1. オープニング・セッション
開会の辞
古田 肇
外務省経済協力局長
古田局長は開会の辞において、我が国が2001年以来二度にわたり政府開発援助(ODA)評価に関するワークショップを主催してきた経緯を説明し、第一回ワークショップでは、ODA評価が直面する課題が特定され、第二回ワークショップでは、セクターや国全体を網羅する開発戦略が策定され始めたことを受け、評価目標をどのようにスケール・アップするかを中心に議論されたと述べた。
また、第三回ワークショップでは、過去2回のワークショップでの論議を受け、「合同評価」について重点的な議論を行いたいとして、セクターや国全体の開発アプローチの取り組みに合わせて、モニタリング・評価の手法を見直す必要があるという点では、関係者の意見が一致しており、合同評価はセクター・レベル及び国レベルでの共通目標の進展状況を評価する手法となり得るとの見解を示した。
基調講演:「インドネシアにおけるODAの管理手段としてのモニタリング・評価」
ベニー・スティアワン
インドネシア国家開発企画庁モニタリング評価担当局長
ベニー・スティアワン・インドネシア国家開発企画庁局長は国家開発企画庁を代表して以下の通り基調講演を行った。
インドネシアにおける開発の規模は近年、大幅な拡大傾向にある。だが、政府の資源には限度があり、開発プログラムの資金手当ての選択肢にも限りがある。有効なモニタリング・報告システムは重要な情報源であり、開発プロジェクトを精査する上で、有効な手段である。インドネシアにおいて長年行われている日本からのODAは高く評価されているが、その効果的活用について検討する段階に至っていると言えよう。
合意されたスケジュールに従ってプロジェクトが実施されているかについて継続的なアセスメントを行うのがモニタリングであるのに対し、評価は目標の達成度とアプローチの有効性についてのアセスメントを行う非継続的な機能を持ち、より詳細な分析とアセスメントを必要とする。評価は、事前評価、進行中評価、終了時評価、事後評価に分類できる。
効果的なモニタリング・評価がプロジェクトの実施・管理に不可欠であるとの認識はますます高まっている。「国別ポートフォリオ・パフォーマンス・レビュー」(CPPR)は、そうしたモニタリング・評価として重要な役割を果たしており、CPPRはプロジェクト管理の改善、問題点の解決、あるいは資金支出のプロセスの合理化といった種々の目的を持つ。また、活用されなかった資金を再投資する必要性についても認識されるべきである。汚職・腐敗の撲滅についても、取り組むべき課題として挙げることができる。プロジェクト実施のための準備が整えられたことを判断できるような基準も設定すべきであり、今後プロジェクトを実施する際には、そのような準備状況に応じて承認を行うべきである。実施の準備が不十分であることはODAプロジェクト実施の際の問題につながるのであり、その意味において実施準備基準を作成する必要がある。具体的枠組みに欠けるプロジェクト案は却下されるべきで、賞罰によるシステムを実施することが有効であろう。また、インドネシアの経験は、有効な評価は有能な人材に依存することを物語っている。
国家開発企画庁(BAPPENAS)はインドネシア政府の評価担当機関であり、3ヶ月毎に開催される会合を通じて進捗状況をモニターし、実施中のプロジェクトの問題を特定し、その解決に努めている。確認・報告された問題には、調達プロセスの遅れ、カウンターパートの資金不足、プロジェクトの実施場所や計画の変更、セキュリティ問題等がある。
効果的なODAのモニタリング・評価にはいくつかのアプローチが考えられる。第1に、政府の取り組み―特に開発プロジェクトの成果―に関する理解が高まれば、関係省庁全体に資源をより効果的に配分し管理することができよう。第2に、ODAプロジェクトを実施する際に直面する問題や障害は類似する場合が多く、インドネシア政府と主要ドナー国が協力して問題解決のための取り組み状況をフォローする必要がある。第3に、ODAの支払いが遅いという問題は、準備不足に起因することが経験上明らかとなっている。第4に、グッド・ガバナンスは政府のみならず、企業を含めた社会全体にとって避けられない課題となっている。第5に、評価の際にはセクター横断的な機関と地域プログラムの間の調整が求められる。
ODAはインドネシアの開発に大きく貢献したが、ODA借款の立案、モニタリング・評価のメカニズムの改善は依然、懸案事項として残されている。インドネシアにおいては、ODA借款をより透明性が高く、説明責任(アカウンタビリティ)を果たせる形で管理する必要があると考えている。
ディスカッション
廣野良吉成蹊大学名誉教授がこのセッションの議長を務めた。
議長からスティアワン局長のプレゼンテーションに謝意が表明され、政府の活動の成果に対する理解向上の必要性、受益者とドナーの間の調整の必要性、実施準備、グッド・ガバナンスへの利害関係者の積極的関与、セクター横断的な協力といった提言を歓迎する旨発言があった。
