【導入】
- 1月26日及び27日、東京の三田共用会議所において、「第5回ODA(政府開発援助)評価東京ワークショップ」が外務省主催で開催された。今次ワークショップでは、2005年の「援助効果向上に関するハイレベルフォーラム」(於パリ)や各種サミット開催等を受けて、昨今の開発援助の国際潮流で注目を集めている「開発成果マネジメント」に焦点を当てた議論を行った。モニタリングと評価(Monitoring & Evaluation、以下M&Eと略称)に関する共通理解を増進することを目指してきた「ODA評価ワークショップ」の今までの成果を踏まえて、今次ワークショップでは、評価に関するアジア諸国の経験を聴くということにより重きが置かれた。
- ワークショップでは、廣野良吉成蹊大学名誉教授と牟田博光東京工業大学教授の両名が議長を務めた。日本を含めたアジア19ヶ国から評価担当の政府高官、国際機関・二国間援助機関(JICA、JBIC、アジア開発銀行,経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD・DAC),国連開発計画(UNDP),ユニセフ、世界銀行、米国国際開発庁)がワークショップに参加した。加えて、学識経験者やNGO等がオブザーバーとして参加した。
【初日(1月26日)】
本ワークショップの冒頭、遠山清彦外務大臣政務官が挨拶を行った。遠山政務官は、挨拶の中で、本ワークショップでの成果が、アジア諸国における評価活動の強化を通じてより有効な開発資金の活用へと繋がれば大変幸いであると述べた。
第1セッション(全体会合:開発成果マネジメントを踏まえた評価・モニタリングについての取り組み)
- 冒頭、DAC代表者が、ODAを取り巻く現在の状況についてプレゼンテーションを行い、援助効果を向上させるため、また、開発目標に対する成果への貢献度合いを評価するため被援助国とドナー諸国による合同の取り組みを実施していく重要性を強調した。
- 次いで、「開発成果マネジメントを踏まえた評価・モニタリング」をテーマに、バングラデシュ、ベトナム、タイ、インド、国連開発計画(UNDP)、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行がプレゼンテーションを行い、その後、質疑応答があった。本セッション中に指摘された主な点は以下のとおりである。
- 開発目標の設定と達成に於けるパートナー国(被援助国)のオーナーシップと責任の重要性と、ドナー諸国がパートナー国の政策やシステムに整合するように援助を実施していく必要性が強調された。被援助国の開発目標とMDGs等の国際開発目標との緊張関係の問題も指摘された。
- 成果重視のフレームワークの重要性と、開発援助の対象を個々のプロジェクトレベルからプログラムレベル或いは国レベルと高次のものへ重点を移していく必要性に関して認識が共有された。多くの国々は、貧困削減戦略或いはプロジェクトの策定から実施及び実施後のプロセスで、モニタリング・評価の実施を不可分な要素として取り込んでいることが確認された。
- アジア各国が、関係省庁、利害関係者、ドナーをモニタリング・評価(M&E:Monitoring & Evaluation、以下M&E)のプロセスに関与させ、フィードバックの改善及び説明責任を果たすことに努力していること、また、そうしたM&Eを通じて得られた教訓等を将来のプロジェクトやプログラムまたは開発に向けた投資計画策定に活用する努力をしていることが確認された。同時に、自己評価も、評価の基盤の一つとして押さえておくべきであることが指摘された。
- 不十分な政治的コミットメント、能力や開発資源の不足、情報収集における信頼性の欠如等の問題が、(効果的な)M&E実施に対する主要な制約要因であることが指摘された。
- 多くの参加国が、評価結果を開発プロジェクトやプログラムの優先順位付けの修正につなげるという点では一定の成果を挙げてきているものの、評価結果を予算プロセスに反映させる上で数々の制約を感じていることが明らかになった。
- また、参加国の多くが、近年のドナー諸国の合同評価に対する取り組みを積極的に評価していた。
- アジアの新興ドナー諸国は、二国間援助プロセスにM&Eを要素の一つとして採り入れていることがわかった。
