※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organizations)
第3部 グローバル・エイズ問題 その諸相と最新動向を追う
第5章 評価
本年度保健分野NGO研究会のテーマ2「専門性の向上に向けて:HIV/AIDS」において掲げた達成目標については、冒頭「はじめに」の章で記述したように、おおよそ以下のような内容である。
(1)国際NGOにおけるHIV/AIDS問題認識の強化・深化
a. |
HIV/AIDS対策が20年の歴史の中で培ってきた固有の文脈に関する知識を深める |
b. |
当事者セクターを始めとする各社会セクターとの連携に関する認識を深める |
c. |
HIV/AIDS対策に成功してきている途上国の政策の形成過程や内容を理解する |
(2)国内NGOにおける国際的なHIV/AIDS問題への認識の強化・深化
a. |
国際的なHIV/AIDS問題の諸相と最新動向を把握し、国内との類似点・相違点をつかむ
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b. |
国際的な取り組み枠組みの最新動向を把握し、国内対策との連携のヒントとする
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c. |
国際的なHIV/AIDS対策の内容や理論的動向を把握し、国内対策への応用のヒントとする |
(3)日本の市民社会セクターへの、地球規模エイズ問題の紹介・導入
a. |
国際的なエイズ問題に関する情報を、日本の市民社会に導入する。 |
b. |
国際的なエイズ問題に取り組むNGOの活動のあり方を、日本の市民社会に伝える。 |
c. |
そのことによって、エイズ問題やNGOの取り組みに関する日本の市民社会の意識向上をはかる。 |
本件評価においては、上記(1)~(3)の目的に照らして、本件テーマに沿って開催した講演会・ワークショップ企画および国際シンポジウムが、どの程度の効果を持ったかを評価する。
まず(1)については、企画内容の面から検討すれば、その目的を達成しうる内容を持っていたと評価できる。a.については、シリーズ1の3(日本)、シリーズ2の1(タイ)および2(ブラジル)において、エイズ対策の固有の文脈とその形成について紹介した。また、b.については、当事者セクターの重要性についてシリーズ1の1(南部アフリカ)および3(日本)、政府セクターとの連携の特異性および重要性についてシリーズ1の2(中国)、政府と当事者セクターの連携のあり方についてシリーズ2の1(タイ)および2(ブラジル)において紹介した。c.については、シリーズ2の1(タイ)、2(ブラジル)、3(ブラジル)において紹介した。
しかし、GII/IDI懇談会に参加する、プロジェクト型の対外援助を実施しているNGOのスタッフが上記企画に十分に参加し得ていたかどうかは疑問である。企画立案・遂行をする事務局が、各NGOとの具体的連携をより強化しながら、企画を実施すべきであったとの反省点は残る。
次に(2)についても、(1)と同様の評価が可能である。内容面から考えれば、十分なものが存在した。例えば、a.についてはシリーズ1・2の全ての企画において考察が可能であるし、b.の取り組み枠組みの問題については、シリーズ3の2(日本のエイズ援助政策)および3(国際的なエイズ対策枠組み)、また、c.の具体的なHIV/AIDS対策の内容については、シリーズ3の1および2において整理が可能であった。しかし、これも同様に、GII/IDI懇談会、ならびに日本の国内HIV/AIDSに関する活動に取り組むNGOが、企画に十分に参加し得ていたかどうかは疑問である。企画の広報等に関して、より積極的に広める努力が必要であった。
一方(3)については、内容・参加者の両面から見て適切な形となっていたと考えられる。企画参加者総数は、延べ450名を越え、このうちの半分がGII/IDI懇談会加盟NGO関係者であるが、残り半分は、公的機関などを含め、HIV/AIDS問題および途上国の開発援助に関心を持つ学生・社会人等の市民層であり、これら参加者の中には、その後積極的に関係NGOに参加したり、関係する途上国を訪問してHIV/AIDSに関する活動や調査・研究に参加するなどの動きも見られる。また、国際シンポジウムについては、アフリカからのパネリストが新聞に取り上げられるなど、社会的インパクトも大きいものがあった。
こうしたことから考えれば、国内・国際NGOに対するインパクトとしては、内容的には十分なものがあったが、参加という点で十分な効果を上げ得たかどうかは疑問がある。一方、一般社会へのインパクトという点については、国際的なHIV/AIDS問題やNGOの活動実態に関するある程度の社会的関心を喚起することに成功したとは言いうると思われる。
なお、内容面について付記すれば、本件テーマに関する一連の企画においては、国際的なHIV/AIDS問題およびHIV/AIDS対策の形成過程・理論的背景および全体的な状況を把握することが主眼となっていた。これは、保健分野NGOにとって、活動の中・長期的な戦略の策定や、プロジェクト形成および評価をする上での前提的な知識の確保、もしくはアドボカシー課題の形成を行うにおいて重要な観点である。これらについて、適切な形でキャパシティ・ビルディングを行う機会はあまりなく、本件テーマに基づく企画は貴重な機会となったと思われる。しかし、一方で、短期的、もしくは実践的な能力の向上については、直ちに役立つものであるとは言いにくい。
HIV/AIDS対策の具体的なプロジェクト/アドボカシー課題において実践的に活用できる知識や技術については、本年度においては、テーマ1およびテーマ3において主に追求することすることとなった。来年度については、より具体的な実践的能力の向上について直接的に扱っていくような形での「HIV/AIDSについての専門性の向上」をも射程に入れて、企画を立案・運営していく必要がある。
また、今回に関しては、事務局が全ての企画をコーディネイトする形となり、関係NGOとの連携は、おおよそ、各パネリストとの直接的な関係に限定された。これについては、今後は各企画を関係・協力NGOとの連携の下に共同して実現するなどの工夫が必要となってくるものと思われる。
以上