ODAとは? 国際協力とNGO(非政府組織)

事例4 少数民族の文化、言語と教材
民話による初等教育改善事業シャンティ国際ボランティア会(SVA)

※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations


「民話による初等教育改善事業」は、1999~2001年の2年間、ラオス南部のセコン県においてUNボランティア計画(UNV)との共同事業として実施された。
カウンターパートはラオス教育省だが、実施過程ではセコン県教育局が大きな役割を果した。
事業の目的は「初等教育の質的向上」だが、いわゆる少数民族(非ラオ族)人口が9割以上というセコン県で、伝統文化的アイデンティティの重要性を初等教育活動に取り入れた点に、この事業の特徴がある。


<ポイントとなる事柄>

1.ラオス語普及か、少数民族語保存か
ラオス教育省は、その社会主義体制維持の故か、少数民族言語の取り扱いに対して非常に敏感であった。つまりラオス語文字を使って少数民族言語を表記したり、まして文字を考案するようなことはまずいということだ。
確かに、考案した教材のひとつ、「絵付き単語カード」(現地ではフラッシュカードと呼ばれていた)の裏には教師用のコミュニケーション・ガイドとして、その絵を表す単語の意味を少数民族の言葉で表記した。ともすれば、それは文字を持たない少数民族の言葉にラオス語のアルファベットで命を吹き込むかのように見られたわけだ。
しかし、表にはきちんとラオス語の単語が書かれており、裏の表記はあくまでも教師用ガイド、究極の目的は子ども達のラオス語運用能力を高めることだ、という説明で最終的に教育省も納得してくれた。
教師が即席で4つの主たる少数民族(アラック、タリアン、ンゲエ、カトゥ)の単語を駆使して、ラオス語もおぼつかない低学年の子どもたちと接する。生徒はラオス語を覚え、教員たちは少数民族文化に触れる。この絵付き単語カードを通して、両者は対話を始めたのだった。

2.生徒中心アプローチへの転換の一助
絵付き単語カードや民話の紙芝居は、旧来の教師中心の講義スタイルから生徒中心の対話スタイルに転換していくために重要な役割を果した。生徒中心という概念が、頭ではわかっていても、実践がうまくいかない教員たちも、絵付単語カードの裏に書かれた発問の例や紙芝居を使った語りかけで、きっかけをつかんだはずだ。こうして、本事業の教材は教授法を転換していくための一助としての役割を担った。

3.地方政府のリーダーシップ
ラオス教育省では、カリキュラムの2割は県教育局の采配で変更を加えてよいことになっていた。学習進度や言語の違いを前提とした柔軟性だが、これが少数民族文化を取り入れた新しい教材の導入を容易にしたことも事実である。しかも、当時のセコン県教育局長がこちらの提案に様々なアイディアをぶつけながら積極的に関わってくれ、情熱を持って関わってくれたことも教材開発の大きな支えであった。

4.教材開発のプロセスと限界
開発した教材は、絵付き単語カード(裏に4つの少数民族言語での表現とクイズ付き)、少数民族絵地図(小数民族の装束や文化様式を書き入れたセコン県の地図)と活用ガイドブック、民話集(教員たちが集めた民話のラオス語訳版)、民話紙芝居(4つの少数民族の民話を基にした紙芝居)であった。各製作過程においては、セコン県教育局の職員、現場教員も参加した。特に紙芝居を製作する過程では教員による村落内での採話を促し、しかも研修会でそれらを紹介し合うことから始めた。民話の重要性を考え、それを教材にする体験を共有できたと思う。
それらは現在でも息の長い教材として使われているが、やはり多様な少数民族文化をある枠組みで一般化せねばならないことから、同じ民族でも住む村によって発音も微妙に違い、装束や分布も誰に聞いても一様ではなく、同じストーリーでもいくつものバージョンがあり、と標準化することにとても苦労したのも事実。最終的にはセコン県教育局に相談してお墨付けを頂いたが、実際現場ではやはりこれが違う、あれが違うとコメントを頂いた。

5.教員研修のプロセスと限界
開発・配布した教材の活用法を学び、各者の実践を相互の紹介し合うために、2年間で計4回のワークショップをセコン県の全小学校(当時約150校)の代表に対して実施した。日本から講師を招いたり、昔話の得意な長老をゲストに招いたり、本会の他事業担当職員に助っ人を頼んだり(図書館活動、謄写版配布)、準備に万全を期した。しかし、受講生には少数民族出身の教員たちも多く、ヴィエンチャン方言や通訳を交えた講義が耳に慣れず、しかも概念的な話もあったこともあって、ワークショップ内容に関する理解力は未知の部分が多い。後のフォローアップで教材を楽しく活用している姿が多々見受けられたことは救いであったが。

6.教材活用の実際
実際、ほとんどの教員が日常的に活用していると答えたが、その度合いは各人による。ラオス語の授業だけに通り一遍の使い方で終わっている教員もいれば、算数や社会などの複数の教科にも無理なく応用している例もあり、本事業における教材の受容能力の広さをあらためて認識した。さらにそれらが低学年のみならず、中学年、高学年にも使われたことは、各教材が子ども達の発達過程に応じたて活用し得る非常にベーシックな教材であったことを示している。
セコン県の小学校教員は、他県から派遣された教員、地元出身の教員、村出身の代用教員など一様ではないが、そうした多様な教員の教授スタイルの違いにも対応していることも大切な点であろう。


<事業の課題>

●教材をつくる材料が賄えない
教員が自分で教材を作っていくには、材料が必要になる。それが賄えない場合、自主的な教材開発も滞ってしまう。

●形成調査をさらに綿密に
教材作りにあたって事前調査を行ったが、それでも、セコン県に適しているとはいえない個所もあった。「スタッフは、ヴィエンチャンからの通いでなく、長期常駐すべきであった」ということが教訓としてあげられた。今後新しい地域で展開する際は、小学校の教員を巻き込んだ教材開発の可能性を追求していく。


(執筆:小野豪大)
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