から開始した。
2.講師のトレーニング
教員養成校での研修は、教員(司書)向けの「トレーナー養成」と、学生(教員の卵)向けの「読書推進セミナー」の2本立てとした。指導書とテキストも作成し、その執筆、編集は、事業を司るラオス国立図書館のスタッフが手がけた。
トレーナー養成講座は5日間。講師は教育省と国立図書館、ASPBのラオス人スタッフなど。受講した司書からは「読み聞かせなど子どもを引きつける訓練は初めて受けた」という声があがった。
3.現場への波及効率
読書推進セミナーは、全国8校で各4日間。全学生、教員向けに、トレーナー養成講座を受講した司書と、ASPBなどが行った。学生は研修で学んだことを即興で寸劇にするなど、意欲的に学んでいた。
現在、教員養成校のカリキュラムに読書推進の授業を組み込むように教育省の中で検討が行われている。また、小学校では、「特活」の時間が設けられ、そこで読書ができるようになった。
小学校は数千校あるが、教員の卵たちは8か所にかたまっている。だから、ここで研修をすれば効率もいい。
しかし、教員養成校で研修しても、教員になる率は例年60%程度であったり、赴任先に本がなかったり、校長の理解が得られないこともあり、限界はある。
4.研修のリアリティ
指導書とテキストはサンプル版をつくったところ、内容が難しく、概論を述べているものだった。そこで、もっとかみ砕き、理解しやすく、実用性の高いものにした。また、図書とともに、教材として学校に導入されつつある紙芝居(印刷あるいは手作り)についても盛り込むこととした。
現場の教員に対しての研修は、「余計な仕事が増える」と負担に感じさせるようでは効果は薄い。実際、教員の給与だけでは生活できず、畑仕事や魚採りをしながらの「半農半教」をしている先生にとって、保健教育だ、教材開発だ、読書指導だと役所や外国人の団体から次々と仕事が舞い込んで、「またか」と思っている。
だからこそ、「その気」にさせる研修が必要だ。受講者が、読み聞かせを、紙芝居を、楽しむ。そして、子どもの前で自らやってみて、子どもが自分に気持ちを集中させているという体験をする。ひとつのリアリティだろう。
(執筆:森透)