※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations)
日本政府のODA、無償資金協力を通じて行う学校建設のための調査に、「教育計画・社会環境」担当のコンサルタントとして携わった。支援対象国の開発計画、教育計画、他ドナー・NGOの支援状況の他、相手国から要請のあがった協力対象校のニーズ、周辺地域の状況等について調査することが主な役割である。
開発計画、教育計画は、日本政府が行う学校建設プロジェクトとの間に整合性が確保されているか否かの確認を行う。他ドナー・NGOの支援については、同地域における援助の重複を避けるため、また、必要に応じてドナー間の協力の可能性を模索するために調査する。
■対象校のニーズ、周辺地域の状況
対象校のニーズは、主に教室がどの程度不足しているのかについて調査を行う。ニーズは、対象校における既就学児童のみならず、潜在的ニーズとしての未就学児童や今後就学が見込まれる児童の数を加味して想定するのが理想的だが、学区制がない国やスクールマッピングが十分に行われていない国では、そういったニーズの把握が大変困難である。
周辺地域の状況については、対象校の周辺コミュニティにおける貧困の度合い、生活レベル、学校に対する要望、就学状況、ジェンダーの状況、学校とコミュニティの関係、維持管理へのコミュニティの関わり方等について見る。
■住民はひと括りにできない
周辺地域の状況を把握する際の手段の一つとして、住民集会がある。集会には、校長や教員などの学校関係者、児童の親、その他地域住民に参加してもらうよう呼びかける。
しかし、参加する親は教育に対する意識の高い一部の親に過ぎず、肝心の未就学児童の親が来なかったり、学校との関係が比較的薄い地域住民の参加が得られなかったりと、「住民」の構成は非常に限定的となってしまうことが多い。
集会に政府の職員や村長が出席していると、その発言力が大きいために住民自身の本音を聴き出すのが困難になることもある。一口に住民といっても、立場による違いや社会、経済的な状況の違いから、ひと括りにできず、学校建設のニーズを広く吸い上げ、一般化することは決して容易ではない。
■在来の工法、近代的な工法
概して、農村地域においては、周辺コミュニティ住民が自力で学校建設を行っているようなところが多い。在来の工法、土地の材料を用いて、自ら教室を建て、机や椅子を作り、修繕、維持管理を行う。こうした地域に、外部からの援助によって、近代的な工法と既成の建材を用いた学校を建設した場合、「自力で建設しなくても、より頑丈で近代的な学校を建ててもらえる」という依存心が生まれ、自ら進んで維持管理ができなくなってしまうような事態に陥る可能性もある。
■住民参加の注意点
援助する側が住民参加を通じた学校建設を行う場合も注意を要する。労働の提供が強制的になってしまうと、農繁期と重なって畑仕事ができなくなってしまう場合もある。
こうした事態を避けるため、労働の提供に対し、賃金を支払うという代替手段も考えられる。しかし、これも住民の間で、賃金を得る世帯とそうでない世帯とで新たな格差、不公平感を生み出す可能性があり、十分な配慮が必要である。
学校建設に、これが正しいという正解はない。地域の状況を見極め、背景を異にする多様な人々の意見に耳を傾けた上で、「外部からの援助」がもたらす影響について考え、そのさじ加減を注意深く見ていくことが肝要である。