平成18年1月31日
1月26日及び27日、我が国は、「第5回ODA評価東京ワークショップ」を東京(三田共用会議所)で主催した。その成果及び概要は以下のとおり。
1.成果
(1)参加国・機関(参加国・機関リスト)
(イ) |
我が国から、遠山清彦外務大臣政務官が冒頭挨拶を行い遠山大臣政務官スピーチ(和訳)、廣野良吉成蹊大学名誉教授と牟田博光東京工業大学教授が共同議長を務めた(後者は、ODA評価有識者会議座長)。外務省やJICA、JBIC関係者の他、ODA関係府省、在京大使館、駐日国際機関事務所関係者、日本評価学会、国際開発学会、行政学会、ODA評価有識者会議、その他学識経験者、NGO等がオブザーバーとして参加した。
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遠山大臣政務官の
冒頭挨拶 |
(ロ) |
外国からは、インド、インドネシア、韓国、カンボジア、シンガポール、スリランカ、タイ、中国、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス(以上18カ国)、世界銀行、アジア開発銀行、UNDP、ユニセフ、OECD・DAC、米国国際開発庁の国際機関・二国間援助機関が参加した。
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(2)目的と成果
(イ) |
開催目的:評価はODAの質の向上のために重要な手段である。外務省は、2001年度より毎年アジア諸国、国際機関等を招待して「ODA評価ワークショップ」を開催し、これを通じて、ODA評価手法やODA評価に係わる課題のアジア諸国の理解増進や評価能力向上に貢献してきた。この成果を土台にして、今次ワークショップでは、ODAにおける開発成果マネジメント(注)の導入を盛り込んだパリ宣言(2005年3月)を踏まえ、成果重視アプローチに基づく評価体制の強化を目指して、アジア諸国の取り組みや課題について活発な議論があった。
(注:被援助国の開発の成果向上を目指すマネジメント手法)
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(ロ) |
成果
アジア諸国における成果重視型の評価に対する取り組みや各国の抱える課題を共有し、議長サマリーにまとめることによって、今次ワークショップでは以下の成果があった。なお、最後にアジア諸国から次年度開催について要望があり、我が国から、次年度も開催したい旨表明した(場所、時期未定)。
(a) |
アジア諸国の抱える評価に係る課題や成功事例の共有により、今後の我が国のODA評価及び評価に関する技術協力の改善・強化のための参考情報が得られた。 |
(b) |
アジアのいくつかの国では成果重視アプローチに基づく評価制度の導入が図られており、こうした事例の共有により、他のアジア諸国の評価体制向上のために参考情報を提供した。また、アジア諸国の能力強化を図る観点から、「アジア評価専門家ネットワーク(仮称)」会合開催(日本評価学会が、現在、3月末の同ネットワーク設立に向けて準備中)などを通じて、評価に関するアジア地域ネットワークを構築していくことが有益であるとされ、今後の検討課題とされた(注:アフリカでは既に評価に関する地域ネットワークが存在する)。 |
(c) |
世銀、アジア開発銀行、UNDP等他のドナーからも、本ワークショップが開発途上国の評価に対する取り組みや課題を知ることのできる数少ない機会として高く評価された。議長サマリーは、今後、DAC等の国際場裏でアジア諸国の立場を発信していく材料となる。
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2.概要
(1)冒頭挨拶
遠山政務官は冒頭挨拶で、被援助国の「評価」に関する能力を強化することが、ODAを初めとする開発資金のより有効な活用に繋がるとの認識の下、日本政府は、2001年度よりODA評価ワークショップを主催してきたと、同ワークショップ開催の意義を説明した。
また、今次ワークショップが、昨年3月に援助効果向上に関する「パリ宣言」が出されたことを受け、「成果重視」の考え方の下、援助国のODAを初めとする経済協力や被援助国の開発に向けた努力がミレニアム開発目標(MDGs)等国際的な開発目標に対してどのような成果を挙げているのかを具体的に示すことが、援助国・被援助国双方の共通の関心事項であることを指摘した。
そうした「成果重視」の考え方を実現していくのに、開発目標の優先順位付け等の種々の課題を被援助国側の努力で解決していくことが重要であることを強調した上で、今次ワークショップで活発な議論が行われ、参加各国における「評価」に関する活動の強化に繋がれば幸いである旨述べ、締めくくった。
(2)議論の概要
(イ) |
初日の第1セッションでは、「開発成果マネジメントを踏まえた評価・モニタリングについての取り組み」をテーマとして、アジア参加国(バングラデシュ、ベトナム、タイ、インド)によるプレゼンテーションが行われた。セッション中に指摘された主な点は以下のとおりである。
- 開発目標の設定と達成に向けた戦略を実施する上での被援助国のオーナーシップの重要性と、ドナーが開発援助活動を被援助国の制度・システムに整合させる必要性が認識された。
- 援助が効果を上げるためには、成果重視のフレームワークと、開発援助の対象を個々のプロジェクトレベルからプログラム・レベル或いは国レべルと高次のものへ重点を移していく必要性が認識された。
- アジア各国が、関係省庁、ドナー、NGO等の開発活動の利害関係者をモニタリング・評価(M&E:Monitoring & Evaluation、以下M&E)のプロセスに関与させ、フィードバックの改善及び説明責任の充足に努力していることが認識された。