- 評価は、その結果が期待以下のレベルの場合は、リスクが存在することがある。
- M&Eを中心に検討する場が必要である。
第2セッション(分科会:効果的な開発成果マネジメント、政策変更、予算決定、及び説明責任のための評価・モニタリングへのコミットメント強化‐アジアにおける好事例と課題から得られる教訓)
第1分科会(M&Eシステム構築に向けたサポートとオーナーシップ強化)(局長レベルの参加)
M&Eが効果的に機能する為には、M&Eに対する強い政治的コミットメントが前提条件である。評価結果を、将来の政策決定や予算配分の決定のために充分に活用する必要がある。また、評価は、説明責任の充足や透明性の確保を一層促進するものでなければならない。
- 第1分科会は、M&Eに対する政治的なコミットメント、評価結果の有効なフィードバック、説明責任の充足、透明性の確保、その他の論点(主に政策レベルのもの)につき協議した。分科会で指摘された主なポイントは以下のとおりである。
- 効果的な評価を実施する上で政治的なコミットメントの存在が重要である。アジアの諸国の多くでは、過去実施された開発の努力における進捗が芳しくないことにより、政治的なリーダーシップが発揮されて、開発成果重視のM&E採用に結びついている。評価の対象範囲は、ODAからそれぞれの国が自国の予算で実行した開発活動全般へと拡大してきている。プロジェクト/プログラムレベルの評価に比して、国レベルの評価といったものの方がより大きな政治的関心を集めている。国レベルのM&E実施を通じて、M&Eに対する(政治的な)コミットメントを強化することが可能である。
- 政府は、自身の国民に対して責任を負っているため、説明責任の充足や透明性の確保といった課題は政治的な関心と密接に結びついている。成果を測定する指標を設定することや、国民に対してM&Eに関する報告書を提供することは、説明責任の充足に資するものである。指標を決定する過程では、ミレニアム開発目標(MDGs)等の国際開発目標と各国の状況に基づく国家開発目標との緊張関係が生じることがある。或る国においては、ODAに関する報告書を定期的に改訂して国民に提供し、また、ホームページ上でODAや国としての開発活動のプログラム・プロジェクトの情報を公開するということが行われている。説明責任を充足し、透明性を確保し、汚職を防ぐ上で、公開討論を通じて、国民各層と開発の投入、結果、インパクトを協議することは有効である。但し、説明責任を充足する対象として、異なる利害関係者のグループ、例えば、被援助国の国民とドナー国の国民が存在することは、上述の課題の実施を複雑にする側面がある。
- 多くの国々では、開発計画の立案・実施・予算策定の各プロセスの中に、M&Eメカニズムを組み込んでいる。そうしたメカニズムにおいて、M&Eの結果は、しばしば予算要求の際の基礎情報となっている。成果重視手法は未だその初期段階にあるため、「実施しながら学んでいく(Learning by Doing)」といったアプローチを取っていく必要がある。M&Eの効果的実施は重要な課題であり強靱な公共の制度と能力強化が必要である。
- M&Eに対する需要を喚起すること、また、M&Eに関する適切なインセンティブを提供することの重要性が指摘された。国民各層のM&Eに対する意識と関心を喚起し、政治的コミットメントを強化する上でのメディアの関与の重要性が指摘された。
- 独立的な評価の実施は、その客観性の確保という観点で重要である一方、実施機関の協力を取り付ける必要がある。評価は、政治的な影響といったものから全く中立的ではありえないところ、政治的な圧力に屈しないシンクタンクを支援するなどの方策を講じる必要がある。
第2分科会(成果重視の評価モニタリング体制の構築)(課長レベルの参加)
第2分科会では、アジア諸国の経験、成功例、課題等から学びながら、成果重視のM&E体制に関して共通の理解を深めることと、各国の能力強化に資することを目的に議論が行われた。
- 第2分科会では、効果的なM&Eシステムを構築し強化する上での実務上・運営上の課題について議論を行った。パートナー諸国は、それぞれの経験や直面する課題を分科会で共有し、互いの教訓を学びあった。分科会で指摘された主要なポイントは以下のとおり。
