2. 第1セッション
議題1:国際開発目標のマネジメントにおけるモニタリング・評価
-MDGsのモニタリング・評価状況-
「MDGsのモニタリング・評価の視点」
ファザイ・グワラジンバ
国連開発計画(UNDP)評価室評価アドバイザー
ミレニアム開発目標(MDGs)を巡る課題と、それによってもたらされる機会は多種多様である。MDGsは時間的制約があるという点と、インプット・モデルから発想を転換したという点に特徴があり、設定された8つの目標はドナー国とパートナー国間の協調と調整を促すものであるが、同時にドナー国と利害関係者の双方が説明責任を持つという点も重要である。MDGsはグローバルな開発枠組みを策定する機会を提供するものであるが、現実的な国別目標やモニタリング目標を設定しており、その透明性が極めて重要な課題となっている。
MDG報告書は分析の目安となり、開発の優先順位設定に関する行動と国民的論議を活発化するための触媒となる公的文書であるが、国レベルのモニタリング・ツールとしても活用することができる。評価の際には、付加価値、内容と質、国のオーナーシップ、キャパシティ、政策提言(アドボカシー)と普及戦略、及び国内の他の開発枠組みとの整合性や連携などが問われることとなる。
MDG報告書は国連システムにとって簡潔で視覚的にアピールするものでなくてはならない。貧困の撲滅とMDGs達成に向けた取り組みの進捗状況を報告するためには共通の枠組が重要となり、PRSP作成チームとMDG報告書作成チームの間で重複箇所の整理を行うなど両チームの連携を向上させる必要がある。
その他の課題としては、MDGs達成に向けた拠出のグローバルなコミットメント、透明性の確保と相互の説明責任、国のオーナーシップ、協調的な取り組み、国レベルでのツール・手段の調整、評価能力の開発、分析、パートナー国間の協力などがある。MDGsは適切な指標を特定していると言えるのかについて決定を下すことになるが、これは極めて重要な問題である。
「世界銀行のミレニアム開発目標(MDGs)に対する考え方」
アジェイ・チバー
世界銀行業務評価総局課長
MDGsは開発成果の向上のためのユニークな機会であると同時に様々な課題も含んでいる。MDGsの成果を達成するためには、MDGsをどのように現地化するか、対象セクターの優先順位をどう決めるかという課題があり、優先セクターにおける進展がきわめて重要となる。更に、結果重視の戦略を如何に効果的にモニタリングするかという課題があり、データ、定義、測定、プロセスの問題についてはいずれも何らかの対応をとる必要がある。
世界銀行のセクター戦略では、開発に関するより広範な枠組みの中にMDGsと他のセクター目標とを平行して位置づけている。世界銀行では、そのセクター戦略において、複数のセクターにまたがる成果の決定要因に関する認識を深めているものの、国毎の成果を達成するために必要な複数セクターの戦略については、その策定方針が示されていない状況にある。複数のセクターが個々のMDGの成果に影響を及ぼすという観点から、セクター横断的な戦略は重要である。
世界銀行が援助するグローバルなプログラムはあらゆる方面からMDGsを支援するものとなっているが、先進国の政策に対する影響力は限られており、これらの管理は世界銀行の課題となっている。世銀には先進国の政策に対する影響力が欠けているものの、より強力なアドボカシーは支えになると考えられる。多くの場合、先進国は完全なパートナーというよりは参加者という立場にある。
MDGsの存在によって、複数のセクターにまたがる成果の決定要因に対する関心が高まっている。世界銀行もこれら要因の相互関係に対する認識を深めているが、今は成果の達成に資するセクター横断的な戦略を策定・実施し、次のステップに移ることが求められている。セクター横断的な戦略を策定するに際しては、セクター横断的で結果を重視した国別戦略を策定・実施するための効果的な協調が必要である。