- 不十分な政治的コミットメント、被援助国側のキャパシティー不足、データの信頼性の不足等が、M&E実施における主要な制約条件であることが確認された等。
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(ロ) |
続く第2セッションでは「効果的な開発成果マネジメント、政策変更、予算決定、及び説明責任のための評価モニタリングへのコミットメント強化」と「成果重視の評価モニタリング体制の構築」を各々のテーマとする2つの分科会に分かれて議論を行い、以下の意見等が共有された。
(a) |
第1分科会で指摘された主要な論点は以下のとおりである。
- 効果的な評価の実施のためには、“開発成果を管理する手法としてM&Eを活用する”ことに対する政治的なコミットメントが必要である。
- 政府は自国民に対して説明責任を有することから、成果管理指標を設定し、測定された開発成果を(HP上での掲載等を通じて)、適時適切に国民各層に対して公開することが重要である。
- 「説明責任の充足」と「透明性の確保」を促進する上で、公開討論等を通じ、国民各層と開発成果を協議することも有効な方策の一つである。
- アジア各国では、開発戦略策定、実施、予算要求の各プロセスにおいて制度上M&Eの実施を義務付けようとする取り組みが行われている。しかし、それらの有効な実施を担保する上で、政府及び政府関係機関の能力強化は欠かせない要素の一つである。
- M&Eに対する国民各層の意識と関心を喚起する上で、メディアをうまく関与させる必要がある。
- 評価の独立性の確保は、その客観性を確保する上で大切であるが、評価結果が各省庁に及ぼしうる政治的な影響にも配慮される必要がある等
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(b) |
第二分科会で指摘された主要な論点は以下のとおりである。
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有効なM&Eを実施するには制度枠組みを強化する必要がある。そのためには、以下のような前提を充足する必要があることにつき認識が共有された:
-現実的な目標、達成すべき成果、実効性のある指標を設定すること。
・開発の効果を測るためのアウトカム(成果)・インパクトに関するデータの質を高め、開発成果の達成度合いをよりあきらかにすること、
-M&Eの結果を開発プログラムやプロジェクトの修正に生かすこと
・政府部内における窓口機関と関係省庁との調整機能を確保すること
・M&E担当省庁にM&E実施のための十分な予算が確保されること等
- 上述の課題等を克服する上で、M&E実施に関する被援助国の能力を強化する必要がある。但し、アジア諸国の中には、ドナーが能力強化に協力しようにもM&E実施の担当省庁・機関が明確でない国もあるため、この点改善が必要である。
- この観点で、アジア域内の「評価学会」間のネットワーキングの促進が重要。アジア地域諸国側のニーズがあれば、ドナーは協力の用意がある。
- 被援助国とドナーによる「合同評価」は、被援助国の視点を評価に反映させるという観点から、また、評価業務に関する能力強化の観点からも重要な評価方式の一つである等
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(ハ) |
2日目の第3セッションでは、「成果重視のモニタリング・評価体制構築に向けたパートナーシップの在り方」をテーマに、JICA、JBIC、外務省、廣野議長よりプレゼンが行われ、次いで参加国による議論が行われた。議論中の主要なポイントは以下のとおりである。
- M&Eは、ドナーの支援を得つつも被援助国主導にて行われるべきである。
- M&Eに焦点を当てた「能力強化(キャパシティー・ディベロップメント)」が重要。「人材強化」にとどまらず「制度強化」を行う必要がある。
- 被援助国側が評価の専門家をいかにして「保持(retain)」するかといった問題も大切である。その為には、適切なインセンティブ・メカニズムの構築が重要である。
- M&E実施に必要な「資金確保」の問題に関しては、プロジェクトの策定段階から予算の数パーセントをM&E用に確保することを原則とする等の方法が考えられる。
- 全てのドナーは、M&E関連の手続きや制度を調和化させる為の努力を共同で実施すべきである。被援助国・ドナー合同で共通の方式を採用する可能性を検討すべきである。
- アジアにおいて、「評価」のネットワークを構築することが支持された。そのようなネットワークは、被援助国政府や非政府組織(NGO)等の評価能力の向上、M&Eに対する政治的コミットメントを強化する上で、また、一般国民の評価に対する認識の向上等の領域で貢献することが期待される。
- 現在、世銀とDACにおいては、各被援助国における「支援国会合(CG)」と「ラウンド・テーブル」でODAと国家予算に関する「定期的なモニタリング」を実施する可能性を検討している。そうしたことが実現すれば、開発資金の活用やデータ収集をより効率的なものとすることが可能である。
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(ニ) |
2日目午後には、各セッションの主要論点をまとめ、廣野議長より議長サマリーが参加国に提示され、参加国・機関による支持がとりつけられた(議長サマリー)。
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