- 効果的なM&Eシステムの制度を構築する上で、一定の前提条件が満たされることが必要であり、それには以下の重要課題やニーズが含まれる。
課題・ニーズ
- 何をモニターし評価すべきかを明確に定めるために、現実的な開発目標・目的、期待されるべき成果、現時的な指標を明確に定義する。
- M&Eの果たすべき役割について合意する(例えば、財務上のモニタリングや開発上の有効性に関する評価等)。
- データの質の問題、特に、(より長期的な効果を測定する)「アウトカム」・「インパクト」レベルのデータの問題を解決する。
- データ収集に関してより大きなインセンティブを与えるようにする。例えば、情報提供者に対して、フィードバックを行うなどの双方向の情報共有を実施する必要がある。
- M&Eシステムが一つの情報源に頼ることのないように、透明性の高い複数の情報収集ラインを確保し、M&Eに関する説明責任を果たす。
- M&Eの情報が関係機関の垣根を超えて共有されるように制度強化を図る。
- M&E情報に関する関心と意識を喚起する。
- M&E実施上のガイドラインと実践的ツールを提供する。
- プロジェクトの期待される目標やアウトカムを示すために、通常のM&Eプロセスに先行して、充分な事前評価を実施する。
- M&Eの結果をプログラム・プロジェクトの改定に役立てる。
- M&Eシステムがどのように機能すべきであるかの責任と役割を明確にする為の法的な枠組みを設立する。
- 中央省庁と関連省庁間の調整が有効に働くようにする。
- 国毎の事情に適合したアプローチを採用する(一つの方法が全ての国に適合するわけではないため)。
- (ドナー諸国は)パートナー国の取引費用(事務処理負担)節減の重要性をよく認識し、データ収集や指標数に関する要求度合いをドナー間で一致させる等の調和化を図る必要がある。
- (パートナー国は)ドナーが経済協力資金の確保に関して自国の納税者に対して説明責任を負っていること(パートナー国による情報提供はそのために必要であること)をよく理解する必要がある。
- M&Eのデータ収集のために、統計部局の能力強化を行う必要がある。
- 上述した課題に関しては、各国の置かれている状況は様々であることからも、普遍的な解決策はないが、M&Eに関する人的資源や専門性強化は重要な課題であり、官民両セクターにおいて評価に携わる人材の能力を強化することが第一歩として必要である。
- 然しながら、パートナー国でM&E所管のカウンターパートが存在しない場合には、能力強化に対する支援自体が実施困難になるため、パートナー国におけるM&E担当部局の設置が先決である旨指摘された。多くのパートナー国は、M&Eシステム構築に向けて努力はしているものの、依然としてM&E担当職員の高い離職率の問題があり、能力強化の問題の協議をしようにもパートナー国側の窓口が無いというケースが往にして存在する。
- 既に、多くの開発途上国で評価学会が存在し、また、アフリカ等では、そうした評価学会間の地域ネットワークが存在する。アジアのパートナー国から明確なニーズが示されれば、ドナー側は、アジアにおける評価の地域ネットワーク(の構築や強化)を支援する用意がある旨言及された。
- ODAの合同評価は、パートナー国の能力強化の別の手段であることが認識された。合同評価は、パートナー国の見解を評価調査の過程に反映させることが出来るという視点からも重要である。合同評価の対象レベルとしては、プロジェクトレベルよりも、プログラムレベル或いは国レベルの需要の方が大きい。
【2日目(1月27日)】
第3セッション(全体会合:成果重視のM&E体制構築に向けたパートナーシップの在り方)
- MDGs達成に向けた努力の一環として、開発活動に関する評価・モニタリングの実施は、ドナーの支援を得つつも、パートナー国主導で行われなければならない。そうした観点からも、能力強化は、パートナー国にとってとりわけ重要な課題である。現在あるドナー・パートナー国間の共同メカニズム、例えば支援国会合(CG)やラウンド・テーブルは成果重視アプローチを推進していく上で活用出来る。また、ネットワーキングは評価能力向上に貢献出来るということも指摘された。