2015年までにMDGsの成果を達成し2015年以降もそれを維持するために、多くの国が過去の歴史的な方向性と決別する必要がある。状況を見ながら個々の目標に優先順位をつけることや現地の事情に則した実現可能な目標を設定することなしに、グローバルな目標を追うのは、ドナー国、発展途上国の双方にとって大きなリスクを伴う。世界銀行としては、各国の目標に沿った形で国別プログラムの具体的な目的と目標を定め、優先順位付けや必要に応じたトレードオフを行うべきである。
「DevInfo:使いやすい合同データ収集用ソフトウエア」
ジャン・ケネル
UNICEF評価室長
ケネル室長から、データベース管理ソフト
DevInfoの紹介があった。
DevInfoでは、すべてのデータが単一のシステムに入力されるため、データの抽出が容易となる。
DevInfoはユーザー定義によるインディケータ、セクター、テーマ等に基づくソフトで、現地仕様にも対応しやすく開発されている。
DevInfoは現在80カ国以上で使用されているが、これはグローバル・レベルでの協力が行われていることの証左であり、将来合同評価を行う際にも大いに役立つであろう。
ディスカッション
廣野良吉成蹊大学名誉教授が本セッションの議長を務めた。
インドのメホートラ局長は、各発表者の有益なプレゼンテーションに対して謝意を表明した上で、次のように述べた。報告システムのための包括的な枠組策定について進展があったことは評価できるが、モンテレイ会議1での決定事項はその実現から遠ざかる危険性がある。MDGsの達成のために行われる投資は、多国間・二国間援助機関といった外部からの支援よりも、途上国自身が行っている割合の方が大きいのである。また、MDGs達成に向けた途上国の進捗状況に関する報告ばかりが注目されるが、ODA、債務救済や市場アクセスなど先進国がコミットした目標に関する国レベルでの報告は十分になされていないと思う。この点、MDGsの目標82について効果的かつ包括的な報告を求めたい。
パキスタンのシェイク局長は、「このままでは2015年まではMDGsの達成が困難な国がある」というUNDPの発言に対し、UNDPはそうした国がMDGsを達成できるようにいかなる取り組みを進めているのかと質問した。また、各国がMDGsやその他の目標に対してオーナーシップを持てない理由についても尋ねた。
UNDPのメノン次期室長は、開発で最も重要な枠組みはMDGsとミレニアム宣言であると述べた。また、開発戦略策定に向けた各国の意思表明とリーダーシップに注目すべきであると述べ、アジア各国はどのようにリーダーシップを発揮しているのか、また南南協力に向けた取り組みは行われているのかと質問した。
UNDPのグワラジンバ評価アドバイザーは、MDGs達成のためのニーズを的確に把握するにはコストの問題が極めて重要だと述べた。ニーズを定量的に把握できれば、援助受入国が開発パートナー国と具体的問題を話し合う際にその主張により説得力をもたせることができるだろう。最も重要なことは各国がそれぞれの目標、ターゲットを定めることであり、これをUNDPや世界銀行などの外部機関に任せてしまうと、各国のオーナーシップは大きく損なわれることとなる。
世界銀行のチバー課長は、MDGsの目標8のモニタリングは困難であるといわれている旨説明し、この問題を検討している非政府機関(NGO)があることを紹介した。PRSPの枠組みについては、世界銀行は国際通貨基金(IMF)とPRSPの評価を行っており、2004年初めに完了する予定。PRSP評価に取り組む上での問題の1つは、設定されたターゲットと資金的枠組みのつながりがどれほど現実的なものかというものである。
UNICEFのケネル室長は次のように述べた。国際開発事業においては、資金はすべてドナー国から提供される。基本的にドナー諸国は政府開発援助の方針を示しているが、これらの方針はOECDを通じたピア・レビューによって管理される。援助資金の使途の問題は非常に重要であり、この点に対するドナー国の納税者の関心はますます高まっている。次に、国際金融機関(IFIs)の理事会は評価に基づいて方針を決定しているが、このような取り組みを行っているからこそ、ドナー諸国は多額の資金をIFIs経由で拠出しているのである。また、市民社会というグループがあるが、ドナー諸国から市民社会への拠出はますます増加している。第4のグループは国連システムであるが、近年効果的な評価活動が足りないために、以前ほどの拠出を受けていない。最後のグループは途上国自身であるが、キャパシティに対する信頼の欠如から、拠出金は最も少ない。だからこそ、モニタリング・評価は援助受入国の需要側に対して重点的に行われる必要がある。