UNICEFのケネル室長はスティアワン局長に謝意を表し、この基調講演によってODAプロジェクトの管理と評価に必要な規範が明確に示されたこと、また、プロジェクトの準備状況は成功の鍵であるにもかかわらず、このような重要な前提はしばしば看過されがちなものであることを指摘した。同課長は、さらに、活動/プロジェクト・レベルからセクターごとのプログラム・レベルへの移行が現在の課題であり、このような移行が戦略的パフォーマンスを発展させる可能性がある一方で、政策レベルは結果を評価することが困難な分野であると述べた。
ラオスのブントゥアン局長から、ODAのモニタリング・評価に関する広範な経験が紹介されたことについて、インドネシア代表に謝意が表明された。また、評価の結果がプロジェクト・サイクルにフィードバックされないケースが多いこと、評価のフィードバックをプロジェクト・サイクルに取り入れる方法についても話し合うべきであるとの提案があった。
フィリピンのサントス次官より、基調講演で言及されたカウンターパートによる資金拠出については、フィリピンも同じ経験をしたことがあるが、インドネシアではどの程度深刻なのか、と質問があった。
これに対し、スティアワン局長は、インドネシアが大統領令を遵守できていない理由の1つは賞罰制度の欠如であり、また、カウンターパート側が資金を提供することには困難が伴うこと、特に、一度に全額を拠出するのは難しい点を指摘した。また、インドネシアの経験では、カウンターパートは資金を分割で拠出するよう努めているが、それでもしばしば資金の拠出が困難となり、プロジェクトの遅延の原因となることがあると説明した。
議長からは、フィードバックが不十分なために、評価結果がプロジェクト・サイクルに取り入れられないことは、パートナー国ばかりでなくドナー国でも積年の懸案事項であるとの指摘があった。
フィードバックに関連して、OECD-DACのルンドグレン主任から、評価という概念に鑑みるに、インドネシアにおけるCPPRは進行中プログラムの効果を審査する機会となり得るのかとの質問があった。
これに対しスティアワン局長は、CPPRはODAプロジェクト実施状況の審査を主要ドナーと協力して行う評価メカニズムであり、実施の際に直面する問題に対し具体的な解決策を見出すため、世界銀行、ADB、JBICとともにCPPRを実施していると回答した。
ADBのウォルター課長は、インドネシアのCPPRスキームの重要性を指摘し、事後評価と比較しても実施中の評価が重要であることを強調した。また、実施中の評価を共同で実施し、評価内容をODAプロジェクト・サイクルに如何にフィードバックするかという点は、今後の課題であると述べた。
JBICの松澤次長は、計画された戦略に対するプロジェクトの妥当性の問題は、インドネシア政府のみならずJBICにとっても課題であると述べ、必要に応じてプロジェクトに戦略的な変更を加える重要性を強調した。
議長も、UNICEF及びJBICが言及した戦略的評価の重要性に賛同した。また、議長から、米政府はプロジェクト・レベルで結果重視の管理を行っており、それが予算編成プロセスに反映されて大きなインセンティヴ又は逆のインセンティヴをもたらしていることが紹介された。
ここで、ケネル室長から、モニタリング・評価の観点から見ると、プロジェクト管理は大きく進展したが、それだけではプロジェクトの結果は向上しないとの指摘があった。つまり、プロジェクト管理システムとは外的要因に左右されるもので、開発関係者は自らの制度改革に取り組む必要がある。戦略レベルでは、パートナーシップの下で行動することが重要であり、そのためには合同評価が不可欠である。また、(1)発展途上国のオーナーシップ、プロジェクトが需要主導型であること、(2)制度面でのキャパシティ・ビルディングには投資が不可欠であること、(3)適切な政策が必要であること、という3つの基本原則が存在する。
マレーシアのチア部長は、ODAの縮小傾向が強まっていることを考えると、ODAを需要主導型にして、より優先分野での開発が実施されるようにすべきだと述べた。また、ドナー側は制度的側面を検証すべきであり、戦略及び政策レベルの評価の必要性について意識を向上させなければならない、と指摘した。
フランスのカメルガーン室長は、評価はこれまでドナー国のニーズを中心に考えられてきたが、今後、評価がパートナー国においても活用されるには、アカウンタビリティと学習という観点から、パートナー国自身が何を求めているかを明確にしなくてはならないと述べた。
この点について、議長は、透明性とアカウンタビリティの向上がドナー国と受益国の双方にとって必要であることを強調した。また、スティアワン局長の基調演説が、引き続き行われるセッションでの議論の起点になったとして同局長に謝意を表明し、オープニング・セッションを終了した。
|