- 議論中に指摘された主要ポイントは以下のとおりである。
- M&Eに関するパートナーシップは、各国の事情の違いを踏まえて検討される必要がある。政治的関心は国レベルのM&Eへとより注がれてきている。従って、プロジェクトのアウトカムと、プログラム・国レベルのアウトカムとを有機的に結びつける必要があり、これら全てのレベルで評価を行う必要がある。ODAが開発資金に対して占める割合が、国家予算や他の資金に比して減少してきていることから、「援助の有効性」は、(開発に関する)公共支出全体のM&Eの一部として検証される必要がある。また、M&Eは、PDCA(Plan‐Do‐Check‐Action)サイクルの不可分な要素の一つとなっている。更に、どのようにM&Eの成果をプレゼンテーションするかといった問題も、評価結果の中身と同様に重要であることも指摘された。
- M&Eに焦点を当てた能力強化(キャパシティー・ディベロップメント)の重要性が強調された。能力強化は評価専門家の育成にとどまらず制度強化も必要である。ドナー諸国は、このため、国レベル或いは地域レベルで技術的支援を行っている。ドナーの現地化や合同評価の動きに伴い、ドナー国・機関の各地域事務所の能力強化が必要になってきている。また、パートナー国政府内の評価専門家を保持していく為に、適切なインセンティブ・メカニズムを構築することの必要性も指摘された。パートナー国に対する支援と共に、シンクタンク等の信頼のおける独立機関をパートナー国・ドナー国双方で支援していく必要性も指摘された。
- M&Eに必要な資金確保の問題に関しては、プロジェクト予算の数パーセントをM&E用に確保することを原則とする等の方法も考えられる。パートナー諸国にも、プロジェクト策定段階からこうしたことを行うことが推奨される。
- M&Eに関するドナーや市民社会団体との調整は、パートナー国自身の責任である。全てのドナーは、M&E活動を調和化するための努力を共同で実施すべきである。
- ドナー間でM&Eに関する活動の重複を避ける必要がある。また、好事例は幅広く共有されるべきである。ドナーは、パートナー国にとっての取引費用を低減させるために、パートナー国の制度・システムを活用すべきである。ドナー・パートナー間の合同の取り組みとして、M&Eシステムを共同開発して、パートナー国におけるドナー間共通のM&E方式の採用を推進していくことも考えられる。開発成果のM&Eを実施していく上で、定量的指標による測定も重要であるが、定性的方法による測定も同様に重要である。
- 本会合において、アジアにおける評価ネットワークを設立することに対し広範な支持が得られた。そのような地域ネットワークは、パートナー国の政府内外の評価専門家の技術的能力向上、また、M&Eに対する政治的コミットメントや一般国民の評価活動に対する認識強化に役立ち、また、参加型アプローチを推進する上でも有益である。この関連で、本年3月下旬にアジアで、国レベルの評価学会会合が予定されている。国際評価学会は、ODA評価に関する専門知識のリソースセンターになりうることも指摘された。
- 現在、世銀とDACにおいては、各被援助国における「支援国会合(CG)」と「ラウンド・テーブル」に成果重視アプローチを導入し、ODAと国家予算に関する定期的なモニタリングを実施することを非公式に検討している。そうしたことが実現すれば、開発資金の活用やデータ収集をより効率的なものとすることが可能である。そして、開発成果マネジメントは、開発上の進展が実際に伴わなければ成功とはいえないことが指摘された。
【結び】
参加者間で、第5回ワークショップにおける議論が、効果的なM&Eの在り方に関する参加者間の共通理解を増進し、M&Eの質的改善や課題克服を追求していく上で、更には、パートナー国の裨益者のためになる開発成果を実現していく上で貢献することが出来たとの共通認識を得た。参加者達は、このワークショップを開催した日本外務省を高く評価し、来年の開催に対し期待を表明した。これに対し、外務省代表は、2006年度もODA評価ワークショップを主催する意向である旨表明した。
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