JICAの富本次長より、JICAはドナー国の活動をモニタリングするための指標を開発中であること、また、2003年10月には日本、英国、ベトナムの共催で援助の有効性に関するセミナーが開かれたことについて説明があった。
OECDのルンドグレン主任は、目標8について、OECDはODA資金の流れと債務救済に関するデータを収集しており、また、OCEDはピア・レビューも実施しているが、このような取り組みは国連システムの取り組みとも調和するものであると説明した。
フランスのカメルガーン室長は、援助効果に関するジョイント・ベンチャーに言及し、MDGsの目標8とその評価に注目するよう主張した。
タイのピブンソンクラーム局長は、南南協力拡大の必要性を主張し、タイが積極的に開発パートナーの役割を果すことは、ドナー諸国や他の援助受入国と協力する際に有益となること、また、これまでタイは近隣諸国と協力して目標8を推進していると述べた。
ラオスのブントゥアン・ムアンラシー局長より、ラオスは現在、正式名称は異なるもののPRSPを作成中であり、近い将来提出する予定であるとの説明があった。また、国レベルでのオーナーシップを実現するには、援助受入国政府のキャパシティ・ビルディングが必要であり、オーナーシップが実現すればMDGsの目標8の達成にむけて努力することも可能である、との見解が示された。さらに、同局長は援助の調整と管理の重要性も強調していた。
マレーシアのチア部長より、次のような指摘があった。マレーシアはMDGsを複数セクターのアプローチによる優れた枠組みであると認識しているが、各国にはそれぞれ特有の状況があり、それに応じて独自の開発政策を立案する必要があると考えている。MDGsは複数セクターのアプローチによる一貫した枠組みを提示するものである。マレーシアは現在、南南協力の精神に基づいて技術協力プログラムを実施しており、国内研修を通じた材開発に努めている。マレーシアは南南協力を推進するためにもドナー国・機関とのパートナーシップの強化に努めている。
インドのメホートラ局長は、市場アクセスや貿易関連問題に関する課題の方がODAの課題よりもはるかに大きいと指摘した。
インドネシアのスティアワン局長は、MDGs達成のための戦略はパートナー国の状況に応じたものでなくてはならないと述べ、戦略は国レベルとグローバル・レベルの2つに分けるべきではないかと示唆した。
UNICEFのケネル室長は、納税者の視点から見て、ODAを行う主な動機の一つは貧困削減であると指摘した。また、紛争を抱える政情不安定な国の増加という問題にマスコミの注目が集まり、これがODAの有効性に対する納税者の信頼を低下させていると説明した。納税者の信頼を維持するには、援助の有効性をモニタリングする努力を当事者が払うべきである。
また、同室長は
DevInfoを通じて収集されたデータの質に関し、質については確かに疑問があるものの、注目すべき重要な点は
DevInfoという形でデータベースが存在するということであり、既存データを基に事を進めることが重要であると述べた。
世界銀行のチバー課長は、大半の国は基礎的データを持っており、データを包括的に利用できるようにすることが極めて重要であると述べた。
議長は、途上国自身がMDGsの実績測定に関するデータを提供すべきであり、データの質を高めることが急務である点を強調した。また、過去においては、日本政府の評価レポートはパートナー国と共有されていなかったと述べた。議長は、第2セッションではこれまでの進捗状況に関する認識と今後の課題を中心に議論することを提案し、第1セッションを終